【それ】はひどく模範的であった。
「こんにちは、不死さん!」
それは笑顔であり、それは健康体であり、それは健全的思想であり、それは常識的であり、それは倫理的であり、それは狂えない程度に頑丈であった。
あるいは、すでに狂気に一歩踏み入れていたのかもしれない。
全てが非日常で包まれたこの組織の中では比較的まともに見えるだけの、異常だったのかもしれない。
だとしても、それは模範的収容者であることには変わらなかった。
【それ】は不運の否定者であった。
「今日は朝のレーションの味がね、少し甘かったんだ。料理する人が変わったのかなぁ」
ガラスケース越しのくぐもった声は、大人というには幼く子供言うには低い。
見慣れた連中に比べたら、実年齢より見た目が幼く見えるのは東洋人の特徴だ。
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