【夏五】第64回 お題「胡蝶の夢」――…る、――…とる
「悟!」
びくりと、体が跳ねた。目を開けると、葬式にでも行ってきたような上下黒のスーツ姿の男が、呆れ顔で天井からぶら下がっている。
…いや違う、五条が仰向けにひっくり返っているのだ。
「――…れ、すぐる?」
「待っても来ないと思ったら…ほら起きて、移動だよ」
「本当に、すぐる?げとー、すぐる?」
「はあ?」
とにかく起きろと屈んだ男に額を軽く叩かれ、渋々上体を起こす。途端にくらりと襲ってきた眩暈を、首を振って追い出した。
起き上がってみてようやく、五条自身も全く同じ黒いスーツを着ていることに気づく。寝るためになのかネクタイは緩んでいたが、こちらも同じく黒である。
混乱していた思考が徐々に落ち着きを取り戻す。今の状況を思い出す。
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