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    yuinos7

    yuinoと申します。
    下手な文字書きです。
    主に、🔥🎴の小説を書いております。
    たまに、コナンで(安コ・バボコ・降新)なども書きます。
    どうぞよろしくお願いいたしますm(._.)m ペコッ

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    yuinos7

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    🎴お誕生日おめでとうございます~
    観用少年シリーズです。
    前回の🔥さんのお誕生日おめでとうSSの対になる物語がなんとか形になりました。
    こちらは、後で紙媒体である、log本3に収録予定です!
    感想等あったらよろしくお願いしますm(._.)m ペコッ
    反応ないの寂しいです!!!

    前作は、こちら!
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19857088

    #🎴お誕生日おめでとう
    #🔥🎴

    観用少年との戀2 煉獄家に《ドール》である炭治郎がやって来てから、初めての七月。そう、梅雨明けを迎える時期となった。
     最初は、十歳にも満たない姿であったが、杏寿郎の誕生日に彼は自ら大きくなることを選び、十五歳ぐらいの姿になったのだが……ここで《ドール》としての不具合が生じたために、彼を購入するきっかけといった《蝶屋敷》へ急ぎ赴くことに。
    「あらあらまあ。これは、予想外のことになってしまいましたね? 炭治郎君」
     《蝶屋敷》への最初の里帰りは、なかなか衝撃的なものだと店主である胡蝶しのぶは、にこにこと微笑んだままでいた。しかし、その笑顔の裏側には静かな怒りの感情が隠されているではないか。
     その怒りの感情を直ぐ様読み取った炭治郎は、ゾクリとしたものを感じていた。一方、杏寿郎は、そんなことも知らずに「すまんな!」といつもの大声を発し、ぺこりと頭を下げた状態だ。
    「あ、あの! しのぶさん! 今回の成長は、俺自身が悪かったもので、杏寿郎さんには何も非はありません! 俺が彼に喜んで欲しくて、自分でやったことだったので……だから、本当にすみません‼」
     一生懸命謝る炭治郎の姿に、しのぶは深いため息をついた。
    「仕方がありませんね! 今回みたいなことは次からはしないように心してください! 特に、この子は普通の《ドール》と違って、私でも修復出来ない部分もあるのです」
    「炭治郎が普通の《ドール》と違うというのは、どういうことだ?」
    「……ッ、この子は――普通、《ドール》は制作者がひとりです。ですが、この子を最初に模りした名人は別に居ます。つまり、二人の名人によって作られた稀少な《ドール》でありますが、修復になると二人目の名人でさえ、不可能な部分が出てきてしまうのです」
    「つまり、炭治郎には修復もそうだが……《ドール》として隠されたものがあると?」
    「……はい。ご理解が早くて助かります。私も詳しくはないのですが、二人目の名人である、鱗滝さんでさえ、炭治郎には謎が多いとおっしゃっていました。ですから、この子を壊すような真似だけはされませんように! 鱗滝さんの背後には、私よりも怖いひょっとこの面を被ったひとが飛び出してきますから!」
    「ひょっとこ……う、うむ! 肝に銘じよう!」
    「それって、鋼鐵塚さんです! ひょっとこの面を被ってる方で、刀を作るのが凄く上手なんですよ!」
     炭治郎は、赤みを帯びた眸をキラキラさせながら、その人物のことを嬉しそうに口した。その言葉や彼の態度に杏寿郎はなぜか、チクリとした痛みを胸に覚えずにはいられなかった。
     チクリ……チクッ……チクリ……!
     胸の痛みは、それからも大きくなってゆく。やがて、それが嫉妬という感情に結びつけられることも知らずに、杏寿郎は随分と悩むことになるのだ。
    「――それで、どちらが先に、成長を促す行為でもあるキスをしたのですか?」
     しのぶは、さてどうしてくれようかという感情を必死で抑えていた。
    「ええっと……」
     彼女の問いかけに、炭治郎はカアアアッと頬を染め、思わず俯いてしまう。
     まさか、言えるはずがない。キスの話を杏寿郎にしたのが自分であったとは。そして結局、そのキスはどちらからのものなのか分からなかったことも。
    それなのに、二人の会話へ彼は大きく割って入り込んだ。
    「俺だ! 俺が炭治郎にしたのだ!」
     時と場合を選ばない男、それも煉獄杏寿郎である。
    「……あらあらまあ。煉獄さん……ですか? ええ、そうですか? では、後でみっちりお説教兼、禁止事項を頭の中に叩き込むようにして差し上げましょうね?」
     先程よりも彼女の笑みは深まり、そしてその裏側には不機嫌極まりないものがどす黒く息衝いていることを炭治郎だけが知っていた。一般人である杏寿郎には、このとき気付けるはずもない。
    「禁止事項か? 確か、この店から炭治郎を連れてゆくときに覚え書きのようなものを貰ったな。だが、今回のようなことは記載されていなかったと記憶する。それに、彼が大きくなる原因たるものを知ったのは、直接彼の口からだが?」
     杏寿郎は腕を組んだ姿勢で、おかしいな? と首を傾げた。そこへ、しのぶはビシッと彼に人差し指を差して、
    「普通ならば、ですよ? 煉獄さん! 先程も言いましたが、炭治郎君はとにかく普通の《ドール》とは異なります。生まれもですが、その生い立ちも……この辺りは、炭治郎君本人に訊いても分からないと思うので、止めておいてくださいね? 逆に、彼の記憶を混乱させてしまうかも知れませんので。ということで、先ずは――炭治郎君のメンテをさせていただきます! 煉獄さんは、一時間ほど店内でお待ちください。あ、暇だからといって、他の《ドール》を目覚めさせたりしないでくださいよ!」
     彼女は、「いいですね?」と忠告するのだ。そして、以前より少し大きくなった炭治郎の手を握って奥のメンテナンスルームへ向かおうとする。それに倣って歩き出す炭治郎は、杏寿郎へにこやかに手を振っていた。それに応えるよう、杏寿郎もまた手を振る。
    「いいですね! 貴方は、そこで大人しく座っていてくださいよ!」
     メンテナンスルームに姿を消しても、彼女はまだ心配しているのか。それとも、何か拘りでもあるものか、杏寿郎に確認していたと見える。これには、さすがの杏寿郎もこめかみの辺りに、ピキッと青筋を立てた。
    「ムッ? くどい! 俺はそんなことはしないぞ? 第一、俺と波長が合い目覚めさせられた《ドール》は、炭治郎だけだろう? 覚え書きにも、ひとり一体と書かれていたはずだ!」
     すると、深いため息じみたものが杏寿郎にも伝わった。
     ――ムッ? これは、思い切り聞こえるようにしているようだな。
     一体、俺はどれほどここの店主に信用がないというものだ?
     確かに、俺の元へ来たばかりの《ドール》の成長を僅か一ヶ月ほどで、五年早めてしまったが……だが、あれは反則だったぞ? まさか、俺の炭治郎があれほど可愛いとは思わなかった!
     腕組みしていた手がいつの間にかスルリと外れ、杏寿郎は己の顎を撫でながら、その指先はあのときの感触を探るように口唇に振れていた。
    「……そこ、邪なことを考えていますね? 困ったものですね。たまに居るのですよ! 《ドール》と異様に波長が合う方が! いつだったか、一体お望みだったはずが、次々に《ドール》を目覚めさせてしまって……大変な目に合いました! 煉獄さんは、ご自分で気付いていらっしゃらないようですが、実は物凄く波長が合いやすい体質のようですよ?」
     彼女の声で、ビクッと上下に跳ねたことは内緒である。
    ――よもや、こちらを見ている第三の目でもあるのか? いやいや、鼻のよい炭治郎ではあるまいし! 今の感情を読まれたわけではあるまい……ただの偶然だ!
     コホンッと咳払いをひとつし、「そんなことはないぞ!」と力説したのち、
    「俺が……か? ムムム……気付かなかったぞ」
     もう一度、咳払いをして、来客用のソファに深く腰かけた。丁度、こちら側と相対するように、《ドール》が一体偶然にも目を見開き、眠たそうにあくびをした姿を目にした彼は、ギョッとした。
     ――よ、よも、やーーーーッ⁉
     心の叫びを上げたところで、眠たそうにあくびをした《ドール》が、一度だけ杏寿郎と目を合わせた。だが、ゴシゴシと目を擦ると再び目を閉じ、眠りの中についたようだ。スースーッという寝息が聞こえ、それはやがて静寂を生むのだ。
     ホッと胸を抑え、杏寿郎は珍しく顔を青くさせる。
     ――し、心臓に悪すぎるぞ‼ いや、目を覚ましたが……そのまま眠ってくれて助かった‼
    「気付かなくていいです。そうじゃないと、炭治郎さんが焼き餅を妬きますよ? 今だって、ほら?」
     店と奥のメンテナンスルームを仕切る緞帳のような分厚いカーテンを少し開いたところから、炭治郎がじいいっと杏寿郎の方を覗き見しているではないか。
    「た、炭治郎っ⁉」
    「……い、ま……見ましたよ? 杏寿郎さん、他の子と波長が合いそうになりましたよね……もしかして、俺よりも小さい子がお好みですか……?」
    「よ、も……? ち、違う! 断じて、これは違うッ‼ 今のは、ほんの偶然だ‼ それに、ほら! あの子は、もう眠ってしまったではないか‼」
     俺には、君だけだ! よろしく、杏寿郎の言葉はまるで逃げた奥さんを取り戻そうと必死になっているアレのようだと、それを垣間見したしのぶはそう思った。
     やれやれと肩を下ろし、炭治郎との会話に戻るのだ。
     メンテナンスを始める前に、彼と話し合わなくてはならないことがあったからだ。それは、
    「炭治郎君、先程のお話ですが……アレで本当に構いません?」
    「はい! お願いしますッ‼ 俺は、どっちでも構いませんでしたが、やはり元の姿に戻った方が何かと便利かも知れません! それに、どうやら杏寿郎さんは、小さい子がお好みのようですし……お願いします‼」
     チラリともう一度だけ彼の方を見ると、炭治郎はカーテンをシャッと閉めきってしまった。これで、店側からこちらを見ることは出来ない。もちろん、覗き見などすれば、店主が黙っているわけがない。
    「え? 待て、炭治郎! 一体、今何の話をしているのだ? 俺にも分かるように説明してくれないか?」
     ソファから勢いよく立ち上がる杏寿郎は、声を荒げた。すると、しのぶはそこに叱咤の感情を交えて言った。
    「……メンテナンス途中ですよ? 煉獄さん。そうですね……貴方にも一応、確認だけはしておきましょうか」
    「だから、何の話だと……」
     店主である彼女に叱られているということは重々承知しているが、それでも今二人が会話している内容がどうして気になって仕方がない。それに、気のせいでなければ、炭治郎のメンテナンスというものは――
     よもや……? と杏寿郎は、弾かれ叫びそうになった。
    「少し静かにしてください! 今から、炭治郎君を今の……十五歳の姿から元の十歳の姿に戻す話です」
    「な、なんと⁉ い、今の姿では……十五歳ほどの姿では不味いものなのか?」
    「正直、何とも言えませんね……炭治郎君は貴方の波長と言葉によって目覚めてから……まだ、三ヶ月ほどですね?」
    「……ああ、そうだ! だが、それが?」
     そこの部分が謎だが? と杏寿郎はギョロ目を左右に動かしてみた。ついでに首を傾げたりもしたがやはり分からないものは分からないようだ。
    「問題なのですよ」
    「問題、とは?」
     しのぶの口唇から、ハアッとため息が漏れる。ここで頭を抱えたいところではあるが、相手は初心者。《ドール》に関しては、一般人であることを思い出し、一から説明したいところではあったが、正直その時間も惜しいところだ。
    「……主に迎えられた《ドール》が一年未満以内に少しでも成長してしまうと……あと半年以内に枯れてしまう……ということです。よろしいですか? 十歳の《ドール》に不埒なことをした煉獄さん?」
    「……⁉」
     何とも言えないような声を上げて、杏寿郎はその後直ぐに己の髪を両手でわしゃわしゃとかき乱した。そして、頭を抱え出す。
     ――……お、れは……何ということを仕出かしたのだ⁉
    「……しのぶさん。それは、俺が悪いのです。知っていたはずなのに……杏寿郎さんのお誕生日に何かしたくて……だから、彼は全然悪くありません! 彼に非はないので、責めるのであれば、俺を責めてください!」
    「炭治郎君。ええ、分かっていますよ……貴方は、とても素直な子。滅多なことでは我が儘も言わない……それなのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか……これは、飼い主……いえ、主が少しばかり少年趣向だったということですかね……まったく!」
    「だ、だからしのぶさん! そうではなくて、ですね‼」
    「ええ、ええ。もう、何も言わなくても大丈夫ですよ、炭治郎君。すべて、私に任せておいてくださいね? 貴方はとにかく、元の姿に戻らないと……さあ、あのカプセルに身を委ねてください」
     よいしょっと、自分とそれほど変わらない大きさに成長してしまった《ドール》は、なかなか運ぶのも一苦労だ。それでも、自分からメンテナンス用のカプセルに入らせるのは、困難であろう。特に、今の炭治郎は。
     ――本当に、困った子ですね……いえ、困ったお二人というか……
     一年経てば、何も問題は起きないということをどうしてここで気付かないのでしょうか……
     ハアッとしのぶは、本日何度目かのため息をつくのだった。
     自分よりも主のことばかりを考え心配する《ドール》は、今まで確かに存在した。しかし、ここまでの絆の深さ……そして強さを持つ者たちが、かつて居ただろうか……?
     しのぶは、ふと考えた。
     否、と。
     ――これはやはり、名人二人によって作られた《ドール》だからでしょうかね?
     特に、炭治郎君ともうひとり……兄妹で作られた二人は、かなり特別な《ドール》であると、あの方がおっしゃっていましたが……
     そうですか……これは後ほど、面白い結果を残してくれることになりそうですね? 
     炭治郎君……
     何とか力ずくでカプセルの中に入れることに成功したしのぶは、額にかいた汗を袖で拭いながら、安堵の表情を浮かべるのだった。


     ◇◇◇


    「……お、お待たせしました……杏寿郎さん……あの、どう……ですか?」
     炭治郎が《ドール》専用のカプセルに入ってから一時間ほど経ってから、しのぶの背からちょこんと顔を出した姿は、初めてここに来たときのものと寸分変わらぬものだった。
    「ああ、炭治郎! 君だなっ‼」
     杏寿郎は、よかったと声の調子(トーン)を少しだけ落として言った。彼の表情は、どこか泣き出しそうなものを含めているようだ。
     ――……もしかしなくても……杏寿郎さんは、今の俺の姿を……残念に感じているか?
     スンッと彼の匂いを嗅げば、そうでもないようだ。どうやら、少し考えすぎのようにも思える。
    「ムッ? どうした、炭治郎! よもや、俺が今までの姿を残念に思っていると?」
    「ええっと……ちょっと違うようですね? 俺は、そう最初に感じましたが……」
    「うむ! あの姿もよかったが、こちらも相変わらず愛い! 実は、一ヶ月しかこの姿を目に出来なくて惜しいと思っていたことも事実! こうして、再び会えるとは思っていなかったぞ? 少年!」
     破顔する杏寿郎に、炭治郎はトクンッと胸を弾ませる。
     ――うぁ……! ど、どうしよう……俺、俺……
     また、このひとに恋をしそう……だ。彼本人には、まだ告げていなかったけれど……実は、ここで初めて目にしたとき、ひと目惚れをしたんだ……
     これは、俺だけの秘密。絶対に、言えない。その……恥ずかしすぎて……
     杏寿郎さんの金環の眸の奥に隠された、焔のような色合いに見つめられるたびに胸が高鳴って、俺が俺ではなくなりそうで困るんだ。だから……言えない。言ってはならないと思う。
    「……しょ、少年だなんて……今更みたいです。名前で呼んでください。いつものように……杏寿郎さん!」
    「そうか? 今更か……だが、この姿も初心に戻ったみたいで嬉しいぞ! 彼女がさっき言っていたのだ! 君のその姿の時期は、非常に短いものだと。だからこそ、俺の元に来て数ヶ月で成長するのは残念過ぎると。そして、最低でも一年は保って欲しいとな……ここから成長するのに、今暫く待ってはくれないか? 炭治郎!」
     腰を屈め、彼は告げる。
    「おいで、炭治郎!」
     俺の元へと、両手を広げれば、しのぶの後ろでモジモジしていた炭治郎はコクンと小さく頷き、走り出した。
     ポスンと彼の胸に突進すれば、大きな腕に抱き締められる。
     ――杏寿郎さんだ! 大好きな、杏の匂いに包まれてゆく。
     いいな。ずっとこうしていたいな!
    「そういえば、煉獄さん。覚えていますか?」
     偶然にも今月、つまりは七月のカレンダーを視界の隅に入れたしのぶが思い出したようにこう言った。
    「今日は、七月五日です。炭治郎君の誕生日までもう直ぐですね?」
     弾かれるように、杏寿郎は彼女の方を見て、それから直ぐに炭治郎と目を合わす。
    「……炭治郎、君の誕生日は今月なのか?」
     訊かれれば、炭治郎は大きくくりんとした眸でにっこり笑う。
    「確か、そうでした! 俺、七夕の一週間後なんですよ」
     ここに、実は自分の誕生日などどうでもよいことだと思っていた観用少年がひとり。すっかり、それを忘れていたことも事実なり。
    「つまりは、十四日ということか?」
    「そうなりますね。でも、お祝いなんてしないでください。俺は、毎日のように杏寿郎さんから色々なものをいただいていますから!」
    「だが! それとこれとは、また別のものだ! 十四日、しっかり祝わせてもらうぞ! 炭治郎、何が欲しい? そうだ、何か食べたいものはあるか? 俺がどこか、連れて行ってやろう! 君は、普通の《ドール》とは違い、俺たちと同じものを食べても大丈夫だからな! うむ! その前に、先ずは――君が前から気になっていた、鬼灯市にも行こう! 姿は小さくなってしまったが、今からならば母上が君のために用意していた浴衣を小さくすることなぞ造作もない!」
    「え? ええええっ⁉ ちょっ……ちょっと待ってください!」
     フルフルと頭を左右に振って、炭治郎は「そんなにしないでください!」と言い出した。
    「大丈夫ですよ? 炭治郎君! 煉獄さんが君のためにやりたいと言っているのですから、全部受け取ってしまってはいかがです? それに、煉獄さんのお財布は、君ひとりを養えないような薄いものではありません。ね? そうですよね?」
    「無論だ! 彼女の……」
    「胡蝶ですよ、煉獄さん」
    「ああ、胡蝶さんの……」
     そう言いかければ、しのぶは「駄目ですよ、ただの胡蝶と呼んでくださいね」と、小意気に片目を閉じて見せるのだ。
    「え? あ……いや、それは……」
     いきなりはと、杏寿郎は口ごもる。
    「胡蝶で結構ですよ? 煉獄さん。どちらにしても、貴方とは長いお付き合いになりそうですし、ね?」
     と炭治郎を指差して、笑みを浮かべるのだ。
     これには、観念したようで、たどたどしくではあるが何とか彼女の名字を呼ぶことを努力した。これが同僚や生徒の名であるのならば、杏寿郎も直ぐに呼べただろう。
    「……う、うむ。では、こ……胡蝶、よろしく頼む!」
    「はい。喜んで! では、炭治郎君! 煉獄さんにお誕生日を迎えるまで、たくさん甘えてしまうとよいですよ?」
    「……えと、いいのですか? その、本当に……」
     彼の腕の中にまだ収まったままでいる炭治郎は、遠慮がちに言う。
    「構わないぞ! 君ひとりを養えないような不甲斐ない俺ではない! むしろ、もっと何かをしてやりたいくらいだ! 今月は、楽しみだな! 鬼灯市で君とデートをし、君の誕生日には美味いものを食べに行こう!」
     構わないな? と訊けば、炭治郎は素直に応える。
    「はい! 俺も楽しみです、杏寿郎さん‼」
     今年初めて、誰かに自分の誕生日を祝って貰えるという悦びを噛み締めて――


     ◇


     七月十四日、晴天。
     朝から、炭治郎はソワソワしていた。
     いつもの普段着に着替えようとすれば、煉獄家の主婦である瑠火が炭治郎のためにと真新しい着替えを用意してわざわざ手伝ってくれた。
    「よく似合っていますよ、炭治郎さん。さすが、私が見立てただけのことはありますね」
     ポロシャツのようにカジュアルに着こなせるシャツは、前が緑と黒の大きな市松模様。後ろと袖口は切り替えている。特に、袖口は折り返しで着用出来るようだ。炭治郎は、少しだけ折って、その様を楽しんだ。下は、動きやすい黒のパンツ。丈は、気持ち短めなもの。ポケットは両脇にあり、深さがある。これならば、ポケットにしまったものを落とす心配はあまりなさそうだ。しかし、瑠火が炭治郎に渡したものはこれだけではない。
    「バッグの代わりではありませんが、これを!」
     麻のサコッシュである。ファスナーがついて、なかなか使い勝手がよさそうな代物だ。
    「あ、ありがとうございます! 瑠火さん!」
    「いいえ。喜んでくれて、私も嬉しいわ。ここで本当だったら、お小遣いを渡すところですが……今日のお財布役は、杏寿郎なので……欲しいものがあったら、あの子に言うといいでしょう」
     お財布と聞けば、先日の《蝶屋敷》のしのぶと杏寿郎の会話を嫌でも思い出す。確かに、お金を稼ぐ術を持たない炭治郎にとって、杏寿郎は養い親という存在だろう。それでも、いつもいつも与えられるばかりではなく、こちらも与える側に回りたいと思う気持ちがあった。
    「どうしました?」
    「……あの、本当にいいのでしょうか? 俺、貰ってばかりで……返せるものが何もありません……」
    「炭治郎さん。貴方は、私たち煉獄家にとって、大切な家族のひとり。逆に、私たちが貴方に貰ってばかりですよ? それも幸せという名のものを――」
    「し、あわせ……」
     胸に染み入るような言葉に、炭治郎はじいんとした。
     嬉しい、と。
    「……ッ、ありがとうございます……俺、俺……」
    「いいのですよ? お誕生日おめでございます、炭治郎さん。さあ、杏寿郎と楽しい時間を過ごしてきてくださいね。そして、今夜は私たち家族と一緒に過ごしましょう!」
    「は、い。はい! ありがとうございます‼」
     大きな眸から綺麗な涙を流しながらも、炭治郎は彼女にお礼を言うのだった。


     昼近くになって、炭治郎は杏寿郎に連れられて駅向こうの路地へ入ってゆく。
    「こっちだ、炭治郎!」
    「え……? ここ、ですか……?」
    「ああ、そうだ。ここだ! どうだ? 気に入りそうか?」
    「いえ、ちょっとびっくりしちゃって……ここ、お菓子の家じゃ……ないですよね?」
     杏寿郎が彼を連れてきた店は、確かにお菓子の家に似た建物である。
    「お菓子の家か……うむ! もしかしたら、そうかもしれないぞ? さあ、入って入って!」
     ドアを開ければ、カランカランとベルが鳴る。右手を見れば、硝子ケースの中にメニューらしき美味しいもののサンプルが展示してあるではないか。足を止めて見惚れてしまえば、
    「メニューは、席についてから決めればいい。おいで!」
     彼はいつも通りに手を引いてくれる。その温もりが何よりも炭治郎は嬉しかった。
     店のスタッフに案内されて座ったのは、壁側の拾いテーブル席だ。
    「木の匂いが凄く素敵です。それに、この小豆色のフカフカした椅子……! 初めて座りましたが、凄くお尻に優しいです!」
    「そうか、気に入ってくれて何よりだ! で、メニューだが……これだ! 炭治郎、君が食べたがっていたものは……これだが、大丈夫だろうか?」
     大きな冊子タイプのメニューを開いて、杏寿郎はあるページを彼に見せた。
    「あ! そうです‼ これ、食べてみたくて……いちごのかき氷! これ、大きいのと小さいのがあるのですね? 俺は、小さいので大丈夫です!」
    「……う、うむ。だが、炭治郎。その……ここの店はだな、噂では何でも……写真サギとか言われているらしい。つまり……」
     何やら、杏寿郎の言葉の歯切れが悪いようだ。炭治郎は首を傾げて、
    「つまり、この写真とは違う量のものが出てくるということですか? それなら、このミニサイズにソフトクリームをトッピングしてもいいですか? ソフトクリームも美味しそうですよね?」
     それならばと、トッピングを希望する。
     ――……写真サギってどんな感じなんだろう? 思っていたよりも量が少ないってことなのかな? ソフトクリームをついトッピングしちゃったけど……杏寿郎さんのお財布は大丈夫だろうか?
    「ああ、大丈夫だ。ならば、俺はたっぷりサイズのアイスコーヒーをいただこう。先ずは、な!」
     炭治郎がそれだけで足りますか? と訊いてくる前に、杏寿郎は先手を打った。先ずは、と。
     呼び出しのベルを鳴らせば、スタッフは直ぐにやってきて、笑顔でオーダーを受けてくれた。直ぐに、それらはテーブルに並べられるのだが……
    「……杏寿郎さん……写真サギって……量が少ない……じゃなくて、その逆だったのですね……」
    「……ああ、俺も今それを知ったところだ……だ、大丈夫か? 炭治郎! その量、ミニにしては随分と多いようだが……」
     予想していた期待をいい意味で裏切られたようだ。しかし、量が半端ではない。かき氷が入れられた皿から今にも零れそうである。ソフトクリームというトッピングがそこに追い打ちをかけていることを炭治郎はまだ気付いていない。
    「それなら、一緒に召し上がってください! ソフトクリームも半分こしましょう!」
    「ああ、だが……その前に――誕生日、おめでとう。そして、俺と出逢ってくれてありがとう……!」
    「こちらこそ、ありがとうございます。凄く素敵な誕生になりました!」
     涙が出そうになるのを堪えながら、炭治郎は微笑む。
    「さて、早速いただいてくれ! 溶けてしまうぞ!」
    「あ、はい! 杏寿郎さんも食べてくださいね!」
    「うむ! では、俺も手伝わせてもらおうか!」
     嬉しい嬉しいと噛み締めながら、炭治郎は彼がご馳走してくれたピンク色のかき氷を頬張るのだ。あと少しで完食だろうというところで、
    「炭治郎、頬にソフトクリームが……」
     手を伸ばすがそのクリームがなかなか取れない。仕方がなく、杏寿郎は身を乗り出して、彼の頬についたクリームごと舌で舐め取れば――
    「あ……!」
     炭治郎は、小さな声を上げたと同時に、いきなり成長し始めたのだから驚きだ。いや、それよりも、禁止事項のひとつに触れてしまったらしい。キスは承知の上だが、まさかの頬に舌が触れただけもそれに含まれるとは気が付きもしなかった。
    「これは、不味い! すまん、炭治郎! 直ぐに、胡蝶のところへ行くぞ‼」
     杏寿郎は、急いで炭治郎の自分の上着をかぶせてお会計を済ませると、その足で《蝶屋敷》へと駆け込むのだった。
     後でしのぶから受けるメンテナンスの請求書とお小言は、大変なものであった。
     それでも、炭治郎にとっては忘れられない誕生日の一コマと。


    「貴方に会えて、よかったです。杏寿郎さん。また来年、お祝いしましょう。ううん。今度は、貴方のお誕生日のお祝いですよ? そのときは――俺のすべてを貴方に……」
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    前回の🔥さんのお誕生日おめでとうSSの対になる物語がなんとか形になりました。
    こちらは、後で紙媒体である、log本3に収録予定です!
    感想等あったらよろしくお願いしますm(._.)m ペコッ
    反応ないの寂しいです!!!

    前作は、こちら!
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19857088
    観用少年との戀2 煉獄家に《ドール》である炭治郎がやって来てから、初めての七月。そう、梅雨明けを迎える時期となった。
     最初は、十歳にも満たない姿であったが、杏寿郎の誕生日に彼は自ら大きくなることを選び、十五歳ぐらいの姿になったのだが……ここで《ドール》としての不具合が生じたために、彼を購入するきっかけといった《蝶屋敷》へ急ぎ赴くことに。
    「あらあらまあ。これは、予想外のことになってしまいましたね? 炭治郎君」
     《蝶屋敷》への最初の里帰りは、なかなか衝撃的なものだと店主である胡蝶しのぶは、にこにこと微笑んだままでいた。しかし、その笑顔の裏側には静かな怒りの感情が隠されているではないか。
     その怒りの感情を直ぐ様読み取った炭治郎は、ゾクリとしたものを感じていた。一方、杏寿郎は、そんなことも知らずに「すまんな!」といつもの大声を発し、ぺこりと頭を下げた状態だ。
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