晩酌　酒が飲めるようになったからと言って、家で大量に飲むということはお互いしなかった。
　それでもやはり、晩酌というものは、とっておきのひとときという心地がして楽しく酔えた。事務所の誰かが出演しているバラエティーを流し見しながら、更けていく夜に身を委ねる。
　ソファにどっかりと座ってハイボールを煽っていると、チビが梅酒の缶をそっと机に置く音がした。いつもソファの下に小さく座るチビは熱心にテレビを見ていることが多いので、時たま足で蹴ってやると迷惑そうにそれを振り払うので愉快だ。しかし今夜は、テレビに自分達が映っている。振る舞いには自信しかないが、どのように編集されているかは見ておきたい。オレ様の出番だけ著しくカットしているようなことがあれば、下僕に文句を垂れなければならない。
　番組は滞りなく進み、オレ様もチビも満遍なく映っている。観客席の笑い声が不自然に足されてはいるものの、なかなか面白い仕上がりになっているのではないだろうか。そう思いながら、缶の底に溜まる薄くなった液体を流し込んでいると。
　足元に、こてん、とチビの頭が乗った。
　眠くなったのかと思いそちらに目をやると、予想に反してチビと目が合った。チビは何かを訴えたいようにこちらを見上げながら頬を染めている。もっともそれは度数の弱い梅酒のせいだろうけれど。
「んだよ」
「……今日は、おとなしいんだな」
「はあ？」
「いつも、ちょっかいかけてくるくせに」
　オレ様の足に頭をのせたまま、ぼそぼそとしゃべるチビの髪に手をやる。風呂上がりでしっとりしたそれは触り心地が良い。
「くはは、オレ様が恋しくなったかよ」
　ふざけてそう言ったのに、チビは真剣な面持ちで
「……そうだと言ったら」
　と返してくる。今度はオレ様が黙る番だった。ごくたまに、チビはこうして甘えてくることがある。甘え下手なコイツは、誘い方も遠回しでまどろっこしい。
　オレ様の手に手を添えて、自分の頬に持っていったチビの瞳はこころなしか潤んでいる。酒のせいとはわかっていても、思わずごくりと喉が鳴った。
「……手、あったかいな」
「……めずらしいな、チビから」
　チビの手を掴み引き寄せながら、オレ様はハイボールの缶を机に放った。チビの身体は熱く、酔いの回った声はとろんとしている。
「……いいだろ、たまには」
　チビを身体の上に乗せ、その輪郭を手でなぞる。口角が上がるのが止められない。愉快で仕方ない。
「オネダリできたらいーぜ」
「……ばか」
　チビはゆっくり体を倒し、オレ様の唇に唇を寄せる。次に出てくる言葉を待ちながら、オレ様はテレビの電源を切った。