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    tg2025317

    @tg2025317

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    tg2025317

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    オベロン王子と男装リツカ王子(♀)のオベぐだ♀。上の続きです。二人が王子様としてもちゃもちゃする。捏造しかないので何でもよい人向けです。
    ・二人が王子様やってる
    ・ぐだちゃんが男装
    ・アルトリアもお姫様やってる
    ・設定が捏造かつ複雑

    中 二国の決裂

    多少のイレギュラーはあったものの、東国のリツカ王子の成人と誕生を祝うガラは恙無く終わった。
    学友同士募る話があると言い訳を並べて、お開きになった後に二人はバルコニーで夜風に当たっていた。
    「助かったよ。ありがとうオベロン」
    「やぁ、なに。大したことではないさ。僕も相手はいなかったからね」
    役得だったさ、とウインクをするオベロンにいつもならそういうのは冗談でも言うなと睨んだリツカだったが、今日は笑って「私も可愛い子の手を最初に取れて良かったよ」と笑った。口調もどことなくいつもより柔らかだ。
    「お酒を飲んでいたけど、大丈夫かい?」
    「大丈夫、少しだけだし…しかし夜風が気持ちいね…」
    「本当に大丈夫だろうね?」
    風が吹ゆいて二人の髪を揺らした時、ゴゥン…と鈍い音が響き始めた。城のカンパニーレから響く鐘の音である。リツカはそれまで目を垂れさせていたが、その音が耳に入ると、たちまち眉根を寄せた。
    「この音、好きでないのよね」
    「…へぇ、どうしてだい?」
    「さぁ、あんまり耳触りがいいと思えないだけ。歴史のある鐘と言うから、大分古びて音が歪なのかもしれないけれど、よくわからないわ」
    「そうなんだね。ところでさ、この間噂で聞いたんだ。君の家宝の話」
    「お父様の王冠のこと?」
    「あれも素晴らしい冠と聞くけれど、普段は付けないのだろう?いや、それでなくてね。東の国の城のどこかには妖精の翅があると聞いたんだ」
    オベロンは月明かりに照らされてそれはそれは美しく微笑んだ。それこそ妖精であると言われても見紛う程に。
    「や、聞いたことが無いな…」
    リツカは色々なことを思い出してみたけれど、そんなもの一度だって聞いたことが無かった。家宝と言われるものはいくつかあったが、今となっては存在しない妖精の翅などといった幻想的なものは無い。
    「この国は古くから人間の国だからね。私の一族は今も昔も幾千年と人間たるべしと生きてきたし、妖精のものなんて無いんじゃあないかしら」
    オベロンはまた、君が言うならばそうなんだねと言って微笑んだ。
    「不思議な噂だね。そんなことよりオベロン、もし君の誕生日までに好い御相手が見つからなかったら私が踊ってあげてもいいよ」
    「君、またあんな無様を要人方々の御前で晒すつもりかい?」
    「無様!?えッ、そんなに酷くなかったわ!」
    「いんや、酷かったね」
    「悔しーッ!オベロンだってきっと私と同じくらい下手だった筈よ!」
    次はちゃんと女役を練習しておくから!それでオベロンより女役が上手いって言わせてやる…とリツカは不貞腐れながら言った。
    「じゃあ早速練習だね。そーら!」
    「ぅわ、わわ、お、オベロン!」
    オベロンはリツカの手を取ってくるくると回した。更に、目の回ったリツカの腰を掴んで後ろに倒そうとするので、リツカはちょっと!と叫びながらオベロンの腕に必死に捕まった。
    「あはは下手くそ!」
    「クゥゥ…」
    二人きりとはいえ恥ずかしいわとリツカは思った。いや、二人きりだからこそ恥ずかしいのかしら。友人として肩を組むことはあっても腰を掴まれてこんなに密着することなんて無い。
    「も、もうわかった、負けたから。私の負け…」
    「わかれば宜しい」
    反らされていた腰が元に戻って、ほ、と息を吐く。離れていった右手の熱を少し寂しく思う暇もなくグンっと視界が持ち上って、喉から引き攣る様な悲鳴が出た。
    「ぉ、こ、こわぁ!怖いのだけれど!」
    ここバルコニーだし!と、リツカは怖がった。子供の頃に普通の子がしてもらえるような高い高いも、ダンスでのリフトも一回だって経験したことが無かったからだ。怖がるリツカを他所にオベロンはあははと笑いながら今度は自分ごと回り始めたので、リツカの視界に映った星空もまたクルクル回る。
    オベロンが楽しそうに笑うから、リツカも楽しくなって笑った。降ろされた時、リツカの頬はほんのりと赤くなっていた。笑っていたからか、それとも。
    「次に踊る時までにはようく練習しておくことだね」
    リツカにとっての一夜の夢はこうして幕を閉じたのである。

    結局リツカはオベロンと踊ったのだと聞いてアルトリアは悔しがったが、改めてリツカがオベロンの誕生会における舞踏会でのエスコートを申し出たので丸く収まった。
    そう、数ヶ月先にはオベロンの誕生日が控えている。
    「お母様たちが張り切ってるんです。リツカの御両親はシャンとしていましたけど、お母様とお父様は随分と浮き足立っている様で…」
    「成長を御喜びになられて、オベロンは随分期待されているんだよ」
    「リツカだってそうでしょう?パレードでの国民からの歓声、今も耳に残るくらい凄かったですし…」
    「やぁ、照れるな…」
    喜んでくれたのは国民と事情を知らぬ家臣たちだ。一番にリツカの成人をおめでとうと祝う筈の両親は、今にどうやってリツカを第一王子から降ろすかを考えあぐねていよう。国王夫妻が降りろと言って、リツカがハイと答えても、国民が、家臣が納得しない。第二王子が生まれるまでの十三年間、リツカは立派に役目を果たしていたからだ。彼等がそうせよと言った事をその通りにやった結果であるのに、誠面倒な事である。
    王家は今更、リツカが女であったなどとは口が裂けても言えぬ。王家が性別を偽って娘を王子にし、男子校にまで行かせていたなんて知れたら数千年の王族の権威が底に落ちる。偽物の第一王子は不要である。けれど本物の王子のスペアとして、万が一の為に弟の後継が生まれるまでは切り捨てるのは惜しい。
    リツカは今までを第一王子として好く努めていた。であるから国民も、家臣もリツカが王位を継ぐと信じて疑わない。そんなリツカが離席する事を国民が、家臣が「であれば仕方無し」と言わすにはどうするべきか。
    切羽詰まった問題のように思えるが、案外そうでもなかろうとリツカは落ち着いていた。父は五十を過ぎていたが、病に蝕まれている訳でも無し、死神が背後に立つ年齢でもない。弟もまだ神の膝下にいるような年齢であるので、今すぐにリツカを槍玉に挙げる必要も無かろう。

    十一

    オベロンの誕生日及び成人のガラが近づくにつれて、リツカは何度か彼がエスコートする予定のレディーについて尋ねたが、彼はのらりくらりと言葉をかわし続けた。
    しかしマ、今頃オベロンの元には何十通と乙女達から文が届いている頃合いと思うので、いろいろと忙しないのであろう。
    あの後リツカとアルトリアの関係について、かの二人は今後一緒になるのではないかと囁かれ始めた。昔からその様な噂は飛び交っていたが、リツカが彼女をエスコートしたことによってその噂は色濃くなり始めている。更にオベロンの誕生会でのリツカの相手がアルトリアであるというのも何処からか抜けて新聞に掲載されていた。我々は庶民の為の良い話の肴である。リツカでさえこの通りであるから、いずれはオベロンもそうなることは確定している様なもの。やはり相手選びはより拘るに決まっている。マ、こういったものはあまり自分らに権限が無いものだが。拘っているのは自分たちでは無く親族だ。オベロンの相手について気になら無いと言えば嘘になるが、言っても仕様が無い事だ。

    それが両国間の和平を脅かすことに繋がる疑念になるとは、リツカはこの時想像もしていなかったのである。

    オベロンの誕生日、リツカは来賓として隣国に赴き、彼が国民に笑顔で手を振り、陽の光を浴びる白亜の輝きを見て、あの分じゃ彼が心内で捻くれていることなんて誰も彼も気付かないな。とオベロンの誕生を讃える拍手喝采に紛れ込ませて彼が演じる王子たれの完成度に賞賛を贈った。
    何の問題もなく進行していった祝賀会、夜の帳が下りれば、舞踏会の時間である。今度こそアルトリアの手を引いて王族として優先されてボールルームに足を踏み入れた。さて、どのお嬢さんかしらとリツカが顔を上げ、これは、と思った。
    「リ、リツカ?大丈夫ですか?」
    「あ、いや、なんでもないよ」
    「そうですか?」
    「や、うん。…ごめんね気を遣わせて。今日は目一杯楽しもう」
    リツカが表情を崩したのは一瞬のことで、次にはもう笑顔だった。
    アルトリアとリツカは今度こそダンスを踊った。リツカは表情を蔭らせたことなんて無かったかのように振る舞い、アルトリアは緊張で手が震えたが、今度こそ練習を重ねたステップで無事にリツカの足を踏むことなく終えることができた。
    「大丈夫?顔が赤いよ」
    「あ、えへ…、緊張してしまいまして…」
    「水を飲もうか」
    はい、とアルトリアはこんな時にでも気が利いて完璧にエスコートをこなすリツカを見て、本当にオベロンと違うなぁと思った。
    「やあ、お二人さん」
    「ぎゃぅ!!」
    「こらっ!おかしな声を出すんじゃない。仮にも舞踏会だよ」
    「お、オベロン…」
    「こんにちは、オベロン。久しぶりだね」
    「久しぶり、リツカ。全く、僕たちはまだ学生だというのに今日という一日のために一体何日分の学業を疎かにしたのかわからないよ」
    はー、やれやれと肩をすくめた彼は、半身を翻して彼がエスコートしているお姫様を紹介した。とはいえ、リツカも彼女と初めて対面した訳では無かったので、挨拶への導入みたいなものであったが。
    「ご無沙汰しております、姫。私の祝賀晩餐会の際にもお越し頂きまして、その節は誠にありがとう御座いました」
    リツカが丁寧に挨拶をしたので、お姫様の方も緊張して挨拶を返した。可愛らしい人で、顔を真っ赤にしてこほんと咳をひとつ。恐る恐るといったふうにドレスを少し摘み、ブロンドの髪を揺らして挨拶をした。心なしか声も震えているように聞こえる。
    「彼は僕の幼少からの学友だからそんなに緊張する事無いと言ったのだけれど…」
    「それは、その。そうですが…。わたくし、兄様と一緒ではないのが初めてで少し緊張を。無礼がないと良いのですが…」
    「そういえばそうですね。お兄様は御健勝ですか、本日は見当たらないようですが…」
    リツカは至って平然としていた。いつも通り人を警戒させない柔和な雰囲気でもって、直ぐに打ち解けてしばらく四人で談笑をしたりした。アルトリアもリツカが先に挙動が少しおかしかった事をスッカリ忘れるくらい、全くいつも通りの姿であった。

    愛らしい姫と美しいオベロンの一夜の踊りは人々を惹きつけて止まなかった。リツカとアルトリアは言ってしまえば予想の範疇にあった組み合わせであるが、オベロンの御相手については幾つかの候補が挙がっていたものの、そこには名前の載らなかったひとで、完全にダークホースであった。必然、次の日の朝刊で大きく取り上げられて国中を沸かせた。老若男女、特にうら若き乙女達は憧れのオベロン王子が遂に御相手を、とほろほろ涙を溢す始末。
    しかしながら一方の東の国、特に王宮内では別の意味で混乱が起こり、汗を溢して議論が巻き起こっていた。

    オベロンの相手は大陸から海を渡り、比較的近い場所に位置する島国の姫だった。その隣国が問題なのである。
    その国は過去の大戦で戦を嫌った人間や、力が弱すぎて行き場を失った妖精が命辛辛と亡命した島であり、今ではその子孫が永久中立国として国を構えている。残念ながら元々力の無かった妖精たちは永く保たずに息絶えてしまったが、戦火に焼かれて死にゆく国よりは余程の桃源郷であったろう。歴史はここではどうでも良い。その国は、大陸の西国、東国、どちらの領土からも程近い所にある、というのがミソである。
    リツカはあの時に感じた懸念が、現実になった事を悲しく思った。

    十二

    「ふざけているのか!?あの島はうちの国と西の国を海を隔てているがどちらの国土にも隣接している!同盟でも組まれてみろ、陸と海から挟まれてしまう!」
    「そもそも我が国はあの二国が血縁関係になろうなどという事自体聞いてもいませんなんだ。秘密裏にコソコソとやっていたのは、それだけで疑わしきですぞ」
    「妖精との戦争に立ち向かう事もできなかった腰抜けた奴らが何をしゃしゃって永久中立国などと言っているんだ。負け犬の間違いだろうに」
    「リツカ王子とあれ程御親密な関係を築かれていたのに、裏切るのかあの虫ケラめ」
    「そもそもオベロンなどという名前から気に食わなかった。妖精王などという、人間を迫害し殺して回った妖精族の王の名前など…」
    「所詮、その様な下劣種と社会不適合者が交わって出来た西の国の考えそうな事だよ」
    「……。」
    リツカは聞くに堪えない会話を永延と聞かされていた。リツカがいなくとも勝手に会話は進んでいくのだ、どうしてこんな事を聞かねばならぬのか。
    「リツカ王子、今後あの下賤な男との交流は差し控えてくだされ。高等学校も東の内側の場所に移しましょう。貴方様の御身に何かあれば我々は奴の体を五千の塊に刻んでも許せませぬ」
    「皆さん、私の身を案じてくださるのはありがたいのですが…私はオベロン王子から何も聞き及んでおらず、あの姫と正式にお付き合いをされているのか、そうで無いのか、そう短絡的な推理で決め付けては…」
    「リツカ王子。王子がお優しく、オベロン王子にまで御慈悲を向ける器量の大きさには感服いたしますが、これは国の運命を左右する事なれば、少々手厳しくいかねばなりません」
    「かの二人が好い関係にあるかないかではなく、関係を示唆する様な行動を取ったこと事態が悪なのです。御友人感情でいられては困ります」
    悪って何よ。女の子をエスコートしただけじゃない。御友人感情って何よ。あなたたちが仲良くしなさいって隣に置いたんじゃない。

    何故この国の人間が罪人を罵るかの如くオベロンを袋叩きにするのか。
    話は歴史の波に戻る。妖精国と人間国が和解した後も両国間では細々とした諍いが何度も起こった。同じく妖精族に虐げられていた人間同士、何故仲睦まじくすることが出来なかったか。
    妖精族が滅んだからである。共通の敵は互いの身を固めるに至るが、その敵が滅んだら今度は隣が憎くなる。あれだけ人間を虐げ、同族同士の殺し合いをした妖精族を罵倒した癖に、結局同じ事をするどうしようもない生き物なのだ。

    和解後、未だ妖精族の生き残りが在った頃。東の国から西に移住する人間が少数であったが、いなかった訳では無い。東国の人間からすればわざわざ敵国に行かなければならない程の状況の人間とは、大抵が後ろめたい事があるとか、平和な人間の国で爪弾きにされるような蛮族というレッテルがあった。つまり人間の世で社会不適合者が島流しにあって行く国が西国であり、妖精族が滅んでからは次の汚れはお前たちだと潔白を主張する人間たちによって、彼らに白羽の矢が突き立てられたのである。
    その差別と偏見は両国の和平以降も人間同士の争いを何度も生み続けた。であるからリツカとオベロンはその人間同士の諍いの関係の修復を、手を取り合える「兄弟」としての繋がりを、求められたのである。

    しかし今度は手を振り払って刀の鞘に手を掛けておけと言う。

    汚物でも見ている気分であった。オベロンと親密なリツカの前では、家臣たちはいつだって西国やオベロンを褒めそやしたが、結局腹内では見下して足元を見ていた訳だ。その手のひらの返し様にリツカは気持ちが悪くなり、けれどこれが彼らの本心だったのだと知るとやるせない気持ちになった。
    根強い偏見と差別は結局幾千年経とうと消えず、リツカの望んだものなど夢物語である御伽噺の中でしか実現できない理想郷なのだと思い知らされた。
    皆が笑って暮らせる平和な世の中も、王子と少女が結ばれる、飽きるほど語られたロマンスも。

    「リツカ」
    「は、はい」
    リツカは緊張で上擦った声で返事をした。国王はリツカがニュートラルな発言をしたのが気に障ったのかもしれないと、手を冷たくしながら次の言葉を待つ。
    「ではお前が確認しなさい。オベロン王子と親友の仲とまで言われるお前なら、話せばわかるというのだろう?お前も立派な大人なのだからそう中途半端な発言をする事は控えよ。家臣を不安にするもので無い」
    「……は、はい」
    それでもし。オベロンが少しだって東国に懸念を抱かせる様な事を言うのであれば。
    「戦事の準備は今ひとつ控えよ、西国に使者を送ってリツカとオベロン王子の会合を取り計らえ」

    十三

    何がどうして悲しくて、私は好きな人にエスコートしたレディについてこの様な形で根掘り葉掘り尋ねなければならないのだろう?
    あの子だって可愛らしい良い子だった。顔を真っ赤にして声を震わせて私に挨拶をする様な、アルトリアと同じくらいの年端も行かぬ少女がこんな二国間の亀裂の発端だと責め立てられてしまうのかしら。
    リツカは両国の国境沿いの館で行われる会合に向かう馬車の中、背中にビッタリと汗をかいて、今朝碌に入らなかった朝食が喉元に迫り上がってくるような気さえしていた。
    「リツカ王子」
    「はい」
    「大丈夫で御座いますか」
    「はい」
    「普段通りで可いのですよ、オベロン王子に御友人として少し話に行くだけではありませんか」
    いつも淡々と業務をこなすだけの執事長には珍しい、というより初めてリツカの事を気遣う様な事を言われたので、リツカは驚いてエ?と返した。
    「と、今朝、リツカ王子の乳母の方から伝えて欲しいと頼まれました」
    「あ、あぁ。お前が珍しい事を言うものだから、驚きましたけれど。彼女からですか」
    「ええ。私も、彼女と同じ気持ちで御座います」
    リツカはハッハと笑った。人の励ましにあやかったテンプレートすぎるお気持ちの表明に、お前はこうでなくてはなと幾分マシになった顔である。
    「ありがとう、元気が出たようだよ」
    「それは、好う御座いました」

    乳母や執事長はああ言ったものの、今回の会合は決して友達とお話をするなどと言う生優しいものではない。お互いに幾人かの要人と書記を付けて部屋に集った。
    互いの書記が椅子を入れ替え、タイプライターのセッティングが終わる。書記は相手方の言った事を一字一句聞き逃さず記録に残すのが役割だ。リツカもオベロンと握手をして軽い挨拶を交わす。
    「取り急ぎの会合に応じてくれてありがとう」
    「何、構わないさ。僕たちももう大人の仲間入りをしたのだからね」
    あの夜バルコニーで握られたのと同じ手の筈であるのに、そこにあの夜のような熱は一切無い、他人行儀な握手であった。
    リツカはオベロンのガラの後一日だって学校に行けていない。オベロンもそうであるかは知る由も無いが、あれだけ兄弟のように隣にいる事が日々であったのに今やこの通り。リツカはあの男子学校を懐かしく、恋しく思った。また戻る事ができたのなら…いいや、それは今から決まる事だ。上手くやればまた、あの日々に戻れるかもしれない。

    進行役が自己紹介と会話に入る前の導入を進める。
    カタカタカタ、と男の声に続いてタイプライターの音が部屋に響く。
    「我々としては、隣国は同じ歴史のルーツ、先祖を元に持つもの同士、より良い関係を築き上げる事ができればと思いまして。今の我々のように…決して貴方を裏切るという意図は御座いません」
    「ですがこの様な疑念を抱かせると思わなかった訳ではございますまい」
    「……。」
    結局この場でも、リツカに発言権というものは殆ど与えられかった。オベロンとリツカの会合という名目で、互いの用人共が意見交換をしているに過ぎない。それにしても、西国の用人の方も困惑、という感じであった。当たり前である、東国の要人共はアレやコレやと文句を付けて、いかにも西国が東国に喧嘩を売ったとさせたいのだ。折衷案など見つける気が無い。
    そしてそれは東国の要人方々、更には国王、リツカの父の意思でもある。彼らはその意思に従い難癖を付けているのだ。それをリツカとオベロンのと銘打った会合でやる事の意味。
    二人は両国関係良好の象徴である。
    西国はリツカの名で会合の取り合わせが来たので、我々の関係の再確認、隣国の姫を迎え入れるにしろ、ないにしろ、この両国王子の様に「兄弟」の関係でいましょうと話が纏まると考えていたのかもしれない。それがこうもお前たちが企みをしているのかと吊られるなんて思いも無かったろう。

    国王は和平の象徴である二人の会合を失敗させ、象徴としての役割を終わらせようとしている。これ以上、リツカが支持を得る前に。自国のみならず隣国の国民からも愛される前に。

    明け透けにもオベロンとあの姫の関係はどこまでであるのかなど本人の前で部下が語って可い訳もなく、西国はどうにかして誤解を、東国からの疑いを晴らすにはと急いているようである。
    「こ、こちらとしてはッ。ゆくゆくはアルトリア姫とリツカ王子が一緒になってくださり、オベロン王子と真の兄弟になってくれれば喜ばしいものと、王と王妃は御考えなのです」
    皆の顔がリツカに向く。カタカタとタイプライターの音が止んだ。
    そう言われて仕舞えば、東国側はリツカという第一王子の顔を立てる為に彼らも引き下がるしかあるまい。誰もがリツカの言葉を待ち侘びていることがわかる。オベロンでさえ、リツカをジ、と見つめていた。
    わかっている。西国にとって言って欲しい言葉も、東国が戦準備をする必要が無くなる言葉も。
    「私は。アルトリア姫が望まれるのであれば、嫌ではないと言ってくださるのであれば。そのお話をお受けする心持ちで御座います」
    カタカタカタ…
    「!それは、王も王妃も御慶びになられることでしょう。その様にお伝え致します。姫ももちろん御慶びになられるでしょう」
    「待ってくれ」
    オベロンは通る声で制した。皆が其ちらを向いた。
    「許可できない」
    「オベロン王子、それは…」
    空気が変わってどちらの要人達もオベロンの言うことに注視した。
    「リツカ、僕に言いたい事が有るならば言うが宜しいよ。僕に何が聞きたいんだい?」
    リツカはちらりと要人達を見る。彼らも此ちらを向いていたが感情を読み取れなかった。
    「僕は君に話し掛けているよ、リツカ。何を知りたいのか、言ってご覧。此れは僕たちの会合だ。他を気に掛ける必要は無い、いつものように語らおう」
    オベロンは優しく、なだめるように彼女に尋ねる。リツカはは喉の奥が渇いたように暫く言葉が出なかった。
    「…オベロン王子。ボールルームであなたの隣に立つ彼女を見た時、確かに私も困惑しました。私自身も彼女との交流はありますし良い子だとは存じていますが、賢い貴方なら、あの選択が我が国にとって疑わしきと思われることも理解できたでしょう。私でも出来ました」
    「そうだね。それは僕も思ったよ。けれど先ほど彼らが述べた通り、それは杞憂に過ぎない。僕はそんな杞憂の為にアルトリアが君に嫁ぐ事をこんな所で勝手に決めるなんて、随分な態度だと思ったんだよ。彼女は是と言うかもしれない。いや、言わざるを得ないだろう。けれどわかるだろう?この身動きの取りにくさをさ。まるで蛹から孵る直前の虫みたいじゃないか。その気持ち悪さを知っていて尚、アルトリアにも強いるのかい?君は」
    カタカタカタカタ……
    「オベロン、言い方が悪い」
    リツカはチラリと書記を見る。彼らはなんの感情移入も無くただ我々が発した言葉を一言一句そままに文字に起こしている。この言葉は全て国王の耳にまま入るをわかっている筈なのに…!
    「本心さ」
    オベロンはまるでそこにリツカとオベロンしかいないかの様に話す。リツカはタイプライターの音が嫌に煩く聞こえるのを鬱陶しく思った。
    「しかし其れを杞憂でしたの一言で片付ける訳にはいかない」
    「リツカ、君が聞きた事は本当に其れなのかい?」
    「どういう意味」
    「僕があの子とどんな関係なのか、気になるのではないのかい?あの一夜だけの御相手だったのか、それとも将来的には婚儀にまで辿り着く事になりそうなのか…」
    「オベロン、ここは学校じゃないんだよ」
    カタカタ…
    「……そう。そうか。君はそうなんだね。わかった。わかっているよ。じゃあどうすれば君は納得してくれるのかな?……あそうだ。君が僕の家に嫁げばいいんじゃない?」
    「は?」
    「だって他人を代わりに差し向けるのはナンセンスなんだから、君が出張るしかないじゃないか。君には弟がいるんだから…」
    「オベロンッッ!いい加減にしろ!!」
    カタカタ……
    あははととぼけたようにオベロンは笑ったが、リツカが顔を真っ赤にして怒るとス、と目尻を引き伸ばした。
    「アルトリアまで不幸にするのか?」
    カタカタカタ……
    その言葉にリツカはビクリと震えた。だってリツカは女だ、例えアルトリアを嫁に受けたとして子供ができない。それどころか、其の事を聞いた彼女はリツカに裏切られたとすら思うかもしれない。
    ハッ、ハ、と短い息が漏れる。母を思い出したのだ。子が成せず、役立たずの娘と罵られていた母を。
    女でありながら男として育てられた故に、好きな人に好きとも言えない私を。
    アルトリアもきっとこうなる、この家で女は幸福になれない。
    「俺はな、お前みたいな自分の意思すら言えない奴が、言われるがままに生きているのが気持ち悪くて仕方ないんだ。虫唾が走る」
    カタカタカタカタ……カタ。

    十四

    リツカは魂が抜かれてしまったみたいにジと座って動かず、視線は遠くを見つめ続けている。
    「リツカ王子」
    「はい」
    「大丈夫で御座いますか」
    「…いいえ」
    オベロンの言うことは尤もだ。尤もであるからこそ、辛かった。本当は聞きたかった。あの子と御付き合いをしているの?プレゼントは贈ったの?何度直接逢っているの?将来の約束もしたの?
    もうあの夜に言った、「次に踊る時」はもう無くなってしまったの?
    どれもこれも、王子の私には関係の無い話である。
    「お父様は戦事の準備を進めるでしょうね」
    もうリツカにはどうしようも無い事の様に思えた。何かのキッカケで火種がポンとくべられて仕舞えば、瞬く間に燃え盛る戦火になる。男装をしていたとて、親に煙たがられていたとて楽しく過ごせていた所から、突然憩いの場だけが奪われてしまった。もうあの頃には戻れぬだろう。これは大人になったにも関わらずあの夜に女として彼を見た、私への罰なのであろうか。

    「リツカ王子」
    「はい」
    「以前にオベロン王子とは仲違いをされた事がお有りですか?」
    「いいえ。貴方が毎日言い付けたのではないですか。オベロン王子との御関係を崩す事にならぬよう、と。私はもう一字一句覚えていますよ」
    「いいえ、それは私からの言葉ではなく、国王陛下からの御言葉です」
    「そうですが、ああも毎朝言われると貴方からの言葉とも思いますよ。初等の頃から私の成人が済んでからも言っていたでしょう」
    「……リツカ王子。男児たるもの、喧嘩の一つや二つは致しましょう。そうやって互いを知っていくのです。初めてなら尚の事、私は悪い事と思いません」
    「それは、乳母の言葉ですか?」
    「いいえ。私の言葉で御座います」
    「…タイミングが悪すぎたように思います」
    「それは些か、そうかもしれませんが。その様な時の為に私は在るのですから、存分にお使いください。王子は手の掛からない好い子でしたから、私は執事として仕事に張り合いがございませんでしたので、読書が日課に、そして趣味になってしまった程です」
    「好いことではありませんか」
    リツカはまたハッハと笑った。今日は随分と喋る男だ。
    「まだ着くまでに暫く掛かります。私のお勧めの本をお読みになって気分を紛らわせては如何ですか」
    渡された本をリツカは素直に受け取った。趣味だと言うが、私は執事長がいつも忙しなくしていたのを一番側で見ていたし、その中で彼が暇だと言って本を読んでいる姿など一度だって見た事が無かった。さて、そんな彼が一体どの様な本を勧めてきたのか、確かに気にはなる。
    現実逃避にも近いが、確かに何もしないで死人のように座っているよか、同じ空間を共にする執事長としても居心地が良いか。
    本を開いてすぐに違和感に気づく。本のしおり紐にしては分厚すぎる何かが挟まっている。執事長のメモ用紙か何かかしらと頁を捲った。
    「…………。」
    パタン。
    リツカは即座に本を閉じた。メッセージカードくらいの小さな紙が挟まっていたのだ。読みはしなかったが、リツカはパッと見た文字の癖だけでそれが誰によって書かれたものか即座に理解った。
    「……もし、もしこの本がとても面白くて、私がもっと貴方にお勧めの本を聞いたら、怒りますか?」
    「いいえ」
    「……ありがとう御座います」
    リツカはそう言って大事そうに本を撫でると、頁を捲り、城に戻るまでの時間をそうやって過ごした。
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    tg2025317

    DONEオベロン王子と男装リツカ王子(♀)のオベぐだ♀。上の続きです。二人が王子様としてもちゃもちゃする。捏造しかないので何でもよい人向けです。
    ・二人が王子様やってる
    ・ぐだちゃんが男装
    ・アルトリアもお姫様やってる
    ・設定が捏造かつ複雑
    中 二国の決裂

    多少のイレギュラーはあったものの、東国のリツカ王子の成人と誕生を祝うガラは恙無く終わった。
    学友同士募る話があると言い訳を並べて、お開きになった後に二人はバルコニーで夜風に当たっていた。
    「助かったよ。ありがとうオベロン」
    「やぁ、なに。大したことではないさ。僕も相手はいなかったからね」
    役得だったさ、とウインクをするオベロンにいつもならそういうのは冗談でも言うなと睨んだリツカだったが、今日は笑って「私も可愛い子の手を最初に取れて良かったよ」と笑った。口調もどことなくいつもより柔らかだ。
    「お酒を飲んでいたけど、大丈夫かい?」
    「大丈夫、少しだけだし…しかし夜風が気持ちいね…」
    「本当に大丈夫だろうね?」
    風が吹ゆいて二人の髪を揺らした時、ゴゥン…と鈍い音が響き始めた。城のカンパニーレから響く鐘の音である。リツカはそれまで目を垂れさせていたが、その音が耳に入ると、たちまち眉根を寄せた。
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    柿村こけら

    DONEポイピクが小説対応したらしいのでお試し
    生理痛しんどいマスターとオベロン(再掲) いきなり斬られても壁に投げ付けられても頭をぶん殴られても、なんなら胎を掻き混ぜられても立ち上がれるのにどうして生理痛には勝てないんでしょうか。人体の不思議だね。
     不思議だねって言うかただ単に戦闘時だとアドレナリンがドバドバ出てるから誤魔化せるけどこうして何もないノウム・カルデアの中だとそういうワケにもいかないので負けてしまうだけなんですが。
     そんなこんなで藤丸立香、本日生理痛でお休みをいただいています。連日ずっと酷かった痛みは最高潮に達し、縦になったら死ぬ横にならせろ横になったまま移動させろとワガママを言うも私はイシュタルみたいに浮けないので無理。ただの人間は移動するために縦にならざるを得ないのだ。仕方なく新所長に休みを申し入れ(ムム? いつもながらキミは大変だな、まあ人類最後のマスターに倒れられたら困るのでね。薬を飲んで休んでいたまえ!)医務室に向かい鎮痛剤を貰い(また月のものかマスター。ここまで来るともしや新たな症例が胎にあるのではないかという気がするぞ。ちょっと診させてくれないか?)サンソンがアスクレピオスを止めてくれている間に食堂に逃げ(温かいものを食べてから薬を飲むといいワン。フフ、ご主人は唐辛子マシマシトマトチリうどんを所望しているものと見た。え? 違う?)ご飯を食べて薬を飲んで現在マイルーム。……食堂から部屋までの記憶がおぼろげなんだけど、誰かが送ってくれたような気がする。後でお礼言わないと…………
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