最期のごちそう沈む夕陽は、ゆらめく火のように海面を輝せ、目を灼く。
せり出した崖、錆びついた看板が危険を呼びかける、柵を越えた草原、一寸先は遠く広い海。
「死ぬ時は道連れにしてやるよ。」
軽やかにふらつく足取りは今にも風に攫われそうだ
「好きだろ?俺のこと」
穏やかな笑顔は一層美しい。
「最後の晩餐……じゃねえけど、死ぬ時にきれいな顔拝みながら死ねるの、良いと思うな〜俺」
風に煽られた髪が西谷の顔を隠す。
「今まではさ、俺の顔見て死ぬやつって大抵苦しそうな顔してて、俺ってそう言う時大体笑っちゃってんだよ」
口元にまとわりつく髪の毛を払う。
「アンタが嫌いな顔」
ニタ、と下品な顔で笑う。
「でも、アンタが好きな顔なら、多分、みんな欲しがる顔なんだろうな」
笑みが緩やかに消える。真剣そうな顔はそのままポートレートにしてもいいくらいだ。
「俺が死ぬ話してんのかよ」
「ん?」
「お前が死ぬ話だろ」
話が逸れている、そう指摘するとそうそう!と笑った
「俺が死んだらアンタ、死ぬ時に俺の顔見れなくなるだろ?だから道連れにしてやるってコト」
どう言うコトだよ。鼻で笑う。
「お気遣いどーも」
帰るぞ。吹き荒ぶ風に掻き消されたかと思ったが、西谷は「ん」と無邪気そうな笑顔で、相変わらず軽やかな足取りでこちらにかけてくる。
脚が長いから一歩が長えな。駆け寄る西谷を見ながら背を向けて今まできた道を戻る。
「てかよかったのかよ、こんなとこ来て」
視界に西谷が入る。髪の毛が踊っている。
「お前がゲロ吐くとか言うからだろ、馬鹿が」
「はは、アレ冗談だったのに。」
また髪の毛が口に入るようでしきりに気にしている。
「……お前は俺の顔見ながら死ぬのはいいのかよ」
「あ?……確かに、ちょっと嫌だな」
ムカつく。つい顔を叩く
「ぶっ、はは、でもそうだな、アンタが幸せそうな顔してくれるならいいかも」
叩かれた顔をおさえて笑う。指の隙間から笑みが溢れている。
しねえよ、しねえ。