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    abicocco

    @abicocco

    『過去のを晒す』カテゴリにあるものはpixivにまとめを投稿済

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    abicocco

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    ※ノーマルEND後グリーゼにて同棲している交際中のレムラキ

    人の三大欲求のうち二つを持っていないラキの欲がどこにいったのかという話。行為本番はでてこないものの、かなり俗っぽいやりとりをしています。

    #レムラキ
    lemniscate

    2/3の欲 食欲・睡眠欲・性欲——これらは人間が生きていく上で欠かせない、最も重要な三大欲求として定義されている。
     それじゃあ、それらの理から外れ、食欲・性欲とは無縁の人生をこの国グリーゼで送ってきたラキオさんの欲は何をもって補われているのだろう?
     
     すぅすぅと小さな寝息をたてながら、すっかり熟睡している様子の隣の寝顔をぼうと眺めながら、僕は自分の中に突如湧いたその疑問と向き合っていた。ラキオさんと違って、眠りが浅く寝つきも悪い僕は、自分ひとりではすぐに答えが出せないような考え事をしながら、眠気が訪れるまで暗闇の中でじっと待つのが習慣となっていた。これでも、ラキオさんと一緒に眠るようになってからは、長い付き合いを続けてきた僕の不眠症も随分症状が軽くなったのだけれど。

     今夜の僕は『ラキオさんの持つ欲』を真夜中脳内会議の議題にあげることにした。本能的な欲求に囚われない生き方を選択し、いついかなる時も自身の理性と美意識を尊んできたこの人でも、唯一睡眠欲にだけは抗えないようで、今日も僕が持ち帰りの仕事を片付けてシャワーを浴びてから寝室の扉を開けたときには既に、定位置であるベッドの奥側でぐっすりと寝入っていた。とはいえ、別にラキオさんは寝汚いというわけではない。夜更かしをしたり、就寝時間が遅れることはD.Q.O.で出会った頃から変わらず苦手なようだけれど、良質な睡眠をとれているという証なのか、寝起きは誰よりも良いと言える。瞼が開いて数十秒以内にはベッドから起き出して、寝ぼけて変なことを口走るようなこともなく、テキパキと身支度を始めている。盛大な寝癖をつけたまま、往生際悪く時間ギリギリになるまで布団にしがみついている僕とは大違いだ。遅刻しても知らないからねと呆れ顔で苦言を呈しながらも、ようやっとなんとかベッドから抜け出した僕が顔を洗ってリビングに顔を出すと、眠気覚ましのコーヒーを淹れて待っていてくれるのだから、僕は未だに夢を見ているような心地でここでの朝を迎えている。

     本題に戻るが、ラキオさんの中に唯一残存している睡眠欲も、先述した通りごく一般的な程度の欲求で、そう強いものとは思えない。じゃあ、消えた2/3の欲求はどこにいったのだろう?
     既に午前2時過ぎを表示しているデジタル時計の光る文字盤をラキオさんの頭越しに見つめながら、あれも違う、これも違う……とまとまりのない仮説をたてては打ち消しを繰り返しているうちに、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。翌朝、やはり先に起きていたのはラキオさんの方で、今日も今日とて芸術的な仕上がりになっているらしい僕の髪を見て「変な頭!」と愉快そうにくしゃりと僕の頭をかきまぜたあと「ナイトキャップでも被ったら?」とありがたくもない助言を残していった。


     命に関わらない些細な疑問は、その大体が日常生活を送るうちに意識から外れ、記憶が薄れ、自分の中の膨大な情報や思考に埋もれて、あったことさえ忘れられていく。僕があの晩抱いた疑問もそのうちのひとつで、ラキオさん本人に確かめることもないまま、消えた2/3の欲求は行方不明という暫定的回答をもって、すっかり忘れ去られてしまった。
     僕がそのことを思い出したのは数か月後、これまたベッドの上でのことだった。前回と違うのは時刻がまだ日付が変わる前だということと、そのおかげでラキオさんがまだ起きていること。そして、僕たちはふたりとも衣服を身に着けていなかった。

    「君は加減というものを知らないの?」
    「やさしくしているつもりなんですけど……」
    「やさしければいいってものじゃないよ。君の愛撫はしつこくて、ねちこいンだ」

     つい先程まで酸素不足を訴えて顔を赤くしながらも、大した抵抗は見せずただなすがままに僕に組み敷かれていた身体は、すっかり温度をなくして平熱に戻っていた。身体を寄せるとまだ乾ききっていない汗で湿った互いの二の腕がしとりと張りつくのを感じる。行為を終えた後、ラキオさんが眠りにつくまでの間、こうして何をするでもなくくっついている時間が僕は好きだった。身体を重ねてひとつに溶け合った後だと、こうして触れ合わせているところから互いの境界線が消えてなくなってこのままずっと一緒にいられるような——そんな根拠のない希望で胸の内が満たされる。

     普段いかに論理的に相手を説き伏せるかばかり考えているような人でも、他の人間に身体を預けている間は自分のペースを保ち続けることは難しいようで、今僕への不満を訴えている雄弁なこの口も、つい先刻までは意味のない音を断続的に吐き出すのみに徹していた。逆に言えば、ラキオさんがおしゃべりでなくなるのは、寝ているときとセックスの最中とひとりで思索に耽っているときくらいなものだと思っている。僕はラキオさんの話を聞くのも声を聞くのも、嫌いではないから特に不満はないのだけれど、ラキオさんとふたり暮らしをしていることを話すとうるさくないのかと第三者から聞かれることも少なくないので、僕と同じ感想を持つ人は少ないのかもしれない。


    「ねちっこくて悪かったですね。それじゃあ次回はリクエストを受け付けましょうか? 貴方はどんなセックスをお望みで?」
     
     なかば開き直った僕が、うつぶせになって重ねた手の甲の上にぺたりと頬をくっつけて、こちらに顔を向けているラキオさんに言い返すと、じとりとした視線と共に呆れ混じりの声色で返答が返ってきた。

    「あのねぇ……。僕は君の生理的欲求に付き合っているに過ぎないンだよ。分かる? 性欲のない僕にどんなセックスを望むかなんて問い、愚問中の愚問だと君の頭でも分かりそうなものだけど」
    「それは当然分かっていますよ。ラキオさんが僕に合わせてくれていること、いつも感謝しています。でも、付き合いだろうとなんだろうと、貴方は既に当事者じゃないですか。いつまでも他人事でいられるのは困ります」

     もうとっくに両手では数え切れないほど、僕達は互いの裸を見てきたし、相手の内側に触れてきた。回数を重ねるうちに、汎であること、性欲がないこと、快感を得ることは同時に並存できるのだということも分かってきた。もちろん僕が過去に受けてきた扱いを反面教師としている部分もないとは言えないが、どちらかと言えば、相手が不必要としている行為だからこそ、少しの恐怖や痛みすらも与えないように、僕は余すところなくラキオさんの全身を愛でることにしている。結果的にそのことが『しつこくてねちこい』という評価に繋がってしまっているワケだけれど……。
     そんなラキオさん曰くしつこくてねちこい僕は、今やどこをどうすれば相手を気持ちよくしてあげられるのか、身体の持ち主であるラキオさん本人よりも詳しく把握している自信がある。でも、どうせなら、たまには相手の口からも直接希望を聞いてみたい。


     僕の言葉を聞いて、意外そうに目を瞬いたラキオさんはふぅん……と相槌とも言えないような声を溢した後、黙りこんでしまった。このまま寝てうやむやにされてしまうのだろうか。目を伏せていることでより一層存在が際立って見える長いまつ毛を眺めながら、僕が根気強く相手の反応を待っていると、ややあってまつ毛の下から青く透き通った瞳を再び覗かせたラキオさんは、その大きな目を細めてニコリとこんな言葉を言い放った。


    「君が限界になるところを見てみたい」
    「……? どういう意味ですか?」
    「君はいつも自分勝手に振舞っているように見えて、実のところ僕のことばかり気にかけているだろう。それも君が好きでやっていることだから君の欲と言えなくはないけれど、いつも与えてばかりの君が僕の方から刺激や快感を与えられたとき、どんな顔でどんな言葉を口にするのかこの身で体感してみたい」

     口元に笑みを浮かべ、つらつらと己の希望を語る彼の眼に宿る欲は、かつて僕が恐れた性欲でも征服欲でもなく、新たな論文材料を見つけた時と同じ『知識欲』に他ならなかった。


    「行為の半分……いや3/4以上の時間を一方的な前戯に費やして、自分の身体については二の次だった君が、僕自らの手で気持ちよくされるようなことがあったら一体どうなってしまうンだろうね? 一般的にペッティングは性行為の満足度を大きく向上させると言われているようだから君もさぞ夢中になるに違いないだろう。そうそう、君はいつも僕の耳殻や耳孔をやたら熱心に舐めまわすけれど、君の方こそ実は耳が弱いンじゃないの? いつも髪で隠しているというのはつまり弱点を人目から隠しているンじゃないのかい。違う? そういえば前に僕が君の髪があまりに鬱陶しくて、耳にかけてやったとき大げさに身体を震わせていたのは僕の仮説が……」

     先ほどまで纏っていた気怠げな事後の空気はどこへ消えてしまったのだろう。すっかり目が冴えた様子で熱弁を振るっているラキオさんのまだまだ続きそうな今後のセックスにまつわる希望……というかもはや僕自身の生態解析に移行しつつあるソレを聞き流しながら、消えた2/3の正体はコレだったのか、といつかの疑問の答えを見つけた気持ちで、苦笑いを浮かべた僕はつるりとした無防備な背中にタオルケットをそっとかけ直したのだった。
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    PAST※ノーマルEND軸革命後交際中のレムラキ
    レムが初めて酒で失敗した翌朝の話。
    それみたことか(だから、僕は止めたじゃないか)

     ラキオより二十分ほど遅れて目を覚ました隣の男は、呆けた顔でまだ眠気の抜けきらないとろりとした瞬きを何度か繰り返したのち、のそりと身体を起こした。覚醒したての彼が緩慢な動きで自分と、それからラキオの格好を見て、みるみるうちに顔を青く染めていく様を目にして……ラキオは小さく溜息を吐いた。

    「ら、ラキオさ……。あの、その、ぼ、僕、は」
    「……おはようレムナン。元気そうだね。見たところ二日酔いの症状も出ていないようでなによりだよ」

     
     ラキオの言う通り、レムナンの顔や体臭には昨晩あれだけ摂取したアルコールの気配は残されていなかった。彼の肝臓は働き者らしい。
     昨日の晩、珍しく……そう、本当に珍しく。レムナンとラキオは家で晩酌を楽しんだ。というのも先日外星系への調査のついでにグリーゼに立ち寄ったという沙明が置き土産として、彼が現在身を置いているというナダ産の飲食物をふたりの家にいくらか残していったのだ。グリーゼと違って未だ自然光で作物栽培が行われ、一次産業が国の経済をまわすのに一役買っていると聞くナダで作られたワインは、会食や社交場で提供されるような合成品とは違い、強く芳醇な葡萄の香りがした。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命中のレムラキ
    ※2023/12/14公開の🎃×ゲーム開発スタッフさんの対談動画のネタを含みます。
    飛んでかないように 国内トップのエスカレーター式教育機関の高等部。その中でも一握りの成績優秀者にだけ与えられた貴重な社会見学の機会。
     そういった名目でラキオとそのほか十数名の生徒がある日教師に連れてこられたのは、テラフォーミング計画で使用されているロケットの発射場だった。管理首輪で抵抗の意思すら奪われた、グリーゼから不要の烙印を押された国民たちがタラップを上り順に乗り込んでいくところを、生徒たちは管理塔の覗き窓から黙って見送る。彼らが着せられた何の装飾もない揃いの白い簡素な服がまるで死に装束のようで不気味だなと、過去文献で知った他星の葬儀の様子を思い出しながら、ラキオもその現実味に欠けた光景をどこか他人事のように眺めていた。今回打ち上げ対象として選定された人間の多くは肉塊市民だが、それ以外の階級の者も少数ながら混じっているらしい。国産の最新ロケット技術の素晴らしさや、各地で進行中のパラテラフォーミング計画の実現性について先程から熱心に概念伝達装置を通じて語りかけてくる職員の解説を適当に聞き流している中で、ラキオは小さく「あ」と声をあげた。覗き窓の向こう、だんだんと短くなっていくロケットまで伸びる列の後方部に見慣れた人物を見つけたからだ。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    友好関係が築かれつつあるふたり
    大停電の夜のこと 元は何の変哲もない夜だった。第四と五の区画を繋ぐ船間連結部の定期メンテナンスを概ね予定時刻通りに終わらせたレムナンは、使い込んでほどよくくたびれてきた革製の仕事鞄を肩に掛け、帰路についた。帰る先はカナン579メインドーム、シングル用深宇宙探査船に続き、彼にとって第三の家となって久しいグリーゼの管理下にある居住船の一角だ。レムナンは玄関からまっすぐ続くリビングのドアをくぐると同時に、既に学校から帰ってきているであろう同居人に向かって「ただいま」と帰宅の合図を出した。しかしながら、その人物の定位置であるソファの上に彼の期待していた姿は見当たらなかった。

    「あれ? ……あぁ、シャワー室か」

     オーバル型のローテーブルの上に置き去りにされたアームカバーを見て、レムナンはラキオの居場所にすぐに思い当たった。いつもより随分早いシャワータイムだななどと考えながら、少し目を細めて壁際の時計で今の時刻を確認する。たしか今日は校内で代替未来エネルギーについてのディベート大会があると昨晩話していたから、きっと侃侃諤諤の議論で蓄積した疲労や雑念を湯で洗い流しているのだろう。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    レムがグリーゼに来てからラキが革命を起こすまでに二人の間で発生したやりとりについての想像
    ブロカント「レムナン。作業ペースが通常時の八十パーセントまで落ちています。休息を取りますか?」

     今日は各船を繋ぐ自動走行路オートチューブの定期メンテナンスで地下へと潜る日だった。僕がこの国にやってきてから、そして擬知体を含む機械全般の整備士として働き始めてから、もう何度もこなしてきた仕事だ。それにも関わらず、いや、慣れている作業だからこそか、いつも僕の業務に同行してくれているサポート擬知体から集中力の欠如を指摘されてしまった。

    「いえ……。いや、そう、ですね。昼休憩にしましょうか」

     作業が丁度キリのいいところだったこともあり、彼女の提案に甘えることにした僕は工具箱を脇に避けて作業用のグローブを外すと、持ち込んだランチボックスからマッケンチーズをフォークでつついた。鮮温キープ機能のある優秀な容器のおかげで、チーズと胡椒をまとったマカロニとベーコンはフードプリンターから出てきたばかりの今朝と変わりない姿で湯気を立ちのぼらせている。食欲を刺激する濃厚なチーズのジャンクな香りは僕の好物に違いないのに、食事の手はなかなか進まなかった。
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