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    ruka

    @blaze23aka
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    ruka

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    ❄️オンリー展示作品
    🔥❄️ 🔥さん生存ifです。

    #煉猗窩

    夜明け前―――それは、湿度の高い夜。

    鍛錬中の猗窩座はあることに気がついた。


    もわっとした張り付くような空気に混じり感じた血の匂い。
    そして、聞こえた声。

    「ちっ…」

    間に合わない、とわかっているのに助けを求める女性の声に猗窩座は駆け出した。



    下級の鬼が、女性に乗り掛かり痛ぶるようにいくつも串刺しにしていっていた。
    直ぐには死なないように。


    「醜い」


    鬼になれたというのに、するのがこんなこととは。
    情けない。
    そして俺に全く気がつかないあたり、鬼狩りがくればすぐに消されるような鬼。
    そんな鬼、いる必要はないな。

    そう思い即断した猗窩座は静かに近付くと、指一つでその鬼の首を落とした。


    鬼は己に何が起きたかもわからぬうちに消えていく。


    ちらりと女を見た猗窩座は、助からないとわかった。
    せめて弔いくらいはしてやるか。
    と思い哀れみを込めた目で見やると、

    「あり……がとう、ございます。
     おね、がい……、あの子を、たすけ、て」
    「あの子?」

    途切れ途切れにその女性は猗窩座に伝えたのは
    この近くの農具置き場に赤子を隠してきたことだった。

    「おね、が…い、むす、めを……こゆき、を…たすけて……」

    ドクンっ!


    赤子の名前を聞いて、猗窩座は鈍器で殴られたかのような衝撃が身体に起きたのを感じた。
    わけのわからない衝動のまま、猗窩座は

    「わ……かった」

    と、答えていた。
    理由も何もかもわからないが、そうしなければならないと感じてしまった。


    「あり、がとう……、おな、まえ、を………」
    「………煉獄、だ」
    「れ、んごく、さま……ありがとう。
     こゆき、を、おね、がい……」


    母親は涙をこぼしながら微笑み……亡くなった。
    猗窩座は穴を掘り、女性を弔うようにすると直ぐに赤子の元へと走った。

    近くの小屋に置いてきたというその子は、泣き疲れたのかわからないが穏やかに眠っていた。

    まだ、産まれて半年もいってないだろうか。
    恐る恐る抱き上げるとその軽いのに不可思議な重みと温かさを感じた猗窩座。

    「こ、ゆ、き………」


    瞬間何かが脳裏を過ぎる、それを捕まえようとしたが……無理だった。


    とにかく、行かねばならないだろう。

    己が母親に騙ってしまった名前の男の元に。









    「杏寿郎」
    「猗窩座?」


    夜、自室で報告書を書き上げていた杏寿郎のところに静かに現れた鬼。
    気配を消して入ってきたから、千寿郎や槇寿郎には気がつかれてないようだったが
    杏寿郎は直ぐに自分の部屋へと招き入れた。


    そしてその腕にいる小さきものをみて、目を丸くしてしまう。

    「君、その子はどうしたんだ?」
    「………託された」
    「託された?」
    「死んだ、母親に」


    猗窩座の話を聞いた杏寿郎は、目の前にいるいつもとは違う猗窩座の様子にどうしたものかと考え始めた。


    「赤子のことは、わかった。
     俺が責任をもって対応しよう」
    「……、お前が育ててくれるのか?」
    「それは無理だな。
     まだ小さい赤子だ、俺の家では難しい。
     まずは蝶屋敷に連れて行こう」

    手紙を書くから、少し待っていてくれ。
    そう言いながら猗窩座を見やると、何故だが寂しそうに感じられた。

    「……この子を育てたいのか?」
    「…俺は鬼だぞ」

    だが猗窩座の瞳はずっとその赤子へと注がれていた。

    「赤子の名前は、こゆきというらしい」
    「そうか、愛らしい名前だな」
    「………その名を聞いた途端、頭を殴られたようだった」
    「それは………」




    キミノタイセツナヒトノナマエトデモイウノカ?



    鬼は元は人間だったという。
    それならばきっと、彼が覚えていない過去に

    『こゆき』

    という名前の女性が猗窩座の近くにいたのだろう。
    おそらく、特別な関係の相手として。


    家族か、それとも恋人か……
    とにかく、人だった頃の彼の大切な人なのだろう。


    そう思うだけで杏寿郎の胸はおかしな音を立てて軋んだ。見たこともない、想像にすぎない女性に嫉妬している己に気がつく。

    (渡さない、たとえ人だった頃の想い人が相手だとしても)

    目の前のこの鬼は、俺だけのものだ。



    杏寿郎はそう考えた刹那に苦笑する。
    鬼狩り、鬼殺隊士……ましてや、柱としてあるまじき考えであると自嘲するように。
    それを誤魔化すように、杏寿郎は言った。


    「こゆきを育てるか?俺と」
    「っ……」
    「胡蝶に話して、千寿郎にも話して了解を得られたらだがな」

    任務がある以上、煉獄家ならば弟の千寿郎に赤子の世話を手伝ってもらうことは必須だ。

    だが、その提案に猗窩座は首を横に振った。


    「いや、それではこの子は幸せにはなれない」
    「猗窩座?」
    「お前が信頼できる家へと預けてくれ。
     俺の近くにいてはダメだ。
     ……きっと、また守れない」

    発した言葉に驚いたのは猗窩座自身だった。

    「俺は、今、なんて……」

    混乱した様子の猗窩座の体を赤子に気をつけながら抱き寄せて

    「……君は、俺だけの鬼だ。
     今は、それで良いだろう?」

    そう囁いた。


    杏寿郎の言葉に、猗窩座はゆっくりと瞳を閉じた後こくんと頷いた。
    無くした記憶が、それを閉じ込めている扉がほんの少し開いたのかもしれない。
    だが今は閉じてくれと男は願った。


    (君が過去を、人としての記憶を思い出せば良いと思っていた。
     だが、今は……思い出してくれるなと願う俺がいる)


    情けない男だと笑ってくれ。
    相容れない関係だというのに、君という存在を無くしたくないという俺のことを。



    「……杏寿郎?」
    「っ…、ああ、すまん」

    猗窩座を抱きしめたまま黙ってしまっていた杏寿郎はそっと猗窩座から離れ、すぐにしのぶへの文をしたためた。
    そして要に蝶屋敷へと飛んでもらった。


    「夜明けが近いな、帰るか?」
    「……、ああ」

    こゆきを抱いたまま名残惜しそうな猗窩座。
    赤子も安心しているのか大人しく眠っていた。

    「鬼に言われても逆効果かもしれんが……、
     強く生きろ、こゆき」

    小さな額に猗窩座は口付けて、杏寿郎へとこゆきを手渡した。

    振動からか、温もりが違うからか
    杏寿郎の腕で目を開けて、猗窩座の方を見てこゆきは声を上げて泣き始めた。

    行かないでと訴えるように。

    「っ!」

    だが猗窩座はそれを振り切るように部屋を飛び出て、屋敷からもすぐに出て行ってしまった。

    そして、
    その声を聞きつけたのは千寿郎だった。


    「兄上っ!赤ちゃんの泣き声が聞こえ……、兄上?
     その子は?」
    「今、預けにきたんだ。
     ……鬼に母を殺されたようだと言っていた」

    猗窩座の話を誤魔化しつつ千寿郎へ話した杏寿郎。

    「預けに来られた方は?」
    「旅の途中の方でな、もう行ってしまった」
    「そうですか。
     きっとお優しい方なのでしょうね」
    「ああ、そうだな」

    弟の言葉に頷きながら杏寿郎は朝靄の空を見上げた。



    元来の君は、きっと優しい人だったのだろう。
    それは鬼となった今でも女性や子どもを襲わない、それどころか助けたことからも伺える。


    いつかは、その頸をとる相手。
    決着をつけねばならない相手。

    だが、



    「………今は、まだ…」


    君と共にいたいという持ってはならない願いを持ち続けていたいと願う。


    杏寿郎の腕の中では、泣くのをやめたこゆきが同じように空を見上げていた。












                  【了】
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