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    花子。

    @tyanposo_hanako
    絵や文を気分で楽しんでいます。

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    花子。

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    既刊『天使の愛の育てかた』の後日譚です。
    ティータイムのくだりの後は蛇足の超微エロです。蛇足です。清らかな愛で終わらせておきたい場合は見ないでください。蛇足です。
    本を最後まで読んでいないと何もわかりません。(完売済み、Web再録はまだ未定です)

    #ひよジュン♀
    #ひよジュン
    Hiyojun
    #女体化
    feminization

    天使の休日「それじゃあ、仕方がないから行ってくるけど……三時には帰れるはずだから、一緒にお茶をしようね」
    「っす。準備しときますよ。行ってらっしゃい、おひいさん」
    せっかくの休日だというのに、一人急ぎの仕事が入ってしまった日和を行ってらっしゃいのキスを交わして見送ったジュンは、片手で口元を覆い隠して赤く染った顔でウロウロと視線をさ迷わせる。
    少し前まで最下層に埋もれていた幼子だったのに、まさかこんな風に日和の婚約者になって、上層で穏やかな日々を送っているなんて誰が想像しただろう。身に余る幸せに、どうにかなってしまいそうだった。
    秘密がバレてしまったら、全ての罪と嘘を打ち明けてEdenから去らなければならないと思い込んでいた。
    ジュンの秘密と共に楽園にいられるタイムリミットを運んでくるはずだった母親からの手紙、せめてそれが届くまでは日和たちを騙してでも日和たちの傍で幸福に浸っていたくて、日和に怪しまれながらも頑なに嘘を貫き通そうとしていた。
    結局、その前に日和にうっかり縋ってしまったせいで自ら打ち明ける羽目になり、紆余曲折を経て今に至るわけだが。
    日和には与えられてばかりだ。しかし自分は日和に何かを返せているだろうか。不安になって、つい部屋の掃除に訪れたメイドにぽつりとこぼしてしまった。
    「何か、日頃の感謝の印っつうか……贈り物をしたいんですけどねぇ。最下層産まれ最下層育ちの私には、おひいさんが……上層の天使が喜ぶ物なんて見当もつきません。それに、働けるようになって給金が出るようになったとは言え、それだっておひいさんの満足する様なものを贈れる額じゃ……」
    仕事中にも関わらず真摯にジュンの話を聞いてくれているメイドは少し考えて、恐れながら、と前置きして口を開いた。
    「物じゃなくてもいいのではないでしょうか」
    「……というと」
    「ジュン様自身のことを教えてあげたらいいと思います。今までずっと明かすことのできなかった思い出話や、本当のあなたのことを」
    「思い出……あ、」
    そう言われて、ジュンはあることに思い至った。
    暗くてドロドロした傷だらけの過去だけれど、その中に残る暖かい思い出。
    「……あの、少し手伝ってもらえませんか。作りたいものがあるんです」



    「カスタードクリームってマジで自分で作れるんですねぇ〜……あぁ、こんな味でしたよ」
    ジュンは淡い色合いのクリームを小さじで掬いとってパクリと口に入れ、ふっとはにかんだ。
    かつて、誕生日や天界の祝日、何かいいことがあった特別な日にだけ母親が作ってくれたジュンの好物である苺を使ったフルーツサンド。固くて大味な手作りカスタードクリームと、少し酸っぱい苺。市販のホイップクリームを軽くトーストした食パンに挟んだら完成だ。
    上層では最下層で流通しているような粗悪品を手に入れる方が難しいため記憶よりもだいぶ美味しく出来上がっているが、舌の肥えている日和に出すならこの方がいいだろう。
    メイドに手伝ってもらいながら作ってみたものの、料理などした事がなかったからところどころクリームがはみ出して不格好、両手は切り傷や火傷だらけだ。
    日和は、喜んでくれるだろうか。不安と期待が半々に混じり合い、じっとしていられずにメイドと一緒に部屋でティーセットの支度をして待つこと数十分、仕事を終えた日和が予定通りの時間に帰宅してきた。待ってましたとばかりにジュンはガチャリと音を立てた扉へ向かって早足で歩み寄る。
    「ただいま〜ジュンくんっ!お出迎えありがとう!」
    「おかえりなさい。ちょうどお茶の用意が出来てますよ」
    「わぁっ、それはいい日和! そうだそうだ、お土産を買ってきたんだね、一緒に食べようね。ほら、街で話題の季節限定フルーツサンド!」
    「っ、」
    日和がじゃ〜ん!と掲げた白い箱を見てジュンは目を見開いた。それはジュンもよく知っている、日和が時折買ってくる貴族御用達老舗青果店きっての人気商品。季節替わりのフルーツは、確かこの時期は苺だったはずだ。
    「……あ、あぁ〜っ、これ美味いっすよねぇ。ありがとうございます」
    即座に返事ができたはずだ。今日の目的は高価な物を贈ることではない。けれど流石に、そんなものと並べて出すには気が引ける。今日のところは諦めてまた日を改めよう、どうにか日和の目を盗んで既に並べてしまっているいちごサンドと入れ替えよう、とジュンは一瞬のうちに頭をフル回転させる。
    しかし、そのほんのわずかな間を日和は見逃してはくれなかった
    「……ジュンくん?」
    「……はい?」
    「今、何か隠したね?」
    「……何の、ことだか」
    「ふぅん?」
    日和はジュンの肩越しに室内へ視線を向ける。ローテーブルに用意されたティーセットを見られるまえにジュンは慌てて日和の前に立ち塞がった。
    「お、おひいさん!先に手ぇ洗ってきてください……っ」
    「うん。でも荷物を置いちゃいたいしね」
    「私が運んどきますから、ほら、貸してくださ、」
    「っふふ、相変わらずきみは嘘が下手だね。その手、どうしたの? もしかして、何か作ってくれた?」
    「……う、」
    すっかり失念してしまっていたが、差し出した両手は絆創膏だらけである。そこまで言い当てられてしまっては仕方がない、観念してコクリと頷けば、どれどれ、と日和は室内に入っていく。
    テーブルに並べられた高級品と比べれば不格好ないちごサンドを見て全てを察し、これは明日の朝に食べようね、と買ってきたばかりのフルーツサンドの箱をメイドに預けて鼻歌交じりに手を洗いに向かった。



    「んもう、ジュンくんってば。気にすること無いのに」
    「だってさぁ……」
    戻ってきた日和は、先に席に着いていたジュンが未だにそわそわと居心地悪そうにしているのを見て肩をすくめる。
    「ぼく、お腹ペコペコだったんだよね。それじゃあさっそく、いただきます」
    日和がフルーツサンドに上品にかぶりついて咀嚼している間、いったいどんな感想が飛び出してくるかと想像するといたたまれなくなって、ジュンの口が勝手に弁明をするように開く。
    「……あ、あんたは一流シェフだのなんだのの料理で舌が肥えてるでしょうから、口に合わないかもしれませんけど……」
    「そんなことないね。美味しいよ、ジュンくん」
    「……良かったっす」
    ジュンも照れを隠すようにフルーツサンドにかぶりつくと、取り除き損ねた苺のヘタの切れ端が舌にペタリと貼り付いて、思わず眉をしかめる。ぺ、と指先でつまんで口から出してしまってから、お行儀が悪いだろうかとハッとする。
    日和の様子を恐る恐る伺うと、日和はお手本を見せるかのように口元をお上品にナプキンで拭う。汚れた面が内側になるよう丁寧に折りたたみ……そこにチラリと緑色の切れ端が見えてジュンは思わず両手で顔を覆い隠した。
    「そ、その!……上手く出来ませんでしたけど、私も、あんたに何か返したいって……ずっと思ってたんです。でも、あんたに満足して貰えるものがわからなくて……相談してみたら、今まで隠してきた私のこととか、思い出を共有したらいい……って」
    「うんうん、大正解だね。じゃあこれはジュンくんの思い出の品?」
    「はい。……お袋が、誕生日とか特別な日に作ってくれたんです。だからまぁ、特別な人に作るのもアリかなって……」
    ジュンはティーカップへ口をつけて喉を潤すと、姿勢を正して、世界を変えてくれた特別な人に向けてまっすぐな眼差しを向けた。
    「……いつも、感謝してます。私みたいなのを拾って隣に置いてくれて。私にできることがあったら何でもしたいって思ってますから。……ワガママは程々にしてほしいですけどね」
    「もう、一言多いのが気になるけど……嬉しいね」
    「今日もまだ時間ありますし、なんか無いっすか? してほしいこととか、したいこととか……」
    「随分張り切っちゃって、可愛いね。でもそんなに急には……、………………、」
    日和はふと、黙り込んで何か考え事をし始めた。日和にしては珍しく、ジュンの様子を伺って言おうかどうか迷っているようだった。
    ジュンは期待して思わず前のめりになり、日和の言葉を待つ。そのキラキラとした眼差しに根負けしたのか、日和はやはりらしくもなく静かな声でポツリと言葉を落とした。
    「……やりたいことなら、ひとつあるね」
    「! なんすか!?」
    「ぼくもね、きみが本来の姿に戻って、婚約者として過ごすようになってからずっと考えていたことがあって……」
    日和は言葉を一度区切って紅茶に口をつける。ティーカップを持つその手がわずかに震えていることに気が付いた。やがてカップをソーサーに置いた日和は小さく息を吐く。……まるで緊張しているようだ。常日頃から堂々としている日和がジュンにこんな姿を見せるのは珍しい。ジュンもつられて深呼吸をして、何を言われても落ち着いていられるように身構えた。
    そうしてようやく言葉にされた日和の望みは、ジュンにとって少し意外なものだった。
    「……そろそろきみと、もっと先に進みたい。だからジュンくん、今夜、きみを抱いてもいい?」
    「……え」
    日和はじっとジュンを見つめながら固唾を飲んで返事を待った。ジュンはしばらく黙り込んで……そして、ふっと困ったように笑った。
    「……なんだ、改まって言うから何かと思いましたよぉ」
    「ジュンくん……」
    「婚約者……でしょ、私たち」
    「……ありがとう」
    日和はほっと胸を撫で下ろすと、少し照れたようにはにかんだ。
    「それじゃあ今夜、約束だね」
    そっと指切りを交わして、まだたくさんあるフルーツサンドの一切れに手をつける。幸せそうに頬張る日和の笑顔にジュンもつられて笑みをこぼす。
    そんな、いつもより少しだけぎこちないティータイムは夕方まで続いた。



    「あがりました〜……あ、またなんかアロマ炊いてます? いい香りする……」
    「……おかえり。ふふ、良いでしょう? きみにも楽しんでもらえるように調合してもらったの。リラックス効果のある香りだね。気に入ったみたいで良かった」
    風呂からあがったジュンは、鼻をくすぐる柔らかな香りに目を細めた。アロマは日和の趣味で、その日の気分によって色々な香りを楽しんでいるのだが、正直なところジュンはそれほど興味が無い。甘すぎる香りは苦手なこともあるのだが、今ほのかに部屋を満たす香りは素直に心地よいと感じられた。花の香り……だろうか、アロマに疎いジュンには名前までは分からなかった。
    「……おいで」
    「はい」
    いつもよりも少し固い面持ちの日和が手招きしてジュンを呼び寄せる。部屋の灯りを消せば、互いの翼の光だけが二人を照らす。
    日和はジュンの長い髪に指をすき入れて、額にそっと口付けた。目蓋から鼻の頭、頬と順番にひとつずつ滑るようにキスを落とし、いよいよ唇に甘く吸い付く。
    何度も角度を変えてついばむように触れ合わせ、今まで踏み込まず大事に大事にとっておいた場所、薄く開いた唇のあわいに日和が舌を差し込もうとした、その時。
    「……ふっ、ふふ、あは」
    「……っ?」
    「なぁんすかもう、今日はいつにも増してスキンシップが激しいっすねぇ」
    「……え?」
    クスクスと笑いながら、ジュンは日和を抱き寄せてそのままベッドに横になった。日和のつむじに頬を寄せ、翼を絡ませ、落ち着きのいい場所を探している。
    「ほら、これがしたかったんでしょう?」
    ……確かに、ジュンの方から抱きしめてくれることは少ないためこれはこれで嬉しいのだが、そうではない、そうではないのだ。日和は慌てて身体を離すとジュンの上に乗り上げて覆いかぶさる。
    「……ちょ、ちょっと待ってジュンくん、もしかして照れ隠しのつもり?」
    「照れ隠しって……抱き合って寝るくらい、今更恥ずかしくなんかねぇですよ」
    「えっ?」
    「えっ?」
    もしや。頭に浮かんだひとつの可能性をまだ認めたくなかった日和は、持ち得る情報を全て使って悪あがきをした。
    「……いやいや。嘘だね。誤魔化されてなんかあげないね。恋人になったら一緒に寝るものだって知っていたよねきみ」
    「だから、いつも一緒に寝てますよね……?」
    「……で、でも、ただ一緒に寝るだけだなんて流石に思っていないでしょ?」
    「違うんですか?」
    「……」
    「……」
    キョトン。ジュンがあまりにも純粋という言葉を体現したような面持ちで日和を見つめるものだから、日和はすっかり脱力して、大人しくジュンの上から退散するとクッションのひとつに顔を埋めた。
    「……まさかその辺りの教育がゴッソリ抜け落ちているだなんて……いや……そうだよね……あんな姿だったんだもの……恋人なんてぼくが初めてだろうし、万が一にも外でそういう情報を得る機会なんて無いだろうね……でも……でも……っ、ぼくのこの行き場のない感情はいったいどうすればいいの……っ!?」
    「あ、あの……おひいさん……?」
    このままなんの知識も無い相手に一方的に欲をぶつけるわけにはいかない。けれど、ずっと待ち望んでいたことが叶うと思っていたのだ、流石にショックを隠せない。
    蹲ってブツブツと独り言をする日和の隣、まだ事態を飲み込めていないジュンが恐る恐る身を起こして、奇行に走り出した日和の背に手を添えながら顔を覗き込んだ。
    「わ、私……なんか間違えました……? ごめんなさい、最近は上手くやれてると思ってたから気付かなくて……上層の常識とズレてんなら教えてほしいです……」
    ジュンのか細い声にチラリと視線をやれば、瞳も不安に揺らいでいた。……すれ違ってしまってはいたが、ジュンだって日和を喜ばせられると意気込んでいたはずだ。今、何が日和を落胆させてしまったのかきちんと説明しなければきっと安心できないだろう。
    日和は意を決して起き上がると、ベッドの上で互いに姿勢を正して二人向かい合った。
    「……いや、これはきみが今までその情報から遠ざけられてきただけだろうから、知らなくても無理は無いね。あのね、ジュンくん。抱きたい、なんて抽象的な表現をしたから勘違いをさせてしまったんだけれど、………………セ……ってわかる……?」
    「なんて……? 聞こえなかったんすけど……」
    「……ぼくが今日したかったのはね、……愛し合う者同士が……互いにね、裸になって……身体を触り合ったりして、愛し合う行為のことを言ったんだね」
    「はぁ……でも、今さっき触りあってましたよね……? 裸じゃなかったですけど……」
    「……、……そうなんだけど」
    これは……明らかにピンときていない。きちんと教えてやることが日和の義務ではあるとはいえ、夜の営みを口に出して説明するなど一体何の拷問だろうか。日和は必死に頭を回転させて言葉を探した。
    「あれにはまだ続きがあってね。きみの……そこに……ぼくのね、……これを……」
    「あの……そことかこれって言われても……?」
    「……、…………女性だけにある大切なところにね、男性だけが持ってる大事なものをね、入れるの」
    「……入れる」
    「恋人同士だけがする触れ合いの意味もあるし……互いが望めば赤ちゃんを授かるね」
    「……」
    「……ちゃんと教えてあげるから……今日はやめておこうね」
    「えっ、」
    「えっ!?」
    まさかここでそんな意外そうな反応が返ってくるとは思わず、日和の声が裏返る。ジュンは「どうして」とでも言いたげな目で見つめてくるが、できない、だろう。誰がどう考えたって。
    「……あのね、ジュンくん、」
    「だ、だって私、あんたに喜んでほしくて……そりゃ、わかってなかったですけど、あんたの望みを叶えられると思ったのに……こ、このまま終わんのだけは、嫌です……っ」
    縋るように日和の手を握ったジュンから滲み出ているのは、失望への恐怖だ。……そんなに必死にならなくても、今日失敗したからといってジュンを嫌いになるなどあるはずないのに。
    「……しないん、ですか。教えてくれるんでしょ、だったら今がいいです。あんたが教えてくれたら、私……」
    「駄目。今日はしないね」
    「……、」
    「……その代わり! 少しだけ、いつもよりも深い触れ合いをしてもいい?」
    「……! は、はい!」
    とはいえ、ジュンの気持ちが嬉しくなかったかと言われれば断じて違う。折衷案を提案すれば、正に名誉挽回のチャンスというようにジュンの目がいきいきとし始める。
    「今から、きみの身体に触るね。全部きみに気持ちよくなってもらいたくてすることだけれど……嫌だと思ったら、言ってね」
    そう前置きして、まずはジュンを安心させるためにいつものように抱き合ってキスをする。何度か繰り返したあとペロリと唇を舐めとると、ジュンは初めて感じるぬるりとした感触に驚いてビクリと肩を震わせた。
    「怖がらなくていいね。……口、少し開けてくれる?」
    「は、ぃ…………んぅ!?」
    (……んだ、これ……っ!)
    日和はチロチロと舌を浅く差し入れして、時折ジュンの舌の先をくすぐった。巧みな舌使いで翻弄している間に両手はジュンの身体をまさぐり出し、ガウンの上から柔らかな胸にそっと手を添えてゆっくりと揉みしだく。
    (な……んで、そこ……さわっ……ええっ!?)
    恥ずかしいけれど、痛みや苦しさはない。ぎゅっと目を閉じてされるがままになっていると、ふいに日和の指が胸の先端を掠めて無意識にヒクッと息が詰まった。すると唇がわずかに離れて、ふ、日和が吐息を漏らす。
    おそるおそる瞼を開けてみれば、視界に飛び込んできたのは日和の真っ赤に紅潮した頬、薄暗いなかでもわかるギラついた瞳。うっそりと目を細めた日和に射貫かれて、ゾクゾクゾクッ、と何かが背筋を駆け抜ける。
    (……あ、)
    やがて片手が胸元から腰を滑って太ももへ。その奥の『気軽に他人に触らせてはならない』程度の認識はある場所へ向かおうとしていることを察し、ジュンは思わず日和の手首を掴んだ。
    「……ここまでにしようね」
    日和は静かに動きを止めて、ジュンから少し距離を取った。この調子では時間がかかりそうだが、無理やりに事を進めてジュンを怖がらせることは本意ではない。あくまで紳士的な態度を貫きながら、ベッドからおりて立ち上がる。
    ……たったこれだけの触れ合いでしっかりと兆し始めてしまったものを速やかにどうにかしなければならなかった。できれば、ジュンに勘づかれないうちに。
    「……ぼく、少し席を外すね。もし一緒に寝るのが不安だったら今日は寝室を分けてもいいけれど……どうする?」
    「え、な、なんで……嫌です、」
    「そう、じゃあ戻ってくるけれど、ジュンくんは寝てていいよ」
    「そ、それもですけど、そうじゃなくて……!」
    部屋を後にしようとした日和の背中に軽い衝撃、ジュンが翼の付け根に頭を擦り寄せるようにして後ろから抱きついている。行かないで、ぽつりとくぐもった呟きが聞こえてきて日和は天を仰いだ。
    「ご、ごめんなさい……結局あんたの期待に応えられなくて。……やっぱ幻滅、しましたか。おひいさん、ずっと顔、怖ぇし……」
    「違う、違うね。ただ眠る前にお手洗いに行きたいだけ……ほらジュンくん、いい子だから手を離して」
    「……嘘だ。さっき行ってたの知ってます」
    「……あぁもう、わかった、わかったね。正直に言うね。これの処理をしてくるだけだから」
    「これ……?処理……?」
    「このままだとぼく、眠れそうにないから」
    日和は苦笑して、潔く白状することにした。無知故に不安になってしまっているジュンにこれ以上嘘を重ねても、余計に不安を煽るだけだ。
    ようやくジュンが離れたので、くるりと振り返った日和は自身の中心を曖昧に指さす。脚のちょうど付け根のところ、わかりにくいが服越しに何かが緩く立ち上がり布地が盛り上がっているのを見てジュンはぱちりと瞬きをした。
    「……恥ずかしいからあんまり見ないでね。見るなら顔にしてほしいね」
    パッとジュンは顔を上げた。見るな、だなんて。何もかも自信に満ち溢れ、どこを見られても困らないなどと公言しているあの日和が。
    「あの……これは?」
    「きみが綺麗だったっていう証拠」
    「……っ?」
    「今はわからなくていいの! ぼくが全部教えてあげるから、他の誰にも聞いたらだめだからね」
    やはりポカンとしてしまっているジュンの頭をひと撫でして、今度こそ寝室を出た。



    目的を済ませた日和が寝室に戻ると、ジュンは大人しくシーツにくるまって日和を待っていた。日和を見るなり目を逸らし、小さな声でお帰りなさいと呟いた。
    「ただいまジュンくん! お待たせしてごめんね、さぁ抱き合って眠ろうねっ」
    「……わざと言ってます? 無知でどうもすんませんでしたねぇ〜っ」
    あえて茶化しながらシーツに潜り込んでみれば、ジュンはふいっと背中を向けてしまった。出ていく気は無いようだが、せっかく同じベッドで隣にいるというのに切ないものがある。
    「こぉら寂しいことしないで! こっちを向いてね! どうしたの、照れてる? それとも……拗ねちゃった?」
    そう問いかけるとジュンは丸くなって翼で身体を覆い隠してしまった。つんつん、と翼の付け根に指でちょっかいをかけると、身動ぎしながら少し距離をとってようやくこちらを振り向いた。ただ、顔だけは翼で覆ったままだけれど。
    「……どんな顔してりゃいいのかわかんねぇんですよ。冷静になって思い返してみりゃフルーツサンドは下手くそだわ、あんたの期待も空振りさせちまうわ、結局全部うまくいきませんでしたし? おまけに縋り付くみたいな真似しちまってすげぇ恥ずかしいっす」
    「うふふ、そう? まぁ確かに大成功!とは言えなかったかもしれないけど、ぼくは嬉しかったね。だから笑っていてほしいね」
    そろそろと羽根の隙間から顔を覗かせたジュンは口元をもにょっと歪ませる。笑っているつもりなのかもしれなかった。
    このなんだか愛しい生きものを無性に抱きしめたくなって、日和はがばりと腕を伸ばす。胸元に迎え入れて頬ずりすれば、ジュンも日和の胸に頭を預けて目を閉じた。
    「……次は上手くやります」
    「うんうん。その時にはもっと深いところまで……一緒にいこうね」
    「っ、もっと……?」
    「しないの?」
    「……まさか。もう怖気付いたりしません」
    「どうかね……深いキスだけで真っ赤になっちゃった子が」
    「ッ!」
    恥ずかしさが蘇ったのか腕の中で暴れだしたジュンを、日和は緩く抱きしめて抑え込むと、額やつむじにキスを贈って宥めた。まだまだ、道のりは長そうだ。
    「きみの初めてを貰えること……光栄に思うね。だから大切に、愛させて」
    「……」
    祈るように日和が囁く。ジュンは日和の胸に顔を埋めて、熱の集まった顔を隠した。
    もう一生分くらいの愛を貰っているのに、今日だってジュンかこれまで知らなかった愛をこれでもかと注がれたのに、まだ先があるという。
    日和には与えられてばかりだ。自分は日和に何かを返せているだろうかと不安だった。けれどジュンにも……ジュンだけが日和に与えられるものがあるらしい。
    計画は納得のいく出来にならなかったが、それがわかっただけで収穫はあったのではないだろうか。
    「……私も、光栄です。だから私の都合なんて待たずに、あんたはあんたの望むようにしたらいい。おひいさんにだったら何されたっていいって、本気で思ってるんですよ」
    「またそういうことを……」
    「言ったでしょう、感謝してるし……愛してるんです。おひいさん。だから……返しきれる気がしませんけど、私にもあんたを愛させてください」
    「ジュンくん……」
    自分をもっと大事にしてほしいけれど、ジュンの中で日和という存在がとても大きなものであること、一生懸命に日和を愛そうとしてくれていること。その事実が何よりも日和の翼を輝かせた。
    「……ほら、もう抱き合ってるし、いいでしょう! おやすみなさい!」
    「え、ちょっとジュンくん?」
    後から照れが襲ってきたのか、強引に話を切り上げてそのままジュンは動かなくなってしまった。日和が何度も揺さぶっても、頑なに無反応を貫いている。仕方がないので日和も力を抜いて目を閉じた。
    「……全くもう、相変わらず寝付きがいいんだから。……おやすみ、ジュンくん」
    こくん、と腕の中のジュンが小さく頷いた気がした。いや、きっと偶然だろう。ジュンは眠ってしまっているのだから……なんて。
    思いどおりにはいかなかったものの、ジュンからたっぷりの愛を貰えた良い休日だったので……ジュンの久方ぶりの狸寝入りも見逃してやることにしたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
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    Replies from the creator

    花子。

    MEMOひよジュンゲームブックの余談というか、書いた感想です。
    そんなに大した話ではないですが、こんなこと意識した〜とか、ここ気に入ってる〜とか、インスピレーション元の別作品や国などちょっとした話をまとめました。ふーんと思って頂ければ幸いです。
    とても読みづらいです。
    ゲームブック余談番号で書き進めています、行ったり戻ったりが激しいです
    ルート分岐図かpixivを見ながらでないと何言ってるかわからない不親切仕様です、すみません


    ・ゲームブックにした理由
    最初はゲームブックじゃなくて普通に一本道の、色んな国から国へ逃げていく話を書いてたのですが……けっこういろんな話を思いついて
    私どちらかというと、二人がなんらかの関係に至るまで、付き合うまでの過程が主食でして
    だからいろんな逃げるパターンを書くのが楽しくて筆が乗ってきたら、いろんな再会のパターンができてしまった
    再会って一回がいいじゃないですか。ひとつの物語の中では。また逃げて再会して〜を繰り返してもいいけど……
    あと、再会させたいという気持ちと、二度と会えなくてもお話として美味しいな……の気持ちがぶつかり、それも両立はできないので、じゃあいっそ分岐にするか!と
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    花子。

    MOURNINGタイトルとは裏腹に暗め。完結まで書いてませんが一応ハピエンのつもりです。
    両片想いひよジュン♀に酒の間違いで子供が出来てしまいジュンちゃんが逃げる話。子どもも出ます、オリジナルで名前も付けてます。途中からただのプロットになります。何でも許せる人のみどうぞ。
    一年くらい前からちまちま書いてたんですけど、地の文をつける気力がなくて完成するか謎なので……
    ひだまり家族ジュンくん、こっちにおいで。
    家の集まりだか何だかで珍しく酒が入って酔っぱらったおひいさんがマンションを訪ねてきたかと思えば、やや不機嫌そうな声で私を呼ぶ。おいでって……ここ、私の部屋なんすけど。まぁこういう時は下手に逆らわないに限る。
    相当飲まされたのか、ちょっとフラフラしてる。ミネラルウォーターのペットボトルだけ持って大人しくついて行くと、そこは寝室で。
    ああ、眠いんすかねぇなんて……何の危機感も抱かずにおひいさんの後に続いてのこのこ入る。扉を閉めて振り向いた瞬間、力強く腕を引かれてベッドに引きずり込まれた。ベコッと投げ出されたペットボトルが床かどっかに当たってへこむ音がする。服の上から胸のふくらみを撫でられて、何をされようとしているのか察した私は慌てて腕を振り回す。
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