「わしとて子供の頃くらいは好きな人がおったわい」
何故その話になったのか。途中から耳を傾け始めたルッチには分からなかった。
「手が届かんから、諦めた」
「なんだ諦めたのか」
「高嶺の花というやつでの」
ルッチは振り返り、肩越しにその会話を交わす男達を見る。
パウリーにそう笑って見せたカクは、いつもの笑顔そのものだった。
日中は光が燦々と降り注ぐウォーターセブンにも、夜が来る。
水路を流れる水の音だけが聞こえてくる、草木も眠る頃、カクの家を訪れる影がひとつあった。
その来訪者自体に、玄関の扉を開けたカクはさして驚きもせず慣れた様子で出迎える。
今日も何も成果が無く、ただの船大工として安穏と過ごした。
来訪者――ルッチは、穏やかで平和な日々を過ごすことを否とする時がある。極端に言えば、嫌がっている。そんな時は、同じくガレーラカンパニーに潜入したカクを手酷く抱くことがある。
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