ドンペンさんと俺 ドラマの撮影が、うまくいかなかった。
俺が号泣するシーンを1カットで撮らなければならなかったのだが、うまく泣けず、泣けても「その泣き方じゃない」とリテイクを繰り返され、そのまま目が腫れ顔がむくみ、後日撮り直しとなってしまったのだった。
非常に悔しく思う。まだ感情の繊細なコントロールが苦手だ。ただ泣けばいいのではない。俺はもうその段階にはいない。
はあ、と溜息をこぼしながら、いや、溜息をこぼしているところなんて誰かに見られてはいけない、と姿勢を正した。俺はアイドルだ、いつだって輝いていないと。
しかしどうにも沈んだ気分は晴れず、まっすぐ帰る気にはなれなかった。少し、遠回りをして帰ろう。俺は錦糸町で電車を降りる。曇り空は重たく、今にも雨が降ってきそうだった。
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