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    Shsyamo🐟

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    ❤️‍🩹💚
    素直になれない呪い返しにあう💚の話

    🧡💜の別軸
    https://poipiku.com/4852715/6594827.html

    いただいたお題主<お揚げ丸様>

    天邪鬼の嘘「ッくそ──」

    目の前の人型の呪いがこちらに向かって空気を響かせて叫ぶ。
    強い波動が光ノを襲う。
    砂埃をくらわないように腕でガードしながら、翼をはためかせ術式を発動させた。

    空間に現れた透明の箱が敵を囲み、そのまま圧縮して虚空へと消えた。


    「・・・はぁ」
    光ノは自覚する疲れにため息をつく。
    普段はほとんど表に出ない為、こうして表に出て呪術を使うとかなり疲労する。
    仕事の時も基本的には闇ノが行うのだか、この日は彼が仕事を終えてから24時間が経っていなかった。
    そこへどうしても人手が足りないので手伝って欲しいと連絡が来てしまい、闇ノに頼まれて仕事へと向かったのだった。


    「闇ノ。終わりましたよ。」
    中に眠る彼に声をかける。
    しかし、いつものへらへらとした声が返ってこない。
    「・・・闇ノ?」
    何度か精神に呼びかけてみるが、返事がない。

    一応そこにいる感覚はあるのだが。
    意思疎通もできず、精神を入れ替えることができない。

    「もしかして・・・」
    さっきの呪物の攻撃の反動だろうか。

    たまにあるのだ、呪い返しという厄介事が。
    大概は一日もあれば治るのだが。


    「どうしたものでしょうか。」
    今日はこのまま闇ノの愛する人がいる家に帰る予定だった。
    彼も自分のことは理解してはくれているが、できるだけそのままのシュウの側に居てほしいという光ノの勝手な思いから、会うのは最小限に抑えていた。

    まぁ仕方ない。
    呪いが解けたらすぐに闇ノが会えるように今日は彼の家に帰りましょう。

    光ノは返ってこない声に少し寂しさを覚えながら帰路についた。



    ピンポーン
    ガチャ
    「シュウ、おかえり!なんでインターホンなんて・・・あ」
    「こんばんは、ミスタ。すみません、諸事情があって、私がおじゃましてもよろしいでしょうか。」

    家の主、ミスタはこちらに気づくと少し眉をひそめる。
    やはり迷惑だったかもしれない。

    しゅん、と肩を落とす光ノ。
    「ま、待って!そんな悲しい顔しないで。ちょっと驚いただけだから。さぁ、上がって。」
    ミスタは光ノの手をとって、部屋の中へと連れ込んだ。

    「えっーと・・・」
    普段光ノと話しなれてないミスタは、何を言えばいいのか言葉に迷う。
    「あの・・・。」
    「えっ、あ、ハイ」
    急に話しかけられてミスタの肩がビクッと跳ねる。

    「今日の仕事で、呪い返しにあったようです。闇ノとコンタクトが取れず、入れ替わることもできません。そのうち解けると思うので、闇ノの部屋にいてもいいでしょうか。」

    目の前の光ノは淡々と話す。

    彼はシュウとは違って少しお堅いイメージがあり、論理的に物事を考える光ノの感情を読み取るのが苦手だった。

    光ノも居心地が悪いのか、一度もこちらの目を見ることはしない。

    シュウもたまに呪いをくらって帰ってくることがあり、その度に面倒を見ているので光ノの説明には納得する。
    流石にリビングに居てもらったところで自分も彼に何か失礼をしてしまっても困るので、その提案に素直にのることにした。

    「わ、わかった。無理すんなよ。なんかあったら呼んでいいからな」
    「はい、ありがとうございます。」

    闇ノはミスタに愛されているなぁ。
    そう思った瞬間、ドクリと心臓が強く跳ねた。

    「っ・・・?!」
    何か呪いが発動したのだろうか、しかし身体に特に変化はない。
    まぁ部屋で静かに休むとしよう。
    光ノはミスタの家にある闇ノの自室へと足を運んだ。


    「───・・・。」
    いつもはシュウの中で眠っていることの方が多い光ノ。
    母体の中にいるような感覚で、闇ノが話していたり、動いたりする雑音を無意識に耳にしながら眠っているので、こう静かなことはなかなかない。
    不安と寂しさが積もる。

    ころん、とベッドに転がり無心で窓の外を見つめていると、コンコン、と扉が叩かれた。

    「・・・光ノ?よかったら、マフィン持ってきたんだけど、食べる?」

    ─あ、はい、ありがとうございます─
    「いえ、結構です」

    ・・・あれ?

    「そ、そっか。ごめん、じゃあ。」

    ん?
    視界にハテナが浮かぶ。
    自分は、何と言おうとして、何と言葉を発したのか。
    また、ぎゅっと胸が痛くなる。
    闇ノの声は聞こえないが、なんだか責められた気がした。

    ミスタに声をかけられてから数分後。
    今度は扉が叩かれることなく開いた。

    「おい」

    目の前に現れたのはこの家の主で。
    しかし、前髪をカチューシャでかき上げ、目元はサングラスで隠されている。

    「リ、アス」
    彼もまた、本体とは別人格の類である。
    そして、自分の想い人でもあった。

    「腹へってねーのか」
    リアスの手にはマフィンが握られている。
    先ほどミスタがくれようとしていたものだろう。

    自分の理解できない発言のせいで申し訳ないことをしたな、と少ししょんぼりしながら、リアスからマフィンを受け取ろうとする。

    「だから、いらないって言ってるじゃないですかしつこいですね」

    まただ。
    口から、思ってもいないことがポロポロ零れる。

    はっとしてリアスを見上げると、額に青筋を作っている。
    殺気を感じてベッドのシーツをぎゅっと掴む。

    「何だよその言い方。」

    ─すみません、そんなつもりはなかったのですが─
    「別に貴方には関係ないです。放っておいてください」
    「ッチ─お前はいつもそうだな、もっと素直になれば可愛いのに」
    リアスはあからさまに聞こえるように舌打ちをして部屋を出ていく。

    また静寂に包まれる部屋。

    ぽろぽろ、と静かに溢れる涙。

    きっとこれは、呪い返しだと、冷静な自分はわかっているのだが。
    それでも普段素直になれない自分がいるのも事実で。
    いつも彼の優しさに甘えて、素直じゃない言葉ばかりこぼしてしまう。

    それが、今は。
    正直な気持ちを伝えても、彼には届かない。

    部屋の本棚の上にぽつんと置き忘れられたマフィンに目をやる。
    ミスタも、リアスも、自分の為に持ってきてくれたのに。
    そっとベッドから立ち上がるとマフィンに手を出す。

    シュウの好きなコーヒー味。
    呪いがかかっていてもお腹の虫は正直のままで、涙で少ししょっぱくなったマフィンは光ノの腹を満たした。


    どれほど経っただろう。
    空が暗くなってきた。
    何度か闇ノに話しかけてみるがまだ彼には声が届かないらしい。

    ─寂しい─
    「ふふ、誰もいなくて清々しますね・・・」

    ぽつりと溢れた自分の呟きが耳にはいる。
    その醜い言葉に思わず耳を塞ぐ。

    「っ・・・ぐすっ・・・ひぐっ・・・」
    消えてしまいたくなるほどに、光ノは憔悴してしまった。
    自分のそばに、誰もいない。
    今まで闇ノと一心同体で繋がってきた光ノは、これ以上の孤独に耐えられなかった。

    瞳から光が消え、暗闇が彼を包む。
    そっと鋭く尖った爪を自身の首へと近づけた。
    もっと、彼にも、本心を伝えておけばよかったかな。

    「─リアス・・・」
    「なに?」
    「っ?!?!」

    返ってくると思っていなかった声に、びくりと身体が跳ねた。
    いつの間に部屋に入ってきていたのだろうか。

    「・・・なんで、ここにいるんですか。」
    「は、俺がいちゃダメなわけ」
    「一人にしてくださいって言ってるじゃないですか。さっさと出ていってください」
    「あっそ。」
    そう言いながらこちらに近づいてくるリアス。

    ギシ、とベッドの隣に腰掛けてくる。

    「来ないで、ください」
    「抱きしめていい?」
    「いいわけ、ないでしょ・・・」

    そっとリアスの腕が光ノを包みこむ。

    「離してっ・・・ください・・・」
    「っはは!こんなにきつく抱きしめられてちゃ離せねえなぁ。」

    言葉とは反対に、光ノの腕は、リアスを強く抱きしめていた。
    その身体はカタカタと震えている。


    「マフィン食ったの?腹減ってた?」
    「・・・食べてないです。捨てました」

    「一人で寂しかった?」
    「別に、一人の方が気が楽なので。」

    涙と鼻水と共に、嘘に固められた言葉がポロポロと口から紡がれる。
    「はぁ・・・」
    リアスは軽くため息を吐くと、抱きついて離さない光ノの身体を無理やり剥がす。

    「う゛ぅー・・・っ─」
    そのため息に、愛想をつかされてしまったかと思い、光ノは耐えきれず嗚咽をこぼす。

    「お前ねぇ・・・はい、俺の目、見て。」
    リアスはサングラスをずらし、光ノの頬を両手で掴むと、グイッと顔を近づける。

    光ノは涙で視界が歪んでうまく彼の顔が見えない。
    親指でぐいっと瞼を撫でられ、瞳から溜まった涙が拭われる。

    クリアになった視界で、リアスの瞳を見つめる。
    涙と鼻水でぐしょぐしょになりながら、貴方が愛おしいと言わんばかりの表情をする自分が彼の瞳の中にあった。

    「見えた?自分の顔。俺はどんだけお前のその顔見てきたと思ってんの。いっつも毒ばっか吐いてっけど、知ってる?そんなたまらん顔されて毒吐かれても、痛くねぇの」
    こつん、とおでこがくっつく。

    「最初は俺もムカついて怒ってごめん。でもなんかいつもと雰囲気違ぇと思って見にきたらお前泣いてるし。どうせなんか呪いとかかかったんだろ?」
    また、光ノの瞳からポロポロと涙が溢れだす。

    「お前が素直になれないことなんて、とっくに分かってんだよバカ。だから、もう泣くな。大丈夫だから。」
    耐えきれずリアスの手を振り払って、ぎゅ、と首元に抱きつく。
    ずびずびと鼻を啜る音がリアスの耳元に響く。

    よしよし、と光ノの頭を撫でるリアス。


    黙って抱きしめあったまましばらくすると、光ノは落ち着いてきたのか、涙が枯れる。
    少しクリアになった思考で、今の状況を理解した光ノは急に恥ずかしくなる。

    「っ・・・」
    ガバッとリアスの胸から起き上がる光ノ。

    「・・・・・・。」
    静かにこちらを見つめるリアスにぼぼぼと顔が赤くなるのを感じる。

    「こ、こっち見ないでください・・・・・・あ」
    あまりにもずっと見つめられるもので、ふと顔を逸らしいつもの照れ隠しが口から漏れる。
    しかし、先ほどまでのやり取りを思い出し、また悪態をついてしまった、と顔を青くする。

    「ふ、はっ!顔赤くしたり青くしたり忙しいな」
    リアスは声を出して笑う。
    「・・・・・・。」
    わかっていてもこれ以上彼に悪態をつくのが嫌で、ぎゅっと唇を噛み締める。

    「こーら、唇噛むな。別にいつものことだろ、さっきも言ったけど、ちゃんと分かってるから」
    彼の親指がぐっと光ノの唇を開く。
    薄く開いたその唇に、リアスのそれが静かに重ねられた。

    優しいキス。
    いつも、気づかないふりをしていた、彼の愛情を全身で受け止める。

    ちゅ、とリップ音を鳴らして唇が離れる。
    交わる視線。

    「─・・・好きです、リアス」

    ぽつりと零れる言葉。
    ・・・あれ?

    「・・・・・・それって、呪いまだかかってる?」
    リアスが苦笑いをする。

    「え、あ・・・か、かってるかも?」
    「それだったら傷つくけど」
    「うそ、うそです。もう治りました」
    「ははっ。わかってるよ・・・でももっかい聞きたいかも。」

    「・・・す、きです。リアスが好き。」
    「ありがと、俺もシュウが好き」

    ふたりで、ベッドに沈み込んだ。


    ─素直になれて、よかったね─
    遠くの方で、闇ノの声が聞こえた。

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