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    とみポイピク

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    とみポイピク

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    カイルとマイク成長if(フラトリ)
    先輩たちは名前しか出てこない

    迷惑な友人放課後、カイルの姿が見えなかったのでしばらく探していると、理科準備室から聞き覚えのある声がした。窓から覗き見れば、ブロンドヘアを肩まで伸ばした同級生、サミュエルが、カイルと向かい合って話していた。手狭な準備室には二人しかおらず、サミュエルはカイに緩く握られた左手の指をしきりに気にしていた。別になんてことのない仕草だ。カイは誰に対してもああいうふうに振る舞った。
    「カイル…」
    「うん?あっ、ごめん!おればっかり話しすぎだったよね。今度はサムの話を聞かせてよ」
    「ううん…もっと聞きたい。話して、カイル」
    伏し目がちなサミュエルのグレーの瞳は、長いまつ毛に縁取られている。いかにも育ちの良さそうな美人顔だ。少々陰気臭いが。陰がある美少年だとか言って、卒業した先輩たちからもサミュエルは人気だった。低学年の頃はカイが一番可愛がられていたけど、今は上背があるからか、最終的にはサミュエルの人気の方が高かった。あと、一部にはやたら育ちを気にする人達もいたし。
    「あ、そう?じゃあ…」
    素直に頷いたカイは、言われるままに話を続けた。カイルは飼い犬の話と、家族の話と、最近あった面白いことなんかを話した。自分の名前が出てくる度に、俺は廊下で頭を抱えたが、エピソードトークに彩りを添えていたのは俺だけでは無い。カイにはお気に入りの友達がたくさんいるのだ。
    だけど、サミュエルの表情はだんだんと曇っていった。耳まで赤くなったり、かと思えば青ざめたりしながら俯いている。そして突然顔を上げると、震えながらカイルを睨んだ。
    「き…君は…なんてひどい人なんだ…!」
    「えっ、どうしたの?サミュエル、待って…あっ」
    カイルの制止もむなしく、サミュエルは廊下へ出て走り去っていった。追いかける気は無いらしい。もっと本気で止めてやれよと思う。サミュエルは絶対止めて欲しかっただろうに。しかも、サミュエルは去り際に俺の姿をみとめると、「マイケル・ガルシア…!」と小さく悲鳴をあげ、恐ろしい形相でひと睨みしてきた。なんてやつだ!もう二度と食堂であいつの近くには座らない。絶対にだ。

    準備室に残されたカイは、眉を下げて呑気にケツを掻いている。
    「困ったなあ…どうしていつもこうなっちゃうんだろ。さっきまでニコニコしてたのになぁ」
    「またかよ、この人たらしめ」
    「マイク!見てたんなら助けてよ」
    窓から顔を出すとカイルに非難された。助けて欲しいのはこっちだ!顔を顰めて大声で応じる。
    「誰がわざわざ口出しするか!俺を痴話喧嘩に巻き込むなよ。そうでなくても迷惑かけられてんだ」
    「そういうのじゃないよ!ただサムがちょっと、何か勘違いをしてただけだ」
    「はぁ、これだから」と大げさに溜息をついてみせたあと、俺はカイルを自室へ引っ張っていった。明日から、選択授業のあとにわざわざこいつと一緒に寮に帰るのはやめた方がいいのかもしれない。せっかく別の授業を受けているんだから、ありがたく平和な時間を享受すべきだ。

    付き合いの長い俺の部屋だからか、カイルは一切の遠慮なくベッドへ腰掛ける。寮長になってまた一人部屋に戻ったカイは、親友様の部屋を第二の自室か何かだと思っているらしい。俺にも同室のクラスメートがいるってことを、こいつは分かってないのかもしれない。
    勝手にキャンディ(寮弟への駄賃として置いてあったものだ!)をひとつ口に放ったカイに、俺は神妙なトーンで切り出した。
    「カイ、お前は自分が人に好かれやすいことに無自覚すぎる」
    「そんなことないよ。プライマリースクールの頃から何となくわかってたし」
    カイはすまし顔で答える。腹の立つ表情だ。
    「その頃からやり口が何にも変わってないのがマズイんだろ!」
    「ええ…」
    「あのなぁ、手を握ったりハグをしたり、好きだよとかなんとか言ったりすんのも、そりゃ子どもなら良い子だなー、友達になりたいなーで済むぜ?でも育ちきってからも同じようにしてたんじゃ、そりゃ勘違いするやつもいるだろ」
    おまけに、うちみたいな寄宿学校には坊ちゃん育ちのやつが多い。俺やカイのするような、遠慮がなく子供じみたスキンシップには縁のない者も少なくないはずだ。そのことが余計に勘違いやトラブルを助長している。
    「そうかなぁ」
    「そうだよ!お前本当にいつか刺されるぞ」
    「なんでだよ、大袈裟だな。みんなただの友達だよ?」
    うおお…、と思わず呻いて、頭を掻き毟った。
    誰かこの能天気なバカを一発殴ってくれないかなと思いながら、カイに向き合い直す。
    「だからっ、お前の態度のせいでみんな自分はただの友達だなんて思えなくなってんの!」
    「なんで?」
    「だーかーら、お前が誰にでもこういう風にするからだろ!」
    するりとカイルの手の甲を撫で、指同士を絡める。ぞわぞわと薄ら寒い感覚と、吹き出しそうになるおかしさがあったが、どうにか耐える。サミュエルや他の奴らは、よくこんなのでうっとりできるものだ。追い討ちをかけるようにじっと目を見つめたが、カイルはきょとんとした表情でされるがままにしている。全くピンと来ていないらしい。
    「これくらい普通だろ?おれはなんとも思わないよ。ちょっとくすぐったいけど」
    「みんながみんなお前と同じだと思うなよ。じゃあお前は、こういうの女子にもすんのかよ?」
    「ええっ、それは流石にしないよ!失礼だろ」
    「その感覚があるなら男にもやるな!ガキじゃねえんだから分別つけろよ!」
    「18歳だろ?子供だよ」
    「最高学年だろ!屁理屈言うな!」
    まるで腑に落ちないらしい。カイは不満そうな顔で立ち上がり、勝手に紅茶の準備をし始めた。この話が長くなることを察したらしい。よく分かってるじゃないか。
    「俺、砂糖だけな」
    「わかってるよ!」
    茶葉を蒸らし始めたところでカイはベッドサイドに戻ってきた。俺も同室の友人も面倒で普段はティーバッグしか使わないが、ガネパイ…ガネル先輩やテイラー先輩から美味しい紅茶の淹れ方を教わったというカイは、いつも茶葉から淹れている。この部屋ではカイが来た時しか飲めない本格派だ。せっかくだから、あとで同室の分も淹れさせよう。滞在費ということで。
    「あとお前さ、むやみやたらに俺の名前出したりすんなよ。俺は絶対面倒に巻き込まれたくないからな。適当に兄貴の名前でも出しとけ!それか卒業した先輩とか!わかったか?!」
    「わかったよ!うるさいなー」
    鬱陶しそうに顔を顰めるこいつに、さっきのサミュエルの悪魔じみた形相を見せてやりたい。
    「はぁ、クソ…先輩たちが居ればな…」
    「言っとくけど、ここに兄貴が居たとして別になんにもしないからな」
    「んなことわかってるわ!お前の兄ちゃんにそんな期待はしてねーよ!最初のマスターのウォード先輩とか…テイラー先輩とかのことを言ってんの!」
    「先輩たちに友人関係なんかで迷惑かけらんないよ!」
    「だったら俺にもかけるな!!」
    「いいじゃん、多少は我慢してよ!大したことじゃないだろ?そもそも、マイクは誰のおかげで一度も留年せずに済んだんだっけ?!」
    「あーハイハイ、カイが勉強付き合ってくれたおかげでした!だけどそれとこれとは別の問題だ!話を逸らすな!」
    こちらが大声を出せば、向こうもヒートアップしてくる。カイは結構負けず嫌いで、一度勢い付くとそこそこうるさい。
    「昔のマイクはもっと優しかった!」
    「昔のカイはもっと思慮深かった!」
    「今のおれが問題あるみたいな言い方やめてよ!」
    「実際問題はあるだろ。お前の周りだけやたらと人物相関図が複雑なんだよ!」
    「本当におれのせい?!」
    「少なくとも半分はお前に責任がある。アシャー、テディ、ノア、レオ、チャーリー、ジャクソン、カーター、ローリー、サミュエル!!」
    「何だよ、急に」
    「お前のせいで様子がおかしい同級生だ!」
    「サミュエルたちは寮が違う」
    「関係ないね!どのみち俺は迷惑してる。こないだなんか授業中、カーターにしつこくお前のことを訊かれて俺まで先生に叱られたしな!」
    しかも、普段から真面目な優等生で通っているカーターは軽い注意程度で終わったのに、俺は散々絞られた挙句に前回の試験の点数についてまでグチグチと言及されたのだ。今思い返してもクソすぎる。
    「えー…それはまあ、気の毒だけどさ。文句ならカーターに言えよ」
    「言ったよ!そしたらあいつなんて言ったと思う?『きみが余計に叱られたのは普段の粗忽な振る舞いのせいだよ。僕のせいにしないで。カイルは優しいから君みたいな落ちこぼれにも付き合ってるけど…』とかなんとか…!長すぎて途中から聞いてなかったが、とにかくバカにされてムカついたんだよ!」
    「うわ、ひどい言い方…。カーターも何かあるならおれに直接訊けばいいのに」
    「じゃあ本人にそう言ってくれ」
    「そうするよ」
    カイは何か言いたげに自分の首を触りながら俺の様子を伺った。「あー…」
    「なんだよ」
    「紅茶注いできていい?もう4分過ぎそう」
    「好きにしろ!アホ!」
    「怒るなよ。ちゃんと悪いと思ってるんだから。マイクにはいつも助けられてるし、親友だろ?」
    柔い微笑みを浮かべてカイは俺の頭を抱いた。カイは仕草が幼いので、こういう触れ合いも他意はないんだとわかりやすかった。本来は。そして何を思ったか、つむじにふざけてキスを落とされる。
    「うわ!誰にでもこういうのやるんだよなぁ。お前ってやつは…」
    「美味しい紅茶を淹れるから、許してよ」
    カイはイタズラを終えた犬のような間抜けな笑顔を見せてティーカップを揺らした。ベルガモットの爽やかな香りがする。今日はアールグレイを選んだらしい。
    「あと…誰にでもはしないよ。親友は多くないし」
    「親友って普通ひとりじゃねえの」
    「別にルールはないだろ」
    差し出されたティカップには綺麗な琥珀色の水面が揺れていた。温められたカップと適温で入れられた紅茶が、一口で体を温める。相変わらず美味い。
    「ハイハイ、まあお前の自由だよ。まったく…俺がさっき言ったやつらの誰かだったら今すぐお前をぶん殴ってるぞ」
    「え〜、なんでだよ」
    「マジかよ、まだわかんねぇのかよ」
    「うーん。おれはみんなと仲良くしてたいだけなんだよ、ほんとに」
    「どうだかな」
    「ちょっと、信じてよ」
    肩をぶつけてながらカイは笑った。
    「みんなに無関心でいるより、みんなと仲良くいようとする方が簡単だろ?だって周りの人のことってどうしても気になるし」
    「そりゃ人によるだろ」
    「まあ…うん、それもそっか」
    苦笑いをしながら思い浮かべているのは、十中八九実兄のことだろう。
    「…もうさ、お前の友達を兄貴に分けてやれば?余ってんじゃん」
    「ちょっと!兄貴ちゃんと友達いるから!あとモノみたいに言うな!」
    「へぇ」
    「ていうか、別に友達がいてもいなくても兄貴は兄貴だし…って、おれも最近は思えるようになったから。おれは友達がいた方が楽しいけど、兄貴にとっては別にマストじゃないんだ。だからおれはもう兄貴の交友関係とか、口出ししたくないなって思ってる」
    「ふうん、精神的成長だな」
    「まあね。あっ、焼き菓子あるんじゃん!」
    サイドチェストから目ざとく茶菓子を見つけたカイは、俺に断りを入れる前に二つに割った。
    「おい!せめて断れ!」
    「あえ?ああ、おえん…。ん!」さっさと頬張りだしやがった。悪びれる様子はなく、割った菓子の片方を俺に差し出す。
    「ん、じゃねえよ…」
    「良いじゃん、マイク甘いのそんなに好きじゃないんだし。ほら、アールグレイに合うよ」
    「うっせ!」


    「…あーあ、みんなこんなやつのどこが良いんだか!」
    天井を仰いで嘆けば、横で「顔かなあ」と宣うので頬を抓ってやった。
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