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    さくらい

    @kirakadokira

    既刊の書き下ろしとかXに載せたけど消した話とか短歌のまとめ

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    さくらい

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    蛍🔥/こいさや
    バレンタインのこいさや現パロ。手直ししました。

    #蛍火艶夜

    俺に甘いひと「仕方ない、たまには作ってやるか」

     いつもは高級菓子店のハイセンスで洒落たものを小池にやっているのだが(俺が食べたいのもある)今年のバレンタインは手作りのものを渡してやることにした。そうと決まればと張り切って臨んだ俺だったが、何をどうしてこうなったものか。

     粉まみれで散らかったキッチン、破裂したチョコレートが四方に飛び散り中が汚れた電子レンジ。それらの惨状を前に泡立て器を握りしめたまましばらく固まっていた。チョコじゃなく俺が固まってどうする! と、誰もツッコミを入れてくれないので自分で入れてみたが、虚しい。泉水か連城に助けを求めよう、おろおろと散らかった材料に埋もれたスマホを探し当て粉まみれの指で画面をタップしたその時だった。
    「ただいまー」
     無情にも小池が帰ってきてしまった。
    「ああ、早かったな」
     いつも通り、何事もなかったかのようにケロッとした顔で一応廊下の途中まで迎えに出てやる。黒いトレーナーを白い粉まみれにした俺の姿が目に入っているはずなのに小池は何も言わない。なんでだ、気づかないのか? この俺の孤軍奮闘に。こんなにお前のために身を粉にして(この粉は俺から出たものではないが)頑張っているというのに。そういやこいつ俺が新しい服を着ていてもいちいち言わないとわからないみたいだし、わざわざ見えるところに置いたプレゼントにもこっちから切り出さなければ気づかないんだった。なんて鈍いんだ。
    「これやるよ」
     小池が嬉しそうに差し出した袋には大小様々な大量のチョコレートが入っていた。誰かにもらったのか、いいご身分だな、俺が必死になっている間に。
    「フン、モテるんだな⋯⋯小池のくせに」
     自分でもよくわからない捨て台詞を残してわざとらしくスリッパをパタパタと鳴らしリビングへ戻る。さっさとソファーに座りこれ見よがしに腕組みをして脚も組んだ。なんなんだこれは、この気持ちは。ヤキモチか? この俺が? 俺だって一応やろうとは努力した、失敗はしたがお前のことを考えて⋯⋯それなのに⋯⋯こんなことならおとなしく店で買ってくるんだった。そんな安いチョコでお前が嬉しそうに喜ぶなら。なんなんだ、悔しくて、切なくて、らしくない、こんなの俺じゃない、そう思うのに、涙が出てくるし、腕組みはやめられない。慌てたように追いかけてきた小池が違うんだってと言い訳を口にする。そんなのいらない、素直に言えばいいじゃないか、俺はお前が思ってるよりずっとモテるんだって。知ってる、お前は優しいから、だからいつも俺に譲ってくれているんだろう? 本当は新しい服やプレゼントに気づいていても、俺が自分の口で言いたいだろうことを察して気づかない振りをしてくれているんだろ? だからってこんな時にまで言わせるな。お前は本当にモテるんだな、なんてそんな言葉を言わせるな。ああ、腹立つし泣けてきた。目をゴシゴシと擦って顔を上げたら困ったような小池の顔がある。
    「狭山さん、聞いてくれ」
    「モテ自慢はいらん」
    「そんなんじゃねーよ」
     小池は必死に話しだした。バレンタインだから俺の好きそうな洒落たチョコを買おうとしたがどこもかしこも女性ばっかりでやはり自分みたいなごついのがぐいぐい入っていくのも悪いと思い買えなかったこと。ぬいぐるみでもとってやるかとゲームセンターへ行ったらチョコのクレーンがあったので丁度いいと思いやり始めたらついついハマってしまったこと。
    「いくら使ったんだ」
    「聞かない方がいいぜ」
    「ハ⋯⋯まったく、逆に高くついたんじゃないのか」
     テーブルの上、チョコレートの山がそびえ立っている。俺が孤軍奮闘している間、小池も同じように悪戦苦闘していたのだと思うと不思議とそんなことがたまらなく嬉しかった。高いチョコより、洒落たチョコより、俺はこれが嬉しい。そして同時にお前にもらったものならば何よりも嬉しく思えるそんな自分が誇らしかった。
    「で⋯⋯何やってたの? これ」
     俺のトレーナーとキッチンの惨状を交互に見ては言う。さすがにこのキッチンを見てしまってはこちらから切り出すより前に聞いてもくるよな。おそらくリビングに足を踏み入れた瞬間から聞きたくて聞きたくて仕方がなかったに違いない。そして本当は何もかもをわかっているんだろうが、やんわりとそういう聞き方をしてくるところは優しい。
    「これか? これはチョコ⋯⋯ちょこっと片付けをしてた」
    「逆に散らかってんじゃねえか!」
     これだ、このツッコミが欲しかった。これを待っていたんだ俺は。
    「まったく、何をどうしたらこんなに散らかせるんだよ」
     飛び散ったチョコレートと撒き散らされた粉を見て小池が笑う。優しいよな、怒らないんだから。怒るどころか笑ってくれるんだから。だからこんな風になってしまうんだぞ、お前が甘いせいで。甘やかすせいで。
    「ほら、片付けるぞ? 手伝ってやるから」
     腕まくりのその腕を掴んだ。今日は、今日ばかりは、もっと駄目になってしまう俺を許してほしい。
    「その前に⋯⋯する事があるだろう⋯⋯」
     誘う、ソファーの上に、熱い体の上に。チョコより先に溶けてしまってどうすると自分にツッコミを入れたくても、俺にもうその余裕はなかった。

    【完】
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