「おはよう、悟」
僕の一日はこの一言から始まる。砂糖のように甘くて優しい声が心地よくて、とっくに目は覚めていたけど、まだ微睡の中にいるふり。そうすると「仕方ないなあ、悟は」と続いて、おでこと両頬にキスが降ってくる。くすぐったくて、くふくふと笑いが漏れるが、まだ瞼は閉じたまま。おまけにン、と唇を尖らせると僕の意図が正しく伝わったらしく「そんなにされたいの?」という声が降ってくる。そして唇へ待ち望んだ温もり。ここでようやっと僕は目を開けて、視界いっぱいに彼を映すのだ。
「傑。おはよ」
ベッド横に立つ俺の父親、夏油傑。
昨晩眠りにつく前と変わらず、一杯の愛情が籠った表情で僕を見下ろす傑に満足して、ベッドに寝っ転がったまま両腕を大きく広げた。そうすれば口では「悟、授業が始まってしまうよ」と言いつつ、ベッドに体を乗り上げ、覆い被さってくるんだから。傑の体は僕をまるっと包み込んで、安心させてくれる。僕も早くもっと大きくなって、いっぱい傑を抱き締めてやりたい。
3703