夢華・幸 暗いくらい世界の中で、タルタリヤは一人座っていた。瞳からはらはらと涙を流し、ただ前だけを見て。その顔に感情はない。嬉しいも、悲しいも、悔しいも何も無い顔。その、無表情とも呼べる顔を見ながら、鍾離は一人唇を噛み締める事しか出来ないのだ。
一面を覆い尽くす闇は、タルタリヤだけをほんのりと照らしていて、後は深淵を生み出している。日差しなどは、どこにもない。あるのは、一面を覆い尽くす静寂と……ほろほろと流れ落ちる涙だけ。ほろほろと流れ落ちた涙は、タルタリヤの身体を沈めるように、少しずつ……少しずつ……地面に水を張っていく。そんな異質とも呼べる世界の中で、鍾離はただ立ち尽くすことしか出来ないのだ。瞳から流れ落ちた涙で濡れていくタルタリヤを前に、鍾離が出来ることなど最初から用意されていないとでも言われているかのように。
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