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    おもち

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    おもち

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    Renkyotto。結婚しろ。

    #Renkyotto
    Renkyotto<3

    友達の結婚式の日は空の綺麗な気持ちのいい晴れだった。着慣れない礼服はちよっと窮屈だったけど幸せそうな新郎新婦の顔を見れば疲れも吹き飛ぶ。たくさんのおめでとうの言葉をもらって笑う彼らを見ていると結婚っていいなぁと思った。俺が手土産を持って帰る家には、恋人が待っている。
    「ただいま!」
    いつもより明るい声でそう言ったけれど「おかえり」の声は聞こえてこない。まあ、返ってくるほうがレアだからそこはそんなに気にしてない。リビングに行って部屋を見渡したけれど恋人の姿はなかった。もうとっくに昼を過ぎてるけど、まだ寝てるのかな? 靴があったから外には行っていないはずだ。
    手土産の入った大きな紙袋をテーブルに置き、ネクタイを緩めようとした手をピタッと止めた。どうせならこのままの格好を見てかっこいいって思ってもらいたい。言葉にしてくれることは少ないけれど、恋人は俺の見た目が結構好きらしいから。
    ふんふん鼻歌を歌いながら寝室に向かい、「キョウ〜」と大好きな人の名前を呼んで扉を開ける。二人で眠るための大きなベッドの上、布団にくるまってキョウはすやすや眠っていた。キョウに寄り添って丸くなっていた愛犬は俺に気がつくと起き上がりパタパタとしっぽを揺らした。
    「一緒にいてくれてありがとう。ちょっとだけ二人きりにしてくれる?」
    目を合わせて頭を撫でながらそう言うと、愛犬は静かにベッドを下りて寝室を出て行ってくれた。いい子にはあとで特別なオヤツをあげないと。
    俺は寝室の扉を閉めてもう一度ベッドへ近づく。フチに腰掛けて手を伸ばし、キョウの柔らかい髪をふわりと撫でた。昨日の夜はそんなに夜更かししなかったけど、疲れちゃったのかな。起きてほしいな、と、このまま可愛い寝顔を見てたいな、の間で気持ちが揺れているうちに、キョウは撫でられていることに気がついたのか「ん……」と小さく声を上げて布団を持ち上げた。布団の中に隠れられちゃうくらいなら、起きて、俺のことを見てほしい。
    「キョウ、ただいま。お腹空いてない?」
    起きて〜って甘い声で言いながら髪だけじゃなく頬にも触れると、キョウはぎゅっと眉間に皺を寄せて、薄く瞼を開けた。
    「……うっさい……」
    「おはよ、キョウ。昼に寝過ぎると夜寝れなくなっちゃうよ?」
    「んん〜……朝は起きてた……ねむかったから、昼寝、ちょっとだけ……」
    「ああ、そうなんだ。じゃあまだ寝る?」
    「……れん」
    「うん」
    「……なに、これ。……髪もなんか、ちげーし……」
    キョウの手がのろのろと伸びてきて俺が着ているスーツの襟元を掴んだ。器用にネクタイを緩めたと思ったら、次はセットしてある髪に手を伸ばす。前髪を上げていつもと雰囲気を変えてみたんだけど、お気に召したかな?
    されるがままでキョウの手を受け入れていればキョウはぐしゃっと俺の前髪を握った。手、汚れちゃうよ。考えたことは声に出さず、キョウの手に押し付けるように頭を動かした。ふっと笑い声をこぼしてキョウが頭を撫でてくれる。ただ髪を乱しているだけかもしれないけど、俺が撫でられてるって思うからそれでいいんだ。「へへ」と笑えばキョウは剥き出しの俺の額にデコピンをした。
    「いたっ」
    「起きる。腹減った」
    「あ、お菓子もらったから一緒に食べよ。バームクーヘンって言ってたよ」
    「バームクーヘン……? てかおまえどこ行ってたの? かっこつけたスーツ着て」
    「ええ? 友達の結婚式行ってくるって昨日も言ったじゃん」
    「……あー、そういえば……言ってたような、言ってなかったような……」
    「言ったんだよ。それで、キョウはこのスーツかっこいいって思ったの? 髪型はどう?」
    「あ? ……知らね。どーでもいい。バームクーヘンどこ」
    「リビング。褒めてくれたら分けてあげる」
    「おまえ一人でお菓子食べたいならそうすれば」
    「ねえキョウ〜」
    駄々をこねるのは得意だ。だってキョウは素直じゃないから、お願いして一回で叶えてくれることなんてあんまりないもん。しつこいって言われてもキョウが本気で怒ってるわけじゃない時は押し続ける。それに、今は寝起きでまだいつもより頭も回ってないでしょう。
    「キョウ、お願い、こんな格好したの初めてだしキョウが褒めてくれないと変だったかなって不安になる」
    「……どうせ外でめちゃくちゃ褒められてきてんだろ」
    「キョウに褒められたい」
    「……ばかじゃねえの」
    「ばかだもん」
    「ふっ……。……ほんと、ばーか」
    やわらかい口調でそう言って、キョウは俺の後頭部を引き寄せた。額がこつんとぶつかって、キョウの大きな瞳が俺を見つめる。
    「似合ってるよ。かっこつけすぎててムカつく。おまえが参列してるなんて、新郎が可哀想だな」
    「……そんな、こと」
    「おまえが褒められたいって言ったんだから素直に褒められとけよ」
    「……ありがと。キョウが礼服着てるところも見たいな。きっとかっこいい」
    「俺はいい。結婚式するような友達もいねーし」
    「んー、俺は?」
    「……おまえ、結婚すんの」
    「キョウとね」
    「は。…………は、ばか、なにいってんの」
    「今日の結婚式、本当に素敵だったんだ。幸せそうな新郎新婦見てたら俺もこういう結婚式やってみたいなぁって思った。それなら相手はキョウしかいないでしょ? こういう礼服じゃなくてさ、タキシードもキョウはきっとよく似合うよ」
    固まっちゃったキョウにちゅっとキスをすれば弱い力で肩を押された。そんな簡単に離れてあげるわけないじゃん。じわじわ赤くなっていくキョウの顔を至近距離で見つめながら、ちゅっちゅっと甘い音を立ててキスを降らす。
    「っ、もう、しつこい……!」
    「だってキョウが返事してくれないから」
    「返事ってなんだよ、おまえが勝手に喋ってただけで」
    「結婚式しよって言ってるんだからいいよって言ってよ」
    「……! バーーーカ!!」
    真っ赤な顔で俺を蹴り上げたキョウは隙をついてベッドから抜け出しバタバタと寝室を出て行ってしまった。本気の蹴りを喰らってお腹が痛いけど、それよりもあの反応。
    ねえ、俺、真剣に考えてみてもいいの? 仲のいい友達を呼んでさ、二人でタキシードを着て、ずっと一緒にいるって愛を誓い合おうよ。きっと一生忘れられない幸せな日になるから。
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