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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。仲直りの話。

    #PsyBorg

    「ただいま〜」
    いつも通りの声を意識したそれはちょっとだけわざとっぽかったけど、俺は彼みたいに演技が上手じゃないんだ。震える手を気にしないようにしながら靴を脱いでスリッパを履き、返ってこない「おかえり」の声に泣きそうになった。ほんと、自分勝手で嫌になるな。
    キャリーバッグを玄関に置いて俺は家の中に進んだ。チリンと鈴の音がしてリビングの方向から猫が転がるように駆けてくる。俺の足にぽてっとぶつかり頭を擦り寄らせてくる愛猫を抱き上げ「ただいま」とキスをした。続いてパタパタ歩いてきたのは足元に子猫たちを連れた大型犬で、俺は片手で彼らのことも優しく撫でる。
    ねえ、君たちのパパはどこにいる? もしかしてお昼寝の途中かな? そうだったら良いんだけど。
    愛しい家族を連れてリビングに入った俺は、ソファーの肘掛けに頭を置いて寝転がっているらしい彼を見つけた。まさか、本当に寝てるなんて。俺は足音を忍ばせて近付き、そっとソファーの正面に回った。目を瞑って胸を上下させる彼はどうやら本当に夢の中みたいだ。眉間に皺が寄った険しい表情を見るにあまり良い夢は見ていないようだけど。
    「ワンッ!」
    「っ! こら、寝てるんだから起こしちゃ」
    「ん……うき……?」
    「……あ、えっと、……ただ、いま」
    「……、夢か……?」
    「……ほんもの。俺の夢を見てくれるのは嬉しいけど、夢じゃないよ」
    「っ!」
    パッと体を起こしたふーふーちゃんは俺に腕を伸ばし、距離感を見誤って体勢を崩した。俺はそれを支えるために両手を広げ、腕に抱いていたうきにゃが鳴き声を上げて彼の肩に飛び乗る。それから思いっきりふーふーちゃんの肩を蹴って床にジャンプしたうきにゃのおかげで彼はもっとバランスを失い、俺の腕の中に思いっきり飛び込んできた。
    俺に彼を支えられるわけもなく、二人して床に倒れる。目を瞑って彼を抱きしめるしかできなかったのに思ったほどの衝撃が来なかったことに俺は恐る恐る目を開けて、ふーふーちゃんが俺を庇って下に回っていることに驚き「大丈夫!?」と声を上げた。
    「ああ、大丈夫だ……おまえは? どこもぶつけてないか?」
    「……なんで、優しいの」
    「……おかえり、浮奇」
    ぽんぽんと頭を撫でられて、俺は涙をこぼして彼に抱きついた。
    旅行に行く前に、喧嘩をした。俺たちは考え方が全然違うからよく意見がぶつかることはあるんだけど、それでも大好きだから一緒にいて、喧嘩をしてもだいたいその日のうちに仲直りができる。
    だけど旅行に行く前にした喧嘩はそれを解決する前に俺が家を出てしまって、旅行の最中は一切連絡を取らなかった。一緒に暮らすようになってから……ううん、それより前、たぶんただの友達として仲が良かった頃から、俺たちは飽きもせずたくさん電話をしたりメッセージのやりとりをしていたから、全く連絡を取らないで数日が過ぎるのは初めてだった。
    旅行中は楽しいことで気を紛らわしたりお酒を飲みながら愚痴を聞いてもらって泣いたり、一人きりでいることが少なかったから考え過ぎずに済んでいたけれど、帰ってくる道中はもうずっと後悔と反省と不安で頭の中がいっぱいだった。家にいなかったらどうしよう、取り返しがつかないほど怒ってたらどうしよう、もう、俺のこと嫌いになっちゃってたらどうしよう。
    だからここにいて、当然のように俺の心配をしてくれて、「おかえり」って言ってくれて、すごく安心したんだ。
    「ちゃんと旅行は楽しんできたか、泣き虫うきき?」
    ふーふーちゃんがくすくす笑うと体が揺れて、頭と背中を優しい手が撫でてくれるのも合わさってあやされている気分だった。実際ふーふーちゃんはこどもをあやしている気分だったかもしれない。
    「楽しかったけど、ふーふーちゃんに会いたかった」
    「……俺もだよ。いってらっしゃいのキスもできなかった」
    「ごめんなさい、ごめん、うう……」
    「怒ってないよ。いや、確かにあの時は俺たち二人とも怒ってたけど、冷静じゃなかっただろう。どっちが悪いということもない。浮奇が後悔していることはよくわかったし、俺もものすごく後悔してたよ。このまま浮奇が帰ってこなかったらどうしようなんて考えて夜うまく寝れなかったくらいだ」
    「……ごめんね……」
    「ん、俺もごめん。これで喧嘩は終わりだな? ……はぁ、過去一長かったんじゃないか? もうこんなのはごめんだ、一日で解決しよう、絶対。特に外泊の予定がある時はその前に終わらせよう」
    後頭部を撫でていた彼の手が俺の耳に触れ、髪を掻き分けて額を撫でた。顔を見たがっているって分かったけど俺は涙でぐちゃぐちゃの顔は見せたくなくて、でも「浮奇、キスしたい」なんて言われたら顔を上げないわけにはいかなかった。
    「ん、ありがと。おいで」
    「……ただいま、ふーふーちゃん」
    「ああ、おかえり浮奇」
    ちゅっと触れた唇は俺の涙のせいでしょっぱくて、ふーふーちゃんは笑いながら俺の濡れた頬を拭ってくれた。まだ滲む視界をまばたきで払って、わずかに潤んで見えるふーふーちゃんの目元にキスを落とす。夜眠れないほど悩ませてしまったことが申し訳なくて、俺と同じことを考えて不安になっていたことが嬉しかった。
    「もう喧嘩しない」
    「それは無理だろ。浮奇は怒りっぽいし」
    「そんなことないもん。ふーふーちゃんが頑固なんだよ」
    「俺はわりと柔軟なほうじゃないか?」
    「洗濯物をカゴに入れてって何回言ってもそこらへんに脱ぎ散らかす人が何言ってんの?」
    「あー……よし、喧嘩はやめよう。仲直りのキスをしても?」
    「誤魔化そうとしてるでしょ」
    「そう、本当はただキスがしたいだけ」
    「……ずるいよ」
    「ああ、知らなかったか?」
    ニヤリと笑うふーふーちゃんの唇を食べるようにキスをする。ずるい人、俺がキミのことを大好きだってわかってるんでしょ。……お願い、ずっとそのまま自惚れてて。俺はずっとキミのことを大好きだから、喧嘩をしてもちゃんと仲直りをしてまたキスをしよう。そうしてキミも俺のことを好きだって、何回でも信じさせてよ。
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