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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。🔮がカフェ店員してる話。特に誕生日の話ではないんですがしっかり長めに書いたので誕生日のお祝いとして投稿です🎂

    #PsyBorg

     太陽が傾き始めて空が華やかに彩られる。店の扉が開くたびに空の色が変わっていくこの時間が俺は好きだった。
     それに、いつもこのくらいの時間に来る、とあるお客さんも。
     週に数回、曜日は決まっていなくて、混雑が途切れて気を緩めた途端に来ることが多いその人は、毎回同じカフェインレスのコーヒーを頼んでいく。アイスかホットかはわりとランダム。寒い日にアイスコーヒーを頼むこともあったし、たぶん気温とかじゃなく気分で選んでいるんだと思う。
     そろそろ来るかなと期待した気持ちで扉を見つめていると、本当にその人が扉を開けて入ってきた。俺は表情を綻ばせ、まだ彼が店の中に完璧に入ってはいないのに「いらっしゃいませ」と声をあげた。他の店員たちも次々といらっしゃいませと声を出す。
     彼はまっすぐ俺の立っているレジへ近づいて、いつも同じものを頼むのに律儀にメニュー表に目を落とした。
    「デカフェのドリップコーヒーですか?」
    「え。……あ、えっと、はい、それで」
    「すみません、いつもそうだから覚えちゃって。今日はアイスとホットどちらにされますか?」
    「あー……ホットで、お願いします」
    「かしこまりました」
     話しかけられるの、嫌なタイプの人だったかな。驚いた表情を見て少し不安になったけれど、お金を受け取ってレシートを渡すと彼は微笑んで「ありがとう」と言ってくれた。安心して紙のカップにthank youの言葉と笑った顔文字を書き、すでにデカフェコーヒーの用意を始めているスタッフに渡した。
     提供カウンターからそれを受け取った彼は俺の方をチラッと見て、目が合うとまるでありがとうとでも言うように目を細めて手にしたカップを持ち上げて見せた。心臓がトクンと音を立てて、俺は彼から目が離せなくなる。
     他のスタッフが店を出る彼に「ありがとうございます」と声をかけ、俺はほとんど無意識でその言葉を繰り返した。
    「浮奇、……浮奇?」
    「……あ、うん? なぁに?」
    「いまのうちに休憩。今日ラストまででしょ?」
    「うん、……じゃあ休憩もらう」
    「なんか飲む?」
    「……デカフェの、ドリップコーヒー」
    「デカフェ? 普通のじゃなくて、……って、あ、もしかしてさっきの人……?」
    「……あの人、顔がめちゃくちゃタイプなんだ……」
    「……ああそう。デカフェめんどくさいから普通のドリップコーヒーでいい?」
    「じゃあキャラメルマキアート」
    「うげー、それも面倒なんだけど」
    「ふ。ドリップコーヒーでいいよ、ありがとアルバーン」
     コーヒーを受け取り、俺は更衣室兼休憩室に引っ込んだ。クローズまでまだ数時間あるけれど心は晴れやかだ。今日は初めて彼と注文にプラスアルファで話をすることができた。
     お客さんに声をかけるのはわりとよくやっていることだけど、彼にはなかなか声をかけられずにいた。俺が彼のことを認識してからとうに一ヶ月は経っている。だってタイプ過ぎて、いつも注文を取るだけで精一杯だったんだもん。
     のんびりとコーヒーを飲みながらSNSをチェックしているとちょうど新作のドリンクが発表されたところみたいで、飲みたい、美味しそうという投稿が溢れていた。そう、期間限定のものを頼んでくれるような人なら、声をかけやすいんだけどなぁ。注文を取りながらオススメのカスタムや軽い世間話を挟むことは得意だ。
     だけど彼はいつも同じ、デカフェのドリップコーヒー。
     カフェインがダメなのかもしれないし、その味が気に入っているだけかもしれない。どちらにせよ何かしら拘りがあるんだろうと思うとなかなか声をかけられなかった。
    「おはようございます。あ、浮奇か。休憩中? おはよ」
    「ん、休憩中ー。おはよ、シュウ。ねえ聞いて、さっきいつも来てくれるイケメンさんとちょっとだけ話せたの」
    「へえ、よかったね」
    「もっと興味持ってよ」
    「すごーい、おめでとーう、やったね!」
    「最悪。早く着替えなビッチ」
    「浮奇の言う通りにしたのに」
     こういうことに全然興味がないらしいシュウは俺の話を雑に流しながらロッカーを開け、制服を持って着替え用にカーテンで区切られているスペースへ入って行った。後ろ姿が見たことない服だったから「その服かわいいね」と言えば、振り向いて俺を見た後自分の体を見て、「ああ」と興味なさげに呟く。
    「友達にいいねって言われて買ったんだ。浮奇もそう言ってくれるなら大丈夫そうだね」
    「友達と服買いに行ったの?」
    「そう。いや、正確には服を買いに行ったわけじゃなくて、一緒に出かけた時にたまたま服屋に寄ってついでに買っただけなんだけど」
    「へえ〜……デート?」
    「ノー」
     シャッとカーテンを閉めてシュウはそれ以上の会話を拒否した。うーん、かわいい。そんな反応するから俺にからかわれるのに。
    「仕事戻りまーす。先行ってるね」
    「はぁい」
     飲み終わったコーヒーのカップをゴミ箱に捨て、エプロンをつけて店に出る。数人が提供カウンターの前に並んでいてアルバーンともう一人のスタッフがテキパキと動いてドリンクを作っていた。
    「休憩ありがとうございます。俺も入ります」
    「おかえり、トールホットラテお願いします」
     ミキサーを使うデザートドリンクの注文が重なっているわけじゃないらしくて良かった。三人で手分けすればあっという間に列は捌けて、カウンター内はすぐに落ち着きを取り戻す。
    「俺もう時間なんで今のうちに上がっちゃいますね」
    「はい、お疲れ様です」
    「お疲れ様でーす。じゃ、僕も……」
    「アルバーンはラストまででしょ」
    「バレたか」
     夕方までのスタッフが上がって代わりにシュウが出てくる。平日の夜、アルバーンとシュウと俺の三人のシフトが一番気楽で好きだった。この時間だとコーヒーとかのシンプルなメニューより、期間限定のドリンクや自分の好みにカスタムしたドリンクを頼む人が多くなるから手間はかかるけれど、効率よくドリンクを作ってお客さんを捌いていくのはゲームみたいで、しかもこの二人が一緒だとそれがうんとスムーズにいく。お客さんがいない時にはテキトーに話ができるし、クローズに向けた片付けや掃除もしっかり進めて、ストレスなく仕事を終えることができる。
    「お疲れ様、また明日〜!」
     店を出たところで俺とシュウとは逆方向に行くアルバーンは、後ろ向きで歩きながら俺たちに笑顔で手を振った。めちゃくちゃ忙しい日でも、暇すぎて長く感じる日でも、アルバーンはいつも笑顔だ。
    「元気だよねぇ……」
     シュウが呟いた言葉にうんうんと頷き、俺たちは二人並んで駅へと向かった。仕事で声を出し疲れたから帰り道はいつも会話は少ない。それでもシュウといると心地良かった。
    「あ、そうだ」
    「ん?」
    「デートではなかったけど、相手は僕の好きな人だよ」
    「……え?」
    「この服選んでくれた人のこと」
     休憩中に聞いた話のことだと気がついた俺は目を丸くして「その話詳しく」と言ったけれど、改札を入った彼は得意げに笑い「じゃあ、お疲れ様でした〜」と言って俺とは違うホームに行くため階段を駆け上っていってしまった。明日……は、シュウは入っていなかったはずだ。次会った時、絶対しつこく聞いてやる。
     それまでにまたあの人に声をかけて、俺も好きな人ができたってシュウに話ができたらいいな。優しく笑った彼の顔を思い出し、疲れた体がふわりと軽くなった。



    「あ、いらっしゃいませ!」
    「こんにちは」
    「こんにちは、今日もデカフェ?」
    「ああ、今日はアイスで」
    「かしこまりました。今日は暑いね、外もうそろそろ涼しくなってきました?」
    「まだ少し暑いよ。夏は出歩くのが嫌になる」
    「わかる。けど、夏もコーヒー飲みに来てくださいね?」
    「……ああ、もちろん」
     いつもありがとうと微笑んで彼は提供カウンターへ進んだ。俺は後ろに並んでいたお客さんを呼んで注文を取る。だけど頭の中は彼のことでいっぱいだった。
     あの日から彼が来るたびにほんの少しずつ会話を試みて、今ではすっかり気軽に話をできるようになっていた。優しい声と穏やかな表情を向けられて、単純な俺は転がるように彼に恋をした。幸い彼は俺が声をかけることを不快に思っていないどころか、店に入ってきて俺を見つけるとふわりと表情を緩めてくれる。
     すこし前に、俺が店内の掃除に行っていてレジに入っていない時に彼が来店していたことがあった。テーブルを拭いていた俺は、顔を上げてレジで注文をしている彼の横顔を見つけてピタッと動きを止めた。いつも俺に向けられるのは人の良さそうな柔らかい笑みだけれど、その時の彼は表情が固く、周りを寄せ付けない雰囲気があった。
     注文を終えてコーヒーを受け取るために提供カウンターへ進んだ彼はちょうどそのそばにいた俺と目が合うと目を丸くして足を止め、それからホッと安心したように笑みを浮かべて「こんにちは」と口パクで言ってくれた。俺はうまく言葉を紡げずにはくはくと唇を動かし、なんとか頷きを返して彼を見つめた。コーヒーを受け取った彼は普段と違い、店の出口ではなく奥にいる俺の方へ歩いてきた。
    「こんにちは、今日は休みの日かと思ったからここにいてびっくりしたよ」
    「あ、こんにちは……ええと、掃除をしていて」
    「みたいだな。いつもお疲れ様。……挨拶したかっただけだ、邪魔して悪いな」
    「ううん! あ、の、……ありがとうございます。また、お待ちしてます」
    「……ああ、また」
     わざわざ俺に声をかけに来てくれたって、そんなことで嬉しくなっちゃダメかな。でも他のスタッフと俺とで彼の対応が違うのは明らかで、トクベツ扱いは俺の心をかき乱した。彼が来店した日はラストまででも元気に乗り切れたし、彼が来店しない日はつまらなくて早く帰りたいと思っていた。

     俺は朝が苦手だから昼からラストまでのシフトが多いけれど、どうしても朝に人が足りない時は朝から夕方までのシフトになることがある。そうすると夕方の日が落ちる頃に来店する彼には会えないことが確実で、寝不足も相まってその日の俺はテンションが最悪だった。
    「浮奇〜、おはよ〜。今日朝からだったんだよね、お疲れ様」
    「んー……おはよ」
    「お昼ちゃんと食べた? ごはん食べないと元気になれないよ」
    「食べたけど食欲なかったからあんま食べてない……」
    「浮奇は暑いと食べなくなるんだから、ちゃんと意識してごはん食べてよ。倒れられたら困るからね」
    「わかってる……アルバーン声うるさい」
    「僕は毎日ごはんしっかり食べてるから元気なんです〜!」
     ベーッと舌を出したアルバーンはそのままレジに入ると、店に入ってきたお客さんを見て「サニー!?」と声を上げた。金髪で背が高くて綺麗なその男の人はアルバーンの恋人で、時々アルバーンを迎えに閉店間際に来ることもあるから俺もすっかり顔見知りだった。
     アルバーンのその反応を見るに、今日の来店は特に予告してのものではないらしい。
    「こんにちはサニー。今日仕事は?」
    「今日は夜勤なんだ。アルバーンの迎えに来られないからちょっと顔を見に来ただけ。……アルバーン?」
    「……い、いらっしゃいませ」
    「……アイスコーヒーお願いします。あー……あと、……浮奇、何か飲む?」
    「え? 俺?」
    「うん、差し入れ、奢るから。……アルバーンも、……奢らせて」
    「……ダークチョコレートフラペ、ミルク変更でシロップとチョコチップ追加、ホイップ増量、チョコソース多めに上にかける」
    「うん、じゃあそれで」
     浮奇は?とサニーに問われて、俺はアルバーンの様子に驚きながらカフェラテを頼んだ。三人分の会計を済ませたサニーはアルバーンからアイスコーヒーを受け取る際に彼のことをジッと見つめ、「明日また連絡する」と言って店を出て行った。
    「……なに、喧嘩でもしてんの?」
    「……そう」
    「……許してあげたら?」
    「……考えとく。……休憩のお供ゲットしたしバリバリ働く! 浮奇、僕補充してきちゃうからレジよろしく!」
    「あ、うん」
     少し落ち込んだ様子だったアルバーンはスイッチを切り替えたようにパッと表情を明るくし、朝から昼にかけて減った備品や材料を次々と補充して行った。現実逃避で仕事に打ち込むことは俺にも経験があったから、余計なことは言わずに俺は俺の仕事をこなした。
     合間合間でちょっとずつ話を聞いたところ、深刻な喧嘩ではなく軽い口喧嘩から発展して後に引けなくなったアルバーンがサニーの連絡をことごとく無視している、ということらしかった。ちなみに喧嘩したのはつい昨日。たった一日でも二人にとっては長かったんだろう。サニーが来てくれて嬉しかった、ともしょもしょ話すアルバーンは可愛らしく、俺は手を伸ばして彼の頭を撫でた。
    「あーうー、もう僕のことはいいよっ! 浮奇上がりでしょ! お疲れ様っ!」
    「ふふ、うん、お疲れ様。今日はお迎えなしだけど、いい子で頑張ってね」
    「うーるーさーい! あの人来たら浮奇はもう帰っちゃいましたよって声かけてやる!」
    「……」
    「うっ、冗談だよ! 僕は全然興味ないし声もかけないから。……早く帰りなって!」
    「……余計なことしないでね。お疲れ様」
     そうやって調子に乗って適当なこと言うからサニーとも喧嘩するんじゃない?と毒を吐いてやろうかとも思ったけれど、サニーとの喧嘩で今日はもう十分落ち込んでいるようだったし、アルバーンが実際に彼に声をかけることはないだろうから、なんとか言葉を飲み込み俺は勤務を終えた。
     更衣室に入って着替えを済ませ、今日は寄り道をする予定もないし帰るだけだからとメイクを直すことはなくそのまま店を出た。店の前の道は夕陽が差してオレンジ色が眩しい。
    「あれ……」
     目を細めて空を見ていた俺は、聞こえた声にパッと振り向いた。カフェの扉の前、手をかけて今まさに扉を開けようとしていたらしいその人が驚いた顔で俺を見ている。
     いつもカフェインレスのコーヒーを頼む、俺の好きな人がそこにいた。
    「あっ……い、いらっしゃいませ……?」
    「……今日は、もう仕事は終わりですか?」
    「はい、朝から入っていて、今上がったところで。お客さんが来るならもうちょっと残ってたらよかったなぁ」
    「……あー、……ええと」
    「ん? どうかしましたか?」
     何かを言い淀んでいるその人に首を傾げると、彼は彷徨わせた視線を俺に定め、真面目な顔で口を開いた。初めて見る表情にドキドキしていたのに、内側から押されて開いた扉が肩を直撃し声を上げる彼を見て俺はプッと吹き出してしまった。
    「あはは、大丈夫ですか? こっち、ちょっとズレましょう?」
     意識せずに彼の手を掴んで道の端に引っ張って行ってから、俺はその手を離したくなくなって唇を歪めた。カウンター越しではないし、店員と客でもない。触れなければよかったと後悔するほどにこの手を離すのが惜しかった。
    「……名前を、聞いてもいいですか?」
    「……え?」
    「俺はファルガーオーヴィドといいます。……ずっと、あなたの名前が知りたかった」
     夕陽のせいだろうか、彼の頬はあまく色付いて見える。……夕陽のせいじゃ、なければいい。
     俺は手を離せないまま彼に見惚れて、彼が「……だめか?」と弱々しく呟き首を傾げたことで慌ててぎゅっと手に力を入れ、「浮奇です」と声を出した。
    「浮奇ヴィオレタ。俺も、あなたの名前が知りたかった」
    「……よかった。浮奇、もし仕事で疲れていなければ、コーヒーでも飲んで行かないか? ここはちょっと気まずいから、どこか他の店で」
    「行く。近くに俺の好きなお店があるから案内するよ」
    「ありがとう」
     どうしよう、まさかこんなことになるなんて。彼から手を離した俺は髪を撫でるように手櫛で整えながら足を動かした。メイクだって直してないし、コーヒー豆の匂いのままで香水もつけてない。今の俺、全然可愛くない……! 心の中でそう叫びながら、彼には笑顔を向けて「朝から頑張ってよかった」と甘えた声で伝える。彼は店で会う時より緩んだ雰囲気で、「俺も今日この時間に来てよかったよ」と言ってくれた。
     すぐ近くのカフェは店内の席が広々としていて落ち着いて過ごせる俺のお気に入りの場所だった。いつもはカフェラテを頼むけど今日はすでに一杯飲んでいたから、レモンティーを頼んで彼を振り返る。
    「デカフェのコーヒーでいい? 他のメニューも見てみる?」
    「そうだな……ん、アイスティーにするよ。すみません、会計一緒で」
    「え、待って」
    「仕事お疲れ様ってことで、これくらい奢らせてくれ」
    「……ありがと」
     優しい笑みを向けられると反論することはできなくて、俺はお礼を言い、彼が二人分の支払いを済ませた。提供されたカップは俺が二つとも受け取って席まで運ぶ。広めの二人席に向かい合って座り、俺は彼の頼んだアイスティーをじっと見た。
    「うん?」
    「……コーヒー以外飲んでるの初めて見るなぁと思って」
    「ああ、そうだな。色々飲みたいんだけれどカフェインアレルギーで、コーヒー屋だとなかなか飲めるものがないんだ。あ、でも浮奇のところのデカフェは美味しいから、消去法じゃなくて飲みたくて飲んでるよ」
    「カフェインがダメだったんだ……。ずうずうしく期間限定ドリンクとかのオススメしないでよかった」
    「ふ、浮奇にオススメされたらそれを買ってただろうけどな?」
    「……ファルガーさん」
    「うん」
    「……ふふ、ファルガーさん」
    「……なんだ?」
    「なんでもない! 名前、ずっと呼びたかったんだよ、本当に。だから呼べて嬉しい。今日はいい日だ」
    「……浮奇」
    「ん?」
     ニヤけてしまうのを誤魔化すようにストローに口をつけた俺は、ファルガーさんに声をかけられて彼を見つめた。彼は俺を見てもう一度「浮奇」と名前を呼ぶと、ふっと笑って肩を揺らす。
    「俺も、呼びたかっただけ」
    「……」
     好きだと今すぐに伝えて抱きしめてしまいたかった。手を繋いで、キスをして、彼の名前を呼んでその瞳と見つめ合いたい。
     一瞬で体をいっぱいにした妄想を瞬き一つで見なかったことにして、俺はふわりと笑みを浮かべて「お揃いだね」と言ってみせた。まだ、焦っちゃダメだ。勢いだけでぶつかってケガをするのはごめんだった。
     彼に好意を抱いてから数ヶ月、ようやく今日、彼の名前を知ることができたんだ。焦りで今までの時間を無駄にしたくはない。落ち着けと自分に言い聞かせてゆっくり呼吸をし、スマホを取り出して彼のほうにそれを向けた。
    「連絡先、教えてもらえる? 次はごはんでも行こうよ」
    「……もちろん、喜んで」
    「やった。ありがと」
     あまり重くなりすぎないようにそう言って、俺は彼の連絡先を入手した。でももう一歩、ただの友達だとは思われないように意思を示したい。どうしようかと考えて彼の名前が表示された画面を見つめていると彼が俺の名前を呼んだ。彼の優しい声で紡がれる俺の名前は、それだけで甘い響きを持って鼓膜を揺らした。
     顔を上げ、彼を見つめる。俺を見ていた彼は、目が合うと優しく笑みを浮かべた。
    「いつでも連絡してくれ。俺も、声が聞きたくなったら電話する」
    「……お店にも来てほしい」
    「ああ、今まで通り、浮奇の顔が見たくなったらコーヒーを買いに行くよ」
     好きだと言われたわけではないけれど、それはほとんど告白のような言葉に聞こえた。ドキドキする心臓が俺の思考を圧迫して頭が回らないせいだろうか。俺の気のせい? 勘違い? でもそれをわざわざ確認するのは怖くて、俺は視線を下げて指先で濡れたテーブルをなぞりながら「俺があなたの顔を見たくなったらどうすればいい?」と呟いた。
    「連絡をくれたら会いに行く」
    「……休みの日だったら?」
    「そしたらどこか一緒に行こうか。カフェでもごはんでもいいし、映画とか本屋でもいいな」
     つまり俺とデートしてくれるってこと? ファルガーさんが俺のことをただの友達か、それ以上か、どっちで考えているのか今すぐ教えてほしい。焦らないって決めたのにそんなふうに考えてしまう自分が嫌になって、ストローをギリっと噛んだ。
    「明日は夕方もいるか?」
    「え? あ、うん、明日は夜までだから」
    「じゃあまた明日、コーヒーを買いに行く」
    「……うん、明日、また俺に会いに来て」
    「……ふ。だな。浮奇に会いに行くよ」
     手軽で楽しい言葉遊びに乗ってくれる。そうなると逆にもう一歩踏み込むのが難しいことを分かっているのに、彼の楽しそうに笑む顔を見るとそれだけで十分だと感じてしまった。今が楽しければそれでいいなんて、そんな恋はもう終わりにしたいのに。
     次の日、いつものようにコーヒーを買いに来たファルガーさんはメニューをじっと見て、俺が「デカフェのドリップコーヒー?」と問うと視線を上げ俺を見つめた。
    「店員さんのオススメを教えてくれますか? カフェインが入っていなくて甘すぎないものがいいんだけど」
     口端に笑みを浮かべた彼に、俺は吹き出しそうになりながらメニュー表を指差しお気に入りのドリンクを教えてあげた。エスプレッソはデカフェに変更できますよ、と営業スマイルで言えば、じゃあそれでとなんの迷いもなく頷く。
    「ほんとにいいの?」
    「浮奇のオススメなんだろ?」
    「……うん、超オススメ。ファルガーさんも好きだって思ってくれたら嬉しい」
    「感想を言いに、また来るよ」
    「感想を言うためだけ?」
    「あとコーヒーだな」
    「もうひとつない?」
    「んー? ……ふはっ、ああ、おまえに会いに来るよ」
     上目遣いで見つめた俺に手を伸ばして、ファルガーさんは俺の頭をふわっと撫でた。俺は目を見開いて固まってしまい、ファルガーさんはそんな俺に気が付かないまま「またな」と言って提供カウンターへ進む。注文を通さない俺に不思議そうに声をかけてくれたスタッフのおかげで俺はなんとか頭を切り替えて彼のオーダーをコールすることができた。素早くカップにマジックを走らせ、ドリンクを作ってくれているスタッフに渡す。
     ドリンクを受け取った彼は俺がカップに書いたメッセージをよく見ることなくそのまま店を出て行った。全然気づかないで捨てられちゃうかな。いつも書くthank youのメッセージのあとに飛ばした、あなたへだけのハートマーク。



     彼の言葉を一つ残らず覚えていた俺は、仕事が休みの日にファルガーさんをごはんに誘った。この前のカフェは俺が選んだところだったからって、ごはんはファルガーさんがよく行くお店に連れて行ってくれた。本当はごはんの後まだもうちょっと一緒にいたかったけれど、我慢してバイバイと手を振った。
     その次の誘いはファルガーさんからで、見に行きたい映画があるからもし興味があるようだったら見に行かないか、と。俺は全然その作品を知らなかったけれど調べたらちょっと面白そうだったし、なによりファルガーさんに会いたかったからその誘いに乗り、二人で映画を見に行った。
     三回目は俺から、友人に教えてもらったケーキが美味しいというカフェにファルガーさんを誘い、雨が降る午後に二人で電車に乗って少し遠いそのお店まで行った。帰る頃にはすっかり雨が上がっていたけれど、もう陽が落ちていたしこのままバイバイかなってちょっと寂しくて、電車の中の俺はいつもよりずっと静かだった。
    「浮奇」
    「うん? なぁに」
    「昨日、店に行ったんだ」
    「え、そうなの? いつ? 俺昨日は夜までいたのに」
    「夕方頃。たぶん浮奇は休憩中だったんだと思う。元気な感じの茶髪の子と、大人しい感じの黒髪の子がいただろう」
    「ああ、うん、アルバーンとシュウだ。仲良いよ」
    「その、……俺の話、何かしてるのか?」
    「え? ……え、っと、……何かって……?」
     ファルガーさんのことを好きになったことも、連絡先を交換できたことも、休みの日に出かけたことも、二人には全部話してしまっている。だけどあの二人は口が軽くはないし、それを直接本人に漏らしてしまうとは考え難かった。
     彼が何を聞こうとしているのか探るように目を合わせると、彼は恥ずかしそうにスッと目を逸らして口を開いた。
    「ふーちゃんさんだ、って、言われて」
    「……あ! あ、いや、それは、その」
    「俺のこと、そういうふうに呼んでるのか……?」
    「ちがっ……く、ないけど、……ええと、あのね、二人に名前を聞かれて、それで、……あなたの名前、教えたくなくて」
     ファルガーオーヴィドという名前は、俺がずっと知りたかった大切なものだ。ただの名前だって分かっているけれどそれでも簡単に教えてしまうのは嫌だった。
     彼との惚気話をする上で二人も名前が分かっていたほうが分かりやすいのは明らかで、仕方なく俺は彼の名前の一文字目を借りて「ふーちゃん」というあだ名をつけた。まさかそれを本人に言ってしまうとは予想もしてなかったから、彼には何も言っていなかった。
    「意味わかんないよね、ごめん、二人にはもう言わないようにちゃんと言っておくから」
    「ああ、いや、全然良いんだ。あだ名の方が呼びやすいだろうし……ファルガーなんて堅苦しくて親しみにくいだろう? それにあの子たちに言われた時は驚いたけど、ふーちゃんって浮奇が言ったらきっと可愛いだろうなと思ったんだ。浮奇なら好きな名前で呼んでくれて構わないよ」
    「……いいの? いやじゃない?」
    「いやじゃない」
    「……ふーちゃん」
    「……ふ、ほら、やっぱり可愛い」
     俺が小さな声で呼んだ可愛らしいあだ名に、彼はとろけた笑みを浮かべた。なんでここは電車の中なんだろう。周りに人がいない道だったら、ううん、周りに誰かがいても、彼を道のはじっこまで引っ張っていってぎゅーって抱きしめたのに。
     頭の中だけで彼のことを好きにして、現実の俺はちょっとほっぺたを膨らませて彼を見上げてた。甘えた表情は得意だ。この人が甘やかしてくれる人だっていうことも、今までのやりとりでわかってた。思った通り、彼は「うん?」と笑顔で首を傾げてくれた。
    「……今日、もうこのまま帰っちゃう?」
    「……まだどこか行きたいところがあるか?」
    「そうじゃないけど、……でも、まだ一緒にいたい」
     ストレートに言葉を紡ぎ、ついでにちょんっと彼の服の裾を掴んでみせる。彼はぱちくりと瞬きをして、それから俺の手に触れて服を離させると同時に手を繋いだ。一瞬で体中の熱が上がって眩暈がしそうだった。
    「じゃあもうすこし一緒にいよう」
    「いい、の……?」
    「俺もまだ帰したくないと思ってた。……なんて、浮奇に言わせておいて後から言うのは卑怯だよな。悪い」
     ふっと気の抜けた笑みを浮かべる彼の手を俺はぎゅっと力を込めて握った。くすくす笑った彼は空いている手で俺の頬を撫で、「赤くなってる。日焼けしたか?」とからかう口調で言う。言い返そうと思って見上げた彼は、まるで好きだって言ってるみたいな瞳で俺を見つめていたから、俺は何も言えなくなってしまった。
    「夜ごはん……って言っても、ケーキを食べたばかりであまりお腹は空いてないか。どうしたい?」
    「……んー……」
    「……浮奇、お酒は行けたっけ?」
    「お酒? 好きだよ。色々飲む」
    「それならバーでも行くか。少し早いけど、知り合いのやってる店なら開けてくれるかもしれない」
    「ほんと? 行きたい!」
    「じゃあ決まり」
     彼は繋いだ手を解くことなくいつも通りに話をしてくれて、俺は話の半分も聞けずに心臓のドキドキする音を感じていた。電車が駅に停まって、動いて、また停まる。外を流れる空がだんだんと夜の色に包まれていくのがいつもは好きだけど今日だけはまだ陽が落ちないで欲しかった。今日が終わらなければ、いつまでも彼といられるのに。

     次の日の朝、彼からメッセージが届いていた。寝起きの頭は一瞬で覚醒し、昨夜のことを思い出して顔が熱くなる。俺はうあうあと意味のない呻き声をあげながらスマホを操作してメッセージを確認した。
    『昨日はありがとう。今日の夜、仕事が終わった後に少し時間をもらえないか?』
     俺はすぐにオーケーの返事を送りベッドに大の字で転がった。仕事終わりに会うのは初めてだ。なにより二日連続なんて初めて。
     昨日は彼の知り合いがやっているというバーに行き、お酒を飲んで口が軽くなった俺はいつもよりたくさん彼に話をした。酔ったら眠くなってしまうから気をつけていたのに彼と飲むお酒はとてもおいしくて、結局帰る頃には彼にもたれて「眠いから帰れない」なんて駄々を捏ねていた、気がする。どうせならそれも忘れるくらいに飲んでよ……。自分の失態を思い出して悶え、でも彼が最後まで紳士的に家に送り届けてくれたことも思い出した俺はニヤけてしまう頬を両手で押さえた。
     今までの俺だったらそのままホテルにでも連れて行ってくれたほうが嬉しかったかもしれない。だけど、彼とはきちんと関係を築いてこれからも一緒にいたいから、一夜で終わりにはしたくなかった。
     二人きりでお出かけするのは俺にとってはデートに違いないけど、まだ彼がどう思っているかはわからない。絶対に好かれていると思うし、言葉遊びのようなやりとりに乗っかってくれるから全くの脈なしではないと思いたい。もうそろそろ決定的な言葉を使ってもいいかなってところで今日のお誘いだ。期待してもいいでしょ?
     いつもより念入りに身支度を整え、気合を入れるためにいつもはコーヒーだけで済ます朝食をちゃんと作って食べてから家を出た。今日は動きやすい通勤用の低いヒールのブーツではなく、お気に入りのピンヒールとそれに合わせた服を着た。通り過ぎるショーウィンドウに映った俺は背筋が伸びていて楽しそうだ。これから向かうのが職場ではなくデートの待ち合わせ場所だったらいいのにな。でも彼がコーヒーを買いに来てくれるから、職場が待ち合わせ場所だって思ってもいいかもしれない。
    「おはようございまーす」
    「おはよー。……なに、浮奇、今日デート?」
    「へへへ」
    「今日ラストまでだよね? 夜?」
    「ん、仕事のあと会いたいって」
    「わお……もしかしてもう結構進んだ?」
    「かもね?」
    「ほんとすごいご機嫌じゃん。あ、そうそう、昨日浮奇がいない時にちょっと聞いたんだけどさ、今シュウも結構いい感じみたいだよ。この前の休みの日にまた二人で出かけたみたい」
    「まじ!? 今日シュウ……入ってないじゃん! アイツいっつもタイミング悪い!」
    「あはは! 次シュウが一緒の時に聞いてみなよ」
    「絶対聞き出す。全部聞き出す」
     忙しい日だったけれど夜のことを考えて乗り切り、無事にラストまで仕事を終わらせた。メイクを直したかったから他のスタッフには先に帰ってもらい、一人になった更衣室でしっかりメイクを直して香水をつける。鏡に笑みを向けてうんと頷いた。
     戸締りをして店を出た俺は彼に仕事が終わったとメッセージを送るためスマホを取り出した。スマホの画面に目を落としながら通りに出たところで、突然前から声をかけられる。
    「あの」
    「っ! ……はい?」
    「俺、いつもこの店に来てて」
    「……? あ、いつも新発売のドリンクを初日に買いに来てくれる……?」
    「はい!」
     目の前にいたのは見覚えがあるようなないような、特に印象に残っていない常連のお客さんだった。戸惑いつつも店員モードで対応していれば、その人は嬉しそうに笑いながら話を続けた。
     ええ……? 俺、今すぐ彼に会いに行きたいんだけど……?
     お客さんを無視するわけにもいかないから曖昧に笑って話を聞いていたら、その人は一人で盛り上がって楽しそうに話し続けた。ねえ、相手の反応を見れない男はモテないよ、早くどっか行って。手の中でスマホが震えたのを感じて、俺は今すぐ彼のところへ走って行きたくなった。こんな誰とも知らない男なんて放っておいてよくない?
    「あー、もういいですか? 俺このあと予定があって」
    「そうなんですね、それじゃあ連絡先交換しませんか?」
    「は? ……あのさ、俺と話したいならまた店に来てくれる? 俺、プライベートは好きな人にだけ使いたいんだよね」
     どうしておまえなんかと連絡先を交換しなきゃいけないわけ? さすがに呆れてため息を吐き、それ以上話を聞くことなくその人の横を通り過ぎた。仕事が終わってからずいぶん経ってしまった。彼がどこかでうまく時間を潰してくれてるといいんだけど。
    「浮奇」
    「え、……え? なんで、ここに……」
    「連絡がないから様子を見に来たんだけど……来てよかったな」
     彼の視線が俺から外れて後ろのほうへ向けられる。パッと振り向くとさっきの男が俺を追いかけてきていたようだった。怒りのこもった視線は俺ではなく彼に向けられている。
    「あ、あなたは誰ですか……。もうその人は仕事を終えているんだ、ただのお客さんなら帰ってください……!」
     そっくりそのままお返ししたい言葉を震えた声で言うその男に文句を言おうと思った俺は、すぐ隣に立つファルガーさんに腰を抱かれて目を見開き彼を見上げた。
    「おまえこそ誰だ? もう彼はプライベートの時間なんだ、邪魔者は帰ってくれ」
     ファルガーさんは言いながら俺の髪に頬を擦り寄らせた。もうあの男のことなんて思考の片隅にもなくなった俺はバクバクうるさい心臓を黙らせるように胸の上でぎゅっと手を握りただファルガーさんを見上げる。不意にファルガーさんが俺を見下ろし、イタズラっ子のような笑みでウインクをしてみせた。これ以上俺を夢中にさせてどうするつもりなの。
    「うまくいったな。ちなみに、今までもこういうことはよくあったのか?」
    「……あ、え……?」
    「……浮奇」
    「うん……?」
    「さっきの話、本気にしてもいいか?」
     さっきの話? 頭がふわふわして彼の言うこともよくわからない。かすかに首を傾げて瞬きをすると、彼はくすりと笑って俺の腰から手を離した。夜が近づいて冷えた風が俺の熱を冷ますように吹きつけた。
    「プライベートは好きな人にだけ使いたい、と。……今は、プライベートだよな?」
    「そ、う、だよ……」
    「じゃあ、俺は、浮奇の好きな人?」
     瞳を覗き込まれ、俺は息を呑んだ。彼は自信ありげに笑みを浮かべていて、否定されるとはカケラも思ってなさそうだった。実際、否定する気なんて一ミリもないのだけれど。
     声を出すためにゆっくり息を吸い、俺も彼のことを見つめる。今この瞬間、彼の目に映る俺が他の何よりも魅力的に見えていますように。
    「好きな人じゃなくて、大好きな人」
     一瞬揺れた彼の瞳はふわりと笑んで、キスをしそうなくらい顔が近づいた。俺は彼の腕に掴まってそっと背伸びをする。高いヒールのおかげでそれだけで俺の唇は彼の頬に触れた。
    「今日ちゃんと言うつもりだったのに、先を越されたな」
    「へへ、先に言っちゃった。でもファルガーさんからも聞きたい、言って?」
    「……ファルガーさん呼びに戻ったのか?」
    「え? あ、昨日はちょっと酔ってたし、……ふーちゃんのほうがいい?」
    「……」
     じっと俺を見る瞳で、どうやら彼がその呼び名を気に入っているらしいということを察した。そういえば昨日もふーちゃんと呼ぶ俺を嬉しそうに見つめて可愛いと言ってくれた。
    「……ふーふーちゃん」
    「え?」
    「ふーふーちゃんにする。だって、アルバーンもシュウもふーちゃんって呼ぶんだもん。俺だけがいい」
    「……浮奇、もう一回呼んでくれるか?」
    「……ふーふーちゃん」
    「ああ。俺も大好きだよ浮奇」
     コツンと触れた額だけじゃ足りなくて、俺は唇を尖らせて彼を見つめた。至近距離で絡まる視線にもうずっとうるさいままの心臓がまだテンポを上げる。
     ふーふーちゃん、と、甘い音でもう一度彼を呼んだ。目を細める彼だけじゃなく俺まで自分の声でとろけてしまいそうだった。もうなにも言わないまま、ほんのすこし顎を上げる。鼻先が触れ、俺はそっと瞼を閉じた。
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