「サニー、サニー、起きて」
「んん……、……あぁ、アルバーン……おはよ……」
「目が開いてないよ。ねえ、早く起きないと朝ごはん食べる時間なくなっちゃうって。今日は朝から出勤なんでしょう? 夜は帰ってくるんだよね? 夜ごはん一緒に食べて映画でも見ようよ」
「……いまなんじ」
「もう六時過ぎ。僕これから寝るけど」
「んんっ、んー、……おはようアルバーン。アルバーンはおやすみ?」
「サニーを起こす重要任務完了?」
「もう起きた、任務完了で大丈夫だよ。ありがと」
「じゃあおやすみ〜。帰ってくるの待ってるね?」
「うん、待ってて」
俺と入れ替わりでベッドに横になったアルバーンはすぐに目を瞑り、布団に鼻をつけてスンスンと匂いを嗅いで幸せそうに息を吐いた後に俺のことを見上げた。ニヤリと目を細めて笑うから思わず舌打ちをする。
「あはは、治安わる〜い」
「時間がなくなっちゃうって起こしてくれたのは誰だっけ?」
「僕だね。早く朝ごはん食べて行きな?」
「……一回だけ」
「セックス?」
「バカかよ。キスだけ、いっかい」
「ふはっ、もちろん、好きなだけどうぞ?」
「一回だって」
目を瞑って見せるアルバーンに顔を近づけてキスをする。重ねるだけで離れようとした俺の唇をアルバーンが吸って、舌を伸ばしてきた。……まあ、まだ、一回の最中だから。仕方ないなという気持ちで俺も舌を動かして深いキスをし、スマホのアラームが鳴り始めて十秒経ってからようやく唇を離す。
「チッ……朝ごはん、食べられないじゃん」
「今日の朝ごはんはサンドイッチにしたよ。よければ持っていって」
「……」
「たまたまだって。朝ごはんを食べる時間がなくなってもいいかなとは思ったけど、それはキスをし始めてから気がついたし」
「……キスしてる時に朝ごはんのこと考えてたの?」
「……サニーのことを考えてたんだよ」
「……、本当に遅刻するからもう行くね。しっかり寝て、夜ごはん食べたいもの考えておいて」
「うん、いってらっしゃい」
「いってきます」
今度こそ触れるだけのキスをして、俺は寝室を後にした。
アルバーンは毎日のように夜中に何かをしに外に行き、朝にこの家に帰ってくる。俺が仕事に行っている間の昼に眠って、俺が帰るまでに起きて家のことをしておいてくれた。夜はどこに行っているのかと聞いた俺に、アルバーンは嘘をつく顔で「お仕事」と言ったから、それ以上は聞かなかった。彼がどうやら犯罪行為、または犯罪スレスレの何かをしていることは察していたけれど、俺はそれを見て見ぬふりをしている。
彼がこの家に居着くようになって一ヶ月。よく気が利いて一通りの家事ができ、体の相性も抜群だったから、追い出す理由が見つからなかった。そもそも俺が追い出さなくても勝手に出て行くんじゃないかと思っていたんだ。だけどアルバーンは毎日この家に帰ってきて俺にただいまといい、俺が帰るとおかえりと言った。
職場の人には何も言っていないが、どうやら俺に恋人ができたと思っている人がいるらしい。今までと言動に違いはないはずなのに、どうしてだろう。