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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。

    #PsyBorg

    引っ越したばかりのピカピカの新居は半ば物置になっていて、俺は週に一、二度しかそこで眠ることはなかった。自宅以外のどこで寝てるかって、そんなの恋人の家に決まってる。
    今までは遠距離で何日か休みがないと会いに行けなかったけれど、俺が彼の住む街に引っ越したことで気軽に遊びに行けるようになった。夜までそこにいたら帰るのは億劫で「泊まって行ってもいい?」と聞けば、どんどん俺に甘くなっている彼は渋々といった体で「明日はちゃんと帰れよ」と言う。でもね、そう言う彼の顔は毎回嬉しそうに微笑んでいるんだよ。帰りたくなくなるのもしょうがないでしょう。
    「朝起こすからな。朝ごはんもちゃんと食べないと健康に悪い」
    「んー……ね、ふーふーちゃん」
    「うん?」
    「俺ね、引っ越してからすっごく健康」
    「よかったじゃないか。ここが肌に合ってたのか?」
    「そうじゃなくて、キミが朝起こしてくれて一緒にごはんを食べるでしょう? ドッゴのお散歩でたくさん歩くし、夜はネットサーフィンで夜更かししなくなった」
    「夜更かしは、多少してるけど」
    「ふふ、うん、でも今までよりうんと健康的な夜更かしだよ。体を動かしてるし、心も満たされてる」
    「……つまり俺のおかげで健康になれたって?」
    「イエス。ふーふーちゃんと出会ってから良いことばっかりだ。もしかしたら俺の神様なのかも」
    「大袈裟だな」
    肩を竦めて見せて、洗い物を終えたふーふーちゃんはキッチンから出てきた。両手を伸ばせば迷いなく俺の腕の間に入ってきてくれたから緩んだ唇を頬に押し付けてちゅっと音を鳴らす。
    「洗い物ありがとうのちゅー」
    「ふ、どういたしまして」
    「どういたしましてのちゅーしていいよ」
    「してください、だろ」
    そう言いながらふーふーちゃんは俺の頬にキスをした。ほんと甘やかし上手なんだから。
    二人で広いソファーに座ってくっつきながら話をしていると、にゃ、にゃ、と可愛い鳴き声が転がるようにリビングに入ってきて、俺たちは二人揃ってそちらを向いた。まだ小さな猫が二匹と、ひとまわり大きな猫が一匹、戯れるように飛び跳ね、転がり、取っ組み合っている。もうすっかり仲良しさんだね。
    「うきにゃ、ずいぶん慣れたな」
    「ね。友達ができて毎日楽しそう。ドッゴともうまくやってるみたいで安心した」
    「最初は警戒して近寄りもしなかった」
    「俺に似て人見知りなんだ」
    「飼い主に似るのならもう少し俺に懐いてくれてもいいんだけど」
    「そこはほら、俺に気を遣ってくれてるんだよ。ご主人様の大好きなふーふーちゃん、ボクが取ったらご主人様が拗ねちゃうにゃーって」
    「……」
    「ん、はは、なぁに」
    無言でちゅっちゅっと顔中にキスを降らせたふーふーちゃんは、俺が誘うように首に腕を回せばそのままソファーに押し倒してくれた。少し硬いクッションにも慣れちゃったな。与えられるだけじゃ足りなくなって、ぐっと後頭部を抱き寄せてキスを深くする。ご主人様たちの濡れ場に興味はないらしく猫たちはいつの間にかリビングを出て行っていた。
    「ん、っん、ねえ、ふーふーちゃん」
    「うん……?」
    「明日、家帰んなきゃいけないから、俺がぐずってもちゃんと起こしてね」
    「……今言うか?」
    「だってこのまま話す隙なく寝ちゃいそうだから」
    「わかったよ。何か用事が?」
    「ゴミ捨ての日なんだ。先週こっちにいてすっかり忘れてたから、今週はちゃんと出さないと」
    「……浮奇」
    くっついていた唇を離したふーふーちゃんは体を起こし俺のことも抱き上げた。俺はキョトンと首を傾げた。
    「えっちしないの?」
    「するけどその前に話」
    「んー? ゴミ捨ての話はもう終わった」
    「ゴミ捨ての話じゃなくて」
    むぅっと唇を尖らせてふーふーちゃんに顔を近づけてもふーふーちゃんは手のひらで遮って真面目な顔をする。ゴミ捨ての話なんてしなければよかった、中途半端に熱が上がった体は早くふーふーちゃんに溶かしてもらいたくてたまらないのに。
    「浮奇、ずっと言おうと思ってたんだが」
    「……悪い話なら聞きたくないよ」
    「そうじゃない。相談……というか、提案というか、……誘い? 勧誘?」
    「なに? 悪い話じゃないなら良い話?」
    曖昧な言い方に、俺は期待する目でふーふーちゃんを見つめた。ふーふーちゃんは真剣な表情で俺を見つめて息を吸い、一瞬呼吸を止めてぷはっとそれを吐き出してしまう。
    「ねえ、ちょっと」
    「悪い……いざとなると今じゃない気がして」
    「ロマンチストでかっこいい俺の彼氏さん、もしかしてプロポーズでもしようとしてくれてるの?」
    「……」
    「え、うそ」
    「いや、あの、……プロポーズではないんだが」
    「……」
    「……オーケー、やり直す。水を飲んできても?」
    「いいよ。何も聞かなかったことにして待っててあげる」
    ちゅっと頬にキスをしてふーふーちゃんは立ち上がりキッチンに向かった。
    プロポーズではない、だけどそれに近いことで、相談、提案するようなこと……? 俺のゴミ捨ての話からスイッチが入ったよね。この家のゴミ捨ては、俺も掃除を率先してやってるしゴミの日だって把握してるからふーふーちゃんに改まって言われるようなことはないはずだ。家事全般に関しても、むしろ俺が注意したいことがあるくらいで、……ええと、やりすぎでうざいとか? 自分の家に帰れとか、そういう話……では、ないと思うけど……。だって、それなら俺にとって悪い話だし。
    「お待たせ。……浮奇?」
    「ごめん、念のため確認なんだけど、悪い話じゃないんだよね……? 俺、ふーふーちゃんの邪魔だったりする……?」
    「は……? ……俺が浮奇のこと邪魔だなんて思うはずないだろ。また不安にさせてしまったか、ごめんな」
    「んん」
    ふーふーちゃんの両手が優しく俺の頬を包んでむにむにとあやすように揉んだ。ちゅっと触れるキス一回じゃ不安な気持ちは拭いきれないけれど、甘やかしてもらうより先にふーふーちゃんの話を聞きたい。「ごめんね」と呟けば鼻の頭にもキスが落ちてきた。
    「それじゃあ浮奇が余計なことを考えないように、もったいぶらないでさっさと話してしまおう。浮奇、一緒に住まないか? 引っ越したばかりなのに言うのはどうかと思ったんだけど、おまえはここ最近はほとんどこの家にいるだろう? 俺も浮奇も人と暮らすのがストレスになる性格だから、浮奇が近くに引っ越してきて気軽に会える距離にいてくれるくらいがちょうどいいかと思ってたが、毎日家に浮奇がいても全然ストレスにならないってわかったんだ。浮奇が自分の家に帰ると寂しく感じてしまうくらいには、一緒にいたいって思ってる」
    「……」
    「……まあ、これは俺の勝手な考えだから、浮奇がストレスになるようだったらこの話はなかったことにして、今まで通り好きな時にうちにいて好きな時に自分の家に帰って良い。……悪い話だったか?」
    「……良い話だった」
    「……つまり?」
    「……俺、ふーふーちゃんの負担になってない?」
    溢れそうな涙を隠すためにふーふーちゃんに抱きついて、熱い息を吐き出した。大好きなんだ、ずっと一緒にいたいと思ってる。だけど永遠なんてないことも分かってるから。好きな人と両思いになれる幸せをこんなにもらってるのに、それ以上なんてバチが当たりそう。
    「浮奇、俺がおまえのことをどれだけ好きか、わかってないだろう」
    「今は好きでもきっと一緒にいたら嫌いになっちゃうでしょ」
    「そうか、浮奇は俺みたいなつまらない男とずっと一緒にいたら俺なんて飽きて嫌いになるよな」
    「! ならないもん! 飽きるわけないし、ずっと大好きだよ!」
    「それならわかってくれ。俺も、浮奇のことずっと大好きなんだよ」
    思わず顔を上げた俺の滲んだ視界の真ん中で、ふーふーちゃんが優しく笑ってそう言った。ぼろっと溢れて頬を濡らした涙を慣れた仕草で拭いながら「泣き虫なところも愛してる」なんて、相変わらずキザで、俺の欲しい言葉をまっすぐにくれる、大好きな人。
    「浮奇だけじゃないんだ。俺も、浮奇と出会ってから良いことばっかり。きっと浮奇は俺の神様なんだよ」
    「……おおげさ」
    「ふ、うん、だけど本当にそう思うよ。朝、起きた時にさ、隣でおまえが寝てるのを見るとびっくりするんだ。なんだこの天使みたいに可愛らしくて美しい人は、って」
    「……ふーふーちゃんだって、可愛くてかっこよくて、綺麗で面白くて優しくて」
    「もういい」
    「ふふ、照れ屋で、俺なんかに捕まっちゃうお馬鹿さんで」
    「ノー、浮奇が捕まえたんじゃない、俺が捕まえたんだよ」
    「……うん、つかまっちゃった。……えへへ、ねえ、じゃあ俺の神様、これからもずーっと、一緒にいてくれる?」
    「……ん、ずっと一緒にいる」
    こつんと優しく額がぶつかり、ふーふーちゃんが俺の濡れた瞳をじっと見つめた。涙を止めたいんだけど、どうやってやればいいかわかんないんだもん。勝手に次々と溢れ出す涙がふーふーちゃんの手を濡らし続ける。ああもう、かっこつかないなぁ。
    「ふーふーちゃん……」
    「ん?」
    「ほんとに、泣き虫でも、愛してくれる?」
    「……愛してる。泣いてても、怒ってても、拗ねてても、全部俺の大好きな浮奇だよ。もちろん笑ってる浮奇も」
    「俺すっごくわがままだし、気分屋で、寝起きも悪いよ」
    「ふ、知ってる。もしまだ俺の知らない浮奇がいるなら早く見せてくれ。好きなところが増えるのが楽しみだ」
    「……ふーふーちゃんも、俺に全部ちょうだい」
    「全部?」
    「全部がいい。ふーふーちゃんまるごと、ぜんぶ」
    「……実は浮奇の欲張りなところも好きなんだ」
    「へへ」
    知ってるよ、俺だって、ふーふーちゃんのこといっぱい知ってるもん。でももっと、余すとこなく全部ちょうだい。毎日、毎秒、いろんな顔で俺を虜にしてよ。どんなふーふーちゃんでも大好きで、飽きて嫌いになるなんてありえないんだから。
    ねえ、俺に幸せをくれたふーふーちゃんと、ふーふーちゃんに幸せをあげられた俺、二人でずっと一緒にいたらずっと幸せでいられると思わない? 人生そんな甘くないって諦めて逃げるのはもうやめにしよう。だって、俺の神様は目の前にいるんだから。
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