「じゃ、この子をよろしく頼むよ!」
暗い洞窟に似つかわしくない快活な声とともに、ずずい!と目の前に差し出されたしましまの毛玉。
脹相はとてつもない嫌な予感に眉間にしわを寄せた。
山犬の獣人である脹相と鷹の鳥人である九十九が出会ったのは、脹相の弟八人が立派に巣立ちしてからしばらくたってからの事だった。ひどい雨の日に脹相が住む洞窟にびしょ濡れで転がり込んでくるや否や「どんな女が好みかな?」とウィンクしてきたのが始まりだった。その時からというもの、鷹であるのに渡りをするこの自由気ままな女との腐れ縁に脹相は辟易としていた。
今日も今日とて突然現れたかと思うと、脹相の前にしましまの毛玉――小さな虎の子を差し出してきたのだった。まだ人型になることはできないのだろう。柔らかい首の皮を九十九に掴まれてゆらゆら揺れる毛玉はまさしく毛皮をまとった虎の子の姿だった。橙のような明るい茶色に白が混ざったふわふわの毛。ころりと丸い頭に、これまた丸い小さな耳。小さな体躯に見合わないずんぐりと太い手足と広い手のひら。首の皮を九十九に掴まれているのに楽しそうにきらきらと輝く青色の瞳と目が合った。脹相と目が合ったことに気づいたその毛玉は、ひどく嬉しそうに目をつむって小さく「きゃぅ!」と鳴いた。
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