大魔王時代の英霊たちは、無事に転生を果たして、テレビを視ていた。
過去の大戦は歴史モノとして定番の人気を誇り、何度もリメイクされている。このアニメ“勇者大冒険記”もそのひとつだ。
週末の夜。ヒュンケルとラーハルトはソファに並んで、間に持った袋のポテチをシェアしながらパリパリと囓っていた。ブルーレイの視聴も何周目かであるためリラックスしたものだ。一回目の視聴では飲み物にも手を付けられずに唾を飲んでいたものだが、今や二人の出会いとなる決闘回を眺めながら雑談に興じたりもできた。
「おまえこんなに毒の無いイケメンだったか? もっと辛気くさかったろう、オレは誰も幸せに出来んとか何とか言って」
「おまえこそ、こんなサラサラヘアでイメージが定着しているのは何故だ? 実用性とかでオレより短髪の時期もあったのに」
とまあ、幾度も描かれているので徐々にキャラやストーリーは変化していたが、既に当時を知る者は魔族ですら生きていないほど大昔の神話なので仕方なかろう。
その時だった。画面の中のラーハルトがとどめのハーケンディストールを放ったシーンで、映像がピタリと静止した。
「なんだ? 故障か?」
ヒュンケルの疑問に答えたのは、画面から響いてくる不思議な声だった。
『突然ですが! ここは、“勇者大冒険記”のカルトクイズに三問連続で正解をしないと出られない部屋です!』
「はあ」
二人してソファから立ち上がり、素っ頓狂な声を上げた。
ラーハルトはポテチ袋をローテーブルに置き、スリッパでバタバタと窓へ走った。
「……! すでに異界か!」
カーテンを引くと、窓の外の光景はいつもの裏路地ではなく、ひたすら真っ白だった。そこが空間であるのかどうかすら分からない。
「閉じ込められたというのか……」
ヒュンケルは廊下に続くドアを確かめたが、開かない。
『では問題です!』
ソファの前に戻り、深刻さを増している彼らを尻目に画面は高らかと開始をした。
『この時のラーハルトの心情を述べよ』
画面はラーハルトの必殺技の大写しである。当然とばかりにラーハルトが回答した。
「この不埒な人間ブッ殺すと思っていた!」
『不正解です!』
「おい オレは本人だぞ!」
『ラーハルトは、人間ごときの志に気持ちが揺らいだ自分が許せず、バランへの忠誠を再び確固たるものにする為には、心引かれる前にヒュンケルを引き裂くしかないと思っていました!』
「いやいや! そこまで複雑なこと考えてなかったぞオレは!」
画面に食ってかかるラーハルトの肩に、後ろからぽんとヒュンケルの手が置かれた。
「諦めろ。この手の問題は国語で散々煮え湯を飲まされたろう。作者の意図を問う問題は、作者でも正解できんらしいからな……」
「……くっ」
悔しさに立ち尽くしていると、画面が変わった。
『では問題です!』
画像はバーンパレスで、ヒュンケルがしんがりを務めた対多モンスター戦の一幕だった。
『ヒュンケルのグランドクルスは一発当たり寿命が何年減るでしょうか?』
「ええっ」
これには二人共が驚愕の声を上げた。
「貴様っ、これを撃つたび寿命が減っていたのか」
「知らん! 断じて知らん! 大体オレは百まで生きたろうが!」
「撃ってなかったら二百までイケたのではないか?」
「イケるか馬鹿者! ……と、ともかく。ええと……十年くらいか?」
『不正解です! では次の問題です!』
「何年か教えろよ!」
画面は、鎧の魔槍を身に付けてヒュンケルの元を走り去るラーハルトになった。
『陸戦機ラーハルトが、バーンパレスで勇者ダイを追いかけたのは何の為?』
「これは決まっておろう! 竜の騎士に部下としてお仕えする為だ!」
今度こそ正解必至と、ラーハルトは画面に人差し指を突きつけたが。
『不正解です!』
またもやハズレて、ついにキレた。
「何故だ! 他にどんな理由でオレが走ったというのか聞かせてもらおうじゃないか!」
脱いだスリッパを構えて、生半可なことを言ったら画面を割そうな勢いでラーハルトが詰め寄ると、絵は勇者ダイの絵に切り替わった。
『バランが語る想い出を寝物語に育ったラーハルトは、いつしかディーノを弟のように大切に守りたいと思っていた為です』
「おお……」
ラーハルトは感動のあまりスリッパをポロリと落とし、目頭を押さえた。
「その解釈、イイ……尊い……」
「おいっ、頑張れよ本人! ここから出られなくなるぞ!」
カルトクイズの夜はまだ続きそうだ。
2023.08.26. 17:45~18:50 +10分 =通算75分 SKR