「俺たち、恋人になりましょう?キスだって出来ますよ」「キッショ。スベッてんで自分」
俺が侑さんに告白して帰ってきた言葉。こっぴどく振られた。好きになってしまったと伝えた。だって、あんなにかっこいい人に対してあんなに優しくされたら誰だって絆される。
「翔陽くんやぁ〜」
俺を見つければそう言って近づいてきてくれた。肩を抱かれて、ニコニコして、でっかいワンコみたいに懐いてくる人だと思った。けれど、もちろん頼もしい先輩で、困っている事はバレー以外の私生活でも助けてくれた。そして俺を高く高くとばす綺麗なトスを上げてくれる尊敬するセッターだ。俺を自由に導いてくれる人だ。
俺は男だけど、多分、男が好きなのだとブラジルで気付いた。背が高くてガタイが良くて顔がカッコいいあなたみたいな人がタイプなのに。
侑さんの目線。態度。醸しだす雰囲気。男の人にもモテる人だと思った。俺のこの気持ちを拒んだりはしないのではないかと直感で思ってしまっていた。
妖艶で、すげぇ大人なかっこいい雰囲気で俺に「翔陽くんやったら俺キスできるで」って言うから、そんな事言うから信じてしまったじゃないか。そんなだから勘違いするんだ。
でも、好きじゃないなら仕方ないよ。俺だってちゃんと諦められる。なのに、なんでそんな酷いこと言えるんだ。
傷つくよりも前に、怒りが沸騰した。思わず胸ぐらを掴んで壁に押し当てる。
「痛っ、なにすんねん、ボケ!!」
「なんなんすか!なんでそんな酷いこと言うんですか!」
「はぁ?うっさいねん!!!でっかい声出すな、クソ豚!!離せコラ!!」
「嫌です!!俺にそんなこと言った理由聞くまで離しません!!」
「離せクソが!!」
横っ面が瞬間熱くなって吹っ飛ばされる。取っ組み合いになって、無我夢中で喧嘩して侑さんの顔に血が流れてるのにも気付かなかった。「何してんねん!」と制止する声が聞こえてようやく我に返って、愕然とした。
*
大喧嘩を制止されて、お偉いさんに話が行く前に話を止めてくれた明暗さんに監督の元に連行された。大説教の最中に先に手を出したのはどっちやと聞かれて素直に手を上げた翔陽くんに監督もコーチも明暗さんもがギョッとした。
結局、厳重注意と3日間の自宅謹慎でことが済んだ。
なんやねん。なんで俺まで自宅謹慎やねん。絶対、俺100パー悪ないやろ。
俺、ホンッマにエイプリルフールで嘘つくやつ嫌いやねん。あれの何がおもろいん?クソスベっとる癖にドヤ顔しよってアホちゃう?
そのスベってるネタに巻き込まれんのも最悪や。まぁ、大方一番下っ端の翔陽くんに悪ノリで無理矢理させたんやろう。翔陽くん、言いにくそうに緊張しとったし。そんなん頼む奴らの目星はついとる。体育会系のノリでクッソスベってダサすぎるやろ。まぁでもええわ。そんなんどうでもええ。それよりや、そんな事よりや。翔陽くん、気付いてたやろ。俺の気持ち。ようやりもせんアプローチに応えてくれる様な態度やったやん。そやのに酷いやんか。ついてええ嘘とアカン嘘があるやろ。
塞ぎ込んでてもしゃーないって思うけど、自宅謹慎はまだ解かれてへんし、口の中が痛い。殴る事ないやんか。俺のは、あれは正当防衛やし。はー、もうホンッマに!
イライラしとるところにノックが来客を知らせる。はー、めんど。と思いながら扉開いたら「は?」って声出たわ。
そこに立ってたんは、眉毛下げてこの間よりも緊張しとる翔陽くんやった。口元のガーゼが痛々しい。まぁ、殴ったん俺やけど。
「…部屋出たらアカンのんちゃうん?」
「明暗さんに許可もらってます。謝りたいって思って」
甘やかされてんなぁ。
「見られても困るし突っ立っとらんで、中入れや」
まぁ、結局部屋に入れて茶ぁ、淹れてやってる俺もじゅーぶん甘いけど。
せやけど、酷いことされても好きは好きやし、嫌いになられへん。頬、腫れとるな。俺の方が腫れてるけど。明暗さんが翔陽くんに「お前はもうちょっと加減せえ!!」って怒ってたん思い出した。俺もそんな手加減はしてへんかった事は誰にも言われへん。
「侑さん、殴ったりしてすみませんでした」
「それは、俺も手ェ出たし」
ええねん。ええねんけど。そんなことよりもや。
「謝るんって、それだけなん?」
「それだけ、です」
はぁ?舐めすぎちゃう?!なんのために謝りきたんじゃこのガキ。ってまた怒鳴りそうになったところで、アホらしくなった。顔も見たくない。
「はよ帰れや」
って言う前に、見たくもない翔陽くんに見つめられた。翔陽くんのあの目や。見たくもないくせに強い目で見つめられるんが結構好きやって思う自分が心底嫌や。金縛りみたいに身体が動かん。
「俺は、申し訳ないですけどすぐに気持ち変わりません。好きになってしまった事は謝りたくないです。少しずつ、忘れていくんで、それで許してください。お願いします」
強い目しとったけど、最後消え入りそうな声で頭だけは下げてきた。許してやりたい。可哀想やし。こんなにも可哀想になってんねんから。それに俺やっぱり君のことが好きや。
いや、その前に。翔陽くん。え、待って?何のことや。
「何のことって!俺の告白、キショいって言ったじゃないですか!」
俺は驚きすぎて心の声が出てたみたいや。
「え?え!だって、あれエイプリルフールやろ?!」
「は?!エイプリルフール?」
「やって、昨日4月1日やん!」
「それは、新年度新たな自分になりたいなって願掛けただけです。それに、エイプリルフールにつくには重すぎません?その嘘。笑えないし」
「…おん」
翔陽くんの真顔がキツい。正論すぎる。俺もそう思ったからキレ散らかしたんやし。
「んじゃ、本気やったってこと?」
「はい。でも、嘘だって思われてたって事ですか?」
「…すまん」
「勘違いは仕方ないです。ちょっと、ショックだけど。忘れて下さい。俺も忘れます」
「嫌や」
「え?」
「忘れんで。俺も、…っ、」
「侑さん、もしかして」
「おん…」
「泣いてます?」
「泣いてへんし!」
なんでそっちなん!?いや、ホンマに泣いてへんし!自分がダサすぎて死にそうになってるだけで!翔陽くんの指が頬に触れる。
頬に触れる指が硬い。バレーボールを愛してきたやつの指の腹や。好きやと思う。泣いてへん言うてるやん。
「だって、泣いてそうなくらい悲しい顔してたから、俺が酷い嘘をついたと思った時辛かったですよね。だから、ごめんなさい」
ああ、かなわん。何食べたらそんな優しくなれんねん。俺は勘違いでブチ切れられたらブチ切れ返してそのままや。でも、翔陽くんもブチ切れてたな。そういうところも、好きやと思う。俺より喧嘩強いんもカッコええと思えんねんから好きってすごいな。教えたらんけど。
「俺たち、恋人になりましょう?キスだって出来ますよ」