パーティーに参加するニクアンの話朝、ポストに届いた手紙をニクスさんのところへ運ぶのが私の一日の始まり。陽だまり邸に来たばかりの頃はわざわざそんなことまでしなくていいと言われたけれど、何だかんだ理由をつけてニクスさんに会いに行く機会を増やしたい私の思惑はすぐに気づかれてしまったようで、今は受け入れてくれている。彼も私と同じ気持ちでいてくれているのだと思えば、眠い朝でもベッドから出るのは容易いことだ。

「アンジェリーク、社交パーティーに興味はありませんか？」

手紙を一通り確認し終えたニクスさんからの第一声は、そんなお誘いだった。

「社交パーティー、ですか？」
「ええ。以前飛び入りで舞踏会に参加したことがあったでしょう？あの時の主宰の方がまた二人で是非、と」

逃げ道を用意してあげるニクスさんと逃げないアンジェアルカディアに、新たな女王は生まれなかった。
女王の卵は女王となることを選ばず、人間として世界のためにできることをしながら生きる道を選んだ。
女王が生まれれば簡単に得られたはずの幸福を、人々は努力をしなければ得られない。今までだってそうだったはずなのに、中には一度目の前に吊り下げられた『女王』という餌に抗うことができない者もいた。
誰だって楽に良い生活ができるのであればそのほうが良いだろう。誰も責められなかった。



「…また、考え事ですか？アンジェ」
「……ニクスさん…」

タナトス、そしてその根源であるエレボスを浄化したとはいえ、世界はまだその爪痕を色濃く残している。郵便受けから取り出した新聞には、今こそ女王の力で世界を再生すべきだという女王派の記事が載っていた。