キス文字が書かれた面を伏せた淡黄蘗色の和紙の裏側に、紫色の小さな花を並べる。圧力を掛けらて水分が抜けた花は、庭に咲いていた時の立体感は失くしたが、平面状になっても咲いたままの姿を残していた。
100円ショップで購入したラミネートフィルムに和紙を挟んでから空気を抜き、パンチで開けた穴に赤いリボンを通す。
「兄上…」
思いを込めて愛しい名を呼び、文字に唇を寄せた。
これは決して気付かれてはいけない恋心。
◇◇◇
夕方まで降り続いていた雨は、杏寿郎が帰宅する頃には止んでいた。
「千寿郎は大丈夫だったか?」
ダイニングで一人、遅い夕食を摂る杏寿郎の椀におかわりの味噌汁をよそう千寿郎は、元々の下がり眉を更に下降させる。
「俺が帰る時にはまだ降っていたので、足元がびしょ濡れになりました」
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