フォーチュンドール1章2話参加する気のなかった学校行事に参加することになった幸は、まず唯と雫がどれだけ戦えて、どれだけ能力を使いこなせるのか分析していた。
唯はそこそこ身のこなしはいいもののぬいぐるみを動かす程度ではほぼ戦力にならず、雫も大した運動神経はなく、驚いたことに能力のわりに画力がとんでもなく悪いのだ。
試しに何か描ける絵はないのかと描かせてみたのだが、本人曰く目玉焼きを描き、それを実体化させてみると、なんと水色のドロッとした液体が出てきたのだ。
いわゆるスライムが出てきたものだ、ただ出てくるだけだったらいいのだがこれが動いてるんだから厄介だった。これを倒すだけでもこのチームでは難しく、時間差で実体化した絵は消えたものの、周りの生徒に見られるや否や成績のために戦いを申し込まれ、ろくに戦えずに負けまくるという事態…。
戦ってるのはほぼサリアだけなのだが、そのサリアも基本は守りの姿勢を崩さないので攻めることがないとなると当然負けるのである。
こうなってくると最終手段はカバンの中にあるもう一つの人形なのだが、攻撃的過ぎて手に負えない代物なのだ。
カバンと言っても幸は表向きカバンを持っていない。幸だけではない、この学校の生徒はカバンを持ち歩いていない。というのもこの学校で支給されたのは携帯式の結界装置だけではなく、マジックバッグと言われている魔法を利用したカバンがある。一見すると虚空からカバンの中身を取り出す形になる、中の管理は持っている本人が行うので中身が整頓されている者もいればそうでない者もいるらしいが他人からはほぼ見えない。
簡単に言うと、ゲームで一見してカバンを持っていないキャラがやたらと敵を倒して手に入れた素材とか持っててポケットから取り出しているようなものである。え?そんな普段しない?ファンタジーだよ!
さておき、話は幸のほうに戻すとしよう、また他のチームが戦闘を繰り出してきたのだ、今度の相手は以前、唯と雫を誘おうとしていた同級生だ、こいつちゃんとチーム組めたんだな。
戦闘中に幸は作戦を考えるもあまり余裕はない、サリアがシールドを張っているので遠方からの攻撃を考えた。
「雫、銃はかける?簡単なのでいいわ。」
しかし、雫の画力で銃などかけるわけがなく、せめて弓矢にでもしておけばよかったと思う幸、なんとバールのようなものが出てきたのだ、予想とどうしても違うものが出てくる雫はより一層焦るが唯がこれなら持てる!と言って、バールのようなものを持ち相手を殴りにかかる
3人の中では身のこなしはいいもののあくまで3人の中でなので相手からしてみるとただ無防備に突っ込んでいるだけなのだ、唯は相手に近づく前に魔法で突き飛ばされる。
サリアはせめて何か攻撃をとシールドを蹴り飛ばし相手にダメージを与えるが、次のシールドを出すまで完全に全員が無防備になってしまったためあっさりと負けてしまった。
戦闘終了後、結界を仕舞い満面の笑みで相手となった同級生が幸にかなりの近づいて話しかけてきた。幸はあまりの近さに少し後ずさるが、手に持っていたサリアを力づくで奪われてしまう。
「お前らと定期的に戦ってれば好成績も夢じゃねぇな~、でもこいつが邪魔だな。」
「ちょっと、放しなさいよ!そんな薄汚い手と思考で私に触るんじゃありません!」
「…返して。」
「あぁん?うるせー人形と雑魚転校生だな。下級生も俺と組んでいたらこんなことにはならなかったのにさ。後悔しろ!」
そういって同級生はサリアと地面にたたきつけ、足元に転がったところを踏みつける。幸はかなり取り乱し、同級生に対しやめてとなんども言うが、聞く耳を全く持たない彼は、結界もない状態で魔法を使い思いっきりサリアを破壊したのだ。
「いやあああああああああああああああああああ!!!!」
幸の叫び声と同級生の笑い声が聞こえ、唯と雫も唖然としている。
うなだれた幸に同級生が近づく、同級生のチームメイトがさすがにやりすぎじゃないかと言っているが、さらに追い打ちをかけようとした瞬間、幸は同級生を睨みつけて、虚空に手を伸ばした、そして引き抜いたのは黒ベースのゴスロリドレスが特徴のかなり完成度の高い人形、その人形は閉じていた目をギロッっと開き、紫の光を見せてにやりと笑った。
次の瞬間、その人形は手を伸ばし、その先にいる相手のチーム全員に目掛け蒼い雷撃を放つ、そして雷撃の当たったところには冷たさのまるでない氷の結晶に相手のチームのやつらが閉じ込められて全く微動だにしていない。
はっと気が付いた幸はすぐに人形をカバンにしまい、結晶に手をあてる。
唯と雫は一瞬のことに頭が追い付いていないが、幸のもとに駆け寄った。
その後、先生たちがやってきて、なぜ結界を張らずに戦っていたのか、ことの発端などを話した。結界は強引に力を加えれば壊せるものだったので同級生たちは無事に救出された。唯と雫は幸をかばって先生たちに説明をしたが、問題を起こしたのは幸であるため、幸は問題児扱いを受けることになった。しかし、幸の武器である人形を結界なしで壊した同級生にも基礎評価減点という罰が下されていた。
幸が学校で起こした事件をきっかけに、幸のチームに対して戦いを挑むチームはかなり減少した。しかし、サリアが壊れてしまったことで戦力がより一層足りないこのチームをどうするべきか、幸は唯と雫にゴスロリドレスの人形「アリサ」の事を話す。
幸は前の家が火事になってしまい、その際にたまたま手元にあった唯一の自作の人形であるアリサは幸の中でも最高傑作で、幸は珍しく魂を入れる気になったのだが、あまりのアリサの出来の良さと魂の波長と合ってしまったという。その結果、アリサの中に魔力の核(以降マナコアという)ができてしまったためアリサは幸の想像してる以上に魔法が使えるがアリサの性格も凶暴で、魂を入れてすぐに幸を攻撃し始め、サリアに封印されていたのだという。そして、いつか幸が面倒を見れるようになったら幸のタイミングで封印を解くようにサリアから言われていたのだという。
しかし、サリアが壊れてしまい、自棄なってしまった幸は封印を解いてしまった。今はカバンの中にいるものの、何かの拍子に出てくる可能性は否めない。
まず、幸が初めにやることはアリサの説得である。
「私は、アリサを説得して、どうにか使いこなせるようにしないといけない。」
「でも説得するって、どうするんですか?」
「私は結界の中でアリサと話します。」
「あの…で、でも…もし、幸さんがあの人たちみたいになったら…」
「そうしたら結界を解除してくれるかしら?そうすればなかったことになるでしょ?」
「それって…人形を逃がすことにもなるんじゃ…。」
「そうならないために何とかする。」
「いや、危険すぎます!やめましょう幸さん!お願いです!」
「けじめをつけてあげないといけないの!」
「幸さん…今日はもう休んでください!落ち着いてください!ねぇ?」
「わかったわ。でも明日、朝はやくに結界を張ろうと思うわ」
幸は暗い顔のままその場を後にする。幸の手には土台となっている部分だけかろうじて残ったサリアの残骸が握られていた。
唯と雫はどうにか幸を助ける方法を考えようとするが、自分たちの頭や能力ではどうにもならず、日も暮れてきたので雫は兄が心配するからといって先に帰ってしまった。
残った唯は、考えがまとまらず学校の中をひたすら走った。誰か、誰か助けてくださいと叫びながら、どの教室の前を走っているかもわからず、ひたすら助けを求めていた。
その声に耳を傾ける生徒が一人いた。
つづくと思いたい