AA▲▲ワンドロ文章「兄さん」
弟から差し出されたファイル。結びかけた視線は咄嗟に踵を返し、一瞥もなく受け取る。一瞬重なる指先、肩の深くから火花が散ったような熱と衝撃にびくりと震えれば、クダリは片眉を寄せて小首をかしげた。
「兄さん?大丈夫?」
クダリの手が、労りをもって私の肩に降りかかり、吹き上がる胸中の熱。私のモノでない激情を体内から飛散させるため、頬を伝う冷や汗。
──“彼”が、怒っている。
宥めるように無意識から胸を撫で、いっそう怪訝に歪むクダリの顔を視界の端で捉えてはいやな動悸に苦しめられた。
(ごめんなさい、ごめんなさい)
それは一体、彼に向けたものか、クダリに向けたものか。
私はクダリを振り返ることなく、その場を去った。
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