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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチのお正月デートと駆け落ちの日ネタです。ちょっとシリアスなシーンがあります。

    ##TF主ルチ

    お出かけ 小さい頃は、電車に乗るのが好きだった。電車に乗るのは特別なお出かけの日だけだったから、線路の先が非日常へと続いているような気がしたのだ。
     大人になった今は、自由にどこへでも出掛けることができる。それでも、電車で向かう観光地というのは、特別な感じがしたのだ。
    「今日はお正月休み最後の日だから、電車に乗ってお出かけしようよ」
     そう誘うと、ルチアーノはいつものように嫌そうな顔をした。
    「嫌だよ。ワープが使えるんだから、わざわざ人混みに入らなくてもいいだろ」
     確かに、その発言は正しい。僕たちは、ワープで好きなところに行くことができるのだ。でも、それではダメなのだ。
    「ルチアーノにも体験してほしいんだよ。電車でのお出かけを」
     僕が言うと、彼は呆れたように笑った。感触は悪くないようだった。
    「君って、本当に変なやつだよな。いいぜ、お出かけとやらに付き合ってやる」

     ネオドミノシティ中央駅は、人で溢れていた。正月休み最終日なだけあって、登りも下りも満員状態だ。
     郊外へと向かう電車に乗ると、ルチアーノを隅の方へと誘導した。人に押されないように、自分の身体でバリケードを作る。
    「どこに行くか決まってるのかよ」
     ぴたりとくっつきながら、ルチアーノが尋ねた。
    「今のところは、何も決まってないよ。この先にお城があるから、そこに行ってみようかなって思ってるくらいで」
    「なんだ。誘っておいてノープランかよ」
    「たまにはいいでしょ。何も考えない旅って言うのも」
     他の乗客の喧騒で、身長差のある僕たちは声を張り上げないとお互いの声が聞き取れない。それ以上は話をすることもなく、ただ人混みの中に溶け込んでいた。
     周りから見た僕たちは、どのような感じなのだろう。年の離れた兄弟か、友達同士か。きっと、恋人同士には見えないだろう。
     乗り換えの駅に着くと、ルチアーノの手を引いた。人混みを掻き分けて、次の電車に乗る。窓の外は、いつの間にか田園風景になっていた。
    「着いたよ」
     そこは、小さな城下町だった。駅を降りると、目の前には昔ながらの町並みが見える。城下町を抜けた先には、復元された城の姿が見えた。
     ルチアーノの手を引いて、城下町を歩いていく。ちょうどお昼時だから、ここでご飯を食べることにした。
     城下町なだけあって、食べ物を売る店が多い。みたらし団子や、たい焼き、ソフトクリームを売る店や、うどんや蕎麦を提供する食事処まである。
    「ルチアーノは、何を食べる?」
    「別に、何も要らないよ」
    「せっかく来たんだから、何か食べようよ」
     僕は自由に食べ歩きをしていた。みたらし団子を食べ、あんこ餅を食べ、温かい甘酒を飲む。こういう食事も、観光の醍醐味だ。みたらし団子を差し出すと、ルチアーノも食べてくれた。
     彼にとっても、城下町は珍しいみたいだった。時折、キョロキョロと周囲を眺めながら、城までの道を歩く。知識では知っていても、自分の目で見るのは初めてなのだろう。
     城の観光は、順番待ちになっていた。最後尾に並んで、列が進むのを待つ。
    「作り物の城を見るために、わざわざ並ぶのかよ。人間は物好きだな」
    「戦国時代の建物の再現なんだよ。ロマンがあると思わない?」
    「別に。見ようと思えば本物だって見れるじゃないか」
     ルチアーノはつまらなそうに言う。時間を越えられる彼には、歴史のロマンという概念が無いのかもしれない。
    「人間は時間を越えられないからね。歴史を感じられるものに、ロマンを感じるんだよ」
    「そう言うけど、君はこの城が誰の指示で建てられたものかさえ知らないんだろ?」
     言われてみればそうだ。どこの誰が建てたのかも知らないお城を、僕たちは有り難がって観光する。
     それでも、お城からは神聖な空気を感じるのだ。積み重ねられてきた歴史と、人々の息吹を感じてしまう。
     順番が回ってくると、入り口で靴を脱いで、天守閣へと登った。急勾配の階段を登りながら、要所要所を見物する。所々に取り付けられたパネルには、設備の説明が書かれていた。
    「歴史のロマン、か……」
     隣で、ルチアーノが呟く。未来人である彼にとっては、僕の生きるこの時代も歴史の一部なのだと、今さらになって気がついた。
     頂上からは、城下町全体が見渡せた。駅前のレトロな町並みと、遠くに見えるビルの群れが混ざり合う様子は、なんだか不思議に感じた。
     あっという間に天守を一周して、地上へと降りる。観光の時間よりも、並んでいる時間の方が長いくらいだ。これも、観光地の醍醐味だった。
     城下町に戻ると、ルチアーノの手を引いて雑貨屋へと向かった。
    「せっかく来たんだから、お揃いのお守りを買おうよ」
    「ひとりで買えばいいだろ」
    「一緒の思い出がほしいんだ。お願い」
    「…………仕方ないな」
     頼み込んで、なんとかOKをもらう。ルチアーノは、僕のお願いをほとんど断らなくなっていた。
     うさぎの刺繍がついたお守りを手に取ると、レジに向かう。
    「はい。僕からのプレゼントだよ」
     手渡すと、おとなしく受け取ってくれた。ほんのりと頬が染まっているのは、寒さが理由なわけではない気がした。

    「もう一ヵ所、行きたいところがあるんだ」
     駅まで戻ると、僕はルチアーノにそう言った。人の流れとは反対側の電車に乗る。二十分ほど揺られると、建物のあまり無い殺風景な駅で電車を降りる。
     ルチアーノの手を引いて、人の少ない道を歩いた。どんどん、町並みから遠ざかっていく。
    「どこに行くんだよ」
    「秘密」
     僕が向かった先は、海だった。観光地のような遊ぶための海ではない、ただ見るだけの海だ。砂浜を歩いて、遠くに沈む太陽を眺める。
    「海…………」
     ルチアーノが小さな声で呟いた。初めてなのだろう。興味深そうに目の前の景色を眺めている。
     観光地ではないが、ここにもちらほらと人の姿が見える。吹き付ける海風に、身体が凍えそうになつった。
     海。それは、最初に生命が生まれ落ちた場所であり、やがて、全ての生命が還るところだ。海には何もないが、何もかもがある。
     ルチアーノをここに連れてきたのは、僕が覚悟を決めるためだった。ここでなら、僕は彼に本当の想いを伝えられる気がした。
     僕は、どうしてもルチアーノに言いたいことがあった。僕は、ルチアーノの傷を知っている。痛みも、苦しみも。彼が、夜に一人で泣いていることも、ひとりでいる時に、温もりを求めていることも知っている。
     もし、ルチアーノが逃げたいと望むなら、僕はルチアーノの味方でありたい。彼に、選択肢を与える存在でいたいと思う。
     目の前では、海が静かに揺れている。少し前を、ルチアーノが髪を靡かせながら歩いていた。
    「ねぇ、ルチアーノ。今日は、駆け落ちの日なんだって」
     僕が声をかけると、ルチアーノは首だけでこちらを見た。いつもの雑談だと思っているようだった。
    「それが、どうしたんだよ」
     平淡な答えが帰ってくる。僕は大きく息を吸うと、平静を装って言った。

    「このまま、ネオドミノシティから逃げちゃおうよ」

     ルチアーノが歩みを止めた。髪を潮風に靡かせながら、ゆっくりとこちらを振り返る。
    「それ、本気で言ってるのかよ」
    「本気だよ。僕は、ルチアーノと駆け落ちしたい」
     ルチアーノは戸惑っているようだった。ふわふわと目線を泳がせてから、再び僕を見る。
    「僕の使命はどうなるんだよ」
    「捨てちゃえばいいんだよ」
    「今までの生活は? 家はどうする気だよ」
    「新しくすみかを見つけて暮らそう」
    「きっと、神様が許さないぜ。地の底まで追いかけてくる」
    「その時は、全力で戦うよ」
     ルチアーノにも、僕の覚悟が伝わったようだった。迷うように一度海を見て、もう一度僕を見る。

    「僕は、駆け落ちなんてできないよ」

     至極当然の答えだった。彼は、自らの使命のために作られたアンドロイドだ。使命に背くことなどできないのだろう。
     ルチアーノは、絶対にネオドミノシティから逃げられない。
     僕はそっと彼に近づいた。隣に立って、静かに頭を撫でる。海の向こうでは、今にも日が沈もうとしていた。黙ったまま、海の中へと消えていく太陽を眺める。
    「ルチアーノ」
    「なんだよ」
    「僕は、いつでも君と駆け落ちする覚悟ができてるからね」
     ルチアーノは何も答えなかった。ただ、黙って手を取ると、元来た道を歩き始める。
    「帰るぞ」
     僕たちは、また、町へと帰っていく。僕たちの住む、ネオドミノシティへ。

     町へと近づくごとに、車内は人が増えていく。町並みもビル群へと切り替わり、日常に戻っていく感じがした。
     子供の頃は、帰り道が寂しかった。非日常から日常へ、僕たちは帰らされてしまう。
     電車に揺られていると、その頃の気持ちを思い出す。今、隣にいるルチアーノは何を考えているのだろう。寂しさを感じたりしているのだろうか。
     そんなことを考えていると、ルチアーノに名前を呼ばれた。
    「どうしたの?」
     声をかけると、恥ずかしそうに俯いてから、耳を貸すように指示をされる。顔を近づけると、小さな声で言われた。
    「僕を心配してくれて、ありがとう」
     顔を見るが、ルチアーノはすぐに俯いてしまう。頬は赤く染まっていた。
     乗り換えの駅に着いた。そっとルチアーノの手を引いて、次の電車へと向かう。
    「夜ご飯は、カレーを食べようか」
     僕が言うと、ルチアーノも嬉しそうに言う。
    「具材はシーフードな」
     子供の頃は、帰り道が寂しかった。非日常から日常へ、僕たちは帰らされてしまう。
     でも、今は、隣にルチアーノがいるのだ。彼と一緒なら、どんな日常も乗り越えて行ける気がした。
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