深淵よりもなお深い 風呂から上がると、真っ直ぐに青年の部屋へと向かった。電気もまともにつけないまま、ベッドの上の布団を捲り上げる。真っ白なシーツに足を乗せると、布団との隙間に潜り込んだ。布地に顔を埋めると、ふわりの青年の香りが漂う。
暗闇の中に身を委ねながら、僕は静かに涙を流した。この発作をやり過ごすには、静かにしていることが一番だ。下手に抗おうとすれば、余計に虚しさは強くなる。青年の腕に抱かれて、静かに涙を流すことが、余計な恥をかかずに済む一番の方法なのだ。
愛してくれる者を失った絶望。それが、僕の本質だった。封印された記憶が解き放たれた時、僕は知ってしまったのだ。この身体には、深淵よりも深い悲しみが眠っていることを。その悲しみは、常に僕の心を覆い尽くし、食らい尽くそうとしてくることを。
1972