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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主くんに片想いをするモブ女子がルチの存在によって失恋する話です。若干TF主くんの夢小説みたいなところがあります。

    ##モブ視点

    片想い この町には、最強のデュエリストがいるらしい。
     その人は、誰にも負けないカード知識とデュエルタクティクスを持ち、誰と戦っても必ず勝ってしまうのだという。キングの称号を得た不動遊星やジャック・アトラスですら、彼には敵わないのだ。
     彼は誰とでもタッグを組む。大人も子供も、経験の差も、その人は全く気にしなかった。デッキを持っていることと、デュエルを望んでいること。それが分かれば、彼は相手をタッグパートナーに選んだ。
     神出鬼没の最強デュエリスト。その噂は、瞬く間に町中に広がり、黒薔薇の魔女に次ぐ都市伝説となった。
    ──赤い帽子の男は、秘密結社が造り上げたデュエルロボである
     さすがに、人間そっくりのロボットなんていないだろう。しかし、人々の尊敬と恐れの気持ちは、彼をひとつのフィクションにしてしまったのだ。学校ではその人の目撃証言が駆け回り、デュエルをしたという男子生徒が武勇伝を語っていた。噂によると、その男は私たちと同じくらいか、少し年上くらいらしい。赤い帽子に、赤いジャケットを羽織った特徴的な姿で、毎日のように違うタッグパートナーを引き連れているのだ。その中には、不動遊星やジャック・アトラス、黒薔薇の魔女の姿もあるのだという。
     彼は、今日も町の中を彷徨っているのだろうか。デュエルの相手と、タッグパートナーになる存在を探しながら。そんなことを考えながら、私は教室の隅でそんな会話を聞き流していた。

     私が初めてその人を見かけたのは、いつのことだっただろうか。もう、随分前な気もするが、つい最近だったような気もする。
     シティの繁華街を歩いていると、赤い帽子の青年を見かけたのだ。帽子を目深に被り、顔を隠した姿は、確かに怪しいし、人目を引く。隣では、小学生くらいの男の子が、楽しそうに寄り添っていた。
     青年は、男の子に引っ張られているようだった。男の子は時折後ろを振り返りながら、楽しそうに前を歩いている。そんな男の子に置いていかれないように、青年は早足で先に進んでいた。
     男の子が楽しそうに何かを話すと、青年は困ったように笑った。何かを言い返すと、今度は男の子が笑う。
     彼らはあっという間に私の前を通りすぎ、見えなくなった。二人の消えた通りの向こうを、私は呆然と見つめていた。
     男の子と楽しそうに話しながら、町を横切る青年の姿は、恐ろしいデュエルロボには見えなかった。ただ、面倒見がよくて、デュエルが好きなだけの、ただの若者なんじゃないかと、私は思ったのだ。
     
     その日から、私は彼に興味を持つようになった。誰かに興味を持つなんて、私にとっては初めてのことだ。私は、できるだけ人と関わりたくないと思っているのだから。自分でもびっくりしたくらいだ。
     その日から、全力で彼の情報を収集した。表だって人に聞いたら気づかれてしまうから、こっそりと学校の噂話を聞いた。いつ、どこでその男を見かけたとか、誰と一緒にいたとか、そういう話を聞き付けると、こっそりと耳を済ませた。
     インターネットの投稿も、私の情報源のひとつだった。ネット上には、さまざまな一般市民の書き込みがある。ネットの噂によると、その青年の名は○○○と言い、キングと親しい謎の人物として、ネオドミノシティで話題になっているようだった。
     彼は、シティ繁華街や治安維持局周辺、それに、キングの住むポッポタイム周辺に出没することが多いらしい。時刻は午後が多く、平日の学校帰りが狙い目らしかった。
     私は、学校帰りに繁華街へと向かった。あの青年の様子を観察するためだ。青年の目撃情報をが多いところを中心に、一時間くらい、同じ場所に留まっていた。
     青年を見かけたことは、何度かあった。ある日は、アカデミアの制服を着た女の子と話しながら歩いていた。女の子は腕にデュエルディスクをつけていて、気さくに青年に話しかけていた。そんな姿を見せられたら、行動なんか起こせない。私は、ただ二人の姿を見送った。
     ある日は、小さな男の子と歩いていた。楽しそうに何かを話しながら、繁華街を通りすぎていく。子供の面倒を見るお兄さんのようで、やっぱり、声はかけられなかった。
     ある日は、不動遊星と並んで歩いていた。町の中を歩くキングと謎の人物の姿に、何人かが振り返って視線を向けている。仕事の帰りなのか、遊星は工具箱を手にし、青年は紙袋を抱えていた。
     二人は、気さくな態度で何かを話していた。不動遊星は誰にでも優しいと言われているけど、二人の距離の近さはそういうものではない気がした。
     一人の男性が、不動遊星に声をかけた。にこにこと笑いながら、何かを話している。遊星はあまり表情を変えずに、それでも、穏やかな態度で言葉を返していた。
     会話から外れた青年が、周囲に視線を向けた。帽子の下に隠された瞳が、彼らを見つめる視線を捉えていく。人々は、気まずそうに視線を逸らした。
     青年が、私のいる方向に視線を向けた。目と目が合った、ような気がした。ここからでは見えない青年の瞳は、確かに私の瞳を捉え、少しだけ口角を上げた。
     心臓がどくんと音を立てた。慌てて目を逸らし、駆け足でその場を去る。一度も振り返らずに、逃げるように家へと帰った。
     青年は、確かに私を見ていた。私を捉えて、笑うような表情を見せたのだ。
     まだ、心臓がどくとくとなっていた。認知されていた可能性を知って、血の気が引く。恐怖に視界が歪んだ。
     その日から、私は彼を探さなくなった。放課後は真っ直ぐ家に帰り、必要な時以外は繁華街へ出ることをやめた。あの青年に会うことが怖かったのだ。見ていたことを知られてしまった以上、何を言われるか分からない。
     それなのに、運命は私と彼を引き寄せようとした。休日の午後、繁華街を訪れた時に、私は再びあの青年を見かけたのだ。
     その青年は、珍しく一人で歩いていた。誰かを探すように周りを見ながら、大通りを歩いている。その姿が気になって、ついつい彼の姿を見つめてしまった。
     青年がこちらに視線を向けた。帽子の影に隠れた瞳が、真っ直ぐに私を見る。一瞬だけ、時が止まったように感じた。
     もう、どうにでもなれと思った。この青年は、私をストーカーだと思っているだろう。だったら、自分から声をかけてやろうと思った。
     私は、真っ直ぐにその人の元へと向かった。つかつかと歩み寄って、真っ直ぐに彼を見る。震える声で告げた。
    「あの、誰かお探しですか?」
     彼は、驚いたように私を見た。帽子の影に隠れていて、表情は見えない。私を観察して、小さく首をかしげた。
    「君、どこかであったこと、ある?」
     質問に質問で返されてしまった。
    「話すのは初めてです。何度か、すれ違ったことはありますけど……」
    「僕のことを見てたから、知ってるのかと思って」
     やっぱり、気づかれていたのだ。羞恥で顔が赤くなる。
    「貴方が、噂になってるから」
     そう言うと、彼は驚いたように声を上げた。
    「噂に? 僕が」
     どうやら、何も知らなかったようだ。余計なことを言ってしまった。
    「貴方は、有名なんですよ。強いデュエリストがいるって」
     私が言うと、彼は嬉しそうに笑った。
    「強いって思ってもらえてるんだ。嬉しいな」
     不思議な人だった。確かに、少し変わっているけど、デュエルロボと呼ばれて恐れられている人物には到底見えない。純粋で、話しやすい感じの男の人だ。
    「君も、デュエルするの?」
     思い付いたように、彼は尋ねた。直球な質問だった。
    「少しだけなら……」
     返す言葉は、歯切れの悪いものになってしまう。私は、あまりデュエルが得意では無いのだ。
    「よかったら、僕と組まない?」
     私は、思わず顔を上げた。彼の言葉は、予想外のものだったのだ。
    「私で、いいんですか?」
     彼は、最強とも言われるデュエリストなのだ。私のような一般市民が組める相手ではないだろう。
    「良かったら、組んでほしいな。探してる人もいなかったし、相手を探してたんだ」
     青年はにこやかに言う。純粋な笑顔だった。
    「私で良ければ……」
     私は答える。緊張で、心臓がどくとくと音を立てた。

     青年は、噂通り強かった。私の未熟なプレイングを、的確な対処でフォローしてくれる。普段なら勝率二割の私が、今日は全てのデュエルに勝つことができた。
    「今日は、楽しかったね」
     日が暮れると、青年はにこやかに笑ってそう言った。
    「あの、足を引っ張ってごめんなさい」
     私は謝った。私のデッキはほとんど強化されていなくて、彼に頼りきりだったのだ。
    「気にしないでよ。勝てたんだから」
     青年は言う。そこに、嫌味のような響きは無かった。
     この人は、デュエルを楽しんでいたのだ。不利な状況でも、味方が弱くても、心からデュエルを楽しめる。そんな人なのだろう。
    「君も、楽しかった?」
     青年に尋ねられ、私は考えて込んでしまった。楽しかったかなんて、考える余裕が無かったのだ。私は、足を引っ張らないように気にすることで精一杯だったのだ。
    「分かりません。私は、貴方のように強くはないから」
    「じゃあ、今度は楽しめるようにしようか」
     私は顔を上げた。そんなことを言われるなんて、思いもしなかったのだ。実力が無い人は、楽しむことすらできないのがデュエルだと思っていたのだから。
     青年は、にこにこと笑っていた。まるで、私とのデュエルを楽しんでいるみたいに。その笑顔を見ていたら、もう少しだけデュエルをしてみたいと思った。

     その日から、彼は時々私に声をかけてくれるようになった。連絡先は知らないし、約束をしているわけでもない。町で顔を合わせたら、一緒にデュエルをする。それだけの関係だった。
     彼は、私にデュエルの知識を教えてくれた。デッキを強化し、ルールを教え、攻撃の躱し方を教えてくれた。彼とタッグを組むごとに、私の実力は上がっていった。デュエルが楽しいということを、私は初めて知ったのだ。
     タッグデュエルを重ねるうちに、私は彼に好意を抱くようになっていった。彼は優しくて、私のような弱い相手にも尊敬の念を持って接してくれる。それだけのことが、私は嬉しかったのだ。
     彼とお近づきになりたい。身分違いなのは分かっているけれど、そんなことを思うようになってしまった。

     町に出ると、一番にシティ繁華街に向かった。そこに行けば、高確率で彼に会えるのだ。私の行動は、ほとんど彼に左右されていた。
     繁華街の大通りを歩きながら、きょろきょろと周りを見渡す。しばらく待って、姿を見かけなかったら帰るつもりだった。
    「○○さん、こんにちは」
     後ろから、誰かに声をかけられた。振り替えると、口許に笑みを浮かべた赤い帽子の青年の姿が見える。彼だった。
    「こんにちは。今日はひとりですか?」
    「そうなんだ。一緒に行かない?」
     慣れた態度で、青年は私を誘う。緊張で、心臓がどくどくと鳴った。一緒に出かける回数が増えるごとに、心臓はうるさくなった。
    「今日は、何をしようか」
     私を先導するように歩きながら、彼は尋ねる。
    「○○○さんの好きなところで、いいです」 
    「じゃあ、カードショップにしようか」
     軽い足取りで、彼は目的の店へと歩いていく。繁華街には、カードショップが何件か並んでいて、それぞれのお店の強み弱みを、彼は全て把握しているのだ。
     カードショップを巡りながら、私は新しいカードを買った。彼は、私のデッキに合うカードを丁寧に教えてくれる。彼の優しさに触れていると、彼も、私に好意があるのではないかと錯覚してしまうほどだ。
     そんなこと、あり得るはずがない。でも、もしかしたらと思ってしまう。それほどまでに、私は彼に惹かれていた。
     カードショップを出ると。再び大通りに戻った。空は暗くなり始めていて、空の端がオレンジに染まっている。
     私たちは、次の場所へと歩き出した。大通りを抜けたところに、彼のイチオシのお店があるのだ。そのお店は、繁華街の片隅の路地裏に、ひっそりと立っている。知る人ぞ知る隠れた名店だった。
     路地裏に入ると、どこからか声が聞こえてきた。
    「○○○、こんなところで何してるんだい?」
     子供の声だった。甘ったるくて、少し舌足らずな印象を与える声だ。高くて響く声なのに、どこか重量感と冷たさを感じる。
     青年は、くるりと後ろを振り返った。私も、釣られるようにして振り返る。そこには、子供の姿があった。
     小学生くらいだろうか。真っ赤な髪を長く伸ばし、前髪を左右に分けている。身に纏っているのは、不思議なデザインの服と白いズボンだった。表情は凛々しくて、勝ち気な少女のようにも、可憐な少年のようにも見える。
     子供の姿を捉えると、青年は弾んだ声で言った。
    「ルチアーノ! どうして、ここに?」
    「君の気配を感じたから、来てみたんだ。やっぱり、ここに居たんだね」
     二人は、知り合いのようだった。楽しそうに話をしている。青年の表情は、今までに見たことが無いほど輝いていた。
    「ずっと探してたんだよ。どこに居たの?」
    「用事を済ませてたんだよ。僕だって暇じゃないからね」
     仲が良いのだろう。青年の言葉に、子供は楽しそうに軽口を返している。そのまましばらく話をしてから、その子はこちらを向いた。
    「で、隣の女は誰だい?」
     私は、心臓が止まりそうな思いだった。そう言う子供の声は、息がつまるほどに冷たかったのだ。まるで、浮気を咎める恋人のようだった。
    「僕の友達だよ。たまに、一緒に遊んでるんだ」
     子供は、じっくりと私を眺めた。上から下までと舐め回すように視線を向け、小さく笑みを浮かべる。視線を逸らすと、青年に詰め寄った。
    「僕に隠れて浮気かい? いい度胸だね」
     衝撃的な発言に、私は息を飲んだ。その子は、どう見ても小学生だ。青年と交際しているようには見えなかった。
    「そんなんじゃないよ。ただの友達だって」
     慌てたように、青年は言葉を返す。まるで、恋人に言い訳をしているみたいだ。
    「どうだろうね。僕との約束をすっぽかして遊んでるくらいだから、よっぽど大切なんだろう?」
    「違うよ。先に約束を破ったのはそっちでしょ。僕はちゃんと来てたんだから」
    「だったら、今から付き合えよ」
     そう言って、子供は青年の腕を掴んだ。ぐいっと引っ張って、自分の側へと引き寄せる。
    「分かったよ。それで、許してくれる?」
     諭すように青年が言うと、子供は小さく頷いた。顔を近づけて何かを囁く。しばらく密談をすると、青年がこちらを振り返った。
    「ごめんね。今日は、これで解散にしてもらえるかな」
     私は頷いた。目の前でイチャイチャを見せられたら、何も言えなくなってしまったのだ。この子の前での青年の態度は、他の誰と一緒にいる時とも違っていた。心からその子を愛して、寄り添っているように見えたのだ。
    「じゃあ、また今度ね」
     手を振って、青年は去っていく。少し歩き出したところで、不意に子供が振り返った。
     その子は、勝ち誇ったような顔をしていた。自信に満ちた表情で、見せつけるように、私に視線を向ける。
     この子は、全部分かっていたのだ。私が彼に好意を寄せていることも、彼とお近づきになるためにデュエルをしていることも。全部。だから、わざわざ私から彼を奪うようなことをしたのだ。
     青年は、楽しそうにその子に話しかけている。子供が、視線を青年に向けた。後ろ姿が遠くなっていく。
     私は、この子に勝てない。路地裏に消えていく二人の姿を見ながら、私はそう思った。
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