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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。夜泣きするルチと寂しがり屋なTF主くんがいます。ルチに抱き枕にされたい願望から生まれました。

    ##TF主ルチ

    抱き枕 夜中に、寝苦しさを感じて目を覚ました。なんだか、妙に身体が熱い。寝返りを打とうとして、身体が動かないことに気づいた。
     隣に支線を向けると、金縛りの正体が眠っている。ルチアーノが、僕の身体に両腕を回しているのだ。脇腹にしっかりと顔を押し付けて、すうすうと寝息を立てている。
    「ルチアーノ……?」
     声をかけるが、返事はなかった。眠っているのだろうか。最近のルチアーノは、あまり眠れていないらしい。彼は睡眠など必要ないと言うけど、せっかく眠っているのだから、起こしてしまうのはかわいそうだ。
     不意に、ルチアーノが身動きを取った。もぞもぞと衣擦れの音が響いて、僕を抱き締める腕に力が籠る。起こしてしまったのかと思ったが、そうではないらしい。少しだけ僕から離れると、再び、静かに眠りに戻っていく。
     見つめた顔の上で、何かが光った。月の光に照らされ、キラキラと輝くそれは、零れ落ちた涙だ。涙をこぼしながら、彼は小さな声で寝言を言う。
    「パパ、ママ、どこにも行かないでよ……」
     夢を、見ているのだろうか。僕の知らない、彼すらも完全には分かっていないであろう、誰かの夢を。
     僕は、そっとルチアーノを抱き締めた。起こさないように、そっと頭に触れ、小さな声で言う。
    「大丈夫。パパとママにはなれないけど、ずっと側にいるよ」
     この言葉は、ルチアーノには届かないだろう。それでも良かった。起きている時の彼とは、こんな会話なんてできないのだから。
     僕は、ゆっくりと目を閉じる。ルチアーノの身体は相変わらず熱かったけど、気にならなかった。何度か頭を撫でているうちに、眠りの世界に落ちていた。

    「おい、起きろよ」
     どこからか、不機嫌な声が聞こえてきた。
    「起きろって!」
     身体をゆさゆさと揺さぶられる。目を開けると、ルチアーノが僕を見上げていた。
    「おはよう、ルチアーノ」
     声をかけると、彼は小さく鼻を鳴らした。
    「とっとと離せよ。人のこと抱き枕にしてくれてさ」
     僕は、しっかりとルチアーノを抱き締めていた。昨日の夜中に抱き締めてから、そのままになっていたらしい。慌てて、両腕を離す。
    「ごめん」
     解放されると、彼はごそごそと布団から出た。
    「君って、案外寂しがり屋だったりするのかい? 人を抱き枕にするなんてさ」
     にやりと笑って、ルチアーノは僕をからかう。
    「そんなこと無いよ。一人でも寝れるし、泣いたりもしない」
     答えると、彼はほんのり頬を染めた。眠っている間の記憶は無いと思っていたが、一応、自覚はあるらしい。
    「誰の話だよ」
     不機嫌そうに告げて、部屋から出ていく。その後ろ姿を、寝ぼけた頭で見つめていた。
     ルチアーノは、ずっと僕が起きるのを待っていたのだろうか。力で引き剥がすこともできたのに、おとなしく抱き枕にされていたのだろうか。夜中の僕みたいに。
     先に人を抱き枕にしてきたのは、ルチアーノだ。そんなことは、口が裂けても言えなかった。

     抱き枕には、寝相を安定させる効果があるらしい。体勢によって身体にかかる負荷を、枕が軽減してくれるらしいのだ。おまけに、人を安心させる効果もあるという。
     ルチアーノも、僕を抱き締めている夜は、よく眠れるようだった。僕の身体に顔を押し付けながら、すうすうと穏やかな寝息を立てる。その姿を見ていると、僕も安心した。
     しかし、これには問題があったのだ。抱き枕にする方は寝相が安定していても、される方は体勢が固定されてしまう。何時間も身体を動かせないまま眠る日が続いて、僕の身体は不調をきたし始めていた。関節は痛いし、身体は凝り固まって動かすのも精一杯だ。朝晩にストレッチをしてみたけど、改善には限度がある。
     このままでは、デュエルに影響が出てしまう。そう思った僕は、思いきってルチアーノに抱き枕を渡してみることにした。

    「ルチアーノに、プレゼントがあるんだ」
     そう言うと、僕はクローゼットの扉を開けた。抱き枕は大きいから、部屋の中に隠すことなどできなかった。苦肉の策で、クローゼットの中に隠したのだ。
     縦長のクッションを取り出すと、彼も僕の意図に気づいたようだった。怪訝そうな表情で包みを見る。
    「なんだよ、それ」
    「見ての通り、抱き枕だよ」
     答えると、ルチアーノはあからさまに嫌な顔をした。クッションを押し返して、鋭い声で言う。
    「抱き枕って、親離れできない子供が使うもんだろ。子供扱いするなよ」
     親離れのできない子供。その言葉に、やっぱりという気分になる。彼は、自分の深夜の行いに気づいているのだ。自分の不安定さも、夜中の涙も、全部自覚している。自覚しながら、触れられないように隠している。
     ルチアーノは、強がりな弱虫だ。いびつな環境で育った子供は、人に弱みを見せられなくなる。彼は、そんな子供だった。
    「抱き枕を使うのは、子供だけじゃないんだよ。寝相が改善されて、健康にいいんだ」
     説得しようとするが、彼は聞く耳を持たない。枕を持ち上げると、ベッドの上へと投げ捨てた。
    「僕には、こんなもの要らないよ。……今日は、もう行くからな」
     席を立って、部屋から出ていってしまう。その後ろ姿が少しだけ寂しげに感じた。

     それからしばらくの間、彼は僕の家へ訪れなかった。弱みに触れられたことが、相当嫌だったらしい。彼にとって僕はただの人間で、弱みを見せるなどもってのほかなのだろう。
     踏み込みすぎてしまった。嫌がることは分かってたのに、彼の一番知られたくないことを指摘してしまった。そのことを、少しだけ後悔した。
     ルチアーノがいないと、部屋は広くて、静かだ。いつの間にか、彼のいる日常が当たり前になっていたことを自覚する。ひとりで過ごす時間は、少しだけ寂しかった。
     抱き枕は、自分で使うことにした。大きさは1.3メートルで、ルチアーノよりも少し小さいくらいだ。表面の生地はつるつるしていて、クッションはもちもちだ。抱き心地は最高だった。
     抱き枕を抱えて、布団に潜り込む。枕を抱えていれば、ひとりでも寂しくない気がした。

     ある朝、目を覚ますと、ルチアーノがこちらを覗き込んでいた。呆れたような顔で、枕を抱えた僕を見る。
    「おい、何してんだよ」
    「ルチアーノ!」
     その姿を見て、僕は思わず声を上げてしまった。ずっと会いたかった相手が、目の前にいるのだ。
     思わず抱き締めると、彼は僕を突き飛ばして飛び退いた。臨戦態勢に入った猫のように、両手を宙に上げる。
    「何するんだよ!」
     そんな姿も、今は愛おしい。そっと手を伸ばすと、わしゃわしゃと髪を撫でた。
    「もう、来てくれないかと思ったから」
     ルチアーノがきょとんとした顔をする。全く意味が分からないという様子だった。
    「何でだよ。ちょっと任務に出てただけだろ」
     何事も無いようにそう語る。僕には、そんなこと初耳だった。
    「任務?」
     僕が首を傾げると。ルチアーノは訝しそうな表情を浮かべる。一瞬だけ沈黙が漂った。
    「あれ? 言ってなかったっけ? しばらく、任務で留守にしてたんだよ」
    「聞いてないよ!」
     大声を上げてしまう。ルチアーノが来なかったのは、任務があったからだったのだ。心配して損した気分だ。
    「なんだ……。良かった……。てっきり、怒らせたのかと思って心配してたんだ」
    「怒る? 何がだよ」
     ルチアーノに、最後に交わした会話を伝える。僕の話が終わらないうちに、彼はケラケラと笑いだした。
    「そんなんで、へそを曲げるわけないだろ。ほんと、君って変なやつだな」
     笑い転げるルチアーノは、少しも怒ってなどいなかった。彼は、僕よりも大人なのかもしれないと、心の隅で思った。

     お風呂から上がると、ルチアーノがベッドの上に座っていた。鼻唄を歌いながら、今日の戦利品を広げている。ご機嫌なようだった。
     抱き枕は、ベッドの隅に放り出されている。使う気はないみたいだった。
    「今日は疲れたから、もう寝ようか」
     僕は声をかけた。久しぶりのデュエルだったのか、ルチアーノはいつもより張り切っていたのだ。振り回された僕は、繰り返されるデュエルによってへとへとになっていた。
    「もうへばったのかよ。人間は脆いなぁ」
     軽口を叩きながら、ルチアーノはカードを片付ける。準備が整ったことを確かめてから、電気を消した。
     ベッドに入ると、ルチアーノが寄り添ってきた。僕の隣にぴたりとくっついて、からかうように言う。
    「君が、そんなに寂しがり屋だったとはね。これからは、もっと近くにいないといけないのかな?」
     ご機嫌な様子がかわいくて、煽りに乗りたくなってしまった。真っ直ぐに顔を見つめると、真面目な声で伝える。
    「そうだよ。ルチアーノがいないと寂しいから、ずっと側にいてほしいな」
     これは、本心だ。この数日間、僕は少しも心が休まらなかったのだから。僕は、ルチアーノがいないと寂しいし、喧嘩別れすると不安になってしまうのだ。
     ルチアーノは恥ずかしそうに視線を反らした。予想外の答えだったらしい。気まずそうに身じろぎをして、布団の中に顔を埋める。
     本当に、かわいい子だ。煽るのが好きなのに、肯定されたら照れてしまうのだから、本当に愛おしい。
    「気が向いたら、これも使っていいからね」
     抱き枕を引き寄せると、二人の間に挟み込んだ。顔を隠したかったのか、ルチアーノはおとなしく枕を抱き締める。クッションに顔を埋めると、くぐもった声で呟いた。
    「……仕方ないから、使ってやるよ」
     僕は、反対側から枕を抱き締めた。クッション越しに指を伸ばし、ルチアーノの頭を撫でる。
     その日から、ルチアーノは抱き枕を使ってくれるようになった。身体の不調は改善に向かって、関節の痛みも、身体の凝りもなくなった。
     ルチアーノは、今でも夜中に泣いている。でも、前みたいに僕を起こすことはなくなったし、精神も少しだけ安定したみたいだ。触れ合いが減ったことは寂しいけど、ルチアーノが安定してくれるなら、僕は嬉しい。
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