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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    昨日上げたTF主ルチのルチ視点です。ひたすらにしおらしいルチがいます。

    ##TF主ルチ

    看病 その男はすやすやと眠っていた。
     時刻は午前十時を指している。太陽は高く登っていて、大抵の人間は起きている時間だ。市民は活動を始めていて、外ではビジネスマンが駆け回り、学校のグラウンドでは子供たちが運動をしていた。それなのに、この男はすっかり寝入っている。
     僕は舌打ちをした。今日は任務をこなす約束をしていたのだ。眠っているなんて論外だった。
    「おい、起きろよ」
     声をかけるが、青年は目覚めない。すやすやと寝息を立てながら、のんきに眠っている。
    「起きろって、聞いてるのかよ」
     服を掴むと、ゆさゆさと揺さぶった。布団がもぞもぞと動いて、青年が目を開く。
     彼は、寝ぼたけような顔で僕を見た。瞳はとろんとしていて、焦点を合わせていない。その様子に、さらに苛立った。
    「寝ぼけてないで、とっとと仕度しろよ」
     無理矢理起こそうと、彼の頬をつつく。指先が触れた瞬間、強烈な違和感を感じた。
    「っ!?」
     思わず、手を引っ込める。彼の頬は、燃えるように熱かったのだ。
    「お前、何したんだよ! 顔が熱いぞ!」
     恐る恐る手を伸ばすと、両手で頬を包み込んだ。熱い。まるで、負荷をかけすぎたコンピューターのようだ。確認のために鼻や額にも触れてみるが、冷えている部分は無い。
    「風邪を引いたみたいなんだ。悪いけど、お出かけは今度にしてくれる?」
     僕の様子を見て、青年は優しい声で言った。どうやら、彼は風邪症候群にかかったらしい。人間の体調不良の中ではポピュラーなものだ。とは言え、こんなに簡単にかかるなど知らなかった。
    「こんなに簡単に風邪を引くのか。人間って脆いんだな」
     僕が呟くと、青年は優しく微笑んだ。僕を安心させるように言う。
    「心配しなくても、明日には治るよ」
     別に、心配しているわけではない。風邪は大したことないと言うし、一日任務が遅れたくらいで困る僕らではないのだ。ただ、責任を感じているだけだ。
     僕には、心当たりがあったのだ。昨日は天気が悪く、午後から雨が降った。大粒の雨が降り注ぐ中、静止を無視して無理矢理デュエルを続行したのは僕の方だったのだ。
     彼が、雨によって風邪を引いたとしたら、それは僕の責任だ。放っておくことなどできなかった。
     手を伸ばして、青年の顔に触れる。手のひらは、すぐに熱で熱くなった。こんなに発熱しているのに、大丈夫なのだろうか。
     データベースに接続し、発熱の対処を検索する。とりあえず、熱を冷ますには冷却シートだ。貼っていないということは、この家にはないのだろう。
     僕は立ち上がると、急いで彼の部屋を出た。ワープ機能を起動して、調べたものを調達する。
     彼の部屋に戻ると、額の上に冷却シートを乗せた。部屋の椅子を引き寄せると、腰を掛ける。恥ずかしくて仕方ないが、情報の通りに寄り添って、手を握る。
    「仕方ないから、看病してやるよ。ほしいものがあったら遠慮なく言いな」
    「ありがとう」
     真っ直ぐにお礼を言われた。彼は、僕が彼のために看病をしていると思っているのだろうか? 勘違いもいいところだ。
    「勘違いするなよ。これは僕の作戦のためだからな!」
     仕方ないとはいえ、人間の看病なんて、イリアステルらしくない。羞恥で頬が赤くなる。
     彼は、笑っているようだった。こんな状況なのに、のんきな奴だ。不満に感じながらも、彼の異常に、少しだけ不安になっている自分を自覚した。

     側にいても、少しも落ち着かなかった。彼が身動きを取る度に、不安になってしまう。大したことないと言っても、彼は熱を出しているのだ。身体は燃えるように熱いし、多量の汗をかいていた。
     人間の状態異常なんて、見たことが無い。機械なら修理をすれば治るが、人間はそうはいかないのだ。ちょっとしたことで身体を壊し、死んでしまう。
     この不安の正体は分かりきっていた。僕にとっては、認めたくない事実だ。必死に思考を塞いで、目を反らそうとする。
     僕は、彼の側から離れられなかった。認めたくなんてないのに、彼が何かをしようとする度に、不安になって手を伸ばしてしまう。スポーツドリンクを取ってやったり、トイレまで付き添ってやったり、眠るまで手を握ってやったりした。
     そんな僕を見て、彼も異変に気づいたようだった。僕に視線を向けて、優しい声で言う。
    「ルチアーノ、風邪って言っても大したことないんだから、僕のことは放っておいていいんだよ」
     僕が離れられないことくらい、分かってるくせに。どんな時でも優しい彼の態度が、今は憎らしかった。
    「悪化したらどうするんだよ。おとなしく看病されな」
     思わず、突き放すような声が出てしまう。自分の余裕の無さに、自分で驚愕した。
    「風邪で死んだりはしないから、大丈夫だよ」
    「そんなの、分かんないだろ!」
     彼ののんきな態度が気に入らなかった。人間は脆いのに、すぐに死んでしまうのに、そんなことにも気づかないのだ。
     僕は、しっかりと手を握った。観念したのか、彼はそっと目を閉じる。彼を見守ることで、心を覆う黒い影を追い払おうとする。
     僕は、怖かったのだ。彼が、僕を置いて死んでしまうことが。

     しばらくすると、彼はすやすやと寝息を立て始めた。眠っている間に食事を用意することにする。
     風邪の日のメニューと言えば、粥と果物だ。キッチンに入ると、米を煮詰め、りんごの皮を向いた。料理なんて一度もしたことがないが、僕にはやり方が分かるのだ。
     料理を終えると、駆け足で部屋へと戻った。彼は眠っている。異変は起きていないようだった。
     こんなに不安になってしまうなんて、神の代行者らしくない。神の代行者たるもの、人間の犠牲など些細なものとして切り捨てるべきなのに。
     どうして、こんなに恐ろしく思うのだろう。彼の死を、こんなにも恐れてしまうのだろう。理解ができなかった。
     考え事をしていると、彼が目を覚ました。ぼんやりとした瞳で、僕を見つめる。
    「目が覚めたかい?」
     平静を装って声をかける。それでも、声が優しくなってしまうことを隠せなかった。羞恥は既に麻痺して、不安を抑えたい気持ちだけがあったのだ。
    「ありがとう。食べれるよ」
     彼は優しく答える。もう、僕の異常にも慣れてしまったのだろうか。そう考えながらも、気にする余力はなかった。
     僕は台所に向かうと、用意した食事をトレーに乗せた。粥を温め、りんごを皿に乗せる。目の前に差し出すと、彼は嬉しそうに食べ始めた。
     熱を計ると、少し下がっていた。午前よりも元気になったようだ。少しだけ安心する。
    「外出できないから、ゲームでもしようか」
     彼は、そういって身体を起こした。ベッドから這い出る。さっきまで寝ていたのに、僕は不安になってしまった。
    「寝てなくていいのかよ」
    「大丈夫だよ」
     ベッドから這い出ると、テレビゲームを用意する。テレビの画面をつけると、コードを繋いでコントローラーを握った。
    「病気なんだろ。いいから寝てろよ」
     僕が腕をつかんでも、彼は引かなかった。僕を引きずる勢いで、画面の前に座る。
    「もう大丈夫なんだよ。寝てばかりいても退屈だから、一緒に遊んでくれる?」
     僕はしぶしぶ了承した。隣に腰を下ろすと、コントローラーを手に取る。
    「大丈夫って言うんなら、手加減はしないからな」
     不安を圧し殺すように言うと、彼は嬉しそうに笑った。
    「いいよ。いつもみたいに遊ぼう」
     彼が選んだのは、対戦ゲームばかりだった。病気だというのに、こういうところで僕に気を遣うのだから、本当にお人好しだ。
     彼はいつもと変わらない調子でコントローラーを操った。操作に異常は見られない。本当に大丈夫みたいだ。僕は少しだけ安心して、いつものようにゲームを楽しんだ。
     日が暮れると、僕は再び粥を用意した。彼は元気だと言ったけど、病気は病気だ。優しいものを食べた方がいいだろう。
     冷蔵庫を覗くと、鮭のほぐし身があった。粥に突っ込んでかき混ぜる。僕のために買っておいたと思われるぶどうも、器に盛ってトレイに乗せる。
    「ぶどうはルチアーノのために買ったものだから、一緒に食べよう」
     トレイを持っていくと、彼はそう言って僕を誘った。病人から食事を奪うのは気が引けたが、僕は一日中看病をしたのだ。もらっても許されるだろう。
     隣に座って、一緒にぶどうをつまむ。果汁で汚れた手を拭いてやると、彼は嬉しそうに笑った。
    「熱も下がったから、お風呂に入ってくるよ」
     食事を終えると、彼はそう言って立ち上がった。着替えを抱え、部屋から出ていく。足取りはしっかりとしていた。
     僕は、部屋にひとり取り残された。世話をする対象がいなくなると、余計なことを考えてしまう。
     彼はひとりで大丈夫なのだろうか。大したことないとは言っていたが、発熱しているのだ。何があってもおかしくない。もし、風呂の温度で倒れたら? 意識を失って溺れてしまったら? そう考えると、不安で仕方なかった。
     僕は洗面所へと向かった。彼を窺うように視線を向けて、さりげない体を装って言う。
    「身体、洗ってやろうか?」
    「大丈夫だよ」
     断られた。いつもなら、喜んで洗われるのに。どうして今日は嫌がるのだろう。何かを隠しているのだろうか。
    「いつもは入りたがるくせに、なんだよ」
     尖った声を出すと、彼は申し訳なさそうに答えた。
    「ごめんね。お風呂に一緒に入るのは、元気な時にしたいんだ」
    「なんだよ、それ」
     意味が分からなかった。せっかく心配してやってるのに、僕の誘いを無下にするなんて。
     膨れる僕を残して、彼は風呂へと向かっていく。釈然としない気分だった。

     熱を計ると、体温計はさっきよりも高い数字を表示した。
    「だから言っただろ。寝てろって」
     僕は不満の声を上げる。僕の言うことに従っていれば、こんなことにはならなかったのに。
    「お風呂に入ったからだよ。心配しないで」
     彼は能天気に言う。その態度にも腹が立った。
     僕は、彼をベッドの上に押し倒した。強引に布団を被せ、電気を消す。
    「もう、今日はとっとと寝ろよ」
     布団に潜り込むと、額に手を当てた。やっぱり、風呂に入る前よりも熱くなっている。
     彼は、本当に大丈夫なのだろうか。このまま、悪化してしまったら? 考えたくなくても、そんなことを考えてしまう。
     人間は脆い。すぐに壊れてしまうし、死んでしまう。僕たちは、壊れて死んでいく人間を、山のように見てきたのだ。
     彼が死んだら、僕はどうなるのだろう。僕は、もうこの青年無しでは生きられないのだ。絶対に失いたくなかった。
    「死んだりするなよ」
     僕が言うと、彼は不思議そうな顔をした。僕を見つめて、優しい声で囁く。
    「大丈夫、僕は死なないよ」
     その言葉を聞くと、なんだか安心した。確信はないのに、この男はまだ死なないなと思ったのだ。

     気がついたら、太陽が登っていた。
     どうやら、彼と一緒に眠っていたようだ。時刻は七時過ぎを指している。久しぶりの朝寝坊だった。
    「おい、起きろよ」
     声をかけながら、隣に眠る男を揺さぶる。昨日あれだけ寝てたのだ。今日くらいは起きてくれてもいいだろう。
     青年はあっさりと目を覚ました。僕を見て微笑むと、爽やかな声で言う。
    「おはよう」
     僕は体温計を掴むと、彼に投げつけた。半ば無理矢理に、体温を計らせる。
    「計れよ」
     電子音が聞こえて、体温計が数値を示した。モニターを見て、彼が自信ありげな顔で言う。
    「見て。平熱だよ」
     その言葉を聞いて、自分でも驚くくらい安心した。彼は、健康体に戻ったのだ。もう、死ぬ心配はなかった。
     慌てて表情を引き締める。緩んだ顔をしていたら、心配していたことに気づかれてしまう。
    「今日こそは付き合ってもらうからな。覚悟しろよ」
     彼を布団から引きずり出すと、外出の仕度をさせる。平熱に戻ったと言っても、まだ『病み上がり』だ。気は抜けない。
    「倒れたりされたら迷惑だから、一日見張ってやるからな」
     彼の手を握りしめて、脅すように言う。
    「ルチアーノ」
     不意に、彼が僕の名前を呼んだ。
    「なんだよ」
     見上げると、真っ直ぐな視線で見つめてくる。何を言うのかと、少し身構えてしまった。
    「看病してくれて、ありがとう」
     飛んできたのは、真っ直ぐなお礼の言葉だった。なんだか気恥ずかしくて、顔が赤く染まってしまう。昨日の僕は、冷静ではなかったのだ。どこまで異変に気づかれていたのかと考えて、恥ずかしくなる。
    「別に、お前のためじゃねーよ」
     羞恥心で、鋭い声が出てしまった。彼の視線を感じながら、僕は視線を反らしたのだった。
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