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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。命を狙われたTF主くんをルチがこっそり助ける話です。

    ##TF主ルチ

     正装をする機会なんて、もう二度と無いと思っていたのに、次は意外と早くやってきた。ルチアーノに誘われて、政府要人の集まるパーティーに出席することになったのだ。
     彼らの作り上げたチームは、権力者とも密接な関わりがあるらしい。WRGPが目前に迫ると、ルチアーノは毎週のようにパーティーへと出席した。彼曰く、目的を果たすためには、権力者との癒着は必要不可欠なのだという。
     それだけならいい、問題は、僕までもがパーティーの招待を受けることだった。ルチアーノの仲間としてチームニューワールドに所属している僕は、要人の一人として扱われるようになったのだ。
     当たり前だけど、僕はただの一般人で、アマチュアデュエリストだ。パーティーの礼儀作法なんて知らないし、政治のことなんて分からない。ルチアーノに参加者のプロフィールを教え込まれても、すぐに忘れてしまう。そんなことだから、僕は彼の隣で愛想笑いをすることしかできなかった。
     その日も、僕はパーティーの会場に連れ込まれていた。慣れない正装と人々のざわめきに不安を感じながら、ルチアーノの隣に佇む。
     パーティーは、WRGPの時と同じ立食形式だった。皿を手にした人々が、ホールの中を行き交っている。さすがにこの前と違って、参加者は日本語を話す人ばかりだ。
     毎週のようにパーティーを開いて、何の意味があるのでだろうか。僕には、偉い人の目的なんて分からないし、話の内容も分からない。ルチアーノも、退屈そうに出された食事を咀嚼している。
    「今日は、何のパーティーなの?」
     尋ねても、彼は教えてくれなかった。いたずらっぽく笑って、唇に指を当てる。
    「世の中には、知らない方がいいこともあるんだぜ」
     ルチアーノがそう言うのだから、知らない方が良いのだろう。知りたくもなかったから、それ以上の追求はしなかった。
     しばらくすると、ルチアーノは僕の方を振り向いた。試すような口調で言う。
    「じゃあ、僕は挨拶回りに行ってくるよ。君はここで待ってな」
    「えっ!?」
     僕は声を上げてしまう。自分でもびっくりするくらいに大きな声が出てしまった。ルチアーノが顔を顰める。
    「うるさいな。子供じゃないんだから、一人でも大丈夫だろ」
     大丈夫じゃない。僕はこの国の偉い人のことなんて何も知らないのだ。こんなところに放り出されても、困ってしまう。
    「大丈夫じゃないよ! 話しかけられたらどうするの?」
    「適当に答えればいいだろ。それくらい自分で考えろよ」
     無茶振りだ。僕の抗議の声も聞かずに、彼はホールの中を歩いていく。席には、僕一人だけが残った。
     どうしよう。こんなところに取り残されて、声をかけられたら。僕に答えることができるのだろうか。
     僕の心配を他所に、時間は刻一刻と過ぎていった。誰も僕に声をかける気配はない。いくら有名チームのメンバーとはいえ、政治関係者でもない子供に声をかける人などいるはずがなかった。安心して、胸を撫で下ろす。
     せっかくだから、料理を楽しもう。そう思ってテーブルに近づいた時、誰かに声をかけられた。
    「チームニューワールドの、○○○さんですか?」
     振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。年齢は僕の父親くらいだが、体型はスラッとしていて、身だしなみも綺麗に整えられている。相手に好印象を与える男だった。
    「はい。そうですが……」
     僕は困惑した。こんなところで、僕に声をかける人間などいるはずがない。僕は何も知らないただの外野なのだ。チームのことも政治のことも、聞かれたって分からない。
    「お会いできて光栄です。私は○○と言います。実は、以前から貴方のことを耳に挟んでいたんです」
     男は嬉しそうに語った。悪い人には見えないが、警戒は解かない。ルチアーノから、警戒するよう言われていたのだ。
    「僕は、大したことないですよ。アマチュア大会しか出たことがありませんし、公式大会に至っては、これから参加するWRGPが初めてですから」
    「いや、貴方は有名ですよ。アマチュア大会で三連覇を成し遂げた人物だと」
     そう前置きをして、男は僕の出場履歴を上げていった。開催日時から結果まで、ここ二年ほどの記録を間違いなく記憶している。データだけではなく、戦況までも把握していた。
    「詳しいんですね」
    「好きなんですよ。大会観戦というものが」
     男は、悪い人には見えなかった。そのまま、しばらく雑談をする。デュエルにも詳しいようで、話はそれなりに盛り上がった。
    「そうだ。良かったら、こちらをどうぞ」
     そう言って、男は何かを差し出した。金色の包み紙に包まれた、お菓子のようなものだ。
    「なんですか? これ」
     尋ねると、にこりと微笑む。
    「チョコレートです。お好きですよね」
     好物まで把握されていた。そんなこと、どこで知ったのだろう。疑問に思いながらも、ありがたく受け取る。
    「ありがとうございます」
    「それでは、私はここで」
     いそいそと男は去っていく。後ろから、ルチアーノの足音が聞こえた。挨拶を終えて戻ってきたらしい。
    「戻ったよ。ちゃんと留守番できたかい?」
     からかうような口調で言われる。子供に対するような台詞に苦笑いしながらも、さっきの出来事を伝えた。
    「さっき、男の人が来てたよ。僕のことを知ってるんだって。ルチアーノの知り合い?」
     詳細を話すと、ルチアーノは首を傾げた。どうやら、心当たりが無いようだ。
    「知らないな。誰だろうね」
     そう言って、僕の手元に視線を落とす。目線の先には、さっきもらったチョコレートがあった。
    「それはなんだい?」
    「チョコレートだよ。さっきの人にもらったんだ」
     ルチアーノはまじまじとチョコレートを見つめた少しだけ表情を強ばらせてから、僕の手から引ったくる。
    「君のような立場で、高級チョコレートをもらうなんて生意気だな。これは僕がもらうよ」
     そう言うと、彼は包みを引き剥がして、口の中へと放り込んだ。もごもごと咀嚼して、ごくんと飲み込む。止める暇もなかった。
    「甘いな」
    「僕がもらったのに……」
     呟くが、ルチアーノは少しも気にした様子は無い。平然と隣に佇んでいる。
    「いいじゃないか。食べ物ならここには山ほどあるんだから」
     そういう問題ではないのだ。僕を知る人が、僕のためにと差し出してくれたから、嬉しかったのに。ルチアーノに横取りされてしまった。
     僕が黙ると、ルチアーノは少しだけ寂しそうな顔をした。不思議に思って視線を向けるが、今度はいつもの表情に戻っている。
     気のせいだろうか。そう思いながら、僕は食事に戻ることにした。

     それ以降は特に来客もないまま、パーティーはお開きとなった。会場で出て、ひとっ飛びで家へと帰る。
     部屋着に着替え、ソファに腰をかけると、ルチアーノが寄り添ってきた。変装を解いたいつもの姿で、窺うように尋ねる。
    「チョコレートのこと、怒ってるかい?」
     予想外の質問に、思わず顔を見つめてしまった。彼の横暴など今に始まったことじゃない。全く気にしてなどいなかったのだ。
    「怒ってないよ。どうして?」
     答えると、彼は少しだけ表情を緩めた。性格に似合わず、気にしていたらしい。そんな顔をされると、こっちが戸惑ってしまう。
    「今だから言うけど、あのチョコレートには毒が入ってたんだ。食べていたら、今頃君は空の上だったね」
    「えっ!?」
     びっくりした。自分でも驚くほどの大声を上げてしまう。今、彼はなんと言ったのだろうか。
    「毒…………? 毒って、どう言うこと?」
    「そのままの意味だよ。あいつは、君を殺そうとしてたんだろうね」
     頭の中で、さっきの記憶が蘇る。僕に声をかけ、楽しそうにデュエルの話をした男の姿。彼の友好的な態度には、少しも疑いの余地など無いように見えた。
    「前から言ってただろ。君は、少し警戒心が足りないって。友好的な相手にこそ、警戒するべきなんだよ」
     背筋が凍りつくように冷えていく。流れ出した冷や汗が、脇の下から脇腹へと伝った。あのまま、何も疑わずにチョコレートを食べていたら、僕は倒れていたかもしれないのだ。
    「ルチアーノは、大丈夫なの……?」
     震える声で尋ねると、彼はおかしそうに笑った。当たり前のことを言うように、言葉を吐く。
    「僕に、毒なんてもんが効くわけないだろ」
     そういえば、彼の身体は機械でできていたっけ。毒を盛られることを想定して、耐性がつけられているのだろう。
    「なら、良かった……」
     震える声で言う。心臓がバクバクと鳴って、身体が、凍えるように寒い。命の危機を感じると、人間は動けなくなるようだった。
    「君は、本当に警戒心が足りないよな。そんなんじゃ、いつか本当に寝首をかかれちまうぜ」
     ケラケラと笑いながら、ルチアーノは言う。冗談なのは分かっていたが、実際に殺されかけた僕には、笑うことなどできなかった。
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