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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    大会の不正を暴くために女装して潜入するルチの話。一応本編軸くくりですが捏造と趣味に走ってます。

    ##本編軸

    仮面「さあ、始まりました。第○○回ビギナーズカップ決勝戦! 激闘を制し、優勝の栄光を掴むのは一体誰なのか!」
     MCの賑やかな声が、会場に響き渡る。ホールに集まった人々が、楽しそうに歓声を上げた。
     下らない。そう思いながら、ルチアーノは周りを見渡した。ホールに集うのは、幅広い年齢層の人間たちだ。彼よりも幼い子供から、定年退職によって時間をもて余した老人までいる。これほどの人々が、デュエルという娯楽を求めていると思うと、呆れることしかできなかった。
     大会はトーナメント形式だ。一戦のみのシングル戦で、勝った方が先へと駒を進める。シンプルかつシビアなルールだ。
     大会のMCが、選手の紹介を始める。一人一人が名前を呼ばれ、舞台の上でパフォーマンスをする。壇上へと上がるために、ルチアーノはスカートを翻して歩を進めた。


    「なんで、僕がこんな格好をしなきゃならないんだよ!」
     差し出された服を見て、ルチアーノは声を荒らげた。
    「正体を隠すのは、潜入の基本だ」
     ホセは冷静に答える。そうは言われても、納得なんてできなかった。
    「だからって、女の格好すること無いだろ!」
     ルチアーノが手にしていたのは、ベージュ色のワンピースだった。袖はふわりと膨らんでいて、胸元にはリボンやボタンがついている。西洋のお嬢様という雰囲気のものだ。
     この衣装を渡された時、ルチアーノは目を疑った。一般市民に変装して大会に出たいとは言ったが、女の振りをする気などさらさら無かった。ふざけているのかとすら思えたほどだ。
    「なんで、女の服なんだよ。アカデミアの制服でいいだろ」
    「女、それも、幼い子供であれば、確実に相手は油断する。その隙をつけば、負けることは無いだろう」
    「でも!」
     ホセは冷静に語るが、ルチアーノの怒りは収まらない。甲高い声で不満をぶつける。
    「自分の魅せ方を知ることも、神の代行者としての使命だ」
     横からプラシドが口を挟んだ。真面目な声を出そうとしているが、その顔は僅かに笑っている。これもプラシドの入れ知恵なのだろうか。
    「何笑ってんだよ! 馬鹿にしてるだろ!」
     こんなことになるなら、仲間なんて頼らなければよかった。意見を求めたことを、心の底から後悔した。


    「記念すべき一回戦はこの二人! 最年少にして無敗の神童、○○○○! 対するは、期待のトリックスター、ルチア!」
     相変わらず、変な二つ名を付けられたものだ。そう思いながらも、ルチアーノはゆっくりと足を踏み出す。
     コツコツと音を立てて、デュエルコートの上へと上がった。毛先を巻いた髪がさらさらと揺れ、甘い匂いを発する。背筋を伸ばして、対戦相手へと向かい合う。その凛とした佇まいに、ホール内の視線が吸い込まれる。デュエルコートに立つルチアーノは、疑う余地もなく美少女だった。
     トリックスター。MCの付けた二つ名を、心の中で繰り返す。確かに、それは彼に合っているのかもしれない。彼の正体を知るものは、誰一人としていないのだから。
    「あの、○○です。対戦よろしくお願いします」
     向かい側へと駆けてきた男の子が、あどけない声で挨拶をする。
    「対戦、よろしくお願いします」
     ルチアーノも、同じように挨拶をした。柔らかな声に、裏の顔を隠して。


     この大会に潜む不正を暴くこと。それが、今回の彼の使命だった。大会の運営委員は、デュエリスト界と黒い繋がりがある。参加条件を満たしていない選手を、データの改竄によって出場させているという噂が、かつてから流れていたのだ。
     ルチアーノの所属する組織は、大会を利用して目的を果たそうとしている。意思に反する運営委員の行動は、彼らにとって不都合だった。
     不正出場した選手を倒し、その不正を観客に知らしめる。そうすれば、運営委員は改革せざるを得なくなり、不正デュエリストは二度と表舞台には出られなくなるだろう。
     世の中は黒い。不正などいくらでもあるし、彼もまた、不正を生み出す存在のひとつである。しかし、世の中には損得というものがあり、力関係というものがあるのだ。権力を持つものが不利益を被るなら、その不正は潰さなければならない。そのために、彼ら神の代行者は存在しているのだ。
     全ては、イリアステルの名のもとに。
     神の意向を、世を生きる全ての人々に知らしめるために。


    「僕のターン、ドロー!」
     男の子が、カードをドローする。その声はあどけなく、幼い。手札を眺めて、嬉しそうに笑う。
     笑ったりなんてしたら、いいカードを引いたってバレるのに。心の中で、ルチアーノは呟く。そんなことは微塵にも機にせずに、男の子は楽しそうにモンスターを召喚し、盤面を作り上げていった。歳の割にはしっかりした戦略だった。何よりも、心からデュエルを楽しんでいる。
     これから、この男の子の盤面を壊すのだ。全てを壊して、ダメージを与え、敗北を与える。男の子は悲しむだろうが、心は痛まない。目的のための犠牲など、これまでに何度も見届けてきた。
    「わたしのターン、ドロー」
     作り物の声で宣言しながら、カードを引く。手札は、かわいらしいカードばかりだ。正体を隠すために彼が選んだのは、天使族のデッキである。神の代行者としての彼には相応しいと思ったのだ。
     大きく深呼吸をすると、手札からカードを手に取った。やろうと思えばすぐに倒せるが、三ターンはかけることにする。あまり早く倒してしまっては、初心者でないことに気づかれてしまう。
     モンスターを召喚し、効果を発動する。男の子の築いたフィールドを、勘づかれない範囲で壊していく。バトルを仕掛けると、僅かにLPを削った。
     つまらない。手加減するだけのデュエルなんて、退屈しのぎにすらならないのだ。礼儀正しい少女のふりというのも、面白くない。もっと、思いっきり暴れたかった。
     数ターンかけて、ルチアーノは男の子のLPを削りきった。男の子は、悔しそうに両手を下ろす。目には涙が滲んでいた。
    「対戦、ありがとうございました」
     ルチアーノが笑みを浮かべると、男の子は思い出したように頭を下げる。泣きそうになるのを堪えながら、はっきりとした声で挨拶をする。
    「ありがとうございました」
     この子は、将来良いデュエリストになるだろう。柄にもなく、そんなことを思った。

     大会は、順調に進んだ。ターゲットの男も、順調に勝ち進めているらしい。不正をしてまでビギナーズカップに出場しているのだ。勝てなくては意味がない。
     誰も、ルチアーノの正体には気づいていないようだった。彼が、本当は初心者の少女なんかではないことも、使命を負ってこの町に来たことも、誰も知らない。知っているのは、彼の仲間とわずかな関係者だけだ。
     スカートの裾を揺らし、髪を靡かせながら、ルチアーノはデュエルコートに立つ。彼の目的のために。彼らの未来を救うために。
    「…………対戦ありがとうございました」
     最後の試合を決めると、彼はゆっくりと頭を下げた。対戦相手が、悔しそうな顔で舞台から去っていく。MCが、軽快なマイクパフォーマンスで彼の勝利を告げた。
     舞台を降りると、控え室へと入る。持ち込んでいた鞄から、サイドデッキのカードを引っ張り出した。
     ついに、ターゲットとの戦いが始まるのだ。ようやく、本性を明かせる。思いっきり暴れられるのだ。

    「最後の試合は、遅咲きのシンクロマスター、✕✕✕とトリックスター、ルチアの対決だ! 優勝の栄光を掴むのはいったいどちらなのか!」
     MCの声を背に、ルチアーノは軽快に歩を進める。デュエルコートに立つと、優雅に一礼をした。
     向こう側には、二十代半ばの男が姿を現した。落ち着いた様子でデュエルコートへと歩いてくる。相手が少女だと知って、油断しているようだった。
     この男こそが、不正をしてこの大会に出場したデュエリストである。顔も名前も、事前に得たデータと同じだった。
     彼は、元プロデュエリストだった。十五才の若さでデビューし、恐れることなく相手に挑んでいくデュエルスタイルで人気を博した後に、怪我によって現役を引退したのである。その後の活動は知られていない。
     ビギナーズカップの条件は、大会や公式イベントへの参加をしていないことだ。本来であれば、その男はエントリーすらできないはずだ。彼は、現役時代のコネを使って、別名の別人として大会に出場したのだ。
    「対戦よろしくお願いします」
     ルチアーノが口を開くと、男はちらりと彼を見た。
    「よろしくね。ルチアちゃん」
     馴れ馴れしい挨拶だった。嫌悪を隠して、相手を見つめ返す。
     MCが、デュエル開始の宣言をした。ついに、本気を見せる時がきたのだ。

    「俺のターン、ドロー!」
     男は、最初から飛ばしてきた。次々とモンスターを召喚し、シンクロ召喚に繋げる。あっという間に、男のフィールドにはシンクロモンスター二体が並んだ。データで見た時と変わらない、彼の基本のデュエルスタイルだった。
    「この戦い方、どこかで見たことがあるわ」
     盤面を見ながら、ルチアーノは口を開く。口元に、にやりと笑みを浮かべた。
    「ずっと、気になってたのよ。貴方の戦い方には見覚えがあるって。プロデュエリストの✕✕✕✕さんに似てるんだわ」
     彼の言葉を聞いて、男は僅かに表情を変えた。どうやら、揺さぶりは効いているようだ。
    「デュエルを勉強する時に、参考にしたからな。……俺はこれでターンエンドだ」
    「わたしのターン、ドロー」
     ルチアーノはカードを引く。そのデッキは、既に天使族主体のものではなくなっていた。彼の本当の切り札、機皇帝だ。
    「✕✕✕✕さんの戦い方は、シンクロモンスターでフィールドを固めて、一気に攻め込むものだったでしょう。モンスターの召喚の仕方、すごく似ているわ。もしかして、本人だったりしてね」
     含むように言うと、男の視線が揺らいだ。そんな動き、心当たりがあると言っているようなものなのに。笑いを堪えながら、真っ直ぐに相手を見つめる。
    「他人のそら似だよ」
    「モンスターを伏せるわ。カードをセット。ターンエンドよ」
     ルチアーノはターンを回す。相手は、全力で叩き潰しに来るはずだ。これ以上ターンを回しては、何を言われるか分からないのだから。
    「俺のターン!」
     男は、カードをドローすると、手札を一瞥した。何かを確信したように、少しだけ口角を上げる。
    「モンスターを召喚! モンスター効果発動! モンスターを特殊召喚!」
     カードを手に取ると、次々とモンスターを召喚していった。フィールドに、三体目のシンクロモンスターが現れる。
     ルチアーノはにやりと笑みを浮かべた。ここからが、本番だ。恐怖をお見舞いするチャンスだった。
    「トラップを発動するわ」
     お決まりのコンボで、相手のモンスターを吹き飛ばす。彼のフィールドにあったのは、スカイコアだ。機皇帝を召喚するための、引き金となるモンスターだ。
    「スカイコアの効果発動!」
     デッキから、スキエルのパーツを並べていく。あっという間に、彼のフィールドはモンスターで埋め尽くされた。
     会場がざわめく。人々は、ルチアーノの召喚したモンスターを見ていた。
     大会のルールでは、デッキを変更することはできない。ルチアーノ自身も、データを改竄しているのだ。不正に挑むために不正をする。それが彼らのやり方だ。勝ってしまえば、不正など大したことではないのだから。
    「モンスターを召喚したくらいで、勝った気になるなよ……!」
     威勢のいい言葉を吐くと、男はモンスター効果を発動した。コンボを繋いで、シンクロモンスターを召喚する。
    「いけっ! モンスターで攻撃!」
    「スキエルGの効果発動」
     シンクロモンスターの召喚は、想定内だった。一度の攻撃であれば、スキエルの効果で防げる。
     男は、それ以上何もしてこなかった。相手の抵抗を考えていなかったのか、目的のカードを引けていないのかは分からなかった。
    「くっ……。ターンエンド」
     悔しそうにエンドを宣言する。
    「わたしのターン、ドロー」
     ルチアーノはカードをドローする。その声は、愉悦に弾んでいた。
    「わたしの本気、見せてあげるわ。機皇帝スキエルの効果発動!」
     スキエルで、相手のモンスターを吸収する。男のフィールドはがら空きになった。
    「何っ!?」
     男が驚愕の表情を浮かべる。ルチアーノは、にやにや笑いを浮かべた。
    「✕✕✕✕のデュエルの特徴は、シンクロ召喚による総攻撃、だったわね。シンクロさえ抑えてしまえば、怖くなんかないわ」
     ルチアーノは言う。唇から、小さな笑い声が漏れた。
    「このモンスターは、何だ……?」
     男は、怯えた声で呟く。その声を聞いて、ルチアーノはさらに笑った。
    「わたし、知ってるの。この大会には、不正な参加者がいるのですって。その人は、過去にプロデュエリストとして活動していたのだそうよ」
     ルチアーノは語る。観客に聞かせるように。
     観客のざわめきは止まらない。彼らを交互に見ては、何かを話している。
    「俺が、そのデュエリストだって言うのか?」
    「貴方、とっても怪しいわよ」
     観客が、男に視線を向ける。誰かがカメラを取り出して写真を撮った。
    「俺は違う! 不正なんかしていない!」
     男は顔色を変えて否定した。その焦りようは、罪を告白しているのと変わらない。会場の人々がざわつき、MCまでが困惑している。
    「止めを刺してあげるわ。速攻魔法発動。リミッター解除」
     スキエルの攻撃力が上がる。これがあれば、一撃で、男のライフを削りきれる。勝利を確信した。
    「機皇帝スキエルで、ダイレクトアタック」
     ルチアーノが高らかに宣言する。男に、発動できる効果は無い。彼の勝利だった。
    「決まった! 勝者は、ルチアだ!」
     MCが、デュエルの終わりを宣言する。観客たちが歓声を上げた。
    「対戦、ありがとうございました」
     ルチアーノはにこりと笑って言った。男の表情が歪む。良い眺めだった。
    「観客のみなさん。過去のデータを調べてください。きっと、証拠があるはずです」
     デュエルコートを降りると、ざわつく会場に背を向けて、ルチアーノは控え室へと向かった。通信機を使い、仲間の元へと連絡を入れる。
    「終わったよ。これでいいの?」

     大会の不正は、一度だけだはなかった。過去のデータを調べると、不正の記録はいくつも出てきたのだ。
     男は、スポンサー契約のために、ビギナーズカップに出場したようだった。彼の引退により、スポンサー企業は力を失った。復興のために、ビギナーズカップ出身のプロデュエリストという演出を捏造しようとしたのだ。
    「人間って馬鹿だよね。嘘なんかついても、どうせバレるのに」
     ルチアーノが呆れたように笑うと、ホセが冷静な声で答えた。
    「権力者とは、そういうものだ」
    「見ただろ、あの男の焦った顔、最高だったよな」
     きひひと笑って、ルチアーノは端末を起動する。開いたのは、インターネットの記事だ。
     あの後、彼らは歴史を修正し、自らの痕跡を消した。少女ルチアは、謎の人物として記録に刻まれることになったのだ。
     謎の少女は、インターネット上ではヒーローとして語られているらしい。少女の再登場を、彼らは望んでいるのだ。
     変な奴らだ。そう思って、ルチアーノは笑みを溢す。誰も、ルチアーノの正体を知らない。彼が何者で、何のために行動しているのかは、誰も知らないのだ。それなのに、彼らはルチアーノのことを崇拝し、ヒーローなどと呼んでいる。
     いつか、本気のデュエルをしたい。自らの正体を明かして、思い切り暴れたい。そのために、彼は今日も仮面を被るのだった。
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