自覚 ルチアーノのタッグパートナーになった。
彼とデュエルをして、実力を認められ、タッグデュエルのパートナーとして契約した。
でも、僕にはあまりその自覚が無かった。ルチアーノは神出鬼没で、気が向いた時にしか僕の前に現れない。週に一度も会わないことだってざらだったのだ。
だから、僕はあまり気にしないでいた。遊星やジャックと共に事件の謎を追うこともあれば、カーリーの取材を手伝うこともある。元々どの陣営にも属していないから、中立だと思われているのかもしれない。一応、遊星は僕を仲間だと言ってくれるけど。
そんなことで、僕はルチアーノと契約をしてからも、ポッポタイムに通っていた。この町に来てすぐの頃に、最初に話しかけてくれたのは遊星だったし、ポッポタイムのみんなにはたくさんお世話になっていたからだ。
ガレージに入ると、遊星の姿が見えた。工具箱を開いて、電子機器を直している。仕事中みたいだった。
「こんにちは、遊星」
声をかけると、くるりと振り向いて答える。
「ああ、○○○か。少し頼みたいことがあるんだが」
「僕にできることなら、何でも手伝うよ」
遊星は忙しい。大会に向けてDホイールの整備を進めながら、修理の仕事を引き受けて収入を得ているのだ。その上、イリアステルとの戦いもある。
ルチアーノと遊星が敵同士なんて、なんだか信じられない。どちらも、僕の親しい友達だったし、遊星はルチアーノのことをあまり嫌っていないようなのだ。ルチアーノだって、僕が遊星の元へ出入りすることを黙認してくれる。
「修理用のパーツを探しに行きたいんだが、一人だと不便なんだ。探すのを手伝ってくれないか?」
遊星は、工具でガレージに並べられた電子機器を示した。壁に沿うようにして、ずらりと並べられている。彼の腕の良さはシティに広まっていて、ひっきりなしに依頼がやってくるのだ。
「いいよ。僕も、遊星の力になりたいから」
「すまない。ありがとう」
「僕たちは友達なんだから、当然だよ」
僕は答える。遊星がいなかったら、僕はこの町で浮いてしまっていただろう。その事を考えると、むしろこちらがお礼を言いたいくらいだ。
遊星が、棚に並んだパーツを手に取った。両手にパーツを持って、二つを見比べている。しばらく考えると、片方を棚に戻した。
「次は、向こうのコーナーだ」
そう言うと、僕を先導して店内を歩いていく。僕は、レジ袋を手に後を追った。
次のコーナーでも、遊星はパーツを吟味している。僕には同じようなものにしか見えないけど、メーカーや仕様が少しずつ違うらしい。
そんな遊星の姿を見ていると、彼が人気者であることも納得できる。真剣に開発に取り組む遊星の姿は、男の僕でも分かるくらいにかっこいいのだ。
「待たせてすまない。次が最後だ」
「気にしないで、今日は、用事もないから」
遊星の振る舞いを見ていると、気を使われているなと思ってしまう。僕だって遊星の友人なのだ。ジャックやクロウのようにとはいかなくても、遠慮無く話をしてほしい。
そんなことを考えていると、買い物が終わった。レジ袋を一つずつ抱えて、店外へと出る。
町は、すっかり日が暮れていた。オレンジ色の夕焼けが、僕たちを照らし出す。
「○○○は、このまま帰るのか?」
「ポッポタイムまでは、一緒に行くつもりだよ。荷物もあるからね」
二人で並んで、夕暮れの町を歩く。そろそろ、クロウも帰っている頃だろう。
視線を前に向けると、通りの向こうから人影が近づいて来るのが見えた。オレンジ色の布が、ゆらゆらと揺れている。小柄な体格に、全身を覆い隠す大きな布。間違いない。これはルチアーノだ。
遊星が、警戒したような顔で相手を見た。シグナーの痣が、何かを感じ取ったのだろう。僕に近づいてくるルチアーノは、異様なオーラを放っているのだ。
「君、こんなところで何してるんだい」
僕の前に立つと、ルチアーノはそう言ってにやりと笑った。頭を覆う布で目付きは見えない。表情が分からなかった。
「遊星と買い物をしてたんだ」
答えると、彼は笑みを引っ込めた。
「ふーん。あまり見かけないと思ったら、こんなところで油を売って。シグナー陣営に鞍替えでもしたのかい?」
まずい。ルチアーノは怒っている。確かに、最近はあんまり会ってなかったけど、それはお互い様だったし、彼は気にしてないと思ってたのだ。
「ルチアーノ、これは俺が頼んだんだ」
遊星が弁解するが、ルチアーノは聞く耳を持たない。力強い声で、きっぱりと拒絶する。
「僕は、彼に話をしてるんだ。シグナーは黙っていてくれ」
相当お怒りのようだった。遊星を巻き込むわけにはいかない。僕一人でなんとかするしかなかった。
「遊星、先にポッポタイムに帰ってくれる?」
僕が言うと、遊星は素直に頷いた。申し訳ないけど、今この時点で彼にできることはない。
「気を付けろ。痣がうずいている」
そう囁くと、遊星は僕の持っていたレジ袋を受け取って、ポッポタイムへと向かっていった。
「従うべき上司をほったらかしにして、敵と仲良しこよしするなんて、どういうつもりだい?」
「ごめん。ルチアーノが会いたがってるなんて知らなくて……」
「上司の元へは、自分から伺うものだろう?」
「ごめんね。次からは、ちゃんと会いに行くから」
ルチアーノは、寂しかったのかもしれない。彼は、友達なんて要らないと言っていたし、いつも一人で町を歩いている。対等に触れ合える相手なんて、僕くらいなのに。
「君は、もっと、僕のパートナーとしての自覚を持つべきだ。自分が誰のものなのか、ちゃんと考えて行動するんだね」
そう言って、ルチアーノは僕へと歩み寄った。手に隠し持っていた何かを、僕の首に取り付ける。それは、首輪型の衝撃増幅装置だった。おまけに、鎖のようなものまでついている。
「これは……?」
僕が困惑していると、彼はまたにやりと笑った。
「これは、証だよ。君が僕のものである証だ」
鎖を引っ張って、ルチアーノは僕を連行する。首が絞まるから、嫌でも従うしかない。ルチアーノに従うのは嫌じゃないんだけど、この絵面はなんと言うか、いろいろ危ない。
「今日は、日付が変わるまで付き合ってもらうからな」
ルチアーノはきひひと笑う。その声は、まるで悪魔のようで、とても艶かしかった。