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    流菜🍇🐥

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    こどもの日ネタのTF主ルチです。子供扱いされたくない気持ちと親という存在を羨む気持ちで揺れてるルチと、ルチの幸せを願いたいTF主の話。かなりしおらしいルチになってます。(描写は少ないけどお風呂シーンもあります)

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    こどもの日 ルチアーノは不貞腐れていた。理由は明白だ。クローゼットの上には兜飾りが置かれ、机の上にはちまきと柏餅が置かれている。庭に漂っているのは、カラフルな鯉のぼりだ。
     五月五日、端午の節句と呼ばれるこの日は、いわゆるこどもの日である。子供の成長を祝い、幸せを祈る、日本の伝統行事である。
    「なんだよ、これ」
     ルチアーノは不満そうに口を開く、それは、机の上のものを指しているのだろう。
    「ちまきと柏餅だよ。今日は端午の節句だからね」
    「そんなことくらい見れば分かるよ。なんでこんなものを用意したのかって聞いてるんだ」
     不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、彼は僕を睨み付ける。その姿は、幼い子供そのものだ。
    「こどもの日だからだよ。季節の伝統行事は、ちゃんと楽しみたいでしょ」
     僕は、伝統行事が好きだ。伝統行事には、先祖代々から伝わる日本人の心が残っている。伝統文化を知ることは、先祖の思いを知ることにもなるのだ。
     でも、ルチアーノはあまり乗り気ではないようだった。『こどもの日』という名前が嫌なのだろう。彼は、子供扱いされることが何よりも嫌いなのだから。
    「僕は子供じゃないよ。見た目は子供かもしれないけど、君よりも長い時間を生きてるんだ。祝いはしても、祝われる筋合いはないね」
     拗ねたような声でルチアーノは言う。今日は、かなりの長期戦になりそうだ。覚悟は決めていたが、実際に対峙すると、身体に力が入ってしまう。
    「そんなこと言わないでよ。一緒に食べよう」
     僕はちまきを手に取った。包んでいた葉っぱを剥がして、用意したお皿の上に乗せる。餅米はまだ温かくて、ほかほかと湯気を立てていた。
    「要らないよ。子供扱いされたくないね」
     彼はつんとした態度で突っぱねる。お皿を押し返され、仕方なく僕一人で食べることになった。
     ちまきを食べると、今度は柏餅に手を伸ばす。葉っぱをめくると、甘いお餅を頬張った。
    「おいしいよ。ここに置いておくから、気が向いたら食べてね」
     声をかけると、ルチアーノは黙ってそっぽを向いた。子供扱いされたのが相当嫌だったのだろう。機嫌を損ねたまま、直してはくれないらしい。
     僕は途方にくれるしかなかった。ルチアーノとこどもの日を祝いたいけれど、彼は子供として祝われるのを拒絶する。今回の伝統行事は、諦めるしかなさそうだった。
    「小さい頃は、よくこうやって祝ってもらってたんだ。ちまきを食べて、柏餅を食べて、菖蒲湯に入る。端午の節句は男の子の日だからね、盛大に祝ってもらったんだ」
     話題に困って、ついつい思い出話をしてしまう。両親は伝統行事を大切にするタイプで、特に成長を祝う行事が好きだったのだ。
    「飾ってある鯉のぼりも兜飾りも、両親が買ってくれたものなんだ。元気に大きくなってほしいって願ってくれてたんだね」
     僕の話を聞くと、ルチアーノは少しだけ寂しそうな顔をした。兜飾りを眺めると、寂しそうな声で言う。
    「君はいいよな。祝ってくれる両親がいてさ」
     しまった、と思った。ルチアーノには、親という存在がいない。いるのは神だけで、神は彼を眷属としてしか扱わないのだ。彼にとって、これは地雷のような話題だったのだろう。
     彼は、自分でも分からなくなっているのだろう。自分の抱える感情が何なのかを掴めずにいるのだ。子供扱いはされたくないが、子供として親に祝福される僕を羨ましく思っている。その感情の複雑さが、彼にこんな態度を取らせるのだろう。
     僕には、何をしてあげることもできない。親というものは唯一無二の存在で、僕では代わりになることができないのだ。
    「僕は、ルチアーノのことを祝いたいよ。ルチアーノは嫌かもしれないけど、生まれてきてくれたことを祝いたいし、幸せを願いたいんだ」
     ルチアーノは静かに下を向いた。まだ、感情の整理がついていないようだ。視線を揺らしながら、小さな声で呟く。
    「僕は、幸せになんてなれないよ」
     珍しく、弱気な言葉だった。素を見せてくれるようになったことに、嬉しさを感じてしまう。少なくとも、弱味を見せられるくらいには、僕のことを信頼してくれているのだ。
    「そんなことない。僕が幸せにするよ」
     本気の気持ちで答えるが、ルチアーノは受け止めてくれなかった。俯いたまま、冷たい声で言う。
    「嘘ばっかり」
     今日の彼は、いつもより手強いみたいだった。たくさん拗ねて、心の弱さをさらけ出してくれる。子供のように振る舞ってくれることを、嬉しいと感じてしまう僕がいた。
    「嘘じゃないよ。僕は、ルチアーノを愛してる」
     そう言うと、彼は恥ずかしそうに頬を染めた。席を立つと、一瞬だけ僕を見る。
    「気持ち悪いこと言ってんじゃねーぞ」
     捨てゼリフを吐くと、部屋から出ていってしまう。ここまでは想定内だ。律儀な彼のことだから、きっと夜までには帰ってくるだろう。

     予想通り、日が暮れる頃になると、ルチアーノは家へと帰ってきた。気まずそうに席に着いて、机の上の料理を見る。
     今日の夕食はちらし寿司だった。ひな祭りの料理だけど、普通のお寿司よりもお祝いに相応しいと思ったのだ。
    「これ、君が作ったのかよ」
     気まずそうな声で、ルチアーノが尋ねる。
    「そうだよ。ルチアーノに楽しんでもらいたくて、買ってきたんだ」
    「君って、本当に変なやつだよな」
     呆れたように言って、箸を手に取った。ちらし寿司を取り分けると、黙ったままつつき始める。
     食べ終わる頃には、ルチアーノの機嫌は直っていた。嬉しそうにお刺身を頬張り、デザートの葡萄に手を伸ばす。
    「菖蒲も用意してあるから、一緒にお風呂に入ろうね」
     僕が言うと、彼は少しだけ嫌そうな顔をした。じっとりとした目でこちらを見て、身体を庇うように腕を回す。
    「そんなこと言って、いやらしいことをするつもりだろ」
     ルチアーノは、僕のことをなんだと思っているのだろう。少し心外だった。
    「そんなことしないよ!」
     慌てて否定するが、余計に怪しまれてしまった。にやにやと笑いながら、からかうように言葉を続ける。
    「図星だな。変態」
    「違うのに……」
     なんだか誤解されているが、機嫌を直してくれたみたいだから、まあよしとしよう。実際にいやらしいことをする時もあるのだから、弁解のしようはない。
     必要以上に触らないという約束で、一緒にお風呂に入ることになった。菖蒲の葉を浮かべた湯船の中に、二人で身体を押し込む。
    「菖蒲の葉は、『勝負』や『尚武』と同じ響きだから、こどもの日に使われるようになったんだって。僕たちにぴったりだと思わない?」
     菖蒲の葉を撫でながら、僕は由来を説明した。日本の伝統には、言葉遊びのようなものが多い。昔の人たちは言葉遊びを文化のひとつとしていて、願掛けや験担ぎをしていたのだ。
    「この期に及んで願掛けかよ。そんな不確かなことで、勝ち負けなんか決まらないだろ」
    「そんなことないよ。人間の実力は、気持ちの持ちようで変わるんだから。願掛けをしたことが心の支えになって、いつもよりも力を出せるかもしれないからね」
    「人間って、本当に変な生き物だよな」
     呆れたように言って、ルチアーノは菖蒲の葉に手を伸ばした。小さな手で葉を握ると、剣のように構えた。
    「菖蒲、か……」
     小さな声で呟きながら、葉の表面を撫でる。見慣れない植物に、興味を持っているのかもしれない。
    「こどもの日は、子供の成長を祝うだけの行事じゃないんだよ。一族の繁栄を願う、重要な行事なんだ」
     菖蒲の葉は、湯船の中でゆらゆらと揺れている。葉の形は剣のようで、ルチアーノによく似合った。ルチアーノの小さい手が愛おしくて、思わず手のひらを重ねてしまう。
    「触らないって約束だろ」
     不満そうにルチアーノが言う。見上げる顔は、頬が上気していて、妙に艶かしかった。抱き締めたくなる衝動を、なんとか抑え込む。
    「これくらいはいいでしょ」
     僕は、本当にルチアーノが好きなのだ。大人びた態度も、子供らしい態度も、その全てを愛している。健やかな成長と、将来の幸せを願うくらいには、彼のことを大切に思っているのだ。
    「じゃあ、お風呂を上がってからなら触ってもいい?」
     尋ねると、ルチアーノは恥ずかしそうに俯いた。頬を赤く染めて、小さな声で答える。
    「…………好きにしろよ」
     ベッドの上だと、ルチアーノは妙にしおらしい。温かい布団に包まれると、彼の凍りついた心は、少しだけ溶けてくれる。それは、僕しか見ることができない、恋人の愛すべき一面だった。
     僕は、ルチアーノを愛している。彼が健やかに幸せに成長してほしいと願ってしまうくらいに。叶わないと分かっていても、そう思わずにはいられなかった。
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