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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチが女装して学校に潜入する話の続きです。ルチが偽名を使っていたりルチを巡ってTF主くんとモブ少年が戦ったりします。

    ##女装ルチ
    ##TF主ルチ

    潜入 その2 学校に呼び出されて以来、僕はルチアーノを迎えに行くようになった。家から片道約一時間の道のりを、Dホイールで駆け抜ける。仮にも小学生を乗せているから、帰りはもう少しゆっくりだ。途中で休憩を挟みながら、一時間以上かけて来た道を戻る。ルチアーノにとっては不必要な行動のはずなのだが、なぜか彼はご機嫌だった。
     帰り道には、いくらでも寄り道ができた。コンビニでアイスを食べたり、本屋に寄ったり、カフェでおやつを食べたりと、小学生らしからぬ行動を取ることもできるのだ。周りに怪しまれたら困るから、あまり寄り道はしなかったが、時には秘密のデートに興じることもあった。
     ルチアーノは、ノリノリで『年下幼馴染の女の子』を演じていた。僕のことをお兄ちゃんと呼び、甘えるような声で話しかける。彼は女の子の変装をしているし、声も女の子そのものなのだ。服装だって、子供向け雑誌に載ってるようなブランドで固めている。それに対して、僕は量販店の服に帽子を目深に被った不審者スタイルだ。いつか通報されるんじゃないかと、ひやひやしっぱなしだった。
     僕が迎えに行くと、ルチアーノの隣には、決まってあの男の子がいた。二人で並んで校門まで歩き、僕の姿を見つけると、何かを話してから手を振って別れる。男の子は真剣にルチアーノの気を引こうとしていたし、ルチアーノも愛想よく答えてはいるが、全ては空回りしているようだった。どれだけ話しかけても、彼は面倒だとしか思っていないのだ。
     校門を出ると、ルチアーノはキョロキョロと辺りを見回した。僕の姿を見つけると、満面の笑みで駆け寄ってくる。その度に男の子は取り残されて、悔しそうな目で僕を見つめていた。
     男の子の視線は、凍えるほどに冷たかった。敵意と嫉妬を込めた羨望の眼差しだ。彼はいつも遠くから僕を見つめていて、決して自分から話しかけることはなかった。ルチアーノ曰く、人見知りだから声はかけられないだろうとのことだった。だから、彼は僕を学校に呼び出したのだ。
     合流すると、一言二言会話を交わしながら、Dホイールへと向かう。僕の存在は教師にまで知られているみたいだが、何も言われることはなかった。この辺りは、ルチアーノがうまく細工をしているのだろう。
     Dホイールの後ろに飛び乗ると、ルチアーノは僕に耳打ちした。
    「明日、あいつが仕掛けてくるかもしれないぜ」
     不穏な言葉だった。思わず後ろを振り向くが、彼は既にヘルメットを被っていて、表情は見えなかった。
    「何かあったの?」
     尋ねると、淡々とした声で答える。
    「告白された。君の姿を見て、焦ったんだろうね。子供らしい直球な言葉だったよ」
     僕は息を飲んだ。いずれ、そうなることは覚悟していた。でも、こんなに早いとは思わなかったのだ。
    「それで、ルチアーノはどうしたの?」
    「もちろん断ったさ。きっぱりな。最高だったぜ、あいつの悔しがる顔」
     声色には、楽しそうな笑みが滲み出ている。この様子なら安心だろうが、少し不安になったのも確かだった。
    「何て言ったの? 教えて」
     問い詰めると、彼は面倒臭そうに溜め息をついた。僕のヘルメットを小突いて、急かすように言う。
    「とりあえず、とっとと帰ろうぜ。話はそれからだ」

     家に帰ると、僕は再び同じ質問をした。ルチアーノは嫌そうな顔をしてはいたが、隠すことなく答えてくれた。
     男の子は、お昼休みにルチアーノを呼び出したらしい。場所は校舎裏だった。ルチアーノは漫画の読みすぎだと笑っていたが、僕にはなんとなく男の子の気持ちが分かる気がした。
    ──ナタリアちゃんが好きだ。受け入れてくれるなら、あの男と関わるのはやめてほしい
     男の子は、そんなことを言ったのだという。『関わるのをやめてほしい』なんて、すごく強気な発言だ。まあ、彼から見た僕は不審者そのものなのだから仕方がない。
    「で、ルチアーノは何て答えたの?」
     先を促すと、彼は嬉しそうににやりと笑った。僕に語り聞かせるように、続きを話し始める。
    「だから、はっきり言ってやったのさ。『弱いやつには興味がない。せめて、デュエルの腕を示してからにしな』って」
     彼らしい言葉だった。そういえば、僕がスカウトされたのも、デュエルが強いからだった。彼にとって、デュエルは何よりも優先すべき事柄なのだろう。
    「そっか。だから、あんなに睨んでたんだね」
     僕は呟く。今日のあの子の視線は、突き刺さるように痛かったのだ。その目付きは、僕を排除しようという決意に満ち溢れていた。
    「僕の予想が正しければ、あいつは明日辺りに仕掛けてくるよ。君も覚悟しておくんだね」
     ルチアーノはきひひと笑った。まるで、この状況を楽しんでいるかのようだ。そんなの、冗談じゃない。

     彼の予想は当たった。男の子は、ついに勝負に出てきたのだ。いつものように並んで校門を出ると、男の子は僕へと視線を向けた。帰りの挨拶をするルチアーノを制して、僕の方へと歩み寄る。
    「オレと、デュエルしてください」
     真っ直ぐに僕を見つめながら、男の子は言った。決意に満ちた、はっきりとした言葉だった。
     その威圧感に、一瞬だけ威圧されてしまった。言葉に詰まっていると、彼は胸を張って言葉を続ける。
    「オレが勝ったら、あなたはナタリアちゃんに近づくのをやめてください。あなたが勝ったら、オレはナタリアちゃんから手を引きます」
     要するに、ルチアーノを賭けた決闘ということだろう。人を賞品にするとは、中々に漫画の影響を受けている感じがする。チラリとルチアーノに視線を向けると、面白そうににやにやと笑っていた。
    「やりなよ。君なら簡単に勝てるだろ?」
     後ろに回り込むと、小さな声で囁く。完全に乗り気だった。ここは、応じるしか収め方がないだろう。
    「いいよ。僕が勝ったら、ナタリアから手を引いてね」
     僕が言うと、少年はこくりと頷いた。素直な子だ。この様子だと、クラスではそれなりにモテるのかもしれない。
     僕たちは、学校付近の公園に移動した。ルチアーノと男の子の関係は校内でも話題になっているのか、何人かの子供たちが付いてきている。完全にアウェーの状態で、僕は戦うことになってしまった。
    「お兄ちゃん、がんばって!」
     ルチアーノだけが、唯一僕の味方みたいだ。なんだが、子供を誑かす不審者みたいじゃないだろうか。ちょっと不安になる。
    「あなたくらい、すぐに倒します。デュエル!」
     そうして、ルチアーノを賭けた謎の決闘が、幕を開けてしまったのだった。

     男の子は、年相応の技術だった。特別強いわけではないが、特筆するほど弱いわけではない。仮にもプロを目指している僕にとっては、どうてことない相手だった。
     僕は、あっさりと男の子を倒した。LPを削りきり、無傷で勝鬨を上げる。余りにも容赦のない攻撃に、男の子が悔しそうな顔をした。
    「何でだよ! ちょっとくらい手加減してくれてもいいだろ!」
     大人数の前で負けたのが悔しいのか、拳を握りしめて僕を睨む。かわいそうだとは思わなかった。これは、彼が乗り越えなくてはいけない試練なのだから。
    「手加減なんてしないよ。僕はナタリアが好きだから、絶対に手は抜かない。相手に気を遣って負けるようなことがあったら、彼女に示しが付かないからね」
     デュエルに、絶対というものはない。格下だからと油断していたら、負ける可能性だってあるのだ。そんなんで勝星を逃したら、ルチアーノは僕を軽蔑するだろう。
    「だからって、なんでここまでやるんだよ。相手は子供なんだぞ! ハンデくらい付けろよ!」
    「それなら、最初からそう言ってくれればよかったんだよ。相手は本気を出さないだろうってかっこつけるから、こういうことになるんだ」
     僕が言うと、男の子は悔しそうに黙り込んだ。どうやら、図星だったらしい。かわいそうなことをしてしまった。
     でも、僕にはもうひとつ言いたいことがあったのだ。彼がいい子だと思ったからこそ、この言葉をかけるのだ。彼なら、分かってくれると思った。
    「君は、デュエルでナタリアを賭けるって言ったよね。そこに、彼女の気持ちは考えられてるの?」
     そう。彼は漫画の登場人物のように、女の子を賭けの賞品として使った。そこに、女の子の気持ちは含まれていないのだ。そんなやり方は、今の時代にそぐわない。
    「だから、僕は本気を出したんだよ。僕は、ナタリアに自由にしてもらいたい。君と仲良くしていてもいいし、僕のことを好きでいてくれる限りは、僕のそばにいてほしいんだ」
     ちょっと、格好をつけすぎてしまっただろうか。そう思ってルチアーノを見たが、彼は笑ってはいなかった。神妙な顔つきで、男の子を説得する僕を見ている。
     どこからか、嗚咽の声が聞こえた。男の子が泣いているのだ。クラスメイトたちが集まって、男の子を励ましている。
     僕はルチアーノに歩み寄った。手の届く範囲まで近づくと、そっと手を握る。
    「帰ろっか」
     子供たちの視線が、背中に突き刺さるような気がした。もう、ここには来れないかもな、と、頭の隅で考える。
     Dホイールに乗るまで、ルチアーノは何も話さなかった。彼らしくない反応に不安になりながらも、ヘルメットを被って車体に乗り込む。後ろに、ルチアーノが乗る気配がした。エンジンをかけると、大きな音を立てて車体が振動する。これは、僕が完全な子供ではない証だった。
    「君、少しだけかっこよかったぜ」
     後ろから、ルチアーノの小さな声が聞こえた。彼は、僕の行動について考えていたのだろう。恥ずかしいことばかり言ってしまったことに気づいて、少しだけ赤くなる。
     彼は、僕の行動を認めてくれたのだ。そう思うと、心が温かくなって、僕は微笑んだ。
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