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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    ルチとプラがスイーツバイキングに行くだけの話です。CP要素はありませんがそこそこ距離が近いです。

    スイーツバイキング ルチアーノは退屈していた。
     画面の向こうでは、人間がライディングデュエルを繰り広げている。WRGPも半年後に迫って、参加者たちは毎日のようにDホイールとデッキの調整を行っている。模擬試合も次々と行われ、レーンの閉鎖は日常茶飯事となっていた。治安維持局には、封鎖が多すぎるという苦情まで来ているらしい。
     人々がライディングデュエルをすれば、彼らの目的は達成される。今頃、玉座の間では次々と新しいサーキットが描かれている頃だろう。計画は少しずつだが、着実に進行している。彼らにとっては、何の不自由もないはずだった。
     でも、ルチアーノには不満があったのだ。
     ネオドミノシティに降り立って、半年の月日が経過した。その間、彼が起こした行動と言えば、アカデミアへの潜入と人間たちへの指示くらいだ。仮の地位として得た治安維持局長官の座も、大して行使することなく代理の人間に押し付けている。
     彼らは、ほとんどの時間を他者と関わらずに過ごしていたのだ。永遠と続くような長い時間を、たった三人だけの空間で過ごす。その、代り映えのしない日々の繰り返しに、ルチアーノは嫌気がさしていた。
     彼らには任務が与えられているが、行動に制限はなかった。玉座の間に留まる必要は無く、気が向いた時に抜け出すことができる。実際に、プラシドは何度か町へと降り立って、単独行動をしていた。
     ルチアーノは、治安維持局へと向かった。その場所を訪れるのは数ヵ月ぶりだ。迷いの無い足取りで中に入ると、迷うこと無く長官室に向かった。
     そこに、人の姿は無かった。長官代理の男は、市民の対応に終われているのだろう。ご苦労なことだと思いながら、長官の座に腰を下ろす。
     モニターを開くと、町の様子を映し出した。座標を特定し、目的の人物の姿をカメラに捉える。現在のキングである、不動遊星だった。モニターの中の遊星の姿を、見るともなしに眺める。
     退屈だった。シグナーたちは毎日のようにデュエルをしているのに、ルチアーノは玉座に座っているだけなのだ。必要が無いとはいえ、納得はいかなかった。
     何か、面白いことは無いのだろうか。この退屈を満たしてくれる、刺激のある娯楽は。そんなことを考えて、彼はため息を付いた。
     不意に、背後に仲間の気配がした。空間が歪み、固いブーツの足音が響く。
    「ここにいたのか」
     背後から、男の声が聞こえた。振り返ることもなく、ルチアーノは答える。
    「なんだ、プラシドか」
     プラシドがルチアーノの元を訪れるのは珍しかった。普段は、ルチアーノのことなど気にも止めていないのに。
    「プラシドも見るかい? 不動遊星のデュエル映像」
    「興味ないな」
     ルチアーノが尋ねると、プラシドは少しも間を置かずにそう答えた。意外な返答に、ルチアーノが眉を上げる。
    「珍しいね。あんなに遊星を倒すって言ってたのに」
     からかうように言うが、答えは返ってこなかった。コツコツと音を立てて、ルチアーノの隣に歩み寄る。
    「なんだよ」
    「これを見てみろ」
     プラシドが差し出したのは、一枚のチラシだった。カラフルなデザインに、苺の乗ったケーキと苺の写真がずらりと印刷されている。中央には、大きな文字でこう書かれていた。
    『ときめき いちごフェア』
     ルチアーノは笑いだした。目の前の人物に、そのチラシは不釣り合いだったのだ。苦しそうに息を吸いながら、彼は言葉を放つ。
    「それって、スイーツバイキングだろ。そんなのに興味があるのかよ」
     ケラケラと笑うと、プラシドは表情を強ばらせた。冷たい瞳でルチアーノを睨み付け、静かな声で言う。
    「裏を見てみろ」
     笑いながらも、ルチアーノはチラシを裏返した。そこには、一面のぶどうが印刷されていた。
    『秋の特盛ぶどうフェア』
     ルチアーノは表情を変える。笑いを引っ込めて、真っ直ぐにチラシを見た。
     ルチアーノはぶどうが好きだ。プラシドは、彼が好物に食いつくと思ってこのチラシを持ってきたのだろう。
     食べ物に釣られると思われているなんて、心外だ。しかし、ぶどうは食べたかったし、人間の文化にも興味があった。何よりも、その場所には面白いものがあるような気がした。
    「まあ、どうしてもって言うなら、ついてってやってもいいぜ」
     ルチアーノは答えた。プラシドがわずかに笑みを浮かべるのが、視界の端に映った。

     その場所は、思いの他賑わっていた。店内は人で溢れ、賑やかな声が響いている。
     ルチアーノは店内を見渡した。客のほとんどが若い女性だ。男の存在は場違いだった。
    「本当に、ここに入ってくつもりかよ」
     ルチアーノの囁きを無視して、プラシドは店内へと歩いて行った。にこやかに笑う店員に、声をかける。
    「大人一人と、小学生が一人」
     にこやかに返事をして、店員は二人を席へと案内する。店の奥に設置された、二人掛けの席だった。
     目の前を通る男二人に、女性がチラチラと視線を向ける。
     見世物にされている。入店早々、帰りたい気分だった。
    「すごい見られてるぞ。気にならないのかよ」
    「なぜ、気にする必要がある」
     プラシドは優雅に席を立つと、スイーツコーナーへと向かった。ため息を吐きながら、ルチアーノも後に続く。
     スイーツコーナーは、色とりどりのケーキで彩られていた。ショートケーキやチョコレートケーキなどの定番メニューから、山のように苺の乗ったケーキや、巨峰とシャインマスカットのタルトが並んでいる。フェアコーナーには、生のフルーツが盛られていた。隣には、サンドイッチやスパゲッティなどの軽食が並んでいる。
     ルチアーノはぶどうのタルトを皿に乗せた。隣に巨峰とシャインマスカットを乗せ、空いたスペースにスパゲッティを乗せる。
     席に戻ると、プラシドは既に戻っていた。皿の上には、苺のタルトとケーキが乗っている。
     プラシドはケーキを持ち上げると、口の中に放り込んだ。音も立てずに咀嚼して、眉を寄せる。フォークを置くと、一言呟いた。
    「甘い」
    「それだけかよ」
     呆れた声でルチアーノは言った。ケーキが甘いのは当然のことだ。今さら口に出すことでもなかった。
    「なんだこれは、甘すぎて苺の味がせん」
     文句を言うプラシドを眺めながら、ルチアーノもタルトを掬い上げた。口を開けると、一口で咀嚼する。
    「甘い」
     一字一句同じことを言って、顔を顰める。
    「だから言っただろう」
     プラシドが誇らしげな顔を見せる。
     ルチアーノは、残りのタルトを口に運んだ。もそとそと咀嚼し、なんとか飲み込む。二つにしておいて良かったと思った。
    「まあ、ケーキだしな。こんなもんか」
     呟くと、今度はシャインマスカットに手を伸ばした。一口で飲み込み、笑顔を見せる。
    「及第点だな」
     プラシドが、苺のケーキをフォークで掬い上げた。黙ったまま、ルチアーノの皿に乗せる。怪訝そうな顔をする少年を見て、一言だけ呟いた。
    「これをやる」
    「要らないよ」
     押し付けるように、ルチアーノはケーキを押し返す。ケーキが転げ落ちて、皿の上に転がった。
    「甘くて食えん」
    「知らないよ!」
     文句を言い合いながらも、二人はフルーツを口に運んでいく。あっと言う間に、フルーツと軽食を食べ尽くした。
    「持ってきたんだから、ちゃんと食えよ。神の代行者なら、それくらいできるだろ」
     ルチアーノが煽ると、プラシドは嫌々ながらも皿を空にした。扱いやすいやつだ、と、心の隅で思う。
     残りの時間、二人は黙々とフルーツを食べ続けた。時折軽食を挟みながら、黙って果物を口に運ぶ。その異様な光景に、通りすがりの女性がチラリと視線を向けた。
     スイーツや果物などは、量を食べられるものではない。制限時間が終わる前に、食べることに飽きてしまった。
    「それにしても、案外大したことないんだな。スイーツバイキングってやつは」
    「シビアなんだな。あんなに食いついてた癖に」
    「食いついてたのはそっちだろ」
     空になった皿を挟んで、二人はいがみ合う。その姿は、まるで兄弟のようだ。
     結局、それ以上は何も食べることなく、二人は店を出ることになった。日が暮れ始めた町の中を、肩を並べて歩く。
     結局、スイーツバイキングというものは、現地に行くほどの魅力はないような気がした。ケーキは甘すぎるし、スイーツだって、彼らはいくらでも良いものを取り寄せられるのだから。わざわざこのような場所で食べる必要は無い。
     人間たちは、何が楽しくてこんなところに来るのだろう。ルチアーノには、理解ができなかった。
    「ルチアーノ」
     人混みの中を進みながら、不意にプラシドが声をかけた。
    「なんだよ」
     ルチアーノは不満そうに答える。別に、不満があるわけではない。ただ、プラシドを前にすると、ルチアーノの態度は固くなってしまうのだ。
    「退屈は凌げたか」
     ルチアーノは、驚いて顔を上げた。白い布に阻まれて、プラシドの表情は見えない。
     プラシドは、ルチアーノを気にかけてくれたのだろうか。ルチアーノが退屈していることを知って、外出の誘いをかけたのだろうか。そんなことを考えて、あり得ないという考えに辿り着く。
     プラシドは、ルチアーノのことなど何一つ気にしていない。いつもそうなのだ。この男は、何をするにもルチアーノを置き去りにしていってしまう。
     ルチアーノは、プラシドが嫌いだ。プラシドと関わると、いつも迷惑を被るのだから。それでも、こういう暇潰しくらいは、悪くはないと思えたのだった。
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