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    流菜🍇🐥

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    ルチが一般市民に迷子と間違えられる話です。最後の方が少しルチ→プラっぽい。全体的にちょっとシリアスです。

    ##本編軸

    化物 ネオドミノシティの片隅に、巨大なロボットが現れた。ソリッドビジョンで写し出された、デュエルモンスターズのモンスターである。モンスターは大きな音を立てて合体すると、無機質な顔で対戦相手を睨み付けた。
     その姿を見て、二人の男が悲鳴を上げた。少年の遊び相手に選ばれてしまった、哀れな獲物たちである。彼らは強制的にデュエルを仕掛けられ、神への供物にされようとしているのである。
    「機皇帝スキエルの効果発動! シンクロモンスターを、吸収する!」
     巨大なロボットが、大きな身体を動かした。光の触手を伸ばすと、男たちのモンスターに絡み付ける。ずるずると引き寄せると、中央のコアで飲み込んだ。
    「なんだと!」
     モンスターの攻撃力が上がる。男たちが驚愕の表情を浮かべた。その様子を見て、少年はにやりと笑う。
    「驚いたかい。なら、もっといいものを見せてやるよ」
     少年が笑う。左手を前に突き出すと、堂々と宣言した。
    「機皇帝スキエルで、ダイレクトアタック!」
     少年の命令に応じて、モンスターが俊敏な動きで攻撃を発する。淡い緑色のビームが、男たちを貫いた。土煙が上がり、彼らの足元を削り取る。
    「うわぁぁぁぁ!」
     悲鳴を上げる二人を、少年は満足そうに見つめている。土煙が消え、フィールドが元に戻ると、腰を抜かした男たちの姿が見えた。
    「ば、化物…………!」
     男の一人が、焦燥しきった声で言う。もう一人は、恐怖に声を上げることもできないようだった。
     そんな二人の様子を、少年は冷たい瞳で見下ろしている。デュエルディスクを畳むと、黙ったまま歩き出した。
    「つまんねーの。デュエルで発展した町だって聞いたから、もっとできるやつらばっかだと思ったのに」
     男たちから離れると、少年は呟いた。デュエルを終えた後なのに、ただただ退屈だった。

     謎の少年、ルチアーノは、次の獲物を探して路地裏を歩いていた。身分制度が廃止され、町が整備されたと言っても、旧サテライト地区には治安の悪い区画が未だに残っている。そんなところにたむろする人間たちは、ろくでもないやつらばかりだった。
     そんなろくでもないやつらを、彼は狙っていたのだ。人間たちのデータを取るために。
     この町の人間たちは、期待はずれだった。機皇帝を繰り出すと、なす術もなく倒されてしまう。デュエルで発展した町と聞いていたから、どんな強敵がいるのかと期待していたのに、損をした気分だった。
     化物。男たちは、彼をそう呼んだ。あの男たちにとって、強大なモンスターと実際のダメージを与える能力を持つ子供は、理解の範疇を越える存在なのだろう。
     人間は、理解のできない存在を否定しようとする。否定し、拒絶することで、自らの心の平穏を守ろうとしているのだ。自分とは無関係だと思い込んで、自分の世界からはね除けてしまう。
     おかしな話だ。拒絶したところで、脅威であることは変わらないのに。
     化物と呼ばれることには慣れていた。これまでにも、何度も何度も呼ばれてきたのだから。
     彼は、圧倒的な力を持つ神の代行者である。人間が呼ぶような化物などではなかった。神の意志を継ぎ、人間たちを裁くものなのである。
     人間たちに任せておけば、この世界は滅びてしまう。だから、神は彼らを遣わしたのだ。
     やはり、一般市民ではダメなのだ。彼の戦意を満たすには、大会出場経験を持つような実力者でなければならない。それほどのデュエリストが相手なら、サーキットを描くことも、データを取ることも容易になるだろう。
     いっそのことシグナーに挑んでしまえば。そんなことを考えて、頭の隅から追い出した。シグナーに正体を明かすのは、彼らの作戦が開始してからだ。勝手に行動しては、神からの信頼を失ってしまう。

     路地裏を出ると、その先は大通りだった。シティへと続く道のりを、当てもなく歩いていく。
     人影はまばらで、目ぼしいデュエリストは居なかった。治安の悪い人間たちは、大方倒してしまったのだ。
    「君、こんなところでどうしたの?」
     不意に、後ろから声をかけられた。振り返ると、背の高い女性が立っている。年齢は二十代前半だろうか。髪を後ろでまとめて、ラフな格好をしている。
    「もしかして、迷子かな? おうちはどこ?」
     女性は、屈み込んでルチアーノを覗き込んだ。どうやら、彼を迷子の子供だと思っているらしい。厄介だ。子供の見た目だと、このようなことが起こるのだ。
    「迷子じゃないよ。気にしないで」
     そう答えると、大抵の人は彼の前から去っていく。下手に深入りして、誘拐犯と間違われたら元も子もないからだ。
     しかし、その女性は引かなかった。歩き出したルチアーノを追いかけながら、声をかける。
    「大丈夫だよ。お姉さん怪しいひとじゃないからさ」
     そんなこと言ったら、余計怪しいのに。そう思いながら、早足で前へと進む。どうにかして、この女性を振りきりたかった。
    「私に頼るのは心配? なら、交番に行こうか」
     彼女はルチアーノに追つくと、迷うことなく手を取った。強い力で引っ張ろうとする。
    「ちょっと、何するんだよ!」
     声を上げて抵抗するが、女性は怯まない。周りの視線も気にせずに、ルチアーノの手を引いて歩いていく。人間の女性とは思えないほどの、強い力だった。子供と間違えられてしまった以上、抵抗することもできない。仕方なく、女性の行動に従った。
    「怖がらないで。ちゃんとおうちに返して上げるからね」
    「迷子じゃないって言ってるだろ! 話聞けよ!」
     ルチアーノの言葉は、女性の耳へは届かなかった。引き摺られるようにして、彼は交番へと連行されたのだった。

     女性の話を聞くと、警察官は困ったような顔をした。迷子を連れてきたと主張する女性と、迷子ではないと主張する少年のやり取りを聞かされたのだ。困るのも無理はない。
     警察官は一通り話を聞くと、女性を帰らせた。彼女の話を聞いていたら、埒が明かないと思ったのだろう。後はこちらで引き取りますと、強い語調で告げる。
     女性が去ると、彼はルチアーノに向き直った。改まった様子で尋ねる。
    「それで、君は迷子なの?」
    「迷子じゃないって言ってるだろ」
    「残念だけど、迷子として届けられたからには、親御さんに迎えに来て貰わないといけないんだよね。連絡先は分かる?」
     ルチアーノは大きく溜め息をついた。何もかもが面倒だった。人間は話が通じない。誰もが、彼を子供扱いするのだ。
     ルチアーノは、真っ直ぐに警察官を見つめた。警察官が怪訝そうな表情をする。次の瞬間には、相手は表情を失っていた。
     イリアステルの暗示だった。相手の記憶を書き換えることで、証拠を隠滅する。彼らの常套手段だ。
    「僕は迷子じゃないよ。帰ってもいい?」
     ルチアーノが問うと、警察官は無表情のままこくこくと頷いた。記憶を抹消し、交番を後にする。
     外では、空がオレンジ色に染まり始めていた。比較的治安の良い地域らしく、子供たちが騒がしく走り回っている。
     日常の風景だ。見慣れた、それでいて、彼にとっては無縁な世界。人間たちの生活が、そこでは繰り広げられていた。
    「あのね。今日、テストで百点を取ったんだよ!」
     どこからか、子供の嬉しそうな声が聞こえてきた。何気なく視線を向けると、小学生くらいの子供が、母親に手を引かれている。母親はにこにこしながら子供の話を聞いていた。
    「そう。それは良かったわね」
     優しく笑い合いながら、親子は先へと歩いていく。その姿を見て、思わず足を止めた。
     羨ましいとは思わない。ルチアーノには、家族なんて必要ないのだから。彼は単独でも人間を超越した知識と能力を持っている。他人に庇護される必要なんてない。
     親子から目を反らすようにして、彼は先を急ぐ。データは何も集まっていない。もう一人くらいは倒したかった。
    「こんなところにいたのか」
     不意に、後ろから声が聞こえた。振り返ると、白い布に身を包んだ長身の男が立っている。布をひらひらと揺らしながら、ルチアーノを見下ろすその姿は、イリアステル三皇帝のプラシドだった。
    「なんでお前がここにいるんだよ」
     ルチアーノが不機嫌そうに問う。プラシドはちらりとルチアーノを見ると、冷淡な声で答えた。
    「通りかかっただけだ。お前こそ、こんなところで何をしている」
    「別に、何もないよ」
     言えなかった。人間に迷子に間違えられ、交番に引きずり込まれたなんて、言えるわけがない。彼は、偉大なる神の代行者なのだから。
    「帰るぞ。ホセが呼んでいる」
     プラシドは、ルチアーノを先導するように歩き始めた。ここは大通りだ。ワープを使うには、人の目が多すぎるのだろう。ルチアーノも黙って隣を歩いた。
    ──親御さんの連絡先は分かる?
     突然、脳裏に警察官の言葉が蘇った。隣を歩く男を見つめて、息を飲む。なぜそのようなことを考えたのかは、彼にも分からなかった。
     ルチアーノには、親なんていない。彼は機械であり、人ではないのだ。創造主はいるけれど、お腹を痛めて自分を産み落とした母親も、同じ遺伝子を持つ兄弟もいない。
     ルチアーノは、隣を歩く男に視線を向ける。その男は、彼に良く似た顔をしていた。認めたくはないが、性格も多少は似ている気がする。彼らは驚くほど似ていて、どうしても反りが合わないのだ。
     もしも、自分に兄弟というものがいたら、このような感じなのだろうか。そんなことを考えてしまって、慌てて頭から思考を追い出す。
     あり得ない。この男は同じ創造主から産み出されただけの存在で、それ以上でも以下でもないのだ。兄弟なんてもってのほかだった。
     そもそも、ルチアーノは神の代行者であり、人間に化物とすら呼ばれる存在なのだ。兄弟なんて必要なかった。
    「どうした?」
     プラシドに尋ねられ、自分が相手を見つめていたことを自覚する。羞恥を感じて、慌てて目を反らした。
    「なんでもないよ」
     路地裏に入ると、人間の姿は見えなくなった。プラシドが剣を抜き、宙を一閃する。眩い光の輪に吸い込まれると、二つの人影は跡形もなく消えていた。
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