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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    ルチ視点のTF主ルチ。ルチがセンチメンタルなことを考えながら夜の町を彷徨う話です。

    ##TF主ルチ

     目を覚ました時、部屋が暗闇に覆われていると、少しだけ安心する。周囲は静寂に満たされていて、生命の気配は何もない。死に絶えたように静かな部屋の中には、機械の稼働する低い音だけが響いている。その音は、僕の生まれ育った故郷であるアーククレイドルを思い出させた。
     隣を見ると、青年がすやすやと寝息を立てていた。子供のように無防備であどけない顔を晒しながら、夢の世界を漂っている。その安らかな寝顔は、この世の苦しみなど何一つ知らないとでも言うような、能天気な表情だった。
     僕は、そっと布団から抜け出した。音を立てないように、最低限の動作で足を引っ張り出し、ゆっくりと床に着地する。隣の青年は寝入っているのか、少しも目を覚ます様子などなかった。
     暗視機能を起動し、壁に掛けられた時計を確認する。短針は夜中の二時を指していた。人間は眠る時間だ。
     夜は、静かだ。ネオドミノシティの外れにあるこの家は、周囲を住宅地に囲まれている。いわゆる、シティのベッドタウンというものだ。住民はほとんどがシティへと通う社畜か学生で、夜中になれば眠りについていた。
     夜の静けさは、記憶の中のあの町によく似ていた。昼間はどれだけ賑やかでも、夜になると、町は仮死状態に陥るのだ。濃密に漂う静寂は、僕に死と嘆きの記憶を思い出させる。
     僕は、ワープ機能を起動した。光の粒子を身に纏うと、時空の隙間へと身体を預けた。

     シティで一番高いビルの屋上に登ると、夜の町を見下ろした。乱立するビルには、点々と灯りがついている。こんな時間でも、働いている人間がいるのだ。
     地上には、ちらほらと人の姿が見える。仕事を終え、死んだような目付きで家へと向かう社畜もいれば、陽気に酔っ払ったサラリーマンの姿も見える。向こうにいる何人かの集団は、夜遊びをする若者だろう。死んでいるように静かな町だけど、少しは生きている人たちがいる。
     夜の風が、静かに僕の身体を包みこんだ。その冷たさは、僕の身体の熱を冷ましてくれる。
     昨夜も、青年はその温もりで僕を包んでくれた。僕を抱きしめ、何度も頭を撫でてくれたのだ。僕が涙を流すと、彼は必ず僕の身体を抱きしめて、頭を撫でてくれた。頭を撫で、背中を擦り、耳元で優しい言葉を囁く。その言葉は僕の心臓へ真っ直ぐに届いて、凍えた身体を温めてくれるのだ。
     ずっと、夜が嫌いだった。
     夜になると、この身体は妙な不安を感じてしまう。心に黒い雲が溢れ、理由もなく涙が出てしまうのだ。人間の前で、そんな情けない姿を晒すことはできない。夜になると、僕は不安から逃げるように、天上の拠点に引き返していた。
     今は、僕にもその理由が分かった。この町は、よく似ているのだ。僕が生まれ育ち、そして、全てを失ったあの町に。僕が命を終え、永遠の眠りについたあの町に。
     僕は、怖かったのだ。夜というものが。静かな町というものが。人々が死に絶え、廃墟となったネオドミノシティが。
     時代を越え、建物が姿を変えても、夜の景色は変わらない。夜の風の冷たさや、星空と夜景の混ざりあった光の温度は、過去も未来も同じなのだ。夜の景色を見ていると、僕は失ったものの重さを思い出してしまう。
     夜が嫌いだった。僕に、両親を失った記憶を思い出させる景色が。僕の身体を凍えさせる、冷たい風が。
     でも、今はこの冷たさが、少しだけ心地良いと思ってしまう。彼に出会い、想いを受け入れて、僕は僕ではなくなってしまった。僕は人の温もりを知り、自分を愛してくれる存在を知ってしまったのだ。
     あの青年は、僕を愛してくれる。僕が人ではなくても、人間を殺していても、世界を滅ぼす悪かもしれないと知っていても、少しも臆することなく受け入れて、深い愛で包んでくれる。僕は彼を道具のように使うし、いずれは殺してしまうかもしれないのに、彼はそれすらも受け入れてくれるのだ。海のように深くて、鉛のように重いその愛で、僕の身体を包み込んでくれる。
     その優しさは温かくて、愛の与えられるベッドの上は居心地が悪くて。
     そして、少しだけ怖かった。

     町を見下ろすことに飽きたら、繁華街の通りへと向かう。シャッターが下り、電気の消えたビルの間を、充てもなくふらふらと歩いていく。
     こうしていると、僕は昔のことを思い出すのだ。僕がまだ僕になる前の、滅びゆく世界での出来事を。あの時も、僕は人々のいなくなった町をひとりぼっちで歩いていた。どこまで行っても人はいなくて、ただ、廃墟となった町だけが、僕を迎え入れてくれた。永遠に続くような、長い長い絶望。あの時の痛みは、僕の身体に刻まれ、永遠に消えることの無い呪いになった。
     僕は、怖くなってしまったのだ。青年の温もりに包まれることが、彼の優しさに絆されることが。この痛みを忘れてしまうことが。
     絶望こそが、僕の存在意義だ。存在意義を失ったら、この身は価値を持たない脱け殻となってしまう。そうなったら、神は僕を見捨ててしまうかもしれないのだ。それだけは嫌だった。
     歩いているうちに、治安維持局の近くへと来ていた。この町に潜り込むために僕たちが得た、仮初めの仕事場だった。
     僕は、近くの公園へと向かった。ベンチに座り、静寂に満ちた町並みを眺める。無意識にこの地へ向かってしまうなんて、僕はどういうつもりなのだろう。自分で自分が分からなかった。
    「ルチアーノ」
     どこからか、声が聞こえた。振り返ると、見慣れた青年の姿が見える。予想もしなかった人物だった。幻覚なんじゃないかと思って、大きく瞬きをしてしまう。
     やっぱり、そこにいた。部屋で寝ていたはずの青年が、僕の前に立っていたのだ。彼は、真っ直ぐに僕を見ると、にこりと笑った。
    「探したよ。帰ろう」
     僕は、呆然と彼を見た。なぜ、彼がここにいるのだろう。彼は、僕の居場所なんて少しも知らなかったはずなのに。
    「どうして、ここにいるんだよ。君は部屋で寝てたんじゃなかったのか?」
    「目が覚めたら、ルチアーノがいなかったから、探しに来たんだよ。きっと、ここにいると思って」
     彼は落ちついた語調で答える。平然とした態度を取っているが、着ている服には乱れが見える。きっと、慌てて出てきたのだろう。僕がいなくなって、相当心配していたはずだ。
    「よくここが分かったよな。発信器でもつけてたのかよ」
     僕が言うと、彼は誤魔化すように笑った。恥ずかしそうに頭を掻くと、浮わついた声で返事をする。
    「僕の勘が、ここじゃないかって思ったんだよ。ここは、僕とルチアーノが出会った場所だから」
     今度は、僕が恥ずかしくなってしまった。確かに、そうだ。僕が彼に声をかけたのは、この辺りの地域だったのだ。そんなこと、すっかり忘れていた。
    「そんなこと、いちいち覚えてるわけないだろ。君って、なんでも記念にするタイプなのかい?」
     照れ隠しで言っただけだが、彼は恥ずかしそうに頬を染めた。視線をふわつかせながら、恥ずかしそうに言う。
    「そうだね。ちゃんと覚えてるよ」
     やっぱり、彼は変なやつだ。真夜中に僕を探しに町へ出てきたりするし、変な記念日をたくさん覚えている。僕には理解できない行動だった。
     僕はベンチから立ち上がった。彼が、僕へと手を差し出す。黙って手を取ると、しっかりした力で握り返された。
    「じゃあ、帰ろうか」
     僕の手を引いて、彼は町外れへと足を進める。ワープを使えば一瞬で帰れるのだが、今だけは使いたくなかった。
     僕は、少しずつ変化してきている。この青年の手を握り返してしまうくらいには、愛というものを求めるようになってしまったのだ。今の僕は、廃墟で泣いていたひとりぼっちの子供ではなくなってしまった。神の求める代行者から、少しだけ遠ざかってしまったのだ。
     この先、僕はどうなってしまうのだろうか。彼にほだされて、人間になってしまうのだろうか。そんなことを考えて、少しだけ自分が怖くなった。
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