Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

    文章や絵を投げます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💕 🍇 🐥 🍣
    POIPOI 428

    流菜🍇🐥

    ☆quiet follow

    TF主ルチが夜の町を散歩する話。Dホイール2人乗りとかしおらしいルチとかの要素が含まれます。

    ##TF主ルチ

    夜の散歩 ショップの外に出ると、すっかり日が暮れていた。町には煌々と灯りがきらめき、すっかり夜の色に染まっている。普段なら帰る時間だが、今日は寄り道をしていくことにした。
     光で溢れる繁華街を、看板を見ながら進んでいく。せっかく良い時間なのだから、夕食を食べていこうと思ったのだ。この辺りにはショッピングビルが乱立しているし、食べ物屋には困らない。
     立ち止まって端末を起動すると、おすすめのレストランを調べた。洋食に和食、中華など、カテゴリーごとに分けられたランキングが、上から下までびっしりと表示されている。あまり値が張るお店には入れないから、リーズナブルなお店を探すことにした。
    「おや、○○○じゃないか。こんなところで何をやってるんだい?」
     不意に、目の前から声が聞こえた。甘ったるくねっとりしていて、大人びているのようにも聞こえるのに、どこか幼い印象を与える声だ。視線を向けると、赤い髪の男の子が立っていた。
     ルチアーノだった。こんな時間に見かけるのは珍しい。日が暮れてしまうと、彼は町から姿を消してしまうのだ。
    「用事で遅くなったから、ご飯を食べようと思ったんだよ。ルチアーノこそ、こんな時間に出かけてるなんて珍しいね」
    「頼まれ事があったんだよ。全部終わらせて、帰ろうと思ったら君の姿が見えたのさ。……全く、あいつらは僕をなんだと思ってるんだろうね」
     ため息を付きながらルチアーノは言う。詳しいことは分からないが、いつもの任務というものだろう。相変わらず大変そうだった。
    「ねえ、良かったら、一緒にご飯を食べない? ちょうど調べてたところなんだ」
     端末を見せると、ルチアーノはにやりと笑った。僕を見上げると、からかうような声色で言う。
    「僕を食事に誘うなんて、君は怖いもの知らずだね。いいよ。付き合ってやる」
     何を言っているのかは、よく分からなかった。どうして、食事に誘うことが怖いもの知らずになるのだろう。疑問に思ったが、怖いから深入りしないことにした。
     端末を見ながらお店を決めて、近くの洋食レストランへ入る。デパートの上階なだけあって、そこそこのお値段のするメニューばかりだった。せっかく来たのだからと、パスタのディナーセットを選ぶ。
     ルチアーノは、カレーのセットを頼んだ。雑談をしながら料理を待ち、運ばれてきたものを順番に食べていく。見慣れないおしゃれな食事に苦戦していると、ルチアーノがくすくすと笑った。
    「君って、本当にこういうのが不慣れなんだな。面白いことになってるぜ」
     僕の手元を眺めながら、ルチアーノはにやにやと笑う。
    「からかわないでよ。僕は庶民なんだから」
     最近まで、僕は辺境の郊外に住んでいたのだ。おしゃれなレストランなんて来たことがなかった。
     ルチアーノに笑われながらも、僕はなんとか食事を終えた。料理は美味しかったけど、緊張であまり堪能できなかった。
     レストランを出ると、少しだけビル内を見て回った。ファッションエリアを歩きながら、目ぼしいものないかを探す。せっかくの外出なのだ。真っ直ぐ帰るのはもったいないと思った。
     当てもなく建物の中を回っていると、ルチアーノが不思議そうに声をかけてきた。
    「何を探してるんだよ。見つからないなら、手伝ってやろうか?」
    「別に、探し物があるわけじゃないよ。いい服が合ったら買うかもしれないけど」
    「目的がないのに店を見るのかい? 人間って言うのは変わってるな」
     腑に落ちない顔をするルチアーノを横目に、僕は建物の中を歩き回った。僕だって、普段からこんなことをしてる訳じゃない。今は、少しでも長く彼と一緒に痛かったのだ。
     デパートを出る頃には、すっかり夜も更けていた。繁華街は街の明かりに溢れ、昼間のように明るく輝いている。建物の隙間に見える夜空だけが、今が夜であることを教えてくれる。
     昔から、夜の町というものが好きだった。かつて住んでいた町は、夜になると真っ暗になってしまうから、夜でも明るい場所というものは珍しかったのだ。両親に手を引かれて歩く夜の繁華街は、僕の記憶に焼き付いて消えない思い出だった。
     ルチアーノにも、夜の町を楽しんでほしい。子供の頃の僕が感じていたドキドキを、ルチアーノにも知ってほしかった。いつもは、夜になるとすぐに帰ってしまうから、もう少し一緒に居たかったのだ。
     そう考えて、不意にいいことを思い付いた。これなら、ルチアーノもついてきてくれるかもしれない。口角を上げると、彼へ声をかけた。
    「ねえ、少し付き合ってくれない?」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノの怪訝そうに顔を上げた。緩んだ僕の顔を見て、嫌そうに顔をしかめる。
    「なんだよ、その顔。変なことても企んでるんじゃないだろうな」
    「違うよ。とりあえず、ついてきて」
     彼の手を取ると、繁華街の外へと歩き出す。シティを抜けると、家の前へと急いだ。
    「そこで待っててね」
     そう言うと、僕は家の中へ駆け込んだ。リビングに入り、引き出しの中から鍵を取り出す。外に出ると、車庫からDホイールを引っ張り出した。
    「なんだよ、それ」
     ルチアーノが呆れた声で言う。じっとりとした瞳が、僕とDホイールに注がれた。
    「Dホイールだよ。知り合いからもらったお下がりなんだ」
     説明すると、彼は不愉快そうに目を細めた。
    「それくらい見れば分かるよ。それで何をするつもりだって聞いてるんだ」
     僕は、ルチアーノにヘルメットを差し出した。僕の使っているものよりも一回り小さい、子供用のものである。僕が幼い頃に使っていたものだ。
    「なんだよ」
     小言を言いながらも、彼は大人しく受け取った。その姿を見ながら、ヘルメットを被ってDホイールのエンジンをかけた。
    「後ろに乗って」
     Dホイールを近づけると、僕はルチアーノに言った。ルチアーノが表情を歪める。
    「なんでそんなことしなきゃならないんだよ」
    「僕が乗ってほしいからだよ」
     そう言うと、彼は恥ずかしそうに俯いた。僕から目を逸らすと、小さな声で言う。
    「今回だけだぞ」
     僕の背後で、Dホイールに体重がかかるのを感じた。少しだけ機体が揺れて、後ろから抱き締められる。思ったよりも強く腕を回されて、心臓がドクドクと鳴った。
    「じゃあ、行くよ」
     エンジンをかけると、家の外へと走り出す。冷たい夜の風が、強い力で身体を駆け抜けた。町明かりに照らされた道路を抜けると、車の駆け抜けるハイウェイへと登っていく。
     後ろにルチアーノを乗せて、当てもなくハイウェイを彷徨う。少し高さのある路上からは、町の様子がよく見えた。高層ビルが乱立し、無数の明かりに溢れたネオドミノシティは、息を飲むほどに美しい。この景色を見る度に、この町に来て良かったと思うのだ。
    「なあ、君は、怖くないのかよ」
     不意に、後ろから声が聞こえた。その呟きは小さいのに、少しも掻き消されることなく僕の耳に届いた。
    「なんのこと?」
     尋ねると、彼は少しだけ沈黙した。しばらくした後に、小さな声で言葉を続ける。
    「僕と一緒にいて、怖くないのかよ」
    「怖くなんてないよ」
     僕は即答した。考えるまでもないことだ。僕はルチアーノを信じていて、そこに理由なんてなかったのだ。
    「どんな力を持っていても、ルチアーノはルチアーノだから」
     その言葉に、返事は帰ってこなかった。心なしか、回された両腕に籠った力が強まった気がした。

     たどり着いた先は、シティ郊外の高台だった。何度か遊星と訪れた、町全体が見下ろせる高台だ。Dホイールを止めると、柵の近くへと歩み寄った。
     ここから見る町の景色は、何よりも美しかった。少し離れた場所に立つビル群と、小さな家々の明かりが、地上をきらきらと照らしている。何度見ても見飽きない、美しいシティの景色だった。
     ルチアーノは、黙って僕の隣へと歩み寄った。柵に手をかけると、地上の町並みを見下ろす。その瞳は、少し寂しそうな輝きを湛えていた。
    「綺麗だね」
     僕は呟いた。隣から返事はない。不審に思って、視線を向けた。
     ルチアーノの瞳に、きらきらと輝くものが浮かんでいた。それはぷっくりと膨らんで、頬を滑って顎へと伝う。大粒の涙が、彼の瞳から流れていた。
    「ルチアーノ…………?」
     問いかけると、彼はハッとしたような顔をした。涙を拭って、震える声で言い訳をする。
    「違う、これは、目にごみが入っただけだ!」
     彼は、泣いていた。シティの灯りを見下ろしながら、ポタポタと涙を溢している。予想もしていなかった反応に、僕はどうすることもできなかった。
    「分かってるよ」
     そう言って、そっと彼から距離を取る。本当は抱き締めてあげたかったけど、嫌がるだろうと思って遠慮した。
     隣からは、すんすんと鼻を啜る音が聞こえてくる。その音に気付きながらも、僕は何もしてあげることができなかった。町の景色を見下ろしながら、ただ、黙って彼の隣に寄り添っていた。
     しばらくすると、聞こえていた音が止んだ。涙が止まったのだろう。頃合いを見計らって、隣の少年に声をかけた。
    「そろそろ、帰ろうか」
     彼は黙って頷いた。Dホイールに乗ってエンジンをかけると、黙ったまま後ろに乗り込んでくる。来た道を戻るように、ハイウェイの上を駆け抜けた。
     ルチアーノは、夜になるとこの町から姿を消す。それは、彼が幼い姿をしているからだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。彼は、夜というものが恐ろしいのだ。
     どうして彼が泣いていたのかは分からない。聞くこともできないし、聞きたいとも思わなかった。真実を知ったところで、それが僕にとって良いことだとは思えなかったのだ。僕にできるのは、ただ黙って寄り添うことだけだ。
     僕は、彼のことを何も知らないのだ。夜の風を肌に感じながら、不意にそんなことを思った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💞💞💖🌟🌟🌃🌠
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works