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    流菜🍇🐥

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    日付変わっちゃったけどTF主ルチの七夕です。願い事と神様についてのお話。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    七夕 ショッピングモールの片隅に、普段は見かけない植物が設置されていた。節を持った太い柱を中心に、いくつかの枝が生えた、この時期になると至るところで見かける植物だ。それは、色とりどりの紙切れを衣装のように纏い、来客を見下ろしながらそこに鎮座していた。隣には机があり、細長く切られた折り紙の山とボールペンが置かれている。
     僕は思わず足を止めた。そういえば、そろそろ七夕の季節だ。普段は祝ったりしないから、すっかり忘れていたのだった。
    「どうしたんだよ」
     急に足を止めた僕を見て、ルチアーノが怪訝そうに声をかけた。危うくぶつかりかけたようで、少し不機嫌になっている。
    「七夕の笹があったから、つい」
     僕が言うと、彼は目の前の植物に視線を向けた。天井まで届きそうな大きな笹に、色とりどりの折り紙が吊るされている。たくさんの人々が願い事を書いていたようで、笹の枝は蓑虫のようにもさもさになっていた。
    「これが、七夕の笹ってやつか。不恰好だな」
     笹の枝を見つめながら、ルチアーノは呟いた。近くの枝へと歩み寄ると、吊るされていた短冊を手に取る。その姿を見て、不意に疑問が生じた。
    「ルチアーノは、七夕の伝説って知ってる?」
     尋ねると、彼は不満そうに鼻を鳴らした。僕に視線を向けると、眉をしかめながら言う。
    「君は、僕を馬鹿にしてるのかい? そんなもの、とっくの昔から知ってるよ。仕事をサボりすぎて引き離された愚かな夫婦の話だろ?」
     彼の語る七夕の伝説は、まるで、僕が知っているものとは別の話みたいだった。織姫と彦星を『仕事をサボりすぎて引き離された愚かな夫婦』と称するなんて、ルチアーノの感性は独特だ。
    「そういう話じゃないでしょ。年に一度しか会えない、ロマンチックな恋人の話だよ」
    「年に一度しか会えないのは、自分たちが愚かだったからだろ。そんなのにロマンなんか感じないね」
     生意気な態度で笑いながら、ルチアーノは言う。その姿を見ていたら、少し意地悪を言いたくなった。
    「ルチアーノだって、お仕事の合間に僕に会いに来てるでしょ? それと同じことじゃないの?」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは一瞬だけ言葉に詰まった。すぐに気を取り直して、余裕の笑みを見せる。
    「そうだな。神に咎められたら、僕たちは引き離されちゃうかもしれないね」
     意外とあっさり認めたようだ。反論すると思ってたから、少しびっくりしてしまう。
    「でしょう? そう考えたら、少しでも織姫と彦星の気持ちも分かるはずだよ」
     僕は言うが、彼の考えていることはそんなものではなかった。にやにやと笑みを浮かべると、僕に顔を近づける。
    「神に咎められたら、困るのは君の方だろうね。毎日毎日、僕にべったりなんだから」
     いつの間にか、僕の方がからかわれてしまっていた。まんまとルチアーノの罠に嵌められたのだ。悔しくなって、話を切り上げることにした。
    「そうだね。…………せっかくだから、短冊を書いていこうか」
    「ひひっ。逃げるつもりかい? 恥ずかしくなったんだろ」
     言葉を続けるルチアーノを無視して、僕は隣のテーブルへと向かう。短冊とボールペンを手に取ると、願い事を書き始めた。
    「ルチアーノも書きなよ」
     声をかけると、彼は僕の手元を覗き込んだ。書いている文字を見られないように、手で影を作って隠す。ルチアーノが不満そうな顔をした。
    「何書いてるんだよ。僕にも見せろよ」
    「嫌だよ。僕の願い事は、僕だけのものなんだから」
     紐を通すと、僕は短冊を笹の枝に結んだ。ルチアーノは余り興味がないのか、遠くから僕の手元を見ている。
    「それにしても、おかしな話だよな。年に一度しか会えない夫婦が、人間の願いを叶えてくれるなんてさ」
     蓑虫のようになった笹を見ながら、ルチアーノは小さな声で呟いた。確かに、改めて考えると不思議なことだ。年に一度の逢瀬なのだから、自分のことに専念すればいいのに。神様というものは不思議なものだ。
    「なんでだろうね。神様だから、人間の願いを叶えたくなるのかな?」
     何も考えずにそう言うと、ルチアーノは神妙な顔付きになった。笹から視線を逸らさずに、はっきりした声で言葉を吐く。
    「神ってのは、人の願いを叶えるものなのか? なら、神の願いは誰が叶えるんだよ」
     僕は、思わず息を呑んだ。そんなこと、少しも考えたことがなかったのだ。確かに、人間は神に願い事を託し、神はそれを叶えるものだと言われている。でも、神の願いを叶える存在はどこにもいないのだ。一方的に人々から願いを託されるばかりで、誰にもその身を案じられない。そんなの、まるで人々の犠牲になっているみたいだ。
     僕が黙っていると、ルチアーノは黙って手を握ってきた。強い力で引っ張られ、危うく転びそうになる。その表情は、いつものにやにや笑いに戻っていた。
    「何神妙な顔してるんだよ。とっとと行くぞ」
     しっかりと手を繋いだまま、僕たちはショッピングモールの中へと戻っていく。黙って隣を歩きながら、僕は、さっきの言葉を考えていた。
     神は願いを託されるばかりで、誰にも省みられることがないのだと、ルチアーノは言った。それは、彼らの神のことであり、ルチアーノ自身のことでもあるのだろう。神格を持った存在は、崇拝される代わりに、誰にも温情を掛けられることがなくなるのだ。それは、なんだか悲しいことだと思った。
     僕が短冊に書いた願いは、ルチアーノに関することだ。僕は、織姫にルチアーノの幸せを願った。神の代行者として産み出され、ただ、その身を犠牲とするだけの存在となってしまった男の子に、僅かにでも幸せが訪れるようにと願ったのだ。
     織姫と彦星は、空の晴れた日にしか会えないと言われている。雨が降ってしまうと、天の川が洪水を起こして、カササギの橋が渡れなくなってしまうのだ。
     神様だって、自分の恋が何よりも大切だろう。年に一度の逢瀬の日なのだ。人々の願いなど忘れて、恋人との時間を大切にしてほしい。せめて、今年の七夕が晴れますようにと、僕は心の底から願ったのだった。
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