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    流菜🍇🐥

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    ルチアーノくんがファンサービス(遊戯王的な意味)をしようとする話。本編軸で少しシリアスです。一般市民のモブが出てきます。

    ##本編軸

    ファンサービス ネオドミノシティは、今日も賑わっていた。
     WRGPの準決勝トーナメントまで、ついに数日を切ったのだ。町は大会一色に染まり、繁華街にはキャンペーングッズが所狭しと並んでいる。街灯にはキャンペーンフラッグが立てられ、テレビのバラエティ番組では、連日のように特番が放送されていた。
     僕は、呆れながらそんな町の様子を眺めていた。騙されているとも知らずに、人々は大会というイベントに踊らされている。この町に住む人間のほとんどが、真の目的を知らないまま、娯楽として大会を消費しているのだ。滑稽で仕方なかった。
     人間とは愚かだ。人間は間違った道に進み、その事にすら気づかない。彼らの過ちを正すために、僕たち神の代行者は、この町に降り立ったのだ。
     もうすぐ、僕らの目的は達成される。神による長きに渡る悲願が、これから叶えられようとしているのだ。膨れ上がる期待と、僅かな緊張感を感じながら、僕たちはその日に備えていた。
     最後に、町の様子を見たいと思ったのはなぜだったのだろうか。この町はモーメントという発明の象徴で、僕にとっては忌まわしきものでしかない。町に降りたところで、嫌な気持ちになるだけなのに。
     繁華街には、人々のざわめきで満ちていた。堂々と町を歩いていても、人々は僕の正体に気づかない。今の僕は、アカデミアの制服を着た子供でしかないのだ。目の前の子供が、世界に名を馳せる有名チームの一員であるなんて、誰が想像するというのだろう。
     つまり、僕は油断していたのだ。人間は愚かだから、気づくわけがないと高を括っていた。その油断が、僕にこんな経験をさせることになったのだ。
     きっかけは些細なことだった。町を歩いていると、後ろから声が聞こえたのだ。まだ、幼さの残る子供の声が、町を行く誰かに向けられていた。
    「あの、すみません」
     僕は、それを気にも止めなかった。この町に、僕の正体を知っている人間は一人もいない。その言葉が自分に向けられているなんて、思いもよらなかったのだ。
    「あの、すみません!」
     今度は、さっきよりも大きな声だった。さすがに訝しく思って、ゆっくりと背後を振り返る。斜め後ろで、僕よりも少し幼い外見をした男児が、真っ直ぐに僕を見つめていた。
    「もしかして、僕に話しかけてるの?」
     尋ねると、子供は嬉しそうに笑った。キラキラと輝く、満面の笑みだ。子供らしい仕草に不快感を感じて、僅かに眉を潜めた。
    「あの、チームニューワールドのルチアーノくんですよね!」
     彼は大きな声で言う。興奮のせいか、少し前のめりになっていた。
    「そうだけど、何か用なの?」
     面倒に感じながらも、仕方なく返事をしてやる。とっとと話を終わらせて帰りたかった。
    「僕、あなたのファンなんです!」
     興奮気味に叫ぶ子供を見て、失敗したと思った。僕たちが歴史を書き替えて作り上げたチームの設定は、世界レベルの有名チームという肩書きになっている。有名人なのだから、変装を見破ってくる人間もいるだろう。さっさと否定しておけば良かったのだ。僕はなんて愚かなのだろう。
    「テレビで、今までの試合の映像を見たんです! 僕と同じくらいの歳なのに、大人たちを次々に倒してて、すごいなって思って。合体ロボみたいなモンスターもかっこよくて、だから、あなたのファンになったんです!」
     僕の気持ちをよそに、子供は次々と言葉を並べる。薄っぺらい言葉の羅列が、ただただ不快だった。
    「ふーん。ありがとう」
     そう答えながらも、心では別の言葉を口走る。
    ──僕のことなんて、何も知らないくせに
     子供の呑気な笑顔を見ていたら、良いことを思い付いた。作り物の笑みを浮かべると、彼に話しかける。
    「良かったら、僕とデュエルをしない? モンスターを見せてあげるよ」
     子供は、僕の言葉を聞くとにこりと笑った。前に身を乗り出して、嬉しそうに声を上げる。
    「本当ですか!?」
    「本当だ。じゃあ、デュエルのできるところに行こうか」
     そう言うと、僕は子供を先導して歩き出した。子供があまりにも騒ぐから、注目を浴びていたのだ。人々の視線を避けるように、僕は繁華街の外に出た。

     僕たちが向かったのは、町外れの公園だった。繁華街からはそこそこ距離があるが、子供は何一つ文句を言わなかった。プロデュエリストとデュエルできる喜びで、そんなことはどうでもよくなっているのだろう。道中もしつこいくらいに話しかけられ、面倒で仕方なかった。
     公園に入ると、デュエルディスクを起動した。光を纏いながら、デュエルチューブが変形する。その様子を見て、子供は嬉しそうに声を上げた。
    「先攻は譲るよ。いつでも始めてくれ」
     そう言うと、子供は慌ててディスクを起動する。これから、神への捧げ物になるなんて、彼は少しも考えていないらしい。能天気な仕草だった。
     今から、この子供に教えてやるのだ。僕たちの、機皇帝の恐ろしさを。そう思うと、口の端がにやりと歪んだ。
     子供が、高らかにターンを宣言した。モンスターを召喚し、カードをセットする。すぐにエンドを宣言した。
     これくらいの相手なら、すぐに倒すことができる。でも、僕はそうしなかった。すぐに倒してしまったら、面白味がない。油断させてから叩きのめしてこそ、絶望の色は美しく輝くのだ。モンスターを召喚すると、ツイン・ボルテックスをセットしてターンを終了した。
     僕は、しばらく子供の遊びに付き合ってやった。子供は自信満々にモンスターを特殊召喚し、僕に攻撃を仕掛ける。それを食らったりかわしたりしながら、その時が来るのを待った。
    「僕のターン!」
     何回目かのターンが回ってきた。カードをドローし、何を引いたか確認する。僕の手の中にあったのは、スカイ・コアだった。
     ついに、手札が揃った。そろそろ、子供の遊び相手にも飽きてきたところだ。これで決めてやろうと思った。
    「見せてあげるよ! 僕のモンスターを!」
     宣言すると、僕はスカイ・コアを召喚した。チェーンを重ねて、ツイン・ボルテックスを発動する。スカイ・コアが破壊され、機皇帝スキエルが特殊召喚された。
     ガチャンガチャンと音を立てて、機皇帝のパーツが合体していく。子供が嬉しそうに歓声を上げた。目の前に立ちはだかる巨体を見上げて、目をキラキラと輝かせる。
    「機皇帝……! 本物だ……!」
     この子供は、僕との交戦を楽しんでいる。僕の召喚するモンスターを心待ちにして、プロのデュエルというものに夢中になっている。僕にとっては暇潰しにすらならないのに、彼は本気のデュエルとして楽しんでいるのだ。
     この子供に、僕の本気を見せたらどうなるのだろうか。そう考えて、背筋がぞくりと震えた。彼は、僕の本気がこの程度だと思っている。ここから本気で追い詰めたら、きっと驚くだろう。驚き、恐怖に怯え、絶望の叫び声を上げるのだ。その姿を想像すると、歓喜で背筋が震えた。
    「バトル!」
     宣言すると、僕は手札の一枚に指をかけた。緑の枠に囲まれたそのカードは、リミッター解除だ。スキエルの攻撃力を底上げし、相手に大ダメージを与えるための切り札だった。
    「機皇帝スキエルで攻撃!」
     高らかに宣言して、指先のカードを摘まみ取る。これを発動すれば、僕は圧倒的な勝利が収められるのだ。
     この子供は、今、どんな顔をしているのだろう。そう思いながら一瞬だけ顔を上げて、僕は動きを止めてしまった。
     その子供は、キラキラと目を輝かせていたのだ。期待に満ちた大きな眼差しが、真っ直ぐにスキエルへと注がれていた。そこには一切の曇りがなく、ただ、目の前のデュエルへの喜びだけが溢れていたのだ。
     リミッター解除を発動すれば、圧倒的なダメージを与えられる。分かってはいるのだが、僕の指先は動かなかった。カードを指に挟んだまま、ただ、スキエルが攻撃を仕掛けるのを見つめていた。
    「ターンエンド」
     唇を噛み締めながらターンを回す。発動していれば、僕は圧倒的な力で勝てたのだ。それなのに、子供の輝く瞳を見た瞬間に、何もできなくなってしまったのだ。
     結局、子供が逆転することなどあり得るはずもなく、デュエルは僕の勝利で幕を閉じた。キラキラと輝く笑顔を僕に向けると、彼は嬉しそうに言う。
    「ありがとうございました! 楽しかったです!」
     子供の純粋な言葉が、ただただ耳障りだった。胸を支配するのは、どうしてという疑問だけだ。なぜ、僕はあの時リミッター解除を発動できなかったのだろう。これが敵とのデュエルだったら、あの一瞬の隙は命取りだ。
     子供と別れると、僕は拠点へと向かった。もう、町を歩こうとは思わなかった。そういう気分ではなかったし、歩いていてもつまらないと思ったのだ。
     僕の身に、一体何が起こっているのだろうか。僕にこのような変化が現れたことも、神の想定のうちだったのだろうか。淡い光に包まれながら、僕はそんなことを考えた。
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