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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチが花火を見に行く話。しれっとアカデミア組の浴衣すがたを捏造しています。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    花火大会 炎天下の繁華街は、人で溢れ帰っていた。火曜日の午後だというのに、休日と変わらない人の量だ。夏休みが始まって、学生が遊びに来ているのだろう。
     灼熱の太陽に焼かれながら、僕はショッピングモールを目指していた。年々強くなる太陽の日差しは、容赦なく僕たちに降り注ぐ。テレビの天気予報では、皮膚を守るために日焼け止めを塗ることを推奨していた。
     寝巻きとして使っていたTシャツに穴が空いていることに気づいたのは、今日の朝のことだった。どこかに引っ掻けたのか、一部がぱっくりと裂けていたのだ。何度も洗濯して薄くなっていたから、寿命だったのだろう。そう言うと、ルチアーノは呆れたように言った。
    「君の寝巻きは、どれもボロボロじゃないか。普段着のTシャツだって首周りが伸びてるだろ。いい加減買い替えなよ」
     そう言われたら、買い替えるしかなかった。持ってる服に限界が来ていたことは、僕自身が一番よく知っていたのである。普段着のTシャツを寝巻きに下ろして、新しいものを買うことにした。
     本当は、こんなに暑い時間に外に出たくなんてない。でも、僕には今しかタイミングが無かったのだ。夕方になればルチアーノが僕を誘いに来てしまうし、夜になったらショッピングモールはしまってしまう。Tシャツを買っておかないと、僕には明日着る服さえ無いのだ。
     モールへと続く大通りを歩いていると、不意に誰かに名前を呼ばれた気がした。不思議に思って振り向くが、そこには誰もいない。気のせいだと思って歩きだすと、今度はもっと大きな声が聞こえた。
    「ほら! やっぱり、○○○だ!」
     今度は、明確に誰の声なのか分かった。パタパタと警戒な足音がして、誰かが近づいてくる気配がする。振り返ると、夏服に身を包んだ龍亞と龍可が立っていた。
    「急に呼ばれたから、誰かと思ったよ。久しぶりだね」
     僕は言う。ルチアーノのタッグパートナーになってからはポッポタイムを尋ねることも減っていたのだ。こうして顔を合わせるのは数週間ぶりだった。
    「そんなに久しぶりかな? ねぇ、○○○も買い物なの?」
     弾んだ声で龍亞は答える。僕たちの取り決めを知っているのかいないのか、無邪気な態度だった。後ろから龍可が嗜める。
    「もう、○○○は忙しいのよ。邪魔をしないの」
    「大丈夫だよ。ちょっと、そこのショッピングモールに行こうと思ってたんだ。二人は?」
    「オレたちもだよ。今週は花火大会だから、浴衣を買いに行くんだ」
     龍亞は、僕の隣に並んで歩き始めた。困ったように笑いながら、龍可も反対側の隣に並ぶ。あっという間に、僕は双子に挟まれる形になった。
    「今週の日曜日は、花火大会でしょう? 遊星たちに誘われて、一緒に行くことになったの。アキさんが、浴衣を着せてくれるんだって」
    「アキが……そっか……」
     意外な特技に、僕は目を見張った。ポッポタイムにいると忘れがちだが、三人はトップス出身のお坊っちゃまとお嬢様なのだ。アキにとっては、浴衣の着付けくらいなんてことないのだろう。
    「でも、オレたちは浴衣を持ってないんだよ。だから、今から買いに行くんだ」
     楽しそうに龍亞は笑う。花火大会では、シティの中心に屋台が出たり、広場で催し物をやったりするらしい。シティとサテライトの統合を記念して、今年は特に派手にやるらしいのだ。引っ越してきたばかりの僕には、知らないことばかりだった。
    「そっか。教えてくれてありがとう」
     答えながらも、僕の頭には別のことが浮かんでいた。花火大会に屋台に浴衣。そんな単語を聞いてしまえば、考えることはひとつしかない。
     モールの入り口に着くと、龍亞と龍可は子供服売場へと向かった。手を振って挨拶をしてから、僕も目的地に向かう。頭の中は、花火大会のことでいっぱいになっていた。

    「花火大会?」
     僕の話を聞くと、ルチアーノは呆れたように言った。口を少しだけ開けて、冷めた視線を僕へと向ける。
    「そんなことではしゃいでるのかよ。君って本当に子供だなぁ」
     冷めきった態度だった。大人っぽさを通り越して、可愛げがないくらいだ。花火で喜ぶのは、子供のすることだと思っているのだろう。
    「今年は、去年よりもすごいんだって。広場で催し物をやったり、屋台がたくさん出るみたいなんだ。良かったら、一緒に行かない?」
     誘ってみるが、彼はそこまで乗り気じゃなさそうだった。気のない返事をすると、冷めたような声で言う。
    「そんなに行きたいなら、龍亞と龍可でも誘えばいいんじゃないか? どうせ、あいつらから聞いてきたんだろ?」
     バレバレだった。隠していたわけではなかったが、なんだか後ろめたい気分になる。
    「二人は、遊星たちと行くみたいなんだよ。邪魔はできないから、ルチアーノが来てくれると嬉しいな」
    「嫌だよ。ひとりで行きな」
     ルチアーノは頑として譲らなかった。これは、ダメみたいだ。直前に誘い直すことにして、その日は大人しく口を閉じた。

     前日になると、シティ中心部はお祭り気分になっていた。道路は封鎖されていないものの、町の至るところに提灯や飾りが吊るされ、街路樹も装飾で彩られている。大通りには、作業を進める役員たちの姿が見えた。
    「こんな暑い中準備かよ。ご苦労なことだな」
     インカムに話ながら走り抜ける男性を見て、ルチアーノが呆れたように声を上げる。
    「すごいね。通りの全部が飾られてるよ。明日には、ここが会場になるんだね」
     僕は大通りを見渡した。通りを歩く子供が、飾りを見て嬉しそうに声を上げた。デパートから出てきた若い女の子も、道の変化を見て驚いたように立ち止まっている。よく見ると、広場には既にテントが貼られていた。
    「人間はこんなので喜ぶんだな。いくつになっても子供みたいだ」
     ルチアーノは少しも靡かない。飾られた街頭を一瞥すると、冷めた表情で歩き始めた。
    「人間は、非日常が好きなんだよ。僕たちはいつも変わらない日常を生きてるから、特別なことを楽しみたいんだ」
     そう。僕たちは非日常が好きなのだ。毎日仕事や学校で変わらない日々を送っているから、たまには特別な日を過ごして羽目をはずしたい。だからみんな浴衣を着て屋台を巡るのだ。ルチアーノと出会ってから、僕は非日常に生きるようになってしまったけど、それでもお祭りは魅力的だった。
    「変なの。君は十分非現実を生きてるのに。僕じゃあ物足りないのかい?」
    「そういう訳じゃないけど、お祭りは別なんだよ」
     僕にとって、ルチアーノと過ごす日々は日常になり始めているのかもしれない。そう思ったけど、口には出さなかった。

     翌日は、昼近くまで眠ってしまった。理由は明確だ。夜遅くまで、ルチアーノと愛を交わしていたのである。
     目が覚めたときには、既にルチアーノはいなくなっていた。僕が眠っていたから、気を利かせて寝かせてくれたのだろう。見送りたかったとも思ったけど、気遣いに感謝することにする。
     布団から抜け出すと、遅めの朝食を取った。パンにマーガリンを塗ると、チーズとスクランブルエッグを乗せる。オーブントースターに放り込み、チーズが溶けるまで焼いた。オーブンから取り出すと、皿に乗せずにかぶりつく。
     昼過ぎになると、花火の音が響いてきた。外を見ると、色のついた煙が上がっている。花火が上がる予告なのだろう。ふわふわと漂った煙は、空の上へと消えていった。
     夕方になると、ルチアーノが帰ってきた。光の粒子を纏いながら、部屋の中に現れる。ソファに座る僕を見ると、呆れたように言った。
    「なんだよ。出掛たんじゃなかったのか?」
    「ルチアーノを待ってたんだよ。一緒に見に行きたくて」
     ルチアーノは呆れたように笑う。僕の隣に座ると、豪快に足を組んだ。
    「君も懲りないやつだね。僕は行かないって言ってるだろ」
    「そんなこと言わないで、一緒に行こうよ。きっと楽しいよ」
     そう言うが、彼は頑として動かない。今日は折れないつもりなのだろうか。そう思って、ひとりで席を立った。
    「じゃあ、ひとりで行ってくるね。お留守番よろしく」
     そう言って鞄を持つと、ルチアーノはもじもじと身体を動かした。何度か僕に視線を送ったあと、怒ったように立ち上がった。
    「分かったよ。ついていけばいいんだろ」
     そう言うと、僕の隣についてくる。花火は見たくないが、僕に置いていかれるのは嫌だったらしい。なんとも回りくどい子だ。
    「じゃあ、行こうか」
     声をかけると、手を握って町へと繰り出す。今から行けば、花火の開幕までには間に合うだろう。

     繁華街は、人の海だった。歩行者天国になった大通りは、大勢の人で溢れている。人混みではぐれないように、しっかりとルチアーノの手を握った。
     中心部には、屋台が並んでいた。昨日はなかった色とりどりの暖簾を垂らすテントが、繁華街の隅を飾っている。焼きそばやフライドポテト、クレープやベビーカステラのような食べ物から、金魚掬いや射的のような遊びの屋台まである。ひとつひとつの暖簾を見ながら、人を掻き分けて先へと進んだ。
    「ルチアーノは、何か食べたいものとかある?」
    「別に、何もないよ」
     声をかけても、返ってくるのは気のない返事だけだ。花火までは少し時間があるし、僕はお腹が空いていた。何かを食べたいと思ったのだ。
    「じゃあ、僕は焼きそばを買ってくるね。そこのベンチで待ってて」
     そう言うと、僕は広場のベンチを指差した。そこには、仮設の机と椅子が並べられている。人で溢れたそのエリアは、一ヶ所だけ空いていた。
    「分かったよ。とっとと戻って来ないとお仕置きだからな」
     返ってくる声は、いつもより少しだけ覇気がなかった。慣れない人混みで心細いのだろう。駆け足で屋台に向かうと、焼きそばとジュースを買った。
     広場に戻ろうと後ろを振り向いて、見慣れた人影を見かけた。浴衣に身を包んだ龍亞と龍可が、ベビーカステラの屋台に並んでいるのである。少し離れたところでは、浴衣姿のアキが待っていた。
     僕は三人の元へと駆け寄った。こんな人混みの中で出会えたのだ。挨拶くらいしたかった。
    「龍亞、龍可、アキ! 久しぶりだね」
     声をかけると、三人は僕たちを振り返った。焼きそばの袋を下げた僕を見て、嬉しそうな笑顔を見せる。
    「○○○! ○○○も来てたんだね」
     三人を代表して、龍亞が声を発した。男の子らしい青色の浴衣に身を包んで、手にヨーヨーを下げている。子供らしくてかわいらしい姿だった。
    「せっかくだから、遊びに来てみたんだ。三人とも、よく似合ってるね」
     僕は言う。これは、お世辞なんかではなかった。龍可はかわいらしいピンクの浴衣に身を包んでいるし、アキはレトロな黒い浴衣を大人っぽく着こなしている。人混みの中で、若い三人の姿は一際目を引いた。
    「ありがとう。私が着付けをしたのだけど、変じゃないかしら」
    「変じゃないよ。すごく綺麗だ」
     答えると、アキは照れたように頬を染めた。かわいらしい笑顔に、少しだけドキリとしてしまう。
    「もう。褒めても何も出ないわよ」
     少しだけ雑談をすると、僕たちはそれぞれの待ち人の元へと向かった。余り長い時間離れていては、遊星たちも心配するだろう。三人に手を振ると、急いで広場へと戻った。
    「遅い。どこで道草を食ってたんだよ」
     僕を見るや否や、ルチアーノは不満そうな声を上げた。頬をほんのりと膨らませながら、鋭い目付きで僕を見る。
    「ごめんね。龍亞たちに会ったから、少し話をしてたんだ」
    「なんだよ。結局シグナーに会ってたのか。そんなにあいつらが好きなら、一緒に行けば良かったじゃないか」
     頬を膨らませたまま、ルチアーノは言葉を吐く。人混みに放置されて心細かったのだろう。かわいそうなことをしてしまった。
    「僕は、ルチアーノと一緒に来たかったんだよ。ルチアーノは大切な恋人だから」
     真剣に言葉を選ぶが、伝わっている手応えはなかった。隣に腰を下ろすと、焼きそばのパックを開ける。
    「少し多めに買ってきたけど、一緒に食べる?」
    「要らないよ」
     誘いも振られてしまったから、ひとりで食事を取ることにした。割り箸を割ると、焼きそばを口の中に押し込む。屋台の焼きそばは、夏祭り特有の味がした。
     焼きそばを食べていると、空に光が瞬いた。しばらく遅れて、地を揺らすような音が響き渡る。ついに、花火が始まったのだ。
     空を見ると、建物の向こうに花火の光が見えた。色とりどりの炎の点が、夜空に模様を描き出している。少し欠けているところはあるが、綺麗な光景だった。
    「見て、花火だよ」
     声をかけながら視線を向けると、ルチアーノの視線は空へと向いていた。まだ明るさの残る空に上がる炎の花を見て、呆然と口を開けている。
    「もしかして、花火を見るのは初めて?」
     問いかけると、彼は怒ったように頬を膨らませた。さっきまでの冷たい視線に戻って、僕を睨み付ける。
    「子供扱いするなよ。花火くらい知ってるさ」
     僕は、黙って焼きそばに手を伸ばした。麺を挟むと、ゆっくりと口に運んでいく。一食しか食べていなかったから、多めに買った焼きそばもぺろりと完食してしまった。
     ルチアーノの視線は、ずっと空へと向けられていた。神妙な表情で、空に浮かぶ花を見つめている。僕が食べ終わったことに気がつくと、照れたような声で言った。
    「なぁ、場所を変えないか?」
    「場所?」
    「君は花火が好きなんだろ。もっと良いところで見せてやるよ」
     そう言うと、有無も言わせずに僕の手を取った。人混みの中を抜けて、誰もいない路地裏へと入り込む。周りを確認すると、ワープ機能を作動させた。
     眩い光が、僕たちの身体を包み込む。慣れない浮遊感と共に、僕の身体は空の上へと移動した。

     目を開くと、見慣れない景色が広がっていた。辺り一面が、真っ暗な夜空なのだ。周りは一面のコンクリートで、光を発するものはひとつもない。暗闇の中で、炎の花だけが明るく輝いていた。
    「ここは……?」
     尋ねると、ルチアーノはにやりと笑った。服を靡かせながら僕から離れると、自信満々に言う。
    「ビルの屋上だよ。シティで一番高いから、遮るものは何もない。一番の特等席だろ?」
     僕は、周りを見渡してしまった。一面のコンクリートの先に、シティの夜景が広がっている。その景色は、ドローンや定点カメラで映される映像そのものだった。にわかには信じられないが、ここはビルの上らしい。
    「屋上って、そんなとこ、勝手に登って良いの?」
     混乱して尋ねると、彼はにやにやと笑った。からかうような声色で、僕に言葉を突きつける。
    「良いんだよ。誰もここには登ってこないから、バレることはないぜ。見なよ、花火が綺麗だろ」
     ルチアーノの背後で、炎の花が咲き誇る。その光景は、これまでに見たどの花火よりも美しかった。
    「うん。綺麗だね」
     ルチアーノの隣に並ぶと、大輪の花を見上げる。その姿は、地上で見るよりも少し大きく見えた。
     これは、非日常だ。人々の喧騒から離れた屋上で、いつもよりも大きな花火を見る。こんな光景は、なかなかできることではなかった。
     僕は、ルチアーノの手を握った。彼も満更ではないのか、そっと握り返してくれる。しっかりと手を握ったまま、僕たちは花火を眺めていた。
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