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    流菜🍇🐥

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    TF軸設定のルチと不満足さんの話。死神の噂を聞いたルチがデュエルを挑みにサテライトへと出向く話です。

    ##TF軸

    死神 旧サテライトエリアには、死神が現れるらしい。死神はボロボロの服に黒い衣を纏っていて、鎌の代わりにデュエルディスクを使って人々を狩るのだという。死神に目をつけられた者は地の底まで追いかけられて、デュエルで魂を奪われると言うのだ。噂を聞いて何人もの猛者が死神を探しに行ったが、帰ってきたものはいなかったとまで言われている。
     その噂を聞いたとき、ルチアーノはにやりと口角を上げた。退屈しのぎにちょうどいいと思ったのだ。デュエルを求める死神など聞いたことがない。ましてや、その人物は猛者でさえ簡単に倒してしまう凄腕のデュエリストなのだ。噂が本当なら、シグナー以外では唯一の彼と互角に戦える相手かもしれなかった。
     ルチアーノは旧サテライトエリアへと向かった。幸い、今は大きな任務は無い。シグナーとは冷戦状態が続いているし、WRGPも当分先だ。ずっと座ってばかりで退屈していたのだ。
     旧サテライトエリアは、見違えるほどに綺麗になっていた。道は整えられ、シティと変わらない規模の店舗が並んでいる。通りは人々で賑わい、人々の身なりも綺麗になっていて、顔には笑顔が浮かんでいた。
     シティとサテライトが統合されたのは、半年前のことである。たった半年で、この地域はここまで活性化したのだ。
     とはいえ、半年で全ての地区を整備するのは不可能だ。今でも町の中心から離れた場所では、スラムの面影を残す建物が並んでいた。アンダーグラウンドを生きる人間たちは路地裏に巣食い、獲物を待ち伏せしている。噂の男もそのような場所に出没しているのだろうと、ルチアーノは考えたのだ。
     彼の予想は当たった。人通りの少ない路地裏に入ったとき、例の男を見つけたのだ。一目見ただけで、噂の死神だと分かった。男の容貌は、噂で語られるものと同じだったのだ。
     その男は、黒いコートを纏っていた。下に着ているのは、年季の入った古着の上下だ。髪は肩の辺りまで延びていて、手入れされている気配は無いが、そこまでみすぼらしくは見えなかった。顔立ちは整っているが、死人のように生気を失っていた。
    「君が、噂の死神かい?」
     問いかけると、男はルチアーノに視線を向けた。光を失った瞳が、真っ直ぐにルチアーノを捉える。こちらを見ているはずなのだが、あまり視線を感じない。表情も意識があるのかさえ不安になるような顔付きだった。
    「死神か。そう呼ばれているらしいな……」
     男は呟いた。消え入るような掠れた声に、ルチアーノはまた不安になった。
    「君、相当強いらしいじゃないか。僕とデュエルしろよ」
     そう告げると、彼は僅かに表情を変えた。ルチアーノを見据える瞳に、少しだけ熱が籠る。ようやく現れた反応らしい反応に、確かな手応えを感じた。
    「デュエルか。いいだろう」
     コートを翻すと、男はデュエルディスクをセットする。それに応じるように、ルチアーノもデュエルチューブを起動した。
    「先攻は譲ってやるよ」
     宣言すると、ルチアーノはしっかりと男に視線を向けた。相手は百戦錬磨の死神だ。どのようなデュエルを見せるのか、この目で確認したかったのだ。
    「後悔しても知らないぞ」
     そう言うと、男は手札を摘み上げる。死神のターンが始まった。

     男の召喚したモンスターを見て、ルチアーノは息を飲んだ。彼のフィールドに現れたのは、『インフェルニティ』と名の付くモンスターだったのだ。手札がゼロになったときに真価を発揮する。特徴的なデッキだった。
     ルチアーノは男に視線を向ける。インフェルニティを使っているということは、目の前の男は鬼柳京介という名であるはずだ。獄中死を遂げた後にダークシグナーとして復活し、街を混乱に陥れた男である。ルチアーノも、戦いの一部始終を観察していた。
     言われてみれば、髪の色はそのままだ。しかし、それ以外にかつての彼を思い起こさせるものは何もない。少年のようだった顔立ちはすっかり大人のものになっているし、服装だって正反対だ。何よりも、テンションが全く違う。ダークシグナーとしてシグナーに挑んでいた頃は、狂ったように笑う男だったはずだ。
    「お前、ダークシグナーの鬼柳京介か?」
     思わず呟くと、男は顔を上げた。苦難の表情を浮かべながら、鋭い視線でルチアーノの姿を居抜く。きつく唇を噛むと、噛み締めるように言った。
    「知っているのか?」
    「知ってるよ。確か、サテライトで不動遊星と戦ったやつだよな。あまりにも変わってたものだから、全然気づかなかったよ」
    「そうか。なら、話は早い。そうだ。俺はかつて、ダークシグナーだった。自分の目的のために、罪無き人々の命を奪ったんだ」
     鬼柳は淡々と語る。相変わらず起伏には乏しかったが、そこには強い感情が滲んでいた。
    「気にしなければいいだろ。君は、操られてただけなんだから。悪いのはルドガー・ゴドウィン。そしてイリアステルだ」
     語りながら、ルチアーノはおかしい気持ちになっていた。イリアステルの名を上げたのは、自分への、そして相手への皮肉だ。目の前にいる子供がイリアステルの一員だなんて、鬼柳は少しも考えていないだろう。
    「そうはならない。俺は、自らの意思でこの世に復活し、自縛神を手にいれたんだ。俺の罪は一生消えない。償うこともできない。ただこうして、デュエルで葬られることを待つしかないんだ」
     語りながらも、鬼柳は次々とモンスターを並べていく。印象は変わっていても、デュエルの特徴は何も変わっていない。警戒しながらも、ルチアーノは反撃の手を考えていた。
     鬼柳がターンを終える。ルチアーノのターンだ。相手の布陣は的確で、簡単には覆せそうになかった。
    「だったら、僕が葬ってやるよ」
     ルチアーノが呟く。その口元が、歓喜でにやりと歪んだ。

     実力は互角だった。死を求めるような言動をしながらも、鬼柳は少しの隙も見せずにルチアーノを攻めた。対するルチアーノも、神の力を駆使して敵の攻撃を受け止めていく。攻防戦が続けば続くほど、モンスターの攻撃で地面が揺れ、建物に傷がついた。
    「君、なかなかやるじゃないか」
     土汚れを拭いながら、ルチアーノが相手に言う。
    「お前もな」
     荒い息を吐きながら、鬼柳も答える。ダークシグナーのデュエルを経験したからか、物理的なダメージが起きていても気にしていないようだ。その目には、微かな光が宿っていた。
     デュエルは、引き分けに終わった。決着がつかないまま、相手のデュエルディスクが壊れてしまったのだ。イリアステルの力を帯びたソリッドビジョンは、サテライトのおんぼろデュエルディスクには強すぎたらしい。
     鬼柳は大きく息をついた。壊れたディスクを外すと、おもむろに語り始める。
    「俺にとって、デュエルは全てだった。俺はデュエルを求め、デュエルも俺を求めていた。だが、今は違う。俺は、デュエルに見放されたんだ」
     鬼柳は淡々と語る。唐突な行動に、ルチアーノは眉を潜めた。相手の目的が分からなかったのだ。警戒を滲ませながら、相手に言葉を返す。
    「それが、なんだよ」
    「今の俺には、何もない。俺は罪を重ねた。今の俺には、デュエルで負けて命を失うことしかできないんだ。その日が来るまで、俺は何度でも戦い続ける」
    「だから、何を言ってるんだよ。君の話なんて聞いてないよ」
     ルチアーノが苛立たしそうに言うが、鬼柳は聞いていないようだった。壊れたディスクを見つめながら、ぼそりと言葉を吐き出す。
    「お前も、そうなんじゃないのか?」
    「はぁ?」
    「お前は、まだ満足していない。いつまで経っても満足できない。だから、俺の前に現れたんだろう」
     そう言うと、鬼柳は身を翻した。黒いコートを靡かせながら、旧サテライトエリアの奥地へと去っていく。後には、壊れたディスクだけが残された。
    「おい、待てよ!」
     ルチアーノが呼び掛けるが、立ち止まる気配は無い。つかつかと足音を立てながら、建物の影に消えていった。
    「なんだよ。満足って」
     ルチアーノは呟いた。鬼柳の行動も言葉の意味も、何一つ分からなかった。
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