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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチにいけないことに誘われるTF主くんの話です。バーの話ですが未成年飲酒を助長する意図はありません。

    ##TF主ルチ

    いけないこと3「今日は、いけないことをしようぜ」
     夜も更け、これからベッドに入ろうと言う頃になって、不意にルチアーノはそう言った。
    「いけないこと?」
     僕は尋ね返す。彼が言う『いけないこと』がどんなものなのか、僕には見当が付かなかったのだ。『いけないことをしよう』という誘いなら、僕も何度かしている。夜中にアイスを食べたり、コンビニに行ったりというかわいいものばかりだ。でも、ルチアーノが口にすると、それは急に不穏な響きを帯びてしまう。
    「そう。『いけないこと』だ。君は、そういうのが好きなんだろ?」
     にやにやと笑いながらルチアーノは言う。明らかに何かを企んでいる態度に、警戒心を含んだ返事になってしまった。
    「ルチアーノの言う『いけないこと』って、本物の犯罪行為でしょ。さすがに、そういうのはやりたくないよ」
    「そんなに警戒するなよ。君の嫌がることはしないからさ」
     そう言って、ルチアーノはにやにやと笑う。なんだか不安になる返しだったが、おとなしく聞き入れることにした。
    「ほら、さっさと出掛けるぞ。着替えな」
     彼は、折り畳まれた服を差し出した。どうやら、これから外出するつもりらしい。なんだか嫌な予感がするが、おとなしく従うことしかできなかった。
     寝間着を脱ぐと、ルチアーノに差し出された服に着替える。襟の付いたシャツにスラックスという、ちょっとかしこまった服装だ。本当に何を考えているのだろう。少しどころではない不安に襲われる。
    「着替えたな。じゃあ、行くぞ」
     僕の手を握ると、ルチアーノは玄関に向かった。うきうきした様子で外へと出る。
    「ねぇ、どこに行くつもりなの?」
     僕が尋ねると、彼はにやにや笑いを返してきた。甲高い笑い声を上げると、からかうような声で答える。
    「君の知らない場所だよ」
     手を引かれながら、僕たちは夜の町を歩いた。住宅街を抜けると、店舗の並ぶ駅前へと向かっていく。繁華街の路地に入ると、居酒屋帰りの若者やサラリーマンとすれ違った。
     路地には、居酒屋や風俗系の店舗など、成人向けの店舗が並んでいた。キラキラと輝く看板を見ていると、ルチアーノが足を止めた。ひとつのビルを見上げると、はっきりした声で言う。
    「ここに入るぞ」
     僕は、建物の看板を見上げた。そこには、はっきりと『バー』の文字が書かれている。お酒を提供するお店であることは明らかだった。
    「待ってよ。ここってバーでしょ。僕たちが入れるお店じゃないよ」
     慌てる僕を見て、ルチアーノはきひひと笑った。にやにや笑いを浮かべると、楽しそうな声で言う。
    「忘れたのかい? 僕は、人間から認識される外見を自由に変える力を持ってるんだ。子供だってバレたりはしないぜ」
    「そういう問題じゃないよ! 僕は未成年なんだから、お酒を飲んだらだめなんだって」
     必死に抵抗するが、ルチアーノは聞き入れてくれない。引きずられるようにして、二階にあるバーへと入る。初めて入る大人の世界に、緊張してガチガチになってしまった。
     室内は薄暗かった。レトロな装飾で飾られた店内に、小さな灯りがいくつか取り付けられている。座席は、半分くらいが埋まっていた。
    「今日はお連れ様と一緒なんですね」
     店主は、ルチアーノを見るなりそう言った。どうやら、知り合いであるらしい。
    「そうなんだ。バーを知らないって言うから、連れてきてやったんだよ」
    「そうなんですか。どうぞごゆっくり」
     ルチアーノは奥の席へと腰をかけた。正面に僕を座らせると、慣れた様子で注文を済ませる。
    「まずは、ジントニックをもらおうかな」
     店主がカウンターへと消えていくのを見ると、僕はルチアーノに声をかけた。
    「ここには、よく来るの?」
    「たまにだよ。取引相手が接待の場所に選んだんだけど、値段のわりに質がいいから、たまに使ってるのさ」
    「そうなんだ……」
     ルチアーノが政治家や企業の重役と取引をしていることは、僕もずっと前から知っていた。しかし、彼がお酒を嗜むことは少しも考えたことがなかったのだ。大人の世界に生きているのだから当然のことなのに、少しも思い至らなかった。
     知らなかった一面に驚きながらも、僕はメニューを手に取った。開いてみると、お酒の名前がずらりと並んでいる。ルチアーノはリーズナブルな価格のものであるように言っていたが、僕にとってはなかなかに敷居の高いお値段ばっかりだった。
     メニューを眺めながら、僕は大きく息を付いた。そこに並んでいるのは、お酒の名前だけなのだ。ベースごとに分けられているが、何が何なのかさっぱり分からない。お酒なんて飲んだことの無い僕にとっては、呪文のようなものだった。
     相当困った顔をしていたのか、ルチアーノは僕に助け船を出してくれた。にやにやと笑いながら、メニューの内のひとつを指し示す。
    「君は酒に慣れてないから、これとかがいいんじゃないか?」
     彼が指し示したのは、カルーアミルクというお酒だった。僕でも、名前だけは聞いたことがある。ミルクとついているからには、牛乳ベースのお酒なのだろう。
    「これは、飲みやすいお酒なの?」
     尋ねると、彼は呆れたように笑った。ため息をつきながらも、優しく教えてくれる。
    「君は、本当に何も知らないんだな。これは、コーヒーリキュールと牛乳をブレンドしたカクテルだ。端的に言うと、大人のコーヒー牛乳だな」
    「そうなんだ。じゃあ、これにしようかな」
     どうせ何も分からないのだ。自分で適当に頼むよりも、ルチアーノのおすすめを聞いた方が良いだろう。彼は僕を困らせることが好きだが、こういうところでは嘘はつかないのだ。
     グラスを運んできた店員さんに、カルーアミルクを注文する。未成年なのにお酒を注文する罪悪感に、態度がぎこちなくなってしまった。そんな僕を笑いながら、ルチアーノはグラスを傾ける。薄暗い店内でお酒を飲むルチアーノは、なんだか大人びていて、艶かしく見えた。
     しばらく待っていると、カルーアミルクが運ばれてきた。液体は薄い茶色をしていて、コーヒー牛乳によく似ている。ひと口飲んでみると、優しい甘味が広がった。
    「どうだい。初めてのカクテルは」
     僕の様子を窺いながら、ルチアーノが口を開く。
    「思ったより甘いんだね。これなら飲めるかも」
     答えると、グラスの中の液体を口に含んだ。やっぱり、普通のコーヒー牛乳よりも甘くて、ツンと痺れるような感覚がする。不思議な味わいに、グラスを運ぶ手が止まらなくなった。
    「それ、見た目より度数が高いからな。酔わないように気を付けろよ」
     そんな僕を見て、ルチアーノはしれっとそんなことを言う。確かに、なんだか身体が熱くなってきた気がする。心臓の鼓動も早いし、不安になる感覚だった。
    「そういうことは先に言ってよ!」
     慌ててグラスを置くと、ルチアーノは楽しそうに笑った。
    「安心しな。倒れたら、介抱くらいしてやるよ」
     全然安心できなかった。倒れるなんて、冗談では済まされない。毎年春になると、若者が急性アルコール中毒で死んでしまうことを知らないのだろうか。
    「そんな他人事みたいな…………」
     呆れる僕をよそに、ルチアーノは次のお酒を注文した。XYZという、かっこいい名前のカクテルだ。つまみも必要だからと、ナッツとクラッカーも注文する。
    「ルチアーノは、お酒が強いんだね」
     二杯目のカクテルを煽る少年を見て、僕は感心した声を上げる。
    「まあな。機械だから、アルコールくらいどうてことないぜ」
     平然と答えると、ルチアーノはおつまみのナッツを口に運んだ。ゆっくりとグラスの中のお酒を飲みながら、僕は恋人の姿を見つめる。足を組ながらグラスを傾ける姿は、大人の魅力に溢れている。お酒が入っていることもあって、心臓がドクドクしてしまった。
    「何見てるんだよ」
     ルチアーノにからかわれて、慌てて視線を逸らした。見つめていたことがバレて、妙に恥ずかしかったのだ。
    「何でもないよ」
     結局、僕が一杯のカクテルを飲む間に、ルチアーノは三杯のカクテルを空にした。おつまみを全て平らげ、机の上を片付ける。椅子から飛び降りると、ルチアーノは楽しそうに言った。
    「そろそろいい時間だな。帰るか」
     お会計を済ませ、お店の外へと出る。夜の優しい風が、火照った身体を冷ましてくれた。一杯しか飲んでいないのに、身体が燃えるように熱い。僕は、お酒に弱いのかもしれない。
    「どうだい。僕の案内する『いけないこと』は」
     楽しそうに笑いながら、ルチアーノが僕の方を振り返る。
    「なんか、ドキドキしたよ。お酒を飲むなんて、本当にいけないことだから」
    「案外、満更でもなかったんだろ。僕のことばっか見てたよな」
    「それは、ルチアーノが綺麗だからだよ」
     答えると、彼は恥ずかしそうに前を向いた。そのまま、黙って家路を歩く。駅前は人で賑わっていたが、住宅街に近づくに連れて、すれ違う人影は少なくなった。
    「今日は楽しかったよ。また行こうな」
     前を向いたまま、ルチアーノが小さな声で言った。夜の静かな住宅街は、彼の声を遮らずに届けてくれる。いつもとは違う優しい声音に、心臓がドクンと鳴った。
    「また、連れていってね」
     僕は答える。お酒を飲んだからか、頭がふわふわとしていた。雲の上を歩くような心地で、僕は家までの道を歩いた。
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