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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチが動物園に行くだけの話。動物と触れ合うルチが見たかっただけの話です。

    ##TF主ルチ

    動物園 ルチアーノは、動物と触れ合ったことが無いらしい。考えてみれば当たり前である。彼は、神の代行者として産み出され、任務のためにこの町に下ろされたのだ。任務に終れる毎日の中で、動物と遊んでいる暇など無かったのだろう。
     だから、初めて猫に触れた時、ルチアーノは不思議な反応を見せた。怯えたように猫たちから逃げ、恐る恐るその背中に触れていたのだ。彼にとって、動物は壊れやすい硝子細工のようなものだ。扱いを間違ったら壊れてしまって、二度と戻ることはない。人間を裁くのが仕事だと言っても、罪の無い命を奪うことは気分のいいことではないのだろう。
     そんな彼の姿を見ていたら、興味が湧いてきてしまった。猫にだってこの怯えようなのだ。もっと小さな動物を見たら、彼はどんな反応を見せるのだろう。手のひらサイズの動物は、儚さが猫の比では無いのだ。小さな命に怯えるルチアーノを、この目で見たいと思った。
     繁華街の外れに、小さな動物園があるのは知っていた。入場料は、大人が五百円に子供が三百円。昔ながらの設備らしく、外から見えるのは単独展示の檻ばかりだ。古くからあるわりにはそれなりにに賑わっているらしく、子供たちが入っていく姿をよく見かけた。
    「ルチアーノに、見せたいものがあるんだ」
     そう言うと、僕は動物園へと足を進めた。ルチアーノは、黙ったまま後に付いてくる。目の前にそびえる動物園の門を見ると、不満そうに眉を吊り上げた。
    「動物園? こんなところに、何の用があるんだよ」
    「決まってるでしょ。動物を見に来たんだよ」
     僕の返事に、彼は本格的に機嫌を損ねたようだった。鼻を大きく鳴らすと、僕の手を引いて門から離れようとする。僕が足に力を込めて堪えると、鋭い目付きで見上げた。
    「君は、僕のことを甘く見ているのかい? 僕は神の代行者であって、子供じゃないんだ。こんなもので喜ぶと思われたら心外だね」
     本気の声色に、僕は少しだけ気圧された。負けじと視線を返すと、説得するように言う。
    「甘く見てるなんて、そんなつもりは全く無いよ。ルチアーノが動物を知らないみたいだったから、教えてあげようと思ったんだ」
     真剣に語るが、ルチアーノは疑うような目で僕を見ている。断られてしまうかと思ったが、彼は意外な言葉を口にした。
    「そんなこと言って、本当は君が行きたいんだろ? 君は、変なところで見栄っ張りだからな」
     本心なのか建前なのかは分からないが、そういうことにしたいらしい。その方が僕にも好都合だから、訂正せずに受け入れることにした。
    「バレちゃった? そういうことだから、付いてきてくれると嬉しいな」
     おどけたように言うと、やっと彼は表情を緩めた。にやりと笑みを浮かべると、呆れたような声で言う。
    「そういうことなら先に言えよ。余計な手間かけやがって」
     ルチアーノの手を引きながら、僕はチケット売り場に向かった。平日の昼間だが、それなりに人は多いようだ。列に並び、窓口で二人分のチケットを買うと、入場ゲートを通って中へと入った。
     動物園の中は、動物の臭いで満ちていた。強烈な香りに、ルチアーノが少し顔をしかめる。何かの鳴き声が響いて後ろを振り向くと、猿科の動物を展示した檻が並んでいた。
    「これが、外から見えてた檻だね。チンパンジーやオラウータンだ」
    「これが、猿ってやつか。ふーん。確かに、人間とあまり変わらないな」
     毒舌を吐きながらも、ルチアーノは興味深そうに檻の中を見た。猫とすら触れ合ったことすら無かったのだ。動物を近くで見るのが初めてなのだろう。チンパンジーもルチアーノに気づいたのか、こっちに近づいてきた。
    「なんだよ、じろじろと僕を見て」
     視線をかち合わせながら、一体と一匹で見つめ合う。少しの沈黙が通りすぎると、チンパンジーは木の上へと去ってていった。
    「なんだったんだよ」
     呟くルチアーノの手を引いて、僕は園内マップを見た。入り口には単独展示エリアが並び、奥の方には生態展示エリアが並んでいるらしい。マップには、シマウマやキリン、ライオンなどのアイコンが並んでいた。
    「ルチアーノは、動物園は初めてなんだよね。何か見たいものとかある?」
     尋ねると、彼はちらりとマップを見上げた。すぐに視線を逸らすと、退屈そうに園内を見回す。
    「君が来たかった場所なんだから、君が決めたらいいじゃないか。僕は、動物に興味なんてないんだから」
    「じゃあ、僕の好きな順番に見に行こうかな。ここからだと、シマウマが近いみたいだね」
     ルチアーノの手を取ると、園内を横切って目的のエリアへと向かった。柵で囲まれた草原エリアの中に、数頭のシマウマが歩き回っている。初めて見る動物に、ルチアーノは目を丸くした。
    「これが、シマウマか。本当に縞模様なんだな」
     柵に身体を近づけて、興味深そうに中の様子を覗き込む。新鮮な反応に、胸の中が暖かくなった。口実をつけてでも、連れてきて良かったと思った。
    「こっちには、ゾウがいるみたいだよ。見に行こう」
     ルチアーノの手を引くと、次の展示エリアへと向かう。コンクリートの上を歩くゾウを見て、彼は目を丸くした。
    「ゾウは、こんなにでかいのか。ホセくらいはあるんじゃないか?」
     反応が面白くて、僕は次々と展示エリアを移動した。動物の姿を見る度に、ルチアーノは目をキラキラと輝かせる。彼の中にある子供の心が、動物園に魅力を感じているようだった。
    「これがフラミンゴか。こんなに細い足で歩いて、折れないのか?」
    「馬は乗ったことあるんだぜ。こんな小さいのじゃなくて、もっとでかいやつだけどな」
    「山羊のミルクは臭いらしいぞ。君も、機会があったら飲んでみろよ。僕は飲まないけどな」
    「この動物園には、亀がいるのか。こういうのは水族館にいるもんじゃないのか?」
     ひとつひとつ柵の中を眺めながら、ルチアーノは興味深そうに言葉を語る。知っている生き物と知らない生き物がいるのは、普通の子供と変わらない。園内をぐるりと一周すると、フードコートでアイスを買った。
    「ね。来てよかったでしょ」
     僕が言うと、ルチアーノは繕うように表情を固くした。ちょっとだけ強ばった声で、そっけない返事を返す。
    「まあ、勉強にはなったよ」
     相変わらず、素直じゃ無い子だ。それなりに楽しんでいた癖に、認めようとしないのだ。
     しかし、今日のメインイベントはこれからなのだ。これから、僕はルチアーノを触れ合いコーナーに連れていく。そこで、僕は彼の反応を楽しもうと思っているのだ。
    「最後に、連れていきたい場所があるんだ。付いてきて」
     アイスを食べ終えると、僕はルチアーノの手を引いた。展示エリアを横切ると、園内の一番奥で足を止める。そこには、赤い屋根の古ぼけた小屋が建っていた。
    「なんだよ。ここ」
     ルチアーノが呟いた。小屋の外は公園のような針金のフェンスで囲まれていて、中の様子が透けて見えている。ここから見えるのは、動物の入ったケージに群がる人々の姿だけだった。
    「ここは、触れ合いコーナーだよ。モルモットやうさぎと触れ合えるんだ」
     いまいち分かっていないルチアーノの手を引いて、門の中へと入っていく。門の閉じる音を聞き付けると、スタッフの女性が近づいて来た。
    「モルモットとの触れ合いをご希望ですか?」
    「はい」
     答えると、僕たちは奥のベンチへと案内された。使い古された敷き布を渡され、モルモットとの触れ合いについて説明を受ける。命が関わるからか、ルチアーノは真剣に話を聞いていた。
    「こちらのケージが、触れ合いの出来る子たちです。気に入った子がいたら、優しく抱っこしてあげてくださいね」
     女性に案内され、僕たちはケージの中を覗き込んだ。狭い空間の中で、ネズミにしては大きめな生き物がもぞもぞと動き回っている。しばらく中を覗くと、僕は一際大きい子を抱き上げた。
     ルチアーノは、真っ白な毛皮の子を抱き上げようと苦戦していた。見かねたスタッフの男性が、横から手を入れて助けてくれる。モルモットを抱えると、ベンチに戻って膝の上に乗せた。
     モルモットは、見た目よりもずっしりとしていた。前後の足に体重がかかるから、四点に重みが集約される。腿の上をよちよち歩く度に、体重が偏ってバランスが崩れた。
     僕は、モルモットの背中を撫でた。手のひらの上に、生き物の温もりが伝わってくる。顔を覗き込むと、鼻をひくひくさせながら周りの様子を眺めている。こうして見ると、大きなハムスターみたいだった。
     隣では、ルチアーノが怯えた様子で膝の上を見ていた。モルモットが自由に動き回り、鼻をひくつかせる。膝からすべり落ちそうになって、ルチアーノは慌てて手を添えた。見かねたスタッフの男性が、隣から触り方を教えている。
    「良かったら、ご飯をあげてみませんか?」
     そう言いながら、スタッフの男性が何かを差し出した。動物動画なんかでよく見る、モルモット用の草だ。お礼を言って受け取ると、モルモットの口元に差し出した。
     モルモットはもしゃもしゃと音を立てながら草を食んでいく。ルチアーノも、見よう見まねで餌をあげていた。
     モルモットのコーナーを出ると、奥のエリアに向かった。こっちは、うさぎの触れ合いコーナーだ。小屋の中に放し飼いされているうさぎに、野菜のスティックをあげることができるらしい。
    「向こうは、うさぎに餌をあげるコーナーだよ。行ってみよう」
     ルチアーノの手を引いて、うさぎ小屋の中へと入っていく。入り口で野菜スティックを買うと、ルチアーノに差し出した。
    「ほら、あげてみて」
     ルチアーノは、退屈そうに野菜に視線を向ると、僕の方へと押し返す。
    「別に、興味ないよ。君があげればいいじゃないか」
    「そんなこと言わないで、一緒にあげようよ。きっと思い出になるよ」
     強引に押し付けて、うさぎの前へと引っ張り出す。僕が人参をあげると、しぶしぶといった様子できゅうりを手に取る。
    「ほら、餌だぞ。こっちに来な」
     呼びかけると、近くにいた白うさぎが近づいてきた。匂いを嗅いでから、恐る恐るきゅうりを口にする。その様子を、ルチアーノは不安げに眺めていた。
     人参を差し出すと、しゃくしゃくと音を立てながら食べてくれる。食べ終えたタイミングを見計らって、うさぎの背中を撫でた。
     餌をあげ終えると、僕たちは触れあいコーナーを後にした。洗面台で手を洗うルチアーノに、後ろから声をかける。
    「どうだった? 触れあいコーナーは?」
    「小さな命だったよ。モルモットなんて、落としたら壊れそうだ」
     ルチアーノらしい返事だった。苦笑いしながら、空いたばかりの洗面台で手を洗う。動物を触ったら手を洗う。これは、触れ合いの基本だ。
    「かわいかったでしょ。ふわふわしてたし、あったかかったし」
    「別に、そうでもないよ。臭いはするし、膝の上でフンをするしさ」
     文句を垂らしてはいるが、不機嫌ではなさそうだった。にやにや笑いながら、僕の隣に寄り添う。
    「君は、こういうのが好きなんだな。本当に子供みたいだ」
     僕は笑う。本当のことは、最後まで言えないままだった。ルチアーノが楽しんでくれたから、まあ、いいのだろう。
     この時代には、もっとたくさんの動物がいて、もっとたくさんの触れあい体験があるのだ。知識としては知っていても、実物を知らないルチアーノに、この世界の生き物を知ってほしかった。
     今度は、大きな動物園に連れていくのもいい。そんなことを思いながら、僕は出口のゲートを潜った。
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