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    流菜🍇🐥

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    TF主くんが子供向け映画を見るためにルチを連行する話。あの世界ならカードゲームの子供向け映画があったりするのかなと思ったので書きました。

    ##TF主ルチ

    映画 夏から秋にかけては、子供向け映画の公開シーズンだ。夏休みや長期連休という子供の一大イベントに合わせて、各企業はたくさんの娯楽を提供する。この手の映画は毎年のように公開されていて、子供から大人までのたくさんの人々を魅了していた。
     しかし、今年は少し様子が違った。毎年恒例のシリーズものとは別に、メディアの話題をさらった子供向け映画があったのだ。その映画は、発表されたと同時に各種メディアの見出しを飾り、ネットニュースはすごい勢いで拡散された。話題になるのも当然だ。それは、デュエルモンスターズを題材にした完全オリジナルの映画なのだから。
     これまでにも、デュエルモンスターズを題材にした映画は何本か製作されている。カードのカテゴリに纏わるシナリオを映像化し、長編作品として公開していたのだ。作品はヒットしたり失敗したりしていたが、概ねそれなりの評価は受けていたようだった。
     しかし、今回はこれまでと違うのだ。今度の映画は、まだ世に出ていないモンスターのシナリオをベースにしているのだという。それだけではない。映画の公開に合わせて、カードパックを販売する徹底っぷりだ。話題にならないわけがなかった。
     僕は、その映画に興味を持っていた。デュエルモンスターズの映画だし、入場者特典が魅力的だったからだ。劇場で配られる特典は、映画に登場するモンスターの特別加工カードなのである。ゲームのファンとしては、絶対に手に入れたいものだった。
     僕は、ルチアーノを誘うことにした。デュエルモンスターズとは言っても、一応は子供向けの映画だ。映画館に集うのは、大半が子供たちだろう。そこに男一人が混ざるのは、ちょっと抵抗があった。
    「ねぇ、ルチアーノ。今度の週末に映画を観に行かない?」
     僕が言うと、彼はちらりと視線を向けた。雑誌を手に持ったまま、気のない返事を返してくる。
    「映画? いったい、どんなやつだよ」
     僕は、手にしたチラシを差し出した。映画のキービジュアルの上に、タイトルが大きくかかれているだけの、簡素な広告である。裏面には、あらすじやキャストが書かれていた。
     チラシを見ると、ルチアーノは不満そうに眉を上げた。チラシを軽く突き返すと、あからさまに頬を膨らまして見せる。
    「なんだよ。子供向けの映画じゃないか。僕を馬鹿にしてるのか?」
    「違うよ。これは、僕が観に行きたいんだ。お願いだから、ついてきてくれる?」
     弁明するように言うと、彼は表情を緩めた。からかうような笑みを浮かべると、僕に顔を近づける。
    「ふーん。君ってこういうのが好きなんだ。子供だなぁ」
     にやにやと笑いながら、彼は耳元で囁く。煽っているつもりなのだろうが、僕には少しも効かなかった。
    「この映画は、特典でカードが貰えるんだよ。せっかくだから一緒に行こう」
    「カード? 別に、そんなもの要らないけどな」
     ルチアーノは焦らすように言う。どうやら、機嫌は損ねてはいないらしい。これなら押しきれそうだった。
    「お願いだから、一緒に来てよ。お礼に、ほしいものを買ってあげるからさ」
     そう言うと、ルチアーノはにやりと笑った。言質を取るように、ゆっくりと僕の言葉を繰り返す。
    「何でも、好きなものを買ってくれるって? ふーん。なら、ついてってやってもいいかな」
    「言っておくけど、あんまり高いものはダメだからね」
     僕の言葉は、彼に届いているか分からなかった。ルチアーノは意外と常識的だから、買えないものを催促することはないだろう。それでも、彼の含み笑いは少しだけ心配だった。

     映画館は、子供たちで賑わっていた。布の敷き詰められたホールを、小学生くらいの子供とその母親が横切っていく。人込みではぐれることがないように、しっかりとルチアーノの手を握った。
    「なんだよ。こいつら全員デュエルモンスターズを見るのか?」
     子供たちの背中を眺めながら、ルチアーノは呆れたように呟く。僕が発券機へと向かうと、大人しく後をついてきた。
    「どうだろうね。入場時間は近いけど、出てきた人かもしれないし」
     答えながら、機械を操作してチケットを発券する。片方をルチアーノに渡すと、今度はフードカウンターへと向かった。
    「食べ物は、ポップコーンとジュースでいいよね」
     話しかけると、ルチアーノはつまらなさそうにカウンターを見た。すぐに視線を逸らすと、淡々とした声で言う。
    「好きにすれば」
     苦笑いをしながら、僕はポップコーンを注文した。二人で食べるから、中身はキャラメルと塩のハーフだ。飲み物はコーラとぶどうジュースを選んだ。
     ポップコーンのトレイを受け取ると、グッズ売り場に視線を向けた。デュエルモンスターズのグッズは、ひとつの棚を埋めるように配置されている。そこにも、たくさんの子供たちが集まっていた。
    「グッズも見たかったけど、これじゃあ買えそうにないね」
    「別にいいだろ。そんなもの」
     ルチアーノに手を引かれ、僕たちは子供たちから離れた。シアターの中へと入るために、入場口の列に並ぶ。そこも、親子連れで溢れていた。
     手を繋いで列に並ぶと、順番が回ってくるのを待つ。こうやって二人で並んでいると、僕たちの姿は兄弟のように見えるのだろう。ルチアーノと家族のような行動を取っていることが、何よりも嬉しかった。
     しっかりと手を繋いだまま、じりじりと前へ進んでいく。前に並んでいた親子が入っていくと、今度は僕たちの番になった。チケットを提示して、特典のカードを受け取る。袋の中では、初めて見るモンスターがキラキラとした光を放っていた。
    「こちらは、小学生以下のお子様限定の特典になります」
     そう言うと、受付の女性は台から何かを手に取った。袋に入ったおもちゃのようなものを、ルチアーノへと差し出す。少し面食らいながらも、彼はそのおもちゃを受け取った。
     人々は、流れるように館内へと吸い込まれていく。次から次へと、デュエルモンスターズを目当てに訪れた観客たちが入ってくるのだ。人の流れに押し出されて、僕たちはシアターへと移動した。
     映画の上映されるシアターは、僕がこれまでに見たどのシアターよりも大きかった。ずらりと並んだ座席に、ぽつりぽつりと人が座っている。大人と子供の比率は半分くらいで、一人客もそれなりにいるようだ。僕たちの席は中央よりも後ろだったが、それでもスクリーンは聳えるような威圧感があった。
    「全部がデュエルモンスターズの客かよ。流行ってるんだな」
     冷めたような声で、ルチアーノが呟く。彼にとって、子供向けの映画は子供騙しの娯楽に見えるのだろう。あまり乗り気では無さそうだった。
    「世界的人気ゲームの映画だからね。そりゃあ、人は多いよ」
     答えるが、彼は聞いていないようだった。手元の袋を開けると、入り口で渡された特典を眺めている。小学生以下に配られた特典は、プラスチックでできた剣のキーホルダーだった。
    「なんだ、これ? 」
     キーホルダーを光に翳しながら、ルチアーノが疑問符を浮かべる。僕も、彼の手元に視線を向けた。
    「おもちゃみたいだね。映画に出てくるのかな?」
     子供向け映画の特典は、内容と連動していることが多い。このキーホルダーも、映画のキーアイテムである可能性が高かった。
     ふと思い付いて、配られたばかりのカードに視線を向ける。残念ながら、そこには剣は描かれていなかった。狼のような姿をしたモンスターが、こちらに対して威嚇のポーズを取っている。
     僕は、ルチアーノにカードを見せた。モンスターが見えるように下の方を持って、彼へと問いかける。
    「ルチアーノは、どんなカードだった?」
    「ほしいならやるぜ。僕には、カードなんて要らないからな」
     そう言うと、彼はカードを差し出した。こっちは、大きな黒いドラゴンだ。レベルも高いから、ボスか何かなのだろう。
    「いいの? 後でほしくなっても知らないよ」
     僕が言うが、彼は少しも揺るがなかった。椅子の上で足を組むと、尊大な態度で言う。
    「僕には、神から授かったカードがあるからね。そんなもの無くても困らないよ」
     そんな話をしているうちに、室内が暗くなった。スクリーンに、マナー勧告の映像と予告編が流れ始める。スクリーンの光に照らし出されて、ざわざわしていた館内が一気に静まり返った。子供向けの映画だから、予告も子供向けのものばかりだ。
     しばらくすると、オープニングの映像が流れ始めた。期待に震える心を押さえつけながら、僕は画面が変わるのを待った。

     映画の内容は、ものすごく良かった。子供向けらしく、シンプルなストーリー展開だったが、内容はしっかりと作り込まれている。クライマックスのシーンでは、ついつい涙を流してしまった。
     室内が明転すると、人々は出口へと向かっていく。ざわざわと音を立て始めた館内を、ルチアーノと手を繋いで出口へと向かった。
    「映画、すごく良かったね」
     僕が言うと、ルチアーノが小さな声で答えた。
    「まあ、悪くはなかったな」
     それっきり黙ったまま、僕たちはシアターを出た。ジュースの容器をゴミ箱に捨てると、人の流れに添って外へと向かう。
    「君、泣いてたよな」
     不意に、ルチアーノが口を開いた。見られていたのだと知って、羞恥で頬が赤くなる。恥ずかしさに口ごもりながらも、素直に返事をした。
    「うん。泣いちゃった。感動したから」
     外に出ると、僕はパンフレットを買った。この映画の思い出を、後からも確認したかったのだ。会計を済ませると、ルチアーノの元へと駆け寄る。
     戻ってきた僕を見て、彼が左手を差し出した。手の中に握っているものを、僕の前へと差し出す。それは、特典のキーホルダーだった。
    「これ、やるよ。君が持ってた方がいいと思うから」
    「いいの?」
    「いいよ。僕が持ってても、ゴミにしかならないからね」
     僕は、キーホルダーを受け取った。予想通り、この剣は映画のキーアイテムだったのだ。一番のクライマックスで、主人公がラスボスを倒したときに使ったのがこの剣だったのである。
    「ありがとう。嬉しいよ」
     受け取ったキーホルダーは、バッグの底に大切にしまった。これも、今日の思い出だ。ルチアーノにもらったことも相まって、忘れられない思い出になるだろう。
    「じゃあ、そろそろ買い物に行こうか。約束もあるからね」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは僕を見上げた。僅かに口ごもった後に、言いづらそうな様子で口を開く。
    「その事なんだけど、別に、何も買わなくてもいいよ」
    「え?」
     僕は頓狂な声を上げてしまう。まじまじと見つめると、彼は気まずそうに視線を逸らした。
    「別に、欲しいものもないしさ。その代わり…………映画の感想を教えてほしい。僕には、君の泣いてた理由が分からないから」
     ルチアーノは恥ずかしそうに言う。その姿を見て、僕は思わず微笑んでしまった。
    「いいよ。お昼を食べながら話そうか」
     彼の手を取ると、ショッピングモールの方へと足を進める。彼は、僕の感情を知りたいと思ってくれたのだ。僕が何に感動して涙を流したのかを、僕の言葉で聞きたいと思ってくれたのだ。彼が人間に興味を持ってくれたことが、僕にとっては何よりも嬉しかった。
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