笹の葉に願い事を「どうぞご参加下さ〜い」
そう言われて思わず受け取ってしまったものは、未記入の短冊だった。
手渡してきた若い女性を振り返ると、もう既に磯貝のことは眼中になく、改札へと向かう人々に次々と話しかけている。
「…そうか、もうこんな季節か」
磯貝は改札前に飾られた大きな笹の葉を見上げて独り言ちた。
社会人になってもう十数年。商品企画室に在籍している磯貝は仕事柄、季節を多少は意識することもあるが、子どもの頃と比べるとこういうイベントとは縁遠くなっていた。
せっかくなので磯貝は参加してみることにした。
笹の葉の側に用意された記入コーナーに短冊を置き、ペンを手に取る。
(確か七夕で書く願い事って元々は芸事の上達を祈るものだったんだよな…)
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